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音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

”thank u, next”(シングル)関連記録まとめ 【祝・Hot 100首位】

 “thank u, next”で今週のUSシングルチャートで1位を獲得したAriana Grande。意外かもしれませんが、初のUSシングル1位なのです。この”thank u, next”でいくつかチャート上で興味深い記録を残したので、その記録をまとめてみようと思います。

 

・Hot 100(USシングル)

 

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 Ariana Grandeにとって1位デビューを達成!今までキャリア通算10曲のトップ10を記録していたAriana Grandeですが、シングル1位は獲得できずにいました。

 今年4月にリリースされたシングル、”no tears left to cry”では本気で1位を狙いに行く姿勢が伺えました。ダウンロードをできるだけ増やしてチャート順位を伸ばそうと、リリース時からいきなりiTunesで0.69$値引きを敢行しましたが、ラップ2曲(“Nice For What”、”God’s Plan”)に及ばず結局3位デビューに。その後も3位がピークのままで、シングル首位を獲得できていませんでした。

 このように、ヒット(トップ10)を連発している割に首位が取れない、のような背景からAriana GrandeにとってHot 100首位獲得は悲願でした。それを今回のシングル ”thank u, next”でついに達成することが出来たのです!

 この曲は土曜日の夜あたりにリリースされ、チャートの集計期間が金曜日~木曜日である都合上、他の曲よりも若干短かった(約2日分短い)のですが、その期間に高いストリーミング・ダウンロードを記録し、見事に1位を獲得しました。

 現在も他の曲の追随を許さない圧倒的なポイントをキープしており、もう何週かはHot 100首位に居座りそうです。ライバルは現在伸びてきている“Happier”(今週4位)、”Without Me”(今週6位)あたりでしょうか。

 

 今年の曲の中では、3番目の女性によるシングル首位獲得に。(Beyoncéも最初Ed Sheeranの“Perfect”の客演としてビルボードに登録されていたが、Ed Sheeranソロバージョンのほうの人気があると判定され、後にEd Sheeranソロ曲としてチャートに登録された)

 その2曲、つまりCamila Cabelloの“Havana”、Cardi Bの”I Like It”はいずれも客演がいるので、今回の”thank u, next”は今年初の女性「のみ」=客演無し でのシングル1位ということになります。また、“Havana”、”I Like It”はいずれも1週しか1位に立っていなかったので、来週も”thank u, next”がシングル首位をキープすれば、今年初の「女性による複数週Hot 100支配」ということにもなります。

 

 ちなみに今年は現段階で女性がメインの曲Hot 100首位が少なく……各年の女性メインの曲の累計Hot 100首位週数を見ていくと

2018:計3週 (現在46週目)

2017:計6週 (Look What You Made Me Do、Bodak Yellow)

2016:計16週 (Hello、Work、Cheap Thrills)

2015:計10週 (Blank Space、Bad Blood、Hello)

2014:計28週 (Dark Horse、Fancy、Shake It Off、All About That Bass、Blank Space)

 

 となっており、ここ2年女性で女性シンガーがHot 100首位を取ることがレアになっていることがわかります。

 また、今年は途中にラップ曲が34週でHot 100を支配し続ける一方、ポップスはわずか13週(“Perfect”が4週、”Havana”が1週、“Girls Like You”が7週、今回の”thank u, next”が1週)しかHot 100の首位を取れておらず、「女性の」「ポップス曲」で現在アメリカのシングル1位を取ることがいかに珍しいか、が分かるかと思います。

 その珍しい1位、かつ当人にとって悲願の1位だったことが重なり、かなり重要なシングル1位だと私は考えています。

 

 これ以外にも歴代32回目のHot 100首位デビュー、など様々な記録を達成しており、それらはビルボードの記事にまとめられています。

 

 

Spotifyでの記録

 この曲はSpotifyでも様々な記録を残しました。際立つのは「女性による曲で1日の再生数記録を更新」、「アメリカにおけるポップスの再生数記録を更新」、そして「史上最速でのSpotify1億再生突破」です。

 以下が世界合計、アメリカそれぞれでの1日の再生数ランキングです。(参考:https://kworb.net/spotify

 

☆世界

ピーク再生
1 XXXTENTACION - SAD! 10,415,088
2 Ed Sheeran - Shape of You 9,878,194
3 Drake - In My Feelings 9,847,333
4 Ariana Grande - thank u, next 9,606,415
5 Drake - Nonstop 9,298,297
6 Drake - Survival 8,611,591
7 Drake - God's Plan 8,553,009
8 Luis Fonsi - Despacito - Remix 8,505,463
9 Mariah Carey - All I Want for Christmas Is You 8,069,105
10 Taylor Swift - Look What You Made Me Do 7,908,492

 

アメリ

ピーク再生
1 Drake - Nonstop 5,749,019
2 Drake - Survival 5,219,711
3 Drake - Emotionless 4,842,941
4 Drake - In My Feelings 4,805,299
5 Drake - God's Plan 4,739,798
6 Drake - Elevate 4,686,139
7 Lil Wayne feat. Kendrcik Lamar - Mona Lisa 4,444,027
8 XXXTENTACION - SAD! 4,437,612
9 Travis Scott - STARGAZING 4,244,308
10 J. Cole - KOD 4,233,070
11 Lil Wayne feat. XXXTENTACION - Don't Cry 4,213,664
12 Ariana Grande - thank u, next 4,190,968
13 Drake - 8 Out Of 10 4,170,547
14 Travis Scott - SICKO MODE 4,129,691
15 Kendrick Lamar - HUMBLE. 4,060,034
16 Drake - I'm Upset 3,945,109
17 Drake - Mob Ties 3,859,100
18 Taylor Swift - Look What You Made Me Do 3,828,478
19 Drake feat. Jay-Z - Talk Up 3,823,354
20 Post Malone - Paranoid 3,694,438

 

 この表から、世界では“All I Want for Christmas Is You”が、アメリカでは”Look What You Made Me Do”が女性として最も多い1日の再生数記録を持っていましたが、”thank u, next”はこれらの再生数を超えて、記録を更新しています。*1

 また、アメリカではポップス史上最高の1日再生数を記録しています。世界合計の再生数では“Shape Of You”に及ばず、ポップスとしての再生数記録は更新できず。

 その他、週間のデータでも世界、アメリカの両方で女性としての再生数記録を更新しています。

 

 このように高い再生数を連日キープした結果、史上最速でのSpotify1億再生突破を記録したようです。(ソース:@Chartdata)

 

 

 歴代に1日の再生数が高かった曲は、①次第に浸透してだんだん再生数が伸びる(“Despacito”など) か、②リリース自体が注目を集め、アルバム単位で消費される(Drakeなど) というパターンが多く見られます。①はポップス曲に、②はラップ曲に多く見られる現象なのですが、今回のAriana Grandeの場合は、リリース自体が注目を集めた上に、その後もあまり再生数が落ちなかったので、史上最速での1億再生突破を成し遂げたのでは、と思っています。

 アルバム再生だと人気曲がバラけてしまいますが、今回の”thank u, next”はシングル単位のリリースで、再生数が曲ごとにバラけなかった、ということも理由の1つでしょうか。

 

Apple Musicでの記録

 こちらでも1位を獲得。グローバル、アメリカ、イギリスで1位に。リリース後、現在に至るまでこの3つでは1位をキープし続けています。特にアメリカのApple Musicでの1位はかなり珍しい出来事と考えています。

 現在アメリカのストリーミング環境ではヒップホップ・R&B人気がかなり高く、Apple Musicではさらにその傾向が強く表れています(ローンチ間もない時期にDrakeやFrank Oceanの独占配信があったことが理由と表れる)

 例えば今日(11/15)のApple Musicアメリカのランキングトップ100のうち、ヒップホップ・R&B「以外」の曲はわずか10曲しかランクインしていません。(thank u, next、Without Me、MIA、Happier、breathin、Taki Taki、Eastside、Shallow、God is a woman、Speechless)*2

 このようなポップスへの注目が薄い環境での1位獲得は大変意義のあるものだと思います。様々な層がアリアナに注目している、ということが伺えます。

※アプリ内のランキングを参考にしています

 

YouTubeでの記録

 リリース当初は、ビデオが無いことから、グローバル順位では9位でした。(あとはSpotifyApple Musicと違い、英語圏の比率が低いことも理由かもしれません。SpotifyApple Musicはアメリカの再生規模が一番多いですが、YouTubeはそうではないようです 参考:https://kworb.net/youtube/insights/)しかしUSでは再生数1位でした。

 その後、ビデオがリリースされ高い再生数を記録!グローバルの再生数でも1位を獲得しました。そしてUSでは1週間で5120万という、観測史上最も高い再生数を記録しました。

 

・ダウンロードでの記録

 集計期間がやや短いですが、今年9番目に多い8.8万のダウンロードを記録。年初の“Perfect”、Drakeの”God’s Plan”と“In My Feelings”がこれよりも高いダウンロードを記録していました。ダウンロードでも上々の成績を叩き出しましたが、飛び抜けて良いというわけでもないです。

 ※さっき貼ったビルボードの記事にDL数が載っています

 

・その他の記録

 アメリカ以外の主要国でのシングルチャートではどのような感じでしょうか?現在の各国のピーク順位を見ていきます。

 

イギリス:1位

オーストラリア:2位

カナダ:1位

ドイツ:25位

日本:31位

 

英語圏でのインパクトが絶大、非英語圏でも一定の成績を収めているという印象です。

 

ほか、チャート以外の面では、音楽批評メディアPitchforkもこの曲をBest New Trackにしています。Pitchforkは過去にも“Problem”、“Break Free”の2曲をBest New Track認定していました。

 

*1:今年のクリスマスにMariah CareyがAriana Grandeを抜き返すか、そこそこ注目ポイントですね。そういえばデビュー当初、Ariana Grandeはよくリトル・マライアと呼ばれていましたね → 抜き返しました

*2:ジャンル分けはビルボード準拠。ヒップホップの中にはポップ寄りの曲もある “Sunflower”など