チャート・マニア・ラボ

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Hot 100の新リカレント・ルールとは?【それと自分の考察】

 

 2016年間チャート集計の最初の週の12/5のチャートがリリースされたタイミングで、Hot 100のルール変更のニュースが飛び込んできました。

 記事は主にAdeleやJustin Bieberの記録について書かれています。最後のほうにひっそりとルール変更について書かれています。

 

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 新しく適用されるのは以下のルールです。

53週目以降の曲が26位以下になるとチャートから除外されます(ただし上昇中の曲は除く)

 

 リカレント・ルールとは、簡単に言えば、チャートのリフレッシュのために下位にいる古い曲を消すためのルールです。(基本的なリカレント・ルールは21週目以降・51位以下を外すというルール)

 

 というルールなのですが、個人的にはこのルールにはやや疑問を感じております。

 では、ビルボードはなぜこのルールを適用したのでしょうか。それについての考察を行っていきます。

 

メリット

【メリット1】 チャートのリフレッシュ強化

 これは単純明快です。このリカレント・ルールは古い曲をチャートから消して新しい曲を入りやすくするために使われているので、そのためです。この新ルールによって古い曲はチャートに粘るのが厳しくなるのでこれで新しい曲もチャートに入りやすくなるでしょう。

 

【メリット2】 歴代チャートや年間チャートでのポイントのインフレの阻止

 まず、みなさんに知ってもらいたいのはチャートから外れている期間のチャートのポイントは年間チャートなどの計算に含まれないということです。つまり逆に、長くチャートに入っていれば、その分短くチャート滞在だった曲より大きくアドバンテージをとることが可能ということです。

 そのため、53週を超えるようなロングヒットとなれば2年連続での年間チャートに入るような事が容易になるのです。実際、2012年にリリースされたImagine DragonsのRadioactiveが2013年で年間3位というかなりの高順位を記録した後、87週チャート入りという驚異的な粘りが活きて2014年も年間57位に入ったのは記録に新しいでしょう。

 しかしこのルールが適用されれば、古い曲が粘ってポイントを伸ばすのを避けることが出来、年間チャートに去年や一昨年の曲が多く入れずにすむようになるでしょう。

 

また、同様のことが歴代チャートでも言えます。

f:id:djk2:20151125235325p:plain このように、60週を超えるようなヒットは比較的最近の曲が多いです。つまり最近のほうが曲の場持ちが良いといえます。つまり最近のヒット曲は、その長さの恩恵を受けてピークの勢い以上に歴代チャートで良い成績を残せる傾向にあるのです。

 実際、上の表にある、How Do I Live、Party Rock Anthemは歴代チャートでそれぞれ4位、5位という成績を残していますがそれぞれ最高位が2位×4週、1位×6週と上位に来る曲の中ではピークの勢いに欠けています。

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※1位のThe Twistも最高位が1位×3週間ですが、これは2回にわたって1位になる(1960年と1962年)というかなり特殊な例なので別物として扱っています。

 

 このルールはそのような曲がピーク時の勢いにふさわしい順位に行くような効果が期待できます。

 

デメリット

【デメリット1】ロングヒット記録などの古い曲のチャート目標がなくなる

 メリットのところでも画像をあげましたが、現在のチャート滞在最長記録は87週のRadioactiveです。この87週という記録は驚異的であると言え、仮に今回の新リカレント・ルールが適用されていなくともなかなか破られない記録だと考えられています。

 しかし、1位に到達せずとも、歴代何曲目の◯◯週以上達成!という記録を狙いにいけるようになります。チャートに残りさえしていれば、古めの曲でもそのような記録を目指してのプロモーションが有効になると考えています。また、そのような記録に近づくことによって再び注目を集めることも可能だと考えています。

 例えば「◯◯がチャート何週目を迎えた!歴代◯◯位」という形でニュースになることもなくなる。

 つまり、この「目標がなくなる」ことによるデメリットは、曲が長持ちしづらくなることです。

 そして、チャート好きとして新しい記録が生まれる楽しみがなくなるという点も地味に重要ですね💦

 

【デメリット2】 53週を超えた曲の再びチャートインが高い確率で阻まれる

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 このように、Hot 100において数年前のヒット曲がチャートに再登場する場合があります。これは何らかの形で曲が注目され、ダウンロードを大きく稼いでチャートに再登場しているということです。

 しかし、ヒット時に53週以上チャートに滞在していた曲は25位以上でないとチャートに復帰できないため、かなりハードルが高くなってしまいます。

 これにより、ロングヒットだった曲の再注目の可能性が下がるということがいえます。

 

※と、考えていたのですが、既に53週以上チャート入りしていた"Wake Me Up"が2018年、Aviciiの追悼という形で34位で復帰。 もしかしたらこのルールは久々に再登場した曲には適用されないのかもしれません??? 

 このような事例が今後も続けば、このデメリット2は杞憂ということになります。

↓その週のHot 100について

 

【デメリット3】 そもそもこのルールに当てはまる曲数・期間がそこまで長くない。

この新リカレント・ルール対象の53週超えを2015年に果たしたのは以下の曲です

 

•    58weeks – Ed Sheeran ― “Thinking Out Loud (2015)”

•    55 weeks - Mark Ronson featuring Bruno Mars — "Uptown Funk !" (2015)

•    54 weeks – Sam Smith ― “Stay With Me (2015)

•    53 weeks - WALK THE MOON — "Shut Up And Dance" (2015)

 わずかこの4曲のみです。しかも、期間も対象となる期間(=53週以上の週)1週・2週・3週・6週とわりと短いです。

 たしかに2014年はその対象の曲も多く期間が長かったですが、(以下記事を参照)

 しかし、直近である2015年にはそのような曲がそこまで出なかったのに、なぜ「今」そのようなルールをつけたのかは疑問です。

 

【デメリット4】 もしかしたらピーク前の曲がチャートから外れる……?

 これはあまり可能性として考えられませんが、53週目以降に26位以下になるような曲がピークをまだ迎えていない状態でチャートから一旦姿を消し、後に復活してピークを迎えるという不自然なチャートアクションをとる可能性も0ではありません。

 しかし53週目以降にピークを迎える曲はほぼ考えられませんが。

 

ちなみに、超ロングヒットでおなじみのAwolnationのSailは

9/14 (52週目) 27位

9/21 (53週目) 24位

9/28 (54週目) 22位

10/5 (55週目) 20位

10/12 (56週目) 17位 ←ピーク

と実は見事に新リカレント・ルールの壁をうまくすり抜けていたりします。

 

実はこの問題は今までのリカレント・ルールでも起こっていて、Imagine DragonsのDemonsが

7/31 (18週目) 59位

8/6 (19週目) 68位

8/13 (20週目) 63位

8/20 ~ 9/21 チャート外

9/28 (21週目) 46位で再登場

それ以降ヒット…

 

 となっていて、なんと途中にチャートから外れている期間がありました。

 このように、デメリット4に関しては既存のリカレント・ルールでもあるのであまり気にならないかもしれませんね。

 

 

 【まとめ】

 みなさま新リカレント・ルールを分かって頂けたでしょうか。

 

 Hot 100は時代に合わせて変化しています。自分はやや懐疑的ですが、だからといって新リカレント・ルールが変更されるわけではありませんし。

 それにこのルールが出来てもHot 100を観察するのが楽しいことには変わりはありませんし!

 では、みなさんこの新ルールを頭に入れつつ、これからもHot 100を楽しんでください!

 

 

※後日追記

 自分でこの記事をいま (2018年6月)見返すと、当時と「チャート観」みたいなものが随分変わったなぁ……と感じます。 現在の考えとしては、このルールには60%賛成、40%反対といったところですね…… 当時よりもやたらとロングヒットする曲も増えたため、この時期にこのルールを適用したビルボードには先見の明があったなと感じます。 

 

 

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