XXXTENTACIONがSpotifyの公式プレイリストから除外されたことが各所で話題になりました。理由は「反暴力の規定」によるものだそう。結局どのくらい影響があったのか?除外が実施されてから1週間が経過したので、分析したいと思います。
(たしかにRapCaviarなどの主要プレイリストからは外されていますが、This Is XXXTENTACION = Apple Musicの「はじめてのXXXTENTACION」に当たるプレイリスト は残っているので、全部が全部消えた訳ではないようですね)
さらにその後、プレイリスト復帰など様々な動きを見せたので、その動向もまとめました!
Billboardがこの事例の経過と関連ニュースをまとめています。タイトルには「除外されたアーティストのストリーミングが落ちた」との情報が。
また記事の最後には「どこに基準を置くのか?」「誰が判断を下すのか?」などとし、今後もこの問題が長引く可能性があるとしています。
記事中ではXXXTENTACIONが具体的にどのくらいストリーミングが落ちたのか?が説明されています。Spotifyの有力プレイリストに入っていた“SAD!”は除外されたことによってSpotify内のストリーミング数が17%落ちたとのことです。
また、除外の影響で“SAD!”は選択型ストリーミング*1全体でも9%落ちてしまいました。Spotifyの規模が大きいからでしょうか。
「Spotifyで”SAD!”が17%下落!」「ストリーミング全体で9%も下落!」と聞くとXXXTENTACIONは「除外」で深刻なダメージを負ったように思えます。
しかし、実は“SAD!”以外の曲を見ると、案外そこまで痛手を負っていない、という見方もでる、と私は考えています。
以下は5/3、5/10、5/17のUSにおけるSpotify週間再生数のデータ表です。XXXTENTACIONが公式プレイリストから除外されたのは5/10頃とされているのです。除外の影響が出るのは5/17のデータです。
()内の数字は再生数の順位 *2
[]内はそれぞれの収録アルバムを指す。
“?”は 2018年の3月16日、”17”は2017年の8月25日にリリース。
5月3日 | 5月10日 | 5月17日 | |
SAD! [?] | 7,427,711 (24) | 7,104,955 (16) | 5,921,607 (16) |
Moonlight [?] | 4,394,928 (47) | 4,008,847 (48) | 3,589,068 (50) |
Jocelyn Flores [17] | 2,892,969 (66) | 2,794,493 (68) | 2,657,124 (71) |
Changes [?] | 2,807,976 (69) | 2,574,387 (75) | 2,443,132 (83) |
Fuck Love [17] | 2,569,797 (90) | 2,504,351 (82) | 2,342,556 (89) |
Everybody Dies in Their Nightmares [17] | 1,850,648 (142) | 1,812,019 (139) | 1,708,770 (147) |
the remedy for a broken heart [?] | 1,718,901 (157) | 1,587,703 (171) | 1,468,308 (193) |
表を見ると、“SAD!”は大きくストリーミングが減っていることが分かります。5/10と5/17を比較すると、Billboardが示した「17%減」と一致します。
しかしそれ以外は「自然減」程度に留まっています。(少し“Everybody Dies in Their Nightmares”の減少が多い気もしますが。この曲もある程度何らかのプレイリストに入っていたのかも?) ここで言う「自然減」とはリリースから時間が経って注目度が落ちることによる再生数の減少を指します。
”SAD!"以外の曲は軒並み、5/3→5/10の減少幅と5/10→5/17の減少幅にあまり違いがありません。
つまりプレイリストから外れた主要曲(“SAD!”)以外はあまり影響を受けていない、ということが分かると思います。
そしてこの表から読み取れるポイントがもう一つあります。それは「シングル以外も多くランキングに残っている」という点です。
「シングル」とは、ラジオでかかっている or ビデオが作られているなどの理由から「スポットライトが当てられているアルバム内の曲」を指します。プレイリストの選曲もこの「シングル」に依拠して決まることが多いです。*3しかしシングルではない曲が↑の表には何曲かあるのです。
“?”からは“Moonlight”と”the remedy for a broken heart”と2曲シングル「ではない」曲がランクイン。また”Changes”もWikipediaにはシングルと表記されていますが、ラジオでもほぼかかっておらず、ビデオもありません。 *4
そして“17”からは”Everybody Dies in their Nightmares”が「非」シングルながらもランクインしています。
このことから何が分かるかというと、XXXTENTACIONには「世の中のシングル・非シングル」に左右されずに曲を聞く熱心なリスナーがたくさんいるということです。そして、これらの曲は「除外」の前後でも「自然減」程度のマイナスに留まり、あまり影響を受けていません。
このように、XXXTENTACIONにはプレイリストや「シングル」のサポート無しでも大きな支持基盤があるのです。また、それぞれある程度リリースから時間が経過していますが、それでも多くの曲が上位に入っているのは熱心なリスナーが多いことを表しているのではないでしょうか。特に約9ヶ月前にリリースされたアルバム"17"から未だに3曲も残っているのは驚異的だと思います。
たしかに、プレイリストから除外されてしまうことは、ある程度はマイナスに働きますが、XXXTENTACIONには世の中の「シングル・非シングル」に囚われずアルバムごと聞くような熱心なリスナーが多くいることが推測され、「除外」の影響力は限定的なものになるだろうと私は考えています。
今後も「除外」の対象になるアーティストが増えるかは分かりませんが、仮に実行されれば、シングルで勝負をするタイプのアーティストは大きな痛手、アルバムで勝負をするタイプのアーティストはそこまでダメージが無い、ということは言えると思います。
(シングル勝負=ポップシンガー、アルバム勝負=ラッパー、インディー寄りアーティストなど あくまで傾向の話ですが)
ただし、「除外」の対象が「新アルバム通知」にまで及び、かつ新アルバムのリリースのチェックをSpotify内「のみ」で行っているユーザーが多かった場合は、影響があるかもしれないです。
☆その後の展開
Kendrick Lamarが自身の音源をSpotifyから引き下げることを示唆したことをはじめとして、Spotifyの「除外」の判断に対する批判は多く、Spotifyは結局判断を翻すことに。6/1付けでXXXTENTACIONの”SAD!"をRapCaviarに戻しました。
では、実際にプレイリスト復帰を果たして再生数はどのように動いたでしょうか?同様に該当期間のUS週間Spotify再生数ランキングのデータを見比べてみます。6/7のデータから復帰が反映されています。
5月24日 | 5月31日 | 6月7日 | |
SAD! [?] | 5,516,756 (15) | 4,995,292 (17) | 5,091,216 (23) |
Moonlight [?] | 3,139,675 (55) | 2,838,826 (64) | 2,706,632 (69) |
Jocelyn Flores [17] | 2,580,868 (71) | 2,413,983 (83) | 2,326,269 (87) |
Changes [?] | 2,284,482 (85) | 2,026,513 (121) | 1,865,345 (127) |
Fuck Love [17] | 2,234,052 (93) | 2,084,065 (114) | 2,023,498 (109) |
Everybody Dies in Their Nightmares [17] | 1,631,090 (163) | 1,541,259 (188) | 1,496,189 (182) |
”SAD!"は5/31から、プレイリスト復帰後の6/7で2%しか再生数が増加しておらず、「あまり変化が無い」ようにも見えますが、5/24→5/31の激しい減少ペースを考慮すると、その激しい減少を抑えてプラスに転じたという点で、プレイリスト復帰は2%以上のプラスをもたらした可能性もあります。
他のアルバム曲はあまり動かず。昨年のアルバム"17"の収録曲が依然として影響力を保っています。
☆その後の展開2
その「復帰」からあまり時間が経っていない6/18、XXXTENTACIONに思わぬ悲劇が訪れます。XXXTENTACIONは地元で銃撃を受け、帰らぬ人となってしまいました。
現在も”SAD!"はHot 100にエントリーしていて、まさに今楽曲がヒット中の現役ラッパーの死とあって、人々に与えたショックはとても大きく、その後XXXTENTACION関連の曲はSpotifyを含む各種ストリーミングのランキングで急浮上しました。
その人気を受けてか、RapCaviarは6/22の段階で、”Moonlight"をプレイリストに戻しました。”SAD!"は「除外」が解除されたタイミングでプレイリストに復帰していたので、現在はRapCaviarにXXXTENTACIONの曲が2つある、ということになります。
約1ヶ月前には、「問題のあるアーティスト」としてプレイリストから除外されていたXXXTENTACIONでしたが、現在は2曲もがプレイリストに。
「除外」をした過去を改め、プレイリストに入れることでアーティストへの「リスペクト」を示した、とも取れます。
ただし、今にそのような行動を見ていると、果たして1ヶ月前の「除外」はする必要があったのか?とも感じ、何ともやるせない気持ち、もあります。
おまけ
また、“SAD!”が大きく再生数を落としたのは”RapCaviar”の特性が表れているとも言えます。SpotifyのRapCaviarと(似たような役割を持つ)Apple MusicのHip-Hop A Listを比較すると、RapCaviarはやや古い曲も残している(現在昨年10月末リリースの“Ric Flair Drip”も残っている)のに対して、Hip-Hop A Listは入れ替わりが早めです。
このことから、SpotifyのRapCaviarは「聞き心地重視」、Apple MusicのHip-Hop A Listは「発掘重視」という考え方ができると思います。つまり、RapCaviarを頼りにラップを聞いている層が一定数はいるのでは?ということもこのデータから伺えます。
ちなみにRapCaviarに入ってもUSのSpotify人気ランキング200位圏内に入らない曲もあります。(現在入っている曲だとYBN NahmirとYBN Almighty Jayの”Bread Winners"や、Jay Rockの”The Bloodiest"など)
また、彼に限らず場合ストリーミングでは「アルバム曲」が力を持つようになってきているように思います。その部分の分析も、今後行っていきたいです。
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*1:オンデマンド・ストリーミングと呼ばれる。Apple MusicやSpotifyなどのオーソドックスなストリーミングサービスがこれに当たる。曲の選択を任意で行えるストリーミングサービスを指す。パンドラやYouTubeはこれに当てはまらない
*2:5/3→5/10で“SAD!”の再生数が減っているにも関わらず、順位が上昇しているのは、Post Maloneのアルバム曲が順位を落としたため
*3:リリース直後は、シングルではない曲をとりあえず何曲か入れるケースもあるが、だんだんシングルに統一されていく傾向がある。
*4:そもそもXXXTENTACIONはラジオの恩恵をあまり受けていません。最新シングル”SAD!"こそ Hip-Hop / R&B ラジオチャートの35位まで到達しましたが、それ以外のシングルはこのチャートの50位以内に入ったことが無いです。つまり今までほぼストリーミングでチャート入りを果たしていたのです。ちなみに客演ではKodak Blackとの”Roll in Peace"がラジオのチャートに登場したことがあります。