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Julia Michaelsの【ボーカル】に再注目! 【Nervous System (EP) レビュー/感想】

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 今まで複数の記事で紹介したJulia Michaelsが初のEPを 7/28 にリリースしたので、そのレビュー / 感想をします。テーマは【ボーカル】です。

 

 

 

 Julia Michaels といえば最近はソングライトでお馴染みかと思います。今までにJustin Bieber、Selena Gomez、Ed Sheeran、Britney Spearsなど多くのビッグネームの曲に多く携わり、ポップス界に欠かせない存在となっていきました。

 先日リリースされたJustin Bieber & BloodPopの"Friends"でもソングライターを務めています。(この曲のソングライター陣はSorryからSkrillexを抜いたものです)

 

 そのようにして知名度を上げたのち、自身のシングル"Issues"をリリース。Selena Gomezがインスタでチラっと紹介したことも追い風となり見事ヒットし、「シンガー」Julia Michaelsとしてもブレイクしました。

 このEPはそのタイミングでリリースされたもので、ある種はじめての自己紹介 / 名刺のようなものだといえます。

 

 ところで、Julia Michaelsを皆さんはどのタイミングで初めて知りましたか?

 私がJulia Michaelsの名前を初めて目にしたのは2014年でした。それはCash Cashの"Surrender"という曲ででした。

 

 

 

 ポップパンクバンドから転じて*1 EDM系DJに転じたCash Cashですが、彼らの当時*2 の特徴は印象的な甘いボーカル / メロディラインだと思っています。そのメロディセンスで彼らは2014年の前半にヒットを飛ばしました。それは"Take Me Home"でした。

 

 

 このメロディセンスと、客演Bebe Rexhaの声質が融合しヒット。Hot 100でも躍進を遂げて57位まで到達。たしかに、全国区とまではいえない程度のヒットですが、DJとしては新人だった彼らとしては十分に爪痕を残したといえるでしょう。(イギリスだと一時期5位まで到達しています)

 この"Take Me Home"の続編のような形で"Surrender"はリリースされました。この"Surrender"は上記の"Take Me Home"の要素をさらに煮詰めたような曲で、メロディセンスと歌声の融合により、かなりドリーミーな1曲となっています。

 私は"Take Me Home"でBebe Rexhaの活躍に目をつけていたので、この曲のボーカリストも気になったのですが、客演の表記が書いていなくて最初は誰が歌っているのか分からない状態でした。後にやっぱり気になって様々なソースを当たってみるとJulia Michaels(当時ウィキペディアのページ無し)を発見し、その名前を頭の片隅に置いておきました。

 

 長々と説明して結局何が言いたいか?というと、私は最初に注目したのは【ボーカリストとしての】 Julia Michaelsということです。そして、私は今回のEPで彼女の歌声に再び注目しました。ここからはEPの内容に触れていきます。

  

 まず、このEPで良かった点は彼女の音楽スタイルが見て取れたということです。Issuesでは、重厚なサウンドプロダクションをせずとも、メロディとボーカルを煮詰めることのみによってヒットに繋げましたが、このEPでも中心になっていたのはサウンドプロダクションというよりもボーカルのセンスだったと思います。

 ポップスにおいて、サウンドプロダクションはヒットに繋げやすいことや、個性を出すのにもってこいの要素なので切っても切れない関係だとは思うのですが、そこではなく自分のボーカルスタイルで勝負する!という気概を感じました。重厚なサウンドプロダクションは自分がソングライトを担当する他人の曲でやれば良いということでしょうか?

 

 その「音楽スタイル」とはどういうものかというと、Julia Michaelsのハスキーな歌声とメロディの融合、ボーカル活用の方法の模索です。

 先行リリースされていた"Issues"では、ボーカルとメロディを中心に据えた現代としては珍しいタイプのポップスに挑戦。もう一つの先行シングル"Uh Huh"ではJulia Michaelsのボーカルを楽器の生音と組み合わせて”Uh Huh”とセクシーに歌い上げるスタイルを試みています。どちらも、歌の主役はボーカルにあると思いました。

 

 EPではさらなるボーカルスタイルの発掘への挑戦が見て取れました。印象的だったのは"Worst In Me"と"Pink"です。

 "Worst In Me"はJulia Michaelsの声の特徴を前面に出した、コーラス部分のメロディラインの気持ちよさがボーカルによって増幅している1曲。ある種"Issues"の続編のような曲。

 "Pink"の最大の特徴は途中の「ささやき」部分。”There's no innuendos, it's exactly what you think Believe me when I tell you that he loves the color pink” という長めのフレーズをセクシーに「ささやき」ます。多少「ささやき」を取り入れることは珍しくはない気がしますが、ここまで長く「ささやき」を曲に落とし込むのは真新しく感じました。

 

 EPからはこのような特徴的なボーカルスタイルが見て取られ、私が最初にJulia Michaelsを発見した時のような【ボーカリストとしての魅力】を再発見したような気分になりました。

 ソングライターとして大きく注目を集めるようになった彼女ですが、今後は「ソングライター」Julia Michaelsだけでなく、刺激的なボーカル実験を行う「シンガー」Julia Michaelsにも注目したいと思います!

 

✫おまけ1 ほかの媒体のレビュー

そもそもPitchforkがこのアルバムを取り上げたこと自体が意外でした。及第点の評価をしています。

 

 AOTYに投稿された、熱心なレビュー

 

✫おまけ2 Bebe Rexhaも最近EPををリリース

 ちなみに文中に登場したBebe Rexhaも最近EPをリリースしたのですが、こちらはJulia Michaelsとは真逆でEP全曲ジャンルが違うのでは?と思うほどに様々なジャンルに挑戦しています(80年代ポップス、Murda Beatzによるラップ調、ダンスホール、Florida Georgia Lineを招いてのカントリーなど) 

 ここまで幅広いジャンルをこなす器用さはすごいと思いますし、実際Florida Georgia Lineとの曲がそこそこヒットするなど調子も良いみたいで、芸達者スタイルも面白いと思いますが、私は「アーティストのカラー」を見たいと思う人間なので、何か「Bebe Rexhaはどういう音楽をしたいのか?」のようなものを見たいとも思ってしまいます。

 ポップスシンガーは「売れる」という命題もあるので、スタイル確立とのバランスの取り方が難しいですけどね……

 

 ありがとうございました。

*1:とは言っても元々エレクトロ要素は感じましたが。このポップパンクバンド → DJへの転身の先駆け的存在で、後にBreathe Carolinaも似たような道を辿ります。この流れ話は有名なONE OK ROCKは本当にアメリカで成功できるのか?という記事にも載っていました

*2:現在はトラップ系統にも手を広げ、“総合的”なプロデューサーになった印象があります。