チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Cardi Bの“Invasion of Privacy”をチャートマニア目線で分析!

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 Cardi Bの“Invasion of Privacy”が見事USでアルバム1位を獲得しました!ストリーミングなどを含めた総合セールスは1週間で255000ユニットを記録。これはJustin Timberlakeに次ぐ今年2番目の好成績です! *1

 また、女性ラッパーがUSアルバム1位を獲得するのはNicki Minaj、Eve、Foxy Brown、Lauryn Hillに次ぐ快挙。また女性としては歴代で最多のアルバムストリーミングを記録したようです。(それまで記録を持っていたのはBeyoncé*2

 ちなみに“Bodak Yellow”がアルバムリリース前からかなり再生されていたため、アルバムリリースより「前」からこのアルバムはゴールドが内定していました。(1500ストリーミングで1セールス。ゴールドは50万ユニットで獲得できるので、”Bodak Yellow”はアルバム以前に7億5000万ストリーム以上を記録していたことになる)

 

 そして何より特徴的だったのは、ルール*3既にチャートから外れていた“Bodak Yellow”以外はアルバム全曲がHot 100に登場したということ!そのHot 100に登場した全曲をチャートマニア目線で分析したい!ということで個別記事を作ってみました。

 ちなみにBruno Marsの“Finesse”と合わせて今週のHot 100には計13のCardi Bの曲が同時に登場!これは女性としては歴代で最多記録です!ちなみにこの記録も、前の保持者はBeyoncéです。(”Lemonade”の時、12曲)

 

個別解説

※数字は今週(4/21付け)のHot 100の順位

 

58 Money Bag

 アルバムの中で順位が最も低い曲です。とはいっても、かなり優秀な数字で、同じく全曲がHot 100に登場した“DAMN.”や”More Life”の中の一番順位が低かった曲よりは高い順位を記録しています。(それぞれ“DUCKWORTH.”=63位、”Can’t Have Everything”=82位) 

 Cardi Bのアルバム曲のHot 100での順位が全体的に高かったのは、ストリーミングだけではなく、ダウンロードもそれなりの数字を記録したからだと思われます。

 曲中の歌詞には3回Beyoncéが登場します。

 軽いパクリ疑惑?も一時期浮上していたようですが、その提言した人が該当ツイートを削除したことにより、既に沈静化したみたいです。

 

57 She Bad / YG

 YGとタッグを組んだ“She Bad”。プロデュースはYGの盟友DJ Mustard。

 

50 Thru Your Phone

 ポップ寄りのアプローチをした1曲です。

 プロデュースは“Havana”、”Let Me Love You”などに関わったAndrew wattと、“Love Yourself”や”Cold Water”などに関わったBenny Blanco。さらにはソングライターとしてJustin Bieberの“Sorry”などを担当したJustin Tranter、”Havana”などを担当したAli Tamposiを起用しており、ポップスの叡智が集結した1曲になっています。

 ちなみにAndrew wattは他にもPost Maloneのアルバムに2連続で登場しています。Benny Blancoは最近Kanye Westのアルバム”ye"への参加が少し話題になりました。

 ボーカルの甲高いコーラスはそのAli Tamposiが担当。このボーカルはfeat.表記をして良いぐらいには重要な役割を担っているな、と感じています。

 このアプローチが功を奏し、今後この曲がポップ系ラジオで人気になるという展開もあるでしょうか?

 

43 Bickenhead

 Project Pat、La Chat、Three 6 Mafiaによる“Chickenhead”をサンプリングした1曲。↓のリンクにはサンプリング元との比較動画もあります。

 

 

39 Best Life feat. Chance the Rapper

 ここからはトップ40。このトップ40はヒットの基準と言われており、ここからの曲はストリーミングを中心にわずか1週間でヒットになったということです。現代のアルバム・ストリーミングの強さを物語ります。

 この曲でChance the Rapperキャリア2曲目のトップ40を記録。(“I’m the Oneに次いで) Chance自身の曲はHot 100で最も重要視される*4要素DLが無いため(自身の曲はDLで開放していない)、チャートで不利。しかし客演のこの曲はDLが解禁されていたことも手伝い、高めの順位に。

 Chance the Rapper自身の曲での最高位は“No Problem”の43位。(DL抜きでは大健闘です)

 

38 Get Up 10

 アルバム最初の曲です。以前アルバム最初の曲はストリーミング時代にチャートで有利か?ということを調べましたが、そのような傾向はありませんでした。

 この曲もそこまで順位が高くないです。

ストリーミング時代にアルバムの曲順がヒットに与える影響とは? - チャート・マニア・ラボ (CML)

 

32 Bartier Cardi feat. 21 Savage

 先行シングル。アルバムリリースでダウンロード・ストリーミングが上向きこの週51位→32位と浮上しました。

 ただし既にラジオがかなり落ちているので、今後の上昇は見込みづらいですかね。他のシングルにバトンタッチです。

 

28 Ring feat. Kehlani

 これでKehlani初のトップ40に!客演ではよく目にするので、初なのは意外な気もします。

 Kehlaniは今までは映画の曲×2(“Gangsta” “Good Life”)、自身の曲(“CRZY”

”Distraction”)、Calvin Harrisの客演でHot 100入りしていましたが、トップ40までは手が届きませんでした。

 ちなみに約1年前に2人でインタビューを受けたこともあります。

 

 

 Kehlaniが「きゃーー!!Cardi ちゃんメチャクチャかわいいーー」みたいなことを言います。ほかCardi BはLady Gagaを聴くらしい。

 

23 I Do feat. SZA

 SZA・Cardi Bと昨年脚光を浴びた女性同士のタッグで、ラップにも近いSZAの歌唱法が特徴的です。

 SZAの今までのHot 100エントリー7曲のうち、5曲がトップ40に到達しています。(現シングルの“Broken ClocksとLordeの”Homemade Dynamite”が到達していない)

 

21 Drip feat. Migos

 シングルとしても少しラジオでかかっている(この週Hip-Hop / R&B系ラジオチャートの下位に登場)こともあり、高めの順位を記録しています。ただし、現在のメインシングルは“Be Careful”なようで、こちらに注目が集まるのは少し先かもしれません。

 

11 Be Careful

 Hip-Hop / R&B系やリズミック系でシングルとして活躍中。ストリーミングの指数はアルバムの中で今週一番高かったみたいです。

 ラジオでの好調ぶりから、今後の上昇に期待が持てそうです。

 この曲ではFrank Dukesをプロデューサーに起用。“Havana”、”What Lovers Do”などポップスから、“Fake Love”、”Needed Me”などR&B系統の曲まで担当した、今注目度が高いプロデューサーです。

 この曲ではほかBoi-1da、Vinylzがプロデュースを担当。この3人のプロデューサートリオはRihanna の“Sex With Me”と同じ面々。

 

8 I Like It / Bad Bunny & J Balvin

 “I Like It”がいきなりトップ10で登場。Bad Bunnyは初、J Balvinは2曲目のトップ10。Cardi Bにとっては5曲目。

 ストリーミングだけでなく、ダウンロードでの人気(DLが今週2位)が有効に働き高い順位で登場しました!非シングルがDLで一番人気というのが興味深いです。

 アルバムリリース後もストリーミングの数字を伸ばしており、好調。いずれシングル化されそうですね。

 この曲でサンプリングされているPete Rodriguezの“I Like It Like That”は、この”I Like It”効果で2520%ストリーミングが上昇したみたいです。

 

 この曲は戦略として面白いと思います。ラップのリスナーを増やすとしたらポップスのリスナーに合わせるのがよくある手段です。このアルバムでも“Thru Your Phone”でそのようなアプローチが見られます。

 なぜそのような手段が有効かというと、USで一番規模の大きいラジオの系統はポップ系ラジオだからです。そのポップ系ラジオにかかることで、チャートのポイントを稼いだ上でリスナー層も広げられるので有効な手段なのです。*5

 しかし近年ではストリーミングの台頭によってラジオの影響力が相対的に低下。ストリーミングで莫大な人気をつかめば、ポップ系リスナーを重視せずともHot 100で上位に入るようになりました。“Panda”、”Bad and Boujee”、“HUMBLE.”などがその例です。

 今回の“I Like It”はそのストリーミング戦略の応用編だと思います。世界的にスペイン語話者が多いことから、ラテン系の曲はストリーミングで人気を得ています。

 昨年の“Despacito”(オリジナル)を皮切りにSpotifyのグローバルランキングでは複数のスペイン語曲がトップ10入り。さらにYouTubeでは既に人気がラテン曲>英語曲になりつつあり、昨年リリースされたビデオの再生数ランキングトップ10のうち、ラテン曲は7、英語曲は3という比率に。 (昨年リリースのビデオが再生数順に並んでいるプレイリスト↓ ※ヘッダーはEd Sheeranですが、首位は”Despacito")

  

 規模の大きいラテン系のリスナーが、新たなリスナー層として力を持ち得るのではないか?ということです。

 昨年はJustin Bieberが“Despacito”のリミックスを担当し、その「リミックス効果」で大ヒットとなりました。つまり英語圏側がラテンのサポートをした、ということですが、今後は規模の大きいラテン側が、英語圏側をサポートするという展開も増えるのかもしれません。

 

※ちなみにラテン圏でかなり規模の大きいメキシコのSpotifyでは“I Like It”は現在35位。”Invasion of Privacy”の曲では唯一のランクイン。今後もっと数字を伸ばせるか?

 

関連記事

↑ ストリーミングの人気によって多くの曲がHot 100に入ったアルバムのまとめ

 

↑ ”Invasion of Privacy”もYouTubeに全曲が公開されている。

 

 ↑ ストリーミングの人気でHot 100の1位を獲得した例です。

 

この週は他に何がリリースされたのか?などの情報です。

*1:後にPost Malone、J. Coleに抜かされる

*2:このアルバムはTidalのみの公開で、純粋な比較はしづらいかも……

*3:21週目以降の曲が51位以下に落ちるとチャートから外れるというルール

*4:DL・ラジオ・ストリーミングのうち、DLの比率が一番高いとルールで明記されている

*5:他にも純粋にポップス曲のほうが世界的にリスナーが多いという面もある