今月を振り返ります。先月に引き続きアルバムが大賑わいで、それらの収録曲がHot 100へも影響力を及ぼしました。
◇今月のHot 100上位推移
◇今月のBillboard 200上位推移
(緑背景はその週の新登場)
~各週のハイライト~
3/7のハイライト
・BTSが42.2万という破格の数字で4度目のアルバム1位を獲得。複数バージョンのCDで大きく数字を稼ぐ。シングルでは”ON”が4位に登場したほか、”My Time”・”Filter”もHot 100入り
・YoungBoy Never Broke Againがアルバム2位。収録曲8つがHot 100入り
・Doja Catの”Say So”がトップ40入り
・Asheの”Moral of the Story”が71位に登場。プロデューサーはFINNEAS。TikTokで人気
3/14のハイライト
・Lil Babyが19.7万の総合売上で初のアルバム1位。ほとんどがストリーミングから。2.62億再生を記録し、14曲がHot 100入り
・Bad Bunnyがアルバム2位。総合売上17.9万とかなりの好成績。2.01億再生を記録し、Hot 100にも11曲が登場
・Lady Gagaの”Stupid Love”が5位に登場
・ビデオ公開の”Say So”が16位まで浮上
3/21のハイライト
・Lil Uzi Vertが28.8万の売上でアルバム1位!4億ストリーミングを記録し、収録曲全てがHot 100入り。”Baby Pluto”など3曲がトップ10に
・Jhené Aikoが15.2万の売上でアルバム2位(ストリーミング中心の成績)
・Drakeが208曲目のHot 100入りを達成。Glee Castを上回りHot 100エントリー数が単独で歴代最多に
・Demi Lovatoの”I Love Me”が18位に登場
・”Don’t Start Now”が2位へ、”Blinding Lights”が4位に。次期1位候補
・”bad guy”や”Señorita”など合計27曲がチャートから外れる
3/28のハイライト
・デラックス版が新たにリリースされたLil Uzi Vertの”Eternal Atake”が引き続きアルバム1位。追加された14曲全てがHot 100入り
・Harry Stylesの”Adore You”がトップ10入り(7位)
・Niall Horanがアルバム4位
・いずれもTikTokで人気の、”death bed”が71位に、”Supalonely”が88位に、”Savage”が98位に登場
主なトピックス
・続くアルバム激戦区、Hot 100に「アルバム曲」が大量登場
今月も有力アルバムが多くリリースされました。10万超えの作品は先月と比較して7→5と減少したのですが、Hot 100へのエントリー数は格段に多かったです。
◇5つ以上の曲をHot 100に送り込んだアルバム
先月:Eminem (12)、Mac Miller (10)、Justin Bieber (6)、A Boogie Wit da Hoodie (7)
今月:YoungBoy Never Broke Again (8)、Lil Baby (14)、Bad Bunny (11)、Lil Uzi Vert (18+14)、Jhené Aiko (5)
この各種アルバムの盛り上がりがHot 100でも今月一番の見どころでした。この大量エントリーの結果、多くの曲がHot 100から押し出されリフレッシュが進みました。(”Truth Hurts”、”HIGHEST IN THE ROOM”、”bad guy”、”Señorita”、そしてクリスマス後に特例復帰を果たした”Sucker”など 詳しいリストは記事後半にあります)
・Lil Uzi Vert
そのアルバムで一番盛り上がったのはLil Uzi Vertの”Eternal Atake”です。待望のリリースだったこともあり、ストリーミングで爆発的な人気に。歴代4位の4億再生を記録し、アルバム1位を獲得。
その人気により、収録曲全てがHot 100入りを達成。うち3曲がトップ10入り、そして13曲がトップ40圏内に入るなど順位も高かったです。
さらに次の週にはデラックス版と称し(”Luv vs. World2”とも)、アルバムに14曲を追加。この追加曲も人気を博し、2週連続でアルバム1位を確保しただけではなく、追加された14曲全てがHot 100入りしました。順位は1週目ほど高くないですが(トップ10入り曲はナシ、トップ40に3曲)
ビルボードは2週目の再生数をなぜか公表しなかったのですが、2週目も歴代8位タイ相当の3.49億再生を記録しました(なぜかNY Timesに載っていた)
※2020年以降はビデオも加算され、従来よりも少しだけ再生数が増えています*1
※(週目)はリリースからの週数を指します
※再生数の単位はMillion、「平均」は1曲あたりの平均再生数
※先月の記事の訂正:Justin Bieberの再生数を上回ったポップアルバムはAriana GrandeやBillie Eilishくらい、と述べていましたがTaylor Swiftも該当していました。(訂正済みです)
Lil Uzi Vertは先行シングルの”Futsal Shuffle 2020”が5位デビューながらも9週滞在で終わる、という変わったチャートアクションを取っていましたが、アルバムは大成功を収めました。
このアクションを見て、スタートの順位は「アーティストへの期待度」、その後の持続度は「シングルとしての成功度」を測るのかなと再認識しました。もちろんアーティストへの期待度の高さはシングルとしての成功の可能性を向上させますし、シングルの成功がアーティストへの期待度につながることもあるので、この2つはある程度の相互性はあります。
”Futsal Shuffle 2020”はラジオシングルにならなかった、などのサポート不足*2でHot 100成績は尻すぼみでしたが、依然として本人への期待度は抜群だったのでアルバムは大成功になったのだと考えました。
そのアーティストがどういう成功を狙っているのか、または現在どのようなポジションにいるのかを考慮しつつ、チャートのどの「要素」に目を向けるかを使い分けることが重要だと感じました。
Lil Uzi Vertはこのアルバム人気で、2週目には22曲がHot 100に入りました。これは歴代3位タイの多さです。
1 Drake:27曲 (”Scorpion”の25曲+その他2曲)
2 Drake:24曲 (”More Life”の22曲+その他2曲)
3 Lil Wayne:22曲 (”The Careter V”の22曲)
3 Lil Uzi Vert:22曲 (”Eternal Atake”の22曲)
先週のLil Babyに引き続き、連続でLilがつくラッパーがアルバム1位を獲得。Lilがつくラッパーでアルバム1位を取ったのはLil Wayne(5回)、Lil Uzi Vert(2回)、Lil Baby(1回)の3人のみで、連続で異なるLilラッパーがアルバム1位を獲得するのは初です。3人って意外と少ないですね
・Jhené Aiko
そのLil Uzi Vertに次いで3/21にアルバム2位だったのがJhené Aikoです。15.2万と優秀な成績を叩き出しています。元々シングルがApple Musicで軒並み高順位を記録しており、その期待感がアルバムでも発揮された印象です。そのApple Musicで絶大な人気を得たほか、シングルがそこまでヒットしていなかったSpotifyでも一定の人気が出ました(リリース日に17曲が圏内入り)
H.E.R.との”B.S.”はHot 100で24位を記録し、Jhené Aiko自身のシングル最高位を更新しました。(客演ではOmarion、Chris Brownとの”Post To Be”が13位まで到達した)
ちなみに今年は10万超えながらもアルバム1位を獲得できない作品が多く、3月の時点で既に昨年と同じ6作品がそうなっています。
・Lil Baby
Lil Uzi Vertの1つ前の週にアルバム1位だったのはLil Baby。特にApple Musicで大きな人気を集め、初のアルバム1位を獲得。そして14曲がHot 100入りを果たしました。
先行シングルの”Woah”や”Sum 2 Prove”は上位デビューした後、さらに長く上位に留まるという、優秀なチャートアクションを収めていました。この期待感通りの成績をアルバムでも見せることに成功しました。
Spotifyでもリリース日に全曲が圏内にランクインしています。
~Lil Babyの各アルバム or ミックステープからのHot 100エントリー数~
・Harder Than Ever (2018):3曲
・Drip Harder (2018, w/Gunna):8曲
・Street Gossip (2018):7曲
・My Turn (2020):14曲
・Bad Bunny
アルバムチャートでは2位でしたが、今月一番インパクトがあったのはBad Bunnyかもしれません。
スペイン語のアルバムとしては最高成績の17.9万枚相当の売上を記録。ストリーミングでの人気が高く、2.01億再生を記録。ラテンアルバムとして再生数記録を持っていたOzuna(5320万再生)の4倍程度と、従来の水準を大幅に上回る成績を叩き出しました。
さらにその人気によってHot 100には11曲がエントリー。USでの人気ぶりをHot 100、アルバムチャートの両方で示しました。
この作品はアルバム単位でのストリーミングが伸びやすいApple Musicで人気を得ただけではなく、Spotifyでも同等以上の人気。Lil Babyという強力な競合がいましたが、Apple MusicとSpotifyの両方でアルバム全曲がトップ100圏内に入りました(リリース日)
Spotifyではさらにグローバル単位で偉業を果たしました。初日の「グローバル」再生数が6130万を記録。これは今年1番の成績です。(現在も)
1 Bad Bunny – YHLQMDLG 6130万
2 The Weeknd – After Hours 6040万
3 Eminem – Music To Be Murdered By 5050万
4 Lil Uzi Vert – Eternal Atake 4770万
5 Justin Bieber – Changes 4040万
6 BTS – Map of the Soul:7 3380万
7 Dua Lipa – Future Nostalgia 2920万
8 Mac Miller – Circles 2900万
(ChartDataより)
曲数の多さによる多少の有利不利はありますが、やはり英語圏のスターたちを抑えて彼が最も人気を集めたアルバム、という座をSpotifyというメジャーな媒体で獲得したのはやはりインパクトがあります。
ちなみにこのアルバムは土曜日リリースだったのですが、金曜日リリースだったらもしかしたらアルバム1位だったかもしれません。集計が1日伸びて、ストリーミングの数値が7/6になったとしたらLil Babyを逆転します。*3ただ仮にそうだとしても、集計で増えるのはリリースから遠い7日目なので、純粋に7/6にはならないと思います。
また、このアルバムは人気がある国とそうではない国が極端に別れています。USと全てのスペイン語圏のSpotifyで全曲がランキング圏内に入った一方、30カ国でリリース日のランクインが0曲でした。そしてこの2つの中間にあたる、アルバムの一部がランクインした国はわずか4つ(スイス、ポルトガル、カナダ、イタリア)でした。
その後Spotify内最有力プレイリストToday’s Top Hitsのサムネになったこともあり、”La Difícil”はその他の複数国でランキング入りを果たしています。成績上ではグローバルを「制した」とも言えるBad Bunny。今後も変わらずスペイン語で曲をリリースし続けると思いますが、そのままでどこまで広範な地域に浸透するかにも注目です。
・BTS
同様に非英語圏アクトであるBTSは今月の初週にアルバム1位を獲得。42.2万という今年一番の数字でアルバム1位を獲得。BTSにとって4回目のアルバム1位です。「非英語アルバム」という括りでは10回目のアルバム1位です。
1963 The Singinng Nun – The Singing Nun (フランス語)
1995 Selena – Dreaming of You (スペイン語)
2004 Josh Groban – Closer (イタリア語、スペイン語、フランス語、6曲が英語)
2006 Il Divo – Ancora (スペイン語、イタリア語、フランス語、一部英語)
2018 BTS – Love Yourself: Tear (韓国語)
2018 BTS – Love Yourself: Answer (韓国語)
2018 Andrea Bocelii – Si (イタリア語)
2019 BTS – Map of the Soul: Persona (韓国語)
2019 SuperM – The 1st Mini Album (韓国語)
2020 BTS – Map of the Soul: 7 (韓国語)
総合売上42.2万のうち、純セールスで34.7万を記録。ツアーやグッズ戦略は行いませんでしたが、複数バージョンにわたるCDで売上が拡大。純セールス34.7万のうち、33.0万がCDによるものです。ほかストリーミングは4.8万、シングルDLからは2.6万を獲得しています。
彼らは初のアルバム1位時から13.1万→18.5万→23.0万→42.2万と初週売上をぐんぐん伸ばしており、熱心なファンが増加していることが伺えます。
Hot 100では”ON”が4位に登場。8.6万という超高水準のDLが高順位デビューの大きな手助けとなりました。ビデオのリリースはこの週の集計最終日だったため、ビデオ効果はこの週にはあまり出ていません。
ただし2週目はそのビデオよりもDL下落の影響のほうが大きく、62位まで下落。さらに3週目には他のアルバム曲大量登場に押し出される形で圏外へ。
2週の滞在は、アルバムの代表シングルの中で一番短いです。(Hot 100に登場するようになってから)
DNA 🗻67位 ⏰4週
FAKE LOVE 🗻10位 ⏰10週
IDOL 🗻11位 ⏰3週
Boy With Luv 🗻8位 ⏰8週
ON 🗻4位 ⏰2週
BTSは今回のアルバムの成績でファンのさらなる熱量を証明しましたが、シングルの成績で一般的な浸透度という課題は残っていることも分かりました。
これ以外に”My Time”が84位に、”Filter”が87位に登場しています。これでK-PopのHot 100歴代総エントリー数は22になりました。(”Baby Shark”を含む)
・上位の動向:次の1位は”Blinding Lights”? “Don’t Start Now”は?
アルバムの次はシングル上位の動向を見ていきます。”The Box”の1位支配は相変わらずですが、1/25以降続いていた”Life Is Good”の2位支配は3/14で終わりました。
3/21には”Don’t Start Now”が、3/28には”Blinding Lights”が代わって2位に入りました。いずれもストリーミングでの勢いを保ちつつ、ラジオが伸びてきたことが上位進出の要因です。
“Blinding Lights”は来週(4/4)にも1位になる可能性が。この週にはThe Weekndのアルバムリリースが反映されます。この曲もそのアルバムリリースによって大きく再生数が伸び、SpotifyとAppleで“The Box”を上回ることに成功しました。
現在ラジオ、DL、Spotify、Appleでは”Lights” > “Box”。YouTubeのみは”Box”の方が上です。
さらにその次の週(4/11)にはDua Lipaのアルバムリリースもチャートに反映されますが、”Blinding Lights”と同様に1位を取るかは微妙です。アルバムはストリーミングでそれなりに優秀な数字を収めましたが、伸び幅はThe Weekndほどではないので、これがきっかけで1位に立つほどの成績になるかと言われると厳しそうです。
・絶好調:”Adore You”と”Say So”
上位に新風をもたらしそうなのはこの2曲です。いずれもストリーミングで好調を保ち、さらにラジオのオンエア数が伴ってきたので、ここ数週Hot 100で大きく伸びています。”Say So”はビデオ公開による恩恵も大きいです。
4月の上位注目シングルは、ここで紹介した4曲ですね。
・DrakeがGlee Castを上回りHot 100エントリー数が単独最多に(208曲)
いつかは来るだろうと思われた記録をついに達成。Lil Yachty・DaBaby・Drakeが組んだ”Oprah’s Bank Account”がHot 100入り。これでDrakeは同エントリー数を208まで伸ばし、これまで最多タイだったGlee Cast(207曲)を振り切って単独首位に立ちました。
DLの発展によってシングル単位の消費が刺激されHot 100エントリー数を伸ばしたGlee Castに対して、Drakeはストリーミングの発展によってアルバム曲Hot 100エントリー数を伸ばしたような印象があります。Drakeはジャンル固有の客演に依る部分も大きいとは思いますが。
1 Drake 208曲
2 Glee Cast 207曲
3 Lil Wayne 168曲
4 Elvis Presley 109曲 (Hot 100の前身時代は除く)
5 Nicki Minaj 108曲
6 Kanye West 107曲
7 Jay-Z 100曲
・TikTok発とみられる曲
今月は5曲、TikTok発とみられる曲がHot 100入りを果たしました
3/7:Ashe – Moral of the Story (71位→82位→圏外)
3/14:Surfaces – Sunday Best (98位→99位→74位)
3/28:Megan Thee Stallion – Savage (98位)
3/28:BENEE feat. Gus Dapperton – Supalonely (88位)
3/28:Powfu feat. beabadoobee – death bed (71位)
一番ヒットしそうなのは”Savage”。Apple、SpotifyだけでなくiTunesでもトップ10入りを果たしていて、次の週には大幅なジャンプアップが期待されます。
この中では全くの無名なのはR&B調ポップバンドのSurfaces、ローファイ系ラッパーのPowfuです。この2人はまだウィキペディアが無いです。
TikTok発というと、このように無名のアクトがいきなり躍進するケースも多いですが、残りのメンバーは以前からある程度知名度があったようです。
Asheはソロデビュー前に何回かEDM曲のボーカルを務めた経歴あり。この”Moral of the Story”はNetflixのシリーズを経由して、TikTokでブレイクしました。FINNEASという強力なプロデューサーがついていることもあり、ヒットするのも納得です。ただ3月に入ってから伸び悩んだのは意外でした。
BENEEはニュージーランド出身のシンガー。母国やオーストラリアではこの曲以前にもヒット曲がありました。彼女は“Glitter”という曲もTikTokで人気を集めています。
そのBENEEの客演を務めるGus DappertonはNY出身のシンガーで既に来日公演も行っているようです。
beabadoobeeはフィリピン系のイギリス人シンガーで、2020年のBBC Sounf of…(イギリスの新人賞企画)に入賞しています。この”death bed”は彼女が2017年にリリースした”Coffee”に乗せてPowfuがラップしている曲です。
次に来そうなのはSAINt JHNの”Roses” (Imanbek Remix)です。TikTokでのブレイク以前に、既にUS以外では人気のあった曲ですが、USでは人気が出づらいゴリゴリのダンスリミックスだったため、ヒットせず。しかしTikTokで人気を得てからはUSのストリーミングでも上昇するようになりました。(特にSpotify)
SAINt JHN自身はガイアナ系アメリカ人で、普段はヒップホップ系の曲をリリースしています。ライオンキングのサントラで、Beyoncéなどと組んだ"Brown Skin Girl"でHot 100入り歴があります。
今回の曲は元々ラップ調だったものをImanbekがゴリゴリのダンスリミックスに仕立て上げたものです。
・その他の曲の短評
ほかに言及したい曲です。
・Lizzo – Truth Hurts
ピーク1位、滞在42週という成績でチャートを後に。ピークも滞在期間も優秀です。ここでは、そのラップ性について見ていきます。この曲は「女性ラッパーとして最長タイの1位」、または「女性ラッパーのソロ曲として単独最多の1位」*4と表記されることがありますが、そこで指摘されるのは「この曲はラップかどうか」という点です。2010年代にHot 100首位を獲得した他の女性ラッパー曲とラジオの成績を比較します。
“Truth Hurts” ポップ1位、リズミック1位、アーバン4位(この曲だけ)
“Fancy” ポップ1位 リズミック1位 アーバン2位(客演でもう2回ランクイン)
“Bodak Yellow” ポップ23位 リズミック1位 アーバン1位(合計7曲が1位に)
(ほか“I Like It”もHot 100首位を獲得しています)
Cardi Bは当該曲だけではなくその後のキャリアでもアーバン系での人気が際立ちます。他の2人と比べると、アーバン界隈(≒ラップのフィールド)から出てきたスターという特徴があります。
一方LizzoとIggy Azaleaはポップ系ラジオでの人気の方が高いです。Iggy Azaleaはアーバンに準じるラップ系統のリズミック系で他にも1位になりましたが、Lizzoはリズミック首位もこれだけです。この2人ではIggy Azaleaの方が若干ラップ寄りの方面で人気が出ていたことが伺えます。
つまりLizzoの歌唱法はラップっぽいかもしれませんが、基本的にポップ方面で人気がある人物という評価になるでしょう。
・Juice WRLD & YoungBoy Never Broke Again – Bandit
ピーク10位・滞在20週で外れました。ストリーミングでの人気はありましたが、元からラジオに恵まれない傾向にある二人だけあって、リズミック19位、アーバン圏外とラジオの成績が低かったです。
この曲は11位でデビューした後、2週目に「ポイントを落としながらも」10位へ浮上する、という変わったトップ10入りをしています。上位の曲が、この曲以上にポイントを落としていたためです。
・Taylor Swift – The Man
4曲目のシングルカット。ビデオを公開してヒットを狙うも 再登場後は92位→85位→圏外という成績に。ラジオも伸びておらず今後伸びる気配がありません。
現在ストリーミング偏重の環境では、アルバムからのシングルは ①単純なシングルリリース・②アルバムを匂わせる2曲目シングル・③アルバムとほぼ同時にリリースされる3番目のシングル というカットが一番うまく行きやすいです。
アルバム期から離れた時期に、シングルカットをしてもリスナーにとってそれは「アルバム時に聞いた曲」でもあるのであまり伸びない傾向にあります。(アルバムリリース時にどこまでストリーミングで人気だったか、にもよりますが)
昨年のBillie Eilishはアルバムから時間を置いて”all the good girls go to hell”をカットしましたが、アルバム時のHot 100ピークを上回ることはありませんでした。このような例は他にもいくつか見られます。
Taylor Swiftは前作の4つ目のシングルは最もヒットした”Delicate”だったので、一応それが希望の光ですかね。前作はアルバムリリース時にストリーミング開放されていなかったため、今作とは状況が違いますが。
・Jonas Brothers – Sucker
クリスマス時に特例で復活したシングル×3がLil Baby・Bad Bunnyに押し出され全て圏外に。復活してから外れるまで、特に新しい動きは無くラジオのオンエアが持続するだけだったので、やはり特例で復活させた意義は見出しにくいです。
この3曲のうち”Only Human”に2020年間チャート入りの可能性あり。ほかの”I Don’t Care”、”Sucker”も僅かに可能性あり。
(特例の復活についての記事:Hot 100 1/11 特集 【クリスマス後のリフレッシュ / 新方針?一度外れた曲を戻す】 - チャート・マニア・ラボ)
・Travis Scott – HIGHEST IN THE ROOM
ピーク1位、滞在21週という成績でチャートを後に。1位としては短い滞在でした。最後の週が40位ながらも、Lil Baby・Bad Bunnyのアルバム曲大量登場によって押し出されてしまったため、アンラッキーな面もあります。
ストリーミングほどラジオで人気が出なかったのも一因でしょうか。リズミック1位、アーバン7位、ポップ21位、そして総合23位でした。Hot 100首位獲得曲としては2018年の”SAD!”*5後で最も低いラジオ順位です。(”All I Want for Christmas Is You”も昨年ラジオ14位まで行った)
デビュー時に勢いよくスタートしたものの、そこまで長くは持たなかったというチャートアクションだったので、Travis Scottへの期待感は引き続き高いものの、シングルとしては「それなりな」成功だった、という印象です。
・BROCKHAMPTON – SUGAR
TikTok発と称される曲ですが、面白かったのはそれとほぼ同タイミングでラジオにかかっていたことです。TikTok発の曲は突発的な物が多く、ラジオのポイントを取り込めずHot 100で苦戦することもありましたが、この曲はその欠点を克服しています。ポップ系ラジオ28位まで到達。
BROCKHAMPTONは初のHot 100エントリー。2018年の”Ginger”の時にHot 100エントリー無しアーティストながらもアルバム1位獲得、という少し珍しい記録を持っていましたが、その「ねじれ」(?)を今回解消しました。
・Jonas Brothers – What a Man Gotta Do
Jonas Brothersはラジオが安定して~みたいなことを言っていたら3月に入ってからラジオが急落しました。昨年のようにはいかず。
・Demi Lovato – I Love Me
初週はDLがかなり高く、ストリーミングも上々の成績だったので、18位と高順位でスタート。ただしDLが落ちた2週目は43位に。ここからDL・ストリーミングの下落をラジオ上昇で補うようなチャートアクションを取ると思いますが、果たして……?
・JACKBOYS feat. Young Thug – OUT WEST
アルバム曲として人気を博したのち、プレイリストに入ったことやTikTokでの人気によってストリーミングで上位をキープ。Hot 100では10週チャートに滞在。
そしてチャートが外れたぐらいのタイミングでラジオのオンエアが開始。ビデオも公開されました。似たようなチャートアクションだった“VIBEZ”と違ってまだ滞在が20週に達していないため、今後再登場する可能性もあります。
この手の曲としては比較的うまくシングル運用できていると思います。
・Billie Eilish – bad guy
ピーク1位、滞在49週という成績でした。最後の週はLil Uzi Vertアルバム曲大量登場によって45位から押し出されたため、それが無ければ滞在は1年まで伸びたかもしれません。
Billie Eilishはアルバム以前、ラジオのオンエアにあまり恵まれていませんでした。2018年半ばからブレイクの兆しを見せていましたが、ポップ系ラジオでのオンエアが始まったのは2019年に入ってからでした。オルタナティブ系ラジオでは早めにオンエアされていましたが。
しかしこの”bad guy”はポップ系ラジオで1位に、ラジオ総合3位まで到達することに成功しました。この「大衆的な」成功は、グラミー4部門受賞の大きな要因になったと思います。
・Shawn Mendes & Camila Cabello – Señorita
ピーク1位、滞在37週。Shawn Mendesに初の1位をもたらした大ヒットです。滞在は1年に及ばず。滞在長さでは”Stitches”は52週、”Treat You Better”は39週に次ぐ3番目の記録です。*6
Shawn Mendesの次回アルバムは大規模ヒットになる予感がするのですが、リリースはいつでしょうか。
・Don Toliver – Cardigan
5曲目のHot 100入りを達成。アルバムがストリーミングで人気を博し、4.4万相当の売上で7位に登場。この曲のHot 100入りも、そのアルバムのストリーミング人気によるものです。TikTokでのブレイク以降、着実にキャリアを積み重ねている少し珍しい存在です。客演で人気を集めているので、もしかしたらTikTokでのブレイクが無くてもいずれHot 100入りしていたかもしれません。
・今月のデータ
・新たにトップ40入り
3/7
☆4 BTS – ON
△20 The Weeknd – After Hours (事実上デビュー週)
☆28 YoungBoy Never Broke Again – Lil Top
△30 Pop Smoke – Dior (キャリア初のトップ40)
△33 Doja Cat – Say So (キャリア初のトップ40)
△39 Kane Brown – Homesick
3/14
☆5 Lady Gaga – Stupid Love
☆18 Lil Baby & Gunna – Heatin Up
☆21 Lil Uzi Vert – That Way
☆23 Lil Baby feat. Lil Uzi Vert – Commercial
☆28 Lil Baby feat. Future – Live Off My Closet
☆31 Lil Baby – Emotionally Scarred
☆32 Bad Bunny – Si Veo A Tu Mamá
☆33 Bad Bunny - La Difícil
☆38 G Herbo feat. Chance the Rapper, Juice WRLD & Lil Uzi Vert – PTSD
3/21
☆8 Lil Uzi Vert – Lo Mein
☆11 Lil Uzi Vert – P2
☆18 Demi Lovato – I Love Me
☆22 Lil Uzi Vert – Homecoming
☆24 Jhené Aiko feat. H.E.R. – B.S.
☆25 Lil Uzi Vert – Prices
☆28 Lil Uzi Vert – POP
☆33 Lil Uzi Vert – Bigger Than Life
☆34 Lil Uzi Vert – Celebration Station
☆36 Lil Uzi Vert – You Better Move
☆37 Lil Uzi Vert – I’m Sorry
☆39 Lil Uzi Vert – Venetia
△40 Jhené Aiko – P*$$y Fairy (OTW)
3/28
☆13 Lil Uzi Vert – Myron
☆19 Lil Uzi Vert feat. Chief Keef – Bean (Kobe)
☆26 Lil Uzi Vert & 21 Savage – Yessirskiii
△36 Gabby Barrett – I Hope (キャリア初)
△38 Lil Mosey – Blueberry Faygo (キャリア初)
△39 Jake Owen – Homemade
△40 Rod Wave – Heart On Ice (キャリア初)
・外れた主な曲
3/7
45 Lizzo – Truth Hurts (🗻1位 /⏰42週)
62 Juice WRLD & YoungBoy Never Broke Again - Bandit (🗻10位 /⏰20週)
97 Idina Menzel & AURORA – Into the Unknown (🗻46位 /⏰10週)
3/14
40 Travis Scott – HIGHEST IN THE ROOM (🗻1位 /⏰21週)
41 SHAED – Trampoline (🗻13位 /⏰39週)
43 Jonas Brothers – Sucker (🗻1位 /⏰47週)
44 Ed Sheeran & Justin Bieber – I Don’t Care (🗻2位 /⏰39週)
48 Jonas Brothers – Only Human (🗻18位 /⏰36週)
83 DaBaby feat. Lil Baby & Moneybagg Yo – TOES (🗻28位 /⏰13週)
86 Ed Sheeran feat. Camila Cabello & Cardi B – South Of The Border (🗻49位 /⏰12週)
90 Kelsea Ballerini – homecoming queen? (🗻78位 /⏰12週)
95 Summer Walker & Usher – Come Thru (🗻42位 /⏰11週)
96 Dustin Lynch – Ridin’ Roads (🗻47位 /⏰17週)
3/21
43 Shawn Mendes & Camila Cabello - Señorita (🗻1位 /⏰37週)
45 Billie Eilish – bad guy (🗻1位 /⏰49週)
46 Sam Hunt – Kinfolks (🗻34位 /⏰21週)
50 Old Dominion – One Man Band (🗻20位 /⏰28週)
68 BTS – ON (🗻4位 /⏰2週)
80 Jimmie Allen – Make Me Want To (🗻49位 /⏰10週)
90 JACKBOYS feat. Young Thug – OUT WEST (🗻38位 /⏰10週)
92 YoungBoy Never Broke Again – Make No Sense (🗻57位 /⏰17週) ※
93 YNW Melly – Suicidal (🗻34位 /⏰15週) ※
※のちに再登場
3/28
71 Doja Cat & Tyga - Juicy (🗻41位 /⏰20週)
・各週ラジオで伸びた曲
※Kworb参照。ここで表示された1週間の伸び幅が一定以上の曲を太字にしています。
※グレー背景曲は、既にHot 100でリカレントになった曲
・今週の各指標の1位推移
DL首位は昨年の11/30以降、18週連続で違う曲になっています。ただ次の週も”Blinding Lights”が1位見込みで、この記録は止まりそうです。
リリース初週に数字が集まる傾向があるのは、ファンによる「応援」が今日のDLで主要な部分なのでは、という印象を受けます。
・今月のRolling Stoneチャート トップ10推移
(日付はビルボードに揃えています)
ストリーミングの比率が高いRSチャートでは、アルバムラッシュがあった場合にビルボード以上の影響を受けます。3/14はトップ10のうち4曲がLil Baby、3/21はうち7曲がLil Uzi Vert、3/28は4曲がLil Uzi Vertでした。
・2月号
・1月号
*1:推定5%程度? なぜかというと従来約1300再生=1枚ぐらいの割合が、ビデオ導入で1420再生=1枚程度になったため。主要なビデオ媒体であるYouTubeは無料で、一律3750再生=1枚のため、1300→1420の割合に引き上げるためにはだいたいビデオは5% ただし作品によって差があります。また、シングルが際立っていく2週目以降はビデオの比率が上がると思います
*2:Lil Uzi Vertはラジオにあまり恵まれない傾向が近年続いており、アルバム”Luv Is Rage 2”より後にリリースした彼のシングルはビルボードの各ラジオチャートに一切載っていません。
*3:ストリーミングで14.2万枚相当を記録。これを7/6すると16.5万枚まで増加。+2.3万枚なので、Lil Babyとの差1.8万枚の差を逆転できる
*4:ソロかどうかってそんなに大切か?って思いますが……
*5:訃報による1位浮上だったことも大きいですが、XXXTENTACIONはキャリアを通してラジオ50位以上に入ったことすら無かった