チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100 9/29 見どころ 【名タッグLil Baby + Gunnaなど、多くのラッパーが活躍の一方で……?】

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 今週活躍したのはラッパーたち。Eminemの”Killshot"が3位に登場したほか、Lil Baby + Gunnaの”Drip Too Hard"が28位、Gucci Maneらのコラボが30位、Lil Uzi Vertが38位……など、ラッパーたちの新リリースが存在感を示しました! *1

 しかしその一方で、先週まで34週続いていたラップ曲によるHot 100首位連続支配が今週ストップ。”Girls Like You"が首位に立ちました。

 

☆今週のHot 100 ショートハイライト

Maroon 5とCardi Bの“Girls Like You”がついに首位浮上。34週続いたラップ曲Hot 100首位連続支配を断ち切る

・新世代ラッパーが活躍。Lil Baby & Gunnaの“Drip Too Hard”が28位、Lil Uzi Vertの”New Patek”が38位に登場 など

・5SOSがキャリア初のトップ10

・アルバム1位はCarrie Underwood

 

・今週のトップ10

△1 Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You 

▽2 Drake – In My Feelings

☆3 Eminem – Killshot 

△4 Juice WRLD – Lucid Dreams 

▽5 Post Malone – Better Now

▽6 Cardi B, Bad Bunny & J Balvin – I Like It

▽7 Kanye West & Lil Pump – I Love It

▽8 6ix9ine feat. Nicki Minaj & Murda Beatz – FEFE

▽9 Travis Scott – Sicko Mode 

△10 5 Seconds of Summer – Youngblood 

 

 は先週と比べて曲のポイントが伸びていることを指す

1~100位までの順位表は↓

 

 

曲の個別解説

☆=新登場 ◇=再登場 △=上昇 ▽=下降 

 

☆96 Flipp Dinero – Leave Me Alone

 近年多い「サウンドクラウド発、RapCaviar経由」のラップ曲が、今週2曲Hot 100に登場。100位にLil Moseyの“Noticed”が、96位にFlipp Dineroの”Leave Me Alone”が登場しました。2人ともHot 100には初登場です。

 “Leave Me Alone”は、昨年NBAで優勝したGolden State WorriorsのプレイヤーJordan Bellや、DrakeがInstagramのストーリーに掲載したことで拡散していった、と分析されています。

 複数の有名人、RapCaviarなどを通して次第にヒットがだんだん大きくなっていく様子が伺えます。

 

Apple MusicのHip-Hop A Listと比べると、SpotifyのRapCaviarはこのようなサウンドクラウド発のヒップホップを拾ってくるのが早い印象があります。現在ヒット中Sheck Wesの“Mo Bamba”もRapCaviarのほうが先に発掘していました。

 今週Hot 100に登場した“Leave Me Alone”、”Noticed”の2曲もRapCaviarが先に見つけています。

 

◇90 Carrie Underwood – Cry Pretty

 今週Carrie Underwoodがアルバムチャート1位を獲得!今週26万6000枚相当を売り上げ、盤石の1位獲得です。Cardi Bの“Invasion of Privacy”(25万5000枚相当)を越えて、今年最も初週に売り上げた女性のアルバム、となりました!

 このアルバムの「総合」セールス*2のうち、25万1000枚は純セールスが占めています。このアルバムは「チケット(割引権)付きCD」で多くのセールスを獲得したほか、それ以外の販売(ウォルマートの店頭販売やiTunes)などでもよく売れていた、とビルボードは報じています。

 Carrie Underwoodはこれで4枚目のアルバム1位に。女性のカントリー歌手で4枚以上アルバム1位を獲得したのは彼女が史上初です!(それに次ぐのは、Faith Hill、Linda RonstadtとTaylor Swiftの3人の3枚。Taylor Swiftはキャリアの途中(”1989”以降)からカントリー歌手ではなく、ポップ歌手と見なされるようになったので、カントリーアルバムでの1位は3枚とカウントされている)

 収録曲のうち、表題曲“Cry Pretty”が90位でHot 100に入りました。(再登場)

 

※ほか、今週カントリー界からはJimmie Allenという新人が“Best Shot”という曲でHot 100エントリーを果たしています。

 

☆76 6LACK feat. J. Cole – Pretty Little Fears

 今週最もストリーミングで人気だったアルバムは6LACKの“East Atlanta Love letter”。アルバムチャートでは自己最高を大きく更新する3位に食い込み*3、Hot 100にも1曲がエントリーしました!

 J. Coleを迎えた“Pretty Little Fears”が76位に登場。そのほか、101位~125位相当の曲を扱うBubbling Underチャートには7曲が入っています。(Hot 100ニアミス曲が多かったということです)

 このアルバムはApple Musicでの人気が高かったです。例えばこの“Pretty Little Fears”はApple Musicでは今週5位~20位の間で推移していましたが、Spotifyでは今週60位でした。

 仮に他の指標でポイントをあまり稼げなかった場合、Apple Musicのランキングでおよそ20位前後=Hot 100に入るボーダー な感覚がします。

 もちろん、他の指標(ダウンロードやSpotify、ラジオなど)でポイントを稼げていれば、Apple Musicの順位がこれよりも低くてもHot 100に入ることができます。

 

☆47 Lil Peep & XXXTENTACION – Falling Down

 Lil PeepとXXXTENTACIONの“Falling Down”が47位で登場。リリースが水曜日で、今週のチャートでは2日分しか集計されていませんが、その短い期間で高いDLやストリーミングを記録し、Hot 100の中位に入りました。 Lil Peep2曲目のHot 100入りで、キャリア最高位です。(以前エントリーした”Awful Things”は79位だった)

 1週間分フルでカウントされる来週は順位が上昇する見込みです。現在もSpotify1位などストリーミングの好調をキープしています。

 

※この2人のうちXXXTENTACIONはUSだけでなく、他の国でも人気を集めている印象があります。歌詞サイトGeniusでは、オランダ語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語トルコ語と6カ国語に翻訳されています。ここまで多くの言語に翻訳されるのは非常に珍しいように思います。

(例:今年一番ヒットしたであろうラップ曲、Drakeの“God’s Plan”はフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語の4ヶ国語に訳されている)

 

☆45 Khalid – Better

 Khalidの新曲“Better”が45位で登場。ストリーミングで好調のほか、DLでも好調です(今週DL8位)

 KhalidはUSでももちろん人気ですが、他国での人気も急上昇中。以前からKhalidが人気のオーストラリアではもちろん、この“Better”はゆったりとした曲を好む傾向のあるアジア圏(マレーシア、シンガポール、香港など)でもSpotifyでトップ10入りしています!

 R&Bのリスナーだけでなく、ゆったりとしたポップスを好むリスナーとも親和性が高いのかもしれません。

 

☆38 Lil Uzi Vert – New Patek

 Lil Uzi Vertの“New Patek”が38位で登場。この曲も水曜日にリリースされたことで、今週のチャートでは2日分しか集計されていないのですが、短い期間で好成績を記録し、Hot 100のトップ40に食い込みました。”Falling Down”同様、来週は順位を上げることが確実です。

 Lil Uzi Vertにとってはキャリア6曲目のトップ40入り。

 この曲はApple Musicでの人気が特に際立っていて、リリース以降常に同サービス内のランキングで1位です。 

 

☆30 Gucci Mane, Bruno Mars & Kodak Black – Wake Up in the Sky

 Gucci ManeがBruno Mars、Kodak Blackを迎えた“Wake Up in the Sky”が30位で登場。SpotifyApple Musicの両方でトップ10入りを果たすなど、ストリーミングで大きくポイントを稼いでいます。

 この曲はラジオでも人気。リズミック、Hip-Hop / R&B系など、ラップ関連のラジオで既に注目を集めています。Bruno Marsはアルバム”24K Magic”以降、R&Bヒップホップ系のラジオでも人気者になりましたね。

 Gucci ManeやKodak Blackはあまりポップス系リスナーに馴染みのない存在と思われますが、Bruno Mars効果でポップ系のリスナーにも人気が出るでしょうか。

 

 

☆28 Lil Baby & Gunna – Drip Too Hard

 Lil Baby & Gunnaの“Drip Too Hard”が28位で登場。この曲は2人のジョイントアルバムからの先行シングルとされています。Lil Babyにとっては2曲目、Gunnaにとっては初のトップ40入りを達成しています。

 Gunnaはこの曲も入れて、今まで3回Hot 100入りしたことがあるのですが、全てLil Babyとタッグを組んだ曲です。(“Life Goes On”、”Chanel (Go Get It)“)*4

 この曲はストリーミングで大人気。特にApple Musicでの人気は際立ちます。(現段階でApple Music2位)

 

△10 5 Seconds of Summer – Youngblood

 5 Seconds of Summerの“Youngblood”が10位に浮上!彼らにとって初のトップ10ヒットとなりました。

 “She Looks So Perfect”で華々しく登場して以降、3連続アルバム1位など常に人気をキープしていた5 Seconds of Summer。しかしシングルではトップ10に手が届かず、それまでは”Amnesia”での16位がキャリア最高位でした。

 セカンドアルバムの“Sounds Good Feels Good”ではヒットシングルが生まれず、苦労した彼らですが、サードアルバムの”Youngblood”の表題曲で華麗に復活。この曲のビデオではメンバーが登場せず*5、「いわゆるボーイバンドからの変貌」のようなものが伺えます。

 そのビデオでは日本の「ロカビリー」がモデルになっていて、代々木公園で踊り回るロカビリー男性が見られます。(ビデオは最初から最後まで日本が舞台)

 この曲には近年のヒットソングを多く輩出するソングライター、Andrew Wattが関与しています。彼にとって“Let Me Love You”、”It Aint’ Me”、”Havana”、に次ぐ4曲目のトップ10です。

 

☆3 Eminem – Killshot

 EminemのMGKへのアンサー曲、“Killshot”が3位で登場。今週最も多いDL(38,000)を集めたほか、YouTubeでは5010万再生とかなりの数字を記録し、高い順位でのデビューを成し遂げました。Eminemにとってはキャリア20曲目のトップ10に。

 YouTubeが国ごとの再生数ランキングを表示するようになって以降(2017年9/15~)では、最も高い再生数を記録しています。(今までは2/16~2/22におけるDrakeの“God’s Plan”=4720万再生が最高)

 

 ちなみにこのタイミングではまだApple MusicやSpotifyなどのストリーミングでは開放されていません。(来週のチャート集計のタイミングではApple Music、Spotifyなどでも開放されており、これらの数字がチャートに反映される)

 これらのサブスクで開放されなかったことも、YouTubeでの再生数が伸びた要因の一つだと思われます。

 

△1 Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You

 Maroon 5とCardi Bの“Girls Like You”がついに首位へ浮上しました!17週目と、やや遅いタイミングでの首位獲得です。(最近はリリース即1位というパターンが多いので、やや珍しいですね)

 ”Girls Like You”の調子が特別に良いというよりは、“In My Feelings”のポイント減が激しいということが首位獲得の大きな要因だと思います。

 これで先週まで34週間続いたラップによるHot 100首位支配(“God’s Plan”~”Nice For What”~"This Is America"~“Psycho”~“SAD!”~”I Like It”~“In My Feelings”)*6に終止符が打たれました。

 Maroon 5にとっては4曲目のHot 100首位。21世紀におけるグループ/デュオの中では最多の1位を記録しています。(次ぐのはThe Black Eyed PeasOutkastの3曲、*7

 全体の最多はRihanna(14曲)です。

 

Maroon 5の歴代首位曲

2007 “Makes Me Wonder” 3週

2011 “Moves Like Jagger” 4週

2012 “One More Night” 9週

2017 “Girls Like You” 1週+

 

↑こう見ると、2012年前後の好調が際立ちますね。この時期には年間4位だった“Payphone”とかもありました。Maroon 5は最初にヒットを飛ばしたのは2004年の“She Will Be Loved”(=5位)なので、息が長いですね。

 

 Cardi Bにとっては3曲目のHot 100首位獲得。Hot 100の1位を複数獲得している女性ラッパーはCardi Bのみですが、彼女はさらなるHot 100首位を今週獲得し、他の女性ラッパーとの差を広げています。

 

※この曲にはSt. Vincentによるリミックスもあるようです。(意外な所と組んでいますね)

 

 

 

▽× Casper Magico, Nio Garcia, Darell, Nicky Jam, Ozuna & Bad Bunny – Te Boté

 ラテン曲のヒット、”Te Boté“が今週チャートから外れました。ピークは36位とあまり高くないですが、長く人気をキープしたこともあって、年間チャートのトップ100に入りそうです。

 他のラテン系の曲と同様に、YouTubeやラテン系のラジオで人気を得たほか、ラップリスナーにもある程度人気が出たことがロングヒットの要因だったと思います。この曲はApple Musicやリズミック系ラジオでも一定の人気がありました。

 ラテン系の楽曲は、ラップリスナーとも相性が良さそう*8なので、今後も活躍に期待が持てそうです。

 

 この“Te Boté”は今年リリースされた音楽ビデオの中で2番目に高い再生数(約12億2565万)を記録しています。

今週Hot 100の首位に立ったGirls Like Youのビデオは今年5番目に高い再生数(約9億2876万)を記録しています。英語曲のビデオの中では今年最も再生数が多いです。

 

 

▽× Bazzi – Mine

 Bazziの“Mine”が今週チャートから外れました。ピークは11位、滞在は34週とデビュー曲としてはかなりの成績を記録しました。

 惜しくもトップ10に届かなかったのは、「それぞれのピークのズレ」です。この曲はストリーミングで発見され、Spotifyでは今年の2月~3月にピークを迎えましたが、ポップ系のラジオでピークを迎えたのは7月。つまり、ストリーミングで熱が落ち始めたタイミングでラジオのピークを迎えているのです。

 ストリーミングはリリース、または「発見」されてからピークに達するまで早いですが、ラジオは少しずつ再生数を伸ばしていく傾向にあり、二つの違いを考慮すると、ある意味このズレは「必然」とも言えます。

 ラジオのポイントを最大のポイント源にしていることが多く、このようにストリーミングとラジオのポイントがズレると、Hot 100でトップ10に届かないこともあります(昨年の“Issues”や今年の”FRIENDS”など) *9

 ここで挙げたポップ曲は、週間チャートではこの「ズレ」によってトップ10には届きませんが、裏を返せばこれは「ストリーミングのピーク」と「ラジオのピーク」と二つのピークが存在するため、その分ロングヒットになっており、週間ピークの割に年間チャートで高い順位を記録していることも多いです。

 ポップス曲は週間の順位で奮っていなくても、年間チャートでは意外と上位に入ることがあるのです。

 

 

今週チャートから外れた曲 (9曲)

【左の数字は先週の順位、右(ピーク順位🗻/チャート滞在週数⏰)】

100 Migos – Narcos (🗻36位 /⏰15週)

97 Drake – I’m Upset (🗻7位 /⏰16週)

96 Silk City & Dua Lipa – Electricity (🗻96位 /⏰1週)

94 Ozuna & Manuel Turizo – Vaina Loca (🗻94位 /⏰1週)

93 Childish Gambino – Feels Like Summer (🗻54位 /⏰2週)

92 BTS feat. Nicki Minaj – IDOL (🗻11位 /⏰3週)

91 Mac Miller – Come Back To Earth (🗻91位 /⏰1週)

84 Eminem – Greatest (🗻23位 /⏰2週)

70 Mac Miller – Hurt Feelings (🗻70位 /⏰1週)

50 Casper Magico, Nio Garcia, Darell, Nicky Jam, Ozuna & Bad Bunny – Te Bote (🗻36位 /21週)

46 Bazzi – Mine (🗻11位 /34週)

 

 

・アルバムチャート(Billboard 200)に新登場した作品

1 Carrie Underwood – Cry Pretty 🎫

3 6LACK – East Atlanta Love Letter

11 Tony Bennett & Diana Krall – Love Is Here To Stay

14 YoungBoy Never Broke Again – 4Respect 4Freedom 4Loyalty 4Whatimportant

27 Thrice – Palms

35 Tori Kelly – Hiding Place

36 Willie Nelson – My Way

37 David Guetta – 7

69 Fit For A King – Dark Skies

103 Wale – Free Lunch (EP)

113 Aphex Twin – Collapse (EP)

164 Good Charlotte – Generation Rx

 

🎫:ツアーのチケットとCDを結びつけた戦略を取ったアルバム

  Good Charlotteは以前5 Seconds of Summerのプロデュースを行ったこともありましたね。

 

来週以降の動向など

 

・来週以降Hot 100に入るかもしれない?曲

 

・Anne-Marie – 2002

 母国UKでは6月頃にピークを迎えていましたが、USではこのタイミングで浮上中。今週104位(相当)まで到達していて、近いうちにHot 100デビューする可能性があります。

 

・Dean Lewis – Be Alright

 オーストラリア出身SSWのバラード曲。既に母国オーストラリアではシングル1位を獲得しています!(現在は2位。いまのオーストラリア1位はGeorge Ezraの“Shotgun”)

 Spotifyを中心に世界的に人気が出てきており、USにもそろそろ上陸しそうです。今週115位(相当)

 

 

 

ビルボードによる今週のHot 100 / アルバムチャート解説(記事を書くうえで参考にしています)

 

 

 

*1:画像はhttps://genius.com/discussions/332602-Gunna-vs-lil-baby から引用しています

*2:現行アルバムチャートは純セールス+シングルのDL+ストリーミングの3要素で集計されている

*3:それまでの最高位は34位

*4:GunnaはTravis Scottの”Yosemite”でもボーカルを担当しているが、feat.の表記はされていない。この曲にLil Babyはいない

*5:私が見た限りでは、です。もしどこかに出ていたら、すいません

*6:途中に何回か”Nice For What"が首位に返り咲いている

*7:2000年も含むと、Destiny's Childも入ります。ビルボードの原文では、21世紀ではなく、2000年代と2010年代の実績中では……となっているので、Destiny's Childもここで名前が挙げられている

*8:例えば、ラップリスナーが多く集うApple Musicで、ラテン系のアルバムは一定の人気がある

*9:一方、ラップはラジオを無視できるくらいの莫大なストリーミングを稼ぐことが可能なため、多数のトップ10が生まれている