皆様、あけましておめでとうございます!と同時にチャートも2019年に突入しました! ビルボードは元日でもしっかりとチャートを更新していて素晴らしいなー、と感じました。
とはいってもチャートの集計期間は12/21-27なので、時空はまだ昨年のクリスマス。そんなクリスマス曲たちの躍進を中心にこの週のチャートを見ていきます。
☆今週のHot 100 ショートハイライト
・クリスマス曲がさらに増加。計23曲がランクイン、“All I Want for Christmas Is You”は3位へ
・21 Savageがアルバム1位。ストリーミング(特にApple Music)での人気により9曲がHot 100入り
・アルバム2位のA Boogie wit da Hoodieも4曲がHot 100入り
・今週のトップ10
―1 Ariana Grande – thank u, next
―2 Halsey – Without Me ◎
△3 Mariah Carey – All I Want for Christmas Is You ◎
▽5 Post Malone & Swae Lee – Sunflower ◎
―6 Panic! At the Disco – High Hopes ◎
▽7 Marshmello & Bastille – Happier
△8 Bobby Helms – Jingle Bell Rock ◎
△9 Brenda Lee – Rockin’ Around the Christmas Tree ◎
△10 Burl Ives – A Holy Jolly Christmas ◎
☆=新登場 ◇=再登場 △=上昇 ▽=下降
◎ は先週と比べて曲のポイントが伸びていることを指す
1~100位までの順位表は↓
曲の個別解説
▽60 Ellie Goulding & Diplo feat. Swae Lee – Close To Me
今週まで大量のクリスマス曲がチャートに大量登場していますが、来週はもう集計期間が完全にクリスマス「後」になるので、それらの曲はほとんど外れる見込みです。
今週50位以上にはクリスマス曲が21もエントリーしており、来週はそれがほとんど外れる、つまり21もの「枠」が来週空くということになります。単純計算で51位以下の曲は来週、21程度順位を上げる見込みです。
例えば、今週60位“Close To Me”は来週一気にトップ40圏内までジャンプアップする可能性が大いにある、ということです。
☆57 A Boogie wit da Hoodie feat. 6ix9ine – Swervin
今週アルバム2位に食い込んだA Boogie wit da Hoodieの新作。セールスは6000のみながら、ストリーミングで大量にポイントを稼ぎ、「総合」売上は9万まで到達しました。
Apple Musicで人気だったこのアルバムからは4曲がHot 100に登場。6ix9ineを迎えた“Swervin”が57位で一番人気。次いでOffset、Tygaを迎えた”Startender”が65位。
▽50 Bazzi feat. Camila Cabello – Beautiful
クリスマス曲に21個もHot 100に「枠」を割く、ということは同時にその他の曲はクリスマス曲に押されて順位を落とすということになります。そして仮にそれによって、ヒット曲が51位以下に落ちると「21週目以降の曲は51位以下になると落ちる」というルール(リカレント)によってチャートから外れてしまいます。
年末にヒットするクリスマス曲は、これによって古めの曲をチャートから押し出し、そしてクリスマス曲が外れた時=年明けに新しい曲の枠を空けるという、在る種「年末の大掃除」*1のような役割を一部果たしていますが、今年はクリスマス曲がかなり多いので、まだヒットする見込みのある曲までも押し出してしまう可能性があります。
先週はこの効果で5曲が「リカレント」に押し出されましたが、今週はなし。この21週目の“Beautiful”は50位とギリギリの所で耐えました。来週以降は安全圏まで順位を戻し、もう少し長くチャートに残る見込みです。
☆47 Post Malone – Wow.
クリスマスイブ頃にリリースされたPost Maloneの新曲“Wow.” 集計が短いこと、そしてストリーミングでクリスマス曲に人気が集中していたことなどで今週は47位デビュー。
来週は集計が7日間フルで行われること、またApple MusicとSpotifyの両方で1位になるなどストリーミングで調子を上げたことから、順位が上昇する見込み。おそらくトップ10まで到達するのではないでしょうか。
☆40 Elvis Presley – Blue Christmas
今週もさらに4曲のクリスマス曲がチャートに(再)登場。合わせて23曲がHot 100にエントリーしている、ということに。
このうちFrank Sinatraの“Jingle Bells”(49位)とElvis Presleyの”Blue Christmas”(40位)はHot 100初登場。
Elvis Presleyはこれが109回目のHot 100エントリーです。Hot 100のエントリーが100回を超えているアーティストは5人います。
1 Glee Cast (207回)
2 Drake (192回)
3 Lil Wayne (161回)
4 Elvis Presley (109回)
5 Nicki Minaj (102回)
クリスマス曲関連の情報はビルボードが以下の記事でまとめています。
☆37 21 Savage – a lot
21 Savageがキャリア初のアルバム1位を獲得。総合売上13.1万のうち、DLなどの純粋な売上は1.8枚のみで、ポイントの多くをストリーミングで稼ぎました。
そのストリーミング人気を受けて、9曲がHot 100に登場。feat.などの表記はありませんが、J. Coleを迎えた”a lot”が37位で一番人気。次いでLil Baby, Gunnaを迎えた“can’t leave without it”(58位)、Post Maloneと組んだ”all my friends”(67位)が人気です。
このアルバムはApple Musicで主に人気でした。この週はストリーミングでクリスマス曲に人気が集中しましたが、Apple Musicのリスナーは他と比べてあまりクリスマス曲を聞いていませんでした。
アメリカでは12/25当日にクリスマス曲の人気が最も高まったのですが、その日Apple Musicでトップ100位内に入ったクリスマス曲は16。Spotifyでは同じトップ100位以内に73曲ものクリスマス曲が入っていたので、その差は歴然です。
他のサービスではクリスマス期はクリスマス曲一辺倒になってしまいますが、Apple Musicならばその影響が少ないので、Apple Musicで人気のタイプのアーティスト(=ラッパー)ならばあまり問題なくアルバムをリリースできます。
※このサービスや国によるクリスマス曲の人気の違いなどを細かく分析した記事を近くに書こうと考えています
▽31 Bad Bunny feat. Drake – MIA
クリスマスイブ頃にアルバムをリリースしたBad Bunny。ストリーミングで人気を得ると同時に、iTunesでも1位に立ち、週の途中リリースながらもアルバムチャート29位に食い込みました。
しかし先行シングル“MIA”はこの恩恵を受けず、Hot 100でクリスマス曲たちに押されて順位を26→31位と落としました。
△14 Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You
ここに来て「ラジオの伸び幅」が今週最大となった“Girls Like You”。その効果でHot 100ではクリスマス曲にも負けず15→14位と順位を上げました。
毎週年末の数週、振り返りのプログラムなのか、「今年ポップラジオで人気だった曲」が再浮上する傾向にあります。“Girls Like You”が今週ラジオを伸ばしたのはそのような理由に基づきます。
他にも”The Middle”、“Lights Down Low”、”Delicate”、“Perfect”、”Meant To Be”などもラジオの再生を大きく伸ばしましたが、これらの曲は既にHot 100を外れているため、チャート上では恩恵を受けることができませんでした。
昨年、このポップ系ラジオによる振り返りの恩恵を受けた“Shape of You”、”Believer”、“That’s What I Like”はチャート滞在が1年(52週)まで到達しました。”Girls Like You”もこの調子で滞在52週まで到達するような予感がします。
(昨年の今頃のHot 100:Top 100 Songs | Billboard Hot 100 Chart | Billboard)
△10 Burl Ives – A Holly Jolly Christmas
今週のHot 100集計期間は12/21-12/27(ラジオは24-30)。クリスマス「後」の期間が集計期間に入ることから、今週のチャートでは先週と比べてクリスマス曲が伸びるかどうか微妙でしたが、やはりイブや当日の影響力は絶大で、多くのクリスマス曲が順位を伸ばしました。
中でもBobby Helmsの“Jingle Bell Rock”は8位、Brenda Leeの”Rockin’ Around the Christmas Tree”は9位、Burl Ivesの“A Holly Jolly Christmas”は10位とトップ10入りを果たしています。
Bobby Helmsの”Jingle Bell Rock"は初のトップ10入りで、チャートに入ってから60年をかけてトップ10に到達する、という最長記録を更新しました。
Burl Ivesは57年ぶりのトップ10入りで、Andy Williamsが“It’s the Most Wonderful Time of the Year”で先週成し遂げたばかりの「歴代で最も長いスパンを経たトップ10返り咲き」という記録を塗り替えました。
☆ここからチャートマニアックな内容☆
今年のクリスマス曲大躍進は、現在のストリーミングの影響力の大きさを実感するとともに、Amazon Musicという今まで(チャート上では)あまり注目されていなかった指標が躍進を牽引するという「新たな現象」も起こりました。
しかし、Amazon Musicはあまりランキングが表向きになっておらず、そしてその規模も少なくとも昨年1月の時点ではSpotifyの1/25程度、Apple MusicやYouTubeの1/5程度と小さく、あまり影響力があるとも思えません。そのAmazon Musicが理由で大きくチャートが動いたので、Hot 100を毎週かなり正確に予想するSimon Falkさんは、今年のクリスマス曲に関して「理解するのが難しい」としています。
I really don't understand where all the Christmas songs are getting their points from.
— Simon Falk (@simmnfierzig) December 31, 2018
So weird....
Sure it doesn't help that we have 0 airplay information as they are all recurrent there, but wow 🙄
So glad that stuff is finally over
普段影響力があまり見られないAmazon Musicがチャートに影響を及ぼした、ということはクリスマス期間限定で何らかの、いつも無い影響が起きたということが推測できます。そしてその「影響」として最も考えられるのは先の記事でも登場するアレクサです。
このアレクサによって、クリスマス曲が普段音楽を聴かないような層にもリーチし、一気に再生数が増加したのではないか?と考えたのです。
そして「アレクサによる再生」の評価方法も少し考える必要があるかもしれません。現在ビルボードは、ストリーミングを有料会員による再生を1、無料会員(広告付き再生)を2/3、そしてプログラムされたラジオによる再生を1/2としてカウントしています。
Amazon Musicは有料会員による再生に当てはまるので、アレクサによる再生は1としてカウントされるのですが、私は「アレクサによる再生」は性質が「プログラムされたラジオ」に近いのでは?と考えたのです。
人々がどのようにAmazon Echoに向かって曲をオーダーしているのかは正確には分かりませんが、スマートスピーカーの性質を活かすならば、「アレクサ、クリスマス曲をかけて」のように抽象的なオーダーをかけるのではないでしょうか。
この抽象的なオーダーはジャンルを選んでから曲がラジオ形式で再生されるPandora(このサービスは1/2でカウントされている)と構造が同じです。どちらも、曲の「特徴」だけを指定し、選曲はAIにゆだねています。
このことから、「アレクサによる再生」のカウントは1/2が妥当と考えたのです。
しかし、実際にはAmazon Music内で普通の再生と「アレクサによる再生」を判別することが難しいこと、クリスマス以外はあまり影響を及ぼさないこと、またクリスマス期間は約1ヶ月と短く、期間の上でも影響力が小さいことから、あまり重要な項目では無いので、この「アレクサによる再生」が議論される可能性は低いと思います。
(参考:Billboard Charts to Adjust Streaming Weighting in 2018 | Billboard とBillboard Finalizes Changes to How Streams Are Weighted for Billboard Hot 100 & Billboard 200 | Billboard)
△3 Mariah Carey – All I Want for Christmas Is You
クリスマス曲の最強格、“All I Want for Christmas Is You”が大躍進。今までのピーク9位を更新し、今週3位まで到達しました。
これはMariah Careyにとっても久々の上位入りで、ここまで彼女が高順位を記録したのは2008年の“Touch My Body”=1位以来です。この曲以外での直近のトップ10は2009年の”Obsessed”です。
元々はルールによってHot 100に入れない「不運なヒット曲」でしたが、リリースから24年が経過したいま、眩いばかりの光を放っています。
―2 Halsey – Without Me
ラジオ、ダウンロード、ストリーミングと全ての指標でバランスよく高ポイントを叩き出す2位の“Without Me”。ラジオなどで少しずつポイントを伸ばしており、ややストリーミングが落ちてきた”thank u, next”から首位の座を奪う可能性もあります。
▽× Lil Baby – Pure Cocaine
「リカレントルール」によってチャートから外れた曲は、しばらく期間を置いて再ヒットする場合、もしくは外れた後に急激に数字を伸ばす以外でチャートに戻ることはないので、リカレントルールで外れた場合は、その曲のチャート「人生」を終えたことを意味します。
しかしそうでなければ再登場は容易です。来週はクリスマス曲の枠23が多く空くので、今週チャートから外れた曲が多く再登場するでしょう。(今週はリカレントした曲が0)
Apple Musicでアンセムの地位を確立した先週70位だったLil Babyの“Pure Cocaine”は再びチャートに戻ってくるでしょう。
▽× Paul McCartney (&Wings) – Wonderful Christmas Time
先週チャートに入っていたクリスマス曲は20。そして今週4曲が登場。それなのに合わせて23曲なのはなぜ?かというと1つクリスマス曲が外れたからです。
そんな不運な1曲はPaul McCartneyによるクリスマス曲でした。先週47位だったので、他のクリスマス曲に押し出されてしまったのかもしれません。クリスマス曲同士による「共食い」のようなものです。
今週チャートから外れた曲 (17曲)
【左の数字は先週の順位、右(ピーク順位🗻/チャート滞在週数⏰)】
100 6ix9ine feat. Nicki Minaj & Kanye West – MAMA (🗻43位 /⏰4週)
99 Ski Mask the Slump God feat. Juice WRLD – Nuketown (🗻63位 /⏰3週)
98 Meek Mill feat. Fabolous & Anuel AA – Uptown Bives (🗻39位 /⏰3週)
97 Meek Mill feat. Ella Mai - 24/7 (🗻54位 /⏰3週)
95 Chris Stapleton - Millionaire (🗻95位 /⏰3週)
94 Nicki Minaj feat. Lil Wayne - Good Form (🗻60位 /⏰3週)
93 Silk City & Dua Lipa – Electricity (🗻93位 /⏰6週)
92 Travis Scott – YOSEMITE (🗻25位 /⏰10週)
88 Kodak Black feat. Lil Pump – Gnarly (🗻88位 /⏰1週)
86 Lil Baby – Close Friends (🗻28位 /⏰11週)
85 Lil’ Duval feat. Snoop Dogg & Ball Greezy - Smile (🗻56位 /⏰17週)
79 XXXTENTACION – whoa (mind in awe) (🗻37位 /⏰2週)
76 6ix9ine feat. Tory Lanez – KIKA (🗻44位 /⏰4週)
74 Kodak Black – Testimony (🗻74位 /⏰1週)
70 Lil Baby – Pure Cocaine (🗻46位 /⏰3週)
58 Kodak Black feat. Juice WRLD – MoshPit (🗻58位 /⏰1週)
47 Paul McCartney & Wings – Wonderful Christmas Time (🗻47位 /⏰1週)
・アルバムチャート(Billboard 200)に新登場した作品
1 21 Savage – i am > i was
2 A Boogie wit da Hoodie – Hoodie SZN
15 YoungBoy Never Broke Again - Realer
29 Bad Bunny – X 100PRE
107 The Beach Boys – The Beach Boys’ Christmas
158 Ray Conniff And The Ray Conniff Singers – We Wish You A Merry Christmas
167 Andy Williams – 40 Christmas Classics
174 Ella Fitzgerald & Louis Armstrong
179 Berlin Philharmonic / Mstislav Rostropovich – Tchaikovsky: Nutcracker Suite: The Works
191 Upchurch – River Rat
194 Otis Redding – Pure Southern Soul: Otis Redding
195 Stevie Wonder – The Best Of Stevie Wonder: 20th Century Masters The Christmas Collection
その他
・今週ラジオ再生が伸びた曲
・Zedd, Maren Morris & Grey – The Middle
・Max feat. Gnash – Lights Down Low
・Taylor Swift – Delicate
・Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You
・Ed Sheeran – Perfect
・来週以降Hot 100に入るかもしれない?曲
・YNM Melly – Murder On My Mind
・Billie Eilish – idontwannabeyouanymore
・Lukas Graham – Love Someone
・Zara Larsson – Ruin My Life
来週クリスマス曲が空けた「枠」に入ってきそうなBubbling Under(101位~125位)での上位曲たちです。
・ビルボードによる今週のHot 100 / アルバムチャート解説(記事を書くうえで参考にしています)
*1:“Girls Like You”の項目で言及するポップ系ラジオの今年の振り返りによって、多くの古いラジオ人気がこの時期再浮上し、それらが年明けもチャートで上位を占める可能性があるので、それを防ぐ意義は深いと考えています