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Zara Larsson “So Good” レビュー/感想 【将来のポップ・クイーン?】

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ポップス系のアルバムのレビューが日本語、英語問わず数が少なめと感じたので今年は少しずつアルバムレビューにも挑戦します。今回は昨年からアルバムリリースが楽しみだったZara Larssonです。

パワフルな声。「世界で最も美しい顔」ランキングにも入選するような端麗な容姿。そして物怖じせずに自らの意志を表す度胸。そんな印象深いキャラクターを持つ彼女は、国際的デビューアルバム(※)を持ってその存在感をさらに発揮することができたのでしょうか。

 

※2014年にもアルバムをリリースしていますが、ヒットしたのが北欧圏のみだったためか今回のアルバムは複数メディアで「国際的デビューアルバム」とされていて、当記事でもそう扱います。

 ではレビューいきます。

 

★ 既発曲を中心にシングル単体は良い感じ。外れが少ない。

Never Forget You、Lush Life、Ain’t My Fault、I Would Like、So Good……既発曲は多めの5曲です。アメリカではNever Forget Youしかヒットしませんでしたが、ヨーロッパ等では他も外れずヒットし既に成功を収めた曲たちです。客演も含めて、昨年は多くのヒットを記録していて例えばオーストラリアでは2番目に多くの曲を年間チャートに送り込んだアーティスト、となりました。

(参考:各国で2016年間チャートに多くの曲を送り込んだアーティストランキング↓)

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↑の表の詳しいデータはこちら

 

これらの曲はシングルとだけあって、どれも個性を持った綺羅びやかなポップ曲だと思います。特筆すべきはLush Life、Ain’t My Faultでしょうか。

Lush Lifeは実はトロピカルハウスをポップスに取り入れた例の元祖とも言える曲で(What Do You Mean、Shape of Youなどより前にリリース)、イギリスでは週間のチャートピークが3位ながらも年間6位に食い込むなどロングヒットとなっていて、そのロングヒットっぷりを含めて近年のポップスのお手本とも言えるような曲。

そしてAin’t My Faultはそれまでとは少し作風の違うアップテンポなR&B風の曲。この曲を期に彼女をリアーナになぞらえる声が多く上がり、そしてこの曲のリリースと共に「ネクスト・ポップクイーン」に推す機運が高まったように思います。

 

注目トラックは既発曲だけではありません。他にはSymphony、Only Youに注目しました。

Symphonyは、2014年のRather Be以降世界的ヒットを続けるグループClean Banditと組んだ一曲。アルバムリリースと共にシングル化され、イギリスでは現在3位(4/9時点)など早速ヒットとなっている。昨年に引き続きZaraのメインストリームでの成功を予感させる一曲です。

そしてOnly You。アルバム全体で見ると明るい曲が多めですが、やや暗めな曲調。しかし、その哀愁的なメロディラインとパワフルな歌声の融合が良い感じです。彼女の母国スウェーデンでは既発曲以外では1番人気のようです。ちなみに曲のテーマは”これ”とも言われています(Love Myself~Touch Myselfあたりの歌詞が)

その他の曲も「ただでは終わらない感」があってどれも個性豊かな曲で露骨に外れ曲のように思う曲はありませんでした。

 

★ アルバム全体としては……?

しかし、アルバム単位でどう?と言われると微妙なのがこのアルバム……

何が微妙なのかと言うと、シングル志向が強くてアルバムの曲順、アルバム単位で聞かなくてもOKということ。DrakeのMore Lifeではありませんが、アルバムよりもプレイリスト、のような感覚でしょうか。上でも述べたように、5曲の毛色の違う既発曲*1をアルバムに収録しています。アルバム全体の統一感を出すために先行リリースシングルと見られていた曲をアルバムから切る(またはボートラにする)ということはよく見られますが、このアルバムでは先行シングルを全てアルバムに採用しました。この5曲を一つのアルバムにまとめ上げるのも既に難しそうですが、さらにこれに加えWizkidを迎えた流行のダンスホール風ポップ、今年も÷が大ヒットとなったEd Sheeranをソングライターに迎えたDon’t Let Me Be Yoursなども収録したため、どれも悪い曲ではないですが、もうなんか「お腹いっぱい」な感じがします。そうすると、どうしてもアルバムとしての統一感はイマイチのように感じてしまいました。トレンドを貪欲に吸い上げよう!という意図は読み取れるのですが、流行に乗っかりすぎかなぁ、とも思いました。Gurdianのレビューにも

It just about works in 2017, but at a time when pop continually looks to the future, So Good is in danger of dating quickly.

とありました。

他にも、シングル志向の強さが読み取れるファクターがあって、それはアルバムリリースとともにシングル化されたのがSymphonyということ。このSymphonyの表記はClean Bandit ft. Zara Larsson。曲の内容もZaraの曲というよりは本当にClean Bandit中のClean Banditの曲。このSymphony、アルバムのラストの曲なのですが、その1個前のI Can’t Fall in Love Without Youで終わりでも良いような雰囲気が出ていて、アルバムの全体構成を考えると立ち位置はボートラみたいな感じです。しかし客演での曲がいきなりシングル化され、アルバムの勝負曲のような役目になっているところをみると、やはりアルバムではなくシングル志向の強さが感じられました。

 

別に、どの時代でも統一感に欠けていてシングル勝負をしているポップス系アルバムはあると思うのです。ストリーミングサービスと共に盛んになっているプレイリストの隆盛によって、アルバムにおけるシングルの立ち位置なんて気にしない人も増えているかもしれない現代なら尚更な気もします。Zaraのリスナー層を考えると、悪くない判断だと思います。元からZara Larssonを聴いていた人はこれからも彼女に期待が持てる(自分もそうです)と思いますが、それ以上にはならない「現状維持」といったところですかね……

私は今回のアルバムでは「Zara Larssonはこういう人間だ!」「私のスタイルはこう!」「ネクスト○○を狙っているよ!」というメッセージ性にも期待をしていたので、そのようなメッセージは伝わってきづらかったです。

 

★ チャート成績は……?

トレンドを貪欲に吸い上げたアルバムなので、売れてこそのアルバムとも考えられるアルバムですが、各国アルバムチャートでイギリス7位、アメリカ26位など。母国スウェーデンでは1位。

単純な比較にはなりませんが、同じくスウェーデン出身、かつシングルでブレイク後に初アルバムをリリースしたAviciiはイギリス2位、アメリカ5位だったので、少しチャート成績

的には不足感があるかもしれません。

 

ただ、上で述べたようにシングルのSymphonyがヒットの兆しを見せており今年も彼女はメインストリームで存在感を発揮してくれそうです!

後半ではネガティブめな評価をしてしまいましたが、それでも彼女がポップス界で有望な存在であるという事実は変わりませんし、今後も要注目な存在ではあると思います!

 

★ まとめ

既発曲を中心にシングル単体は良い感じ。外れが少ない。

アルバム全体のメッセージ性にはやや欠ける

“現状維持”アルバムですが、Zara Larssonがポップス界期待の存在であることには変わらない

 

※5/19 追記

最近Zara Larsoonのインタビューを見て、一部引用して、このレビューの補足としたいと思います。

http://www.tvgroove.com/special/article/ctg/385/tid/1334.html

 

――5月3日に「ソー・グッド(国内盤)」をリリースされましたが、こちらはどんな作品になっていますか?

私がとても誇りに思っているアルバムだから、みんなが聴いてくれるのを楽しみにしているわ。アルバム収録曲の1曲1曲すべてが大好きなの。そしてアルバム制作というのは私にとってとてもすばらしい経験となったわ。収録されている半分の曲を作ったから。アメイジングな人たちと一緒に仕事ができたわ。あとこのアルバムは色んなもののミックスになっているの。「ソー・グッド」みたいなR&Bっぽさもあれば、EDM、ハウス、アフリカンなサウンド、バラードなどすばらしいミックスになっているの。色んなサウンドがつまっているから、みんなに1つでも気に入ってもらえる曲があると思う。

・「半分の曲を作った」

ポップシンガーには大まかに2種類あると私は考えていて、それはソングライトを多く行う人と、主に他に委託する人。彼女は曲の半分を作った=書いたと言っているので、どちらかというと委託メインだったのですね。今後もこのスタイルで行くか、自分でソングライトする比率が高くなるのか注目です。個人的には彼女のキャラ立ちが好きなので、彼女主導のアルバムを見てみたい気もしますがね…!

 

「このアルバムは色んなもののミックスになっているの(中略)みんなに1つでも気に入ってもらえる曲があると思う」

ここが自分のレビューと重なった部分。自分のレビューでもアルバム単位よりもシングルひとつひとつで勝負している印象がある、と言いましたが、それは本人も考えていたことだったのですね。色んなタイプの曲を作って、まずは手探りということなのでしょうかね。

 


――今後コラボしたいアーティストはいますか?

ニッキー・ミナージュ。彼女のこと大好きなの。ブライソン・ティラー、アリソン・パックとコラボしたらとってもクールね。チャーリーXCXも。男性アーティストたちとはたくさんコラボしてきたから、セカンドアルバムではもっと女性アーティストとコラボしたいと思う!

 

――iPhoneケースにもビヨンセ、リアーナ、ニッキー・ミナージュのシールが貼られていますが、これはオリジナルで作ったのでしょうか?

イエース(笑)!あれはステッカーでただ張りつけたの!あれはホログラムで、動くと瞬くようになっているの。どこで見つけたか忘れちゃったけど、雑誌社かどこかで、ステッカーがたくさんあったの。それを見つけた時はもう…(笑)。大興奮でたくさんもらっていったわ(笑)。それで色んなところに貼ったの!

www.instagram.com

 次に、コラボしたいアーティストについて。

まず、Nicki Minaj。彼女のキャラ立ちからは「強い女性」への憧れが見られます。iPhoneケースに貼った3人は彼女にとってその象徴なのでしょう。この中で客演仕事が多いNicki Minajがコラボできるかも!?と思って名前を挙げたのでしょうか。

Bryson Tillerとは意外なところを挙げたなと思いました。アメリカではDon't、とExchangeがトップ40ヒットを飛ばし知名度を挙げた彼ですが、客演歴はそこまで多くなく、客演でHot 100入りした曲は今までなしなので、「コラボ相手」として名前を挙げるのは意外だな、と。相当お気に入りなのですかね!北欧の歌手Zara Larssonが、アメリカ人のラッパーの新たな一面を開くという展開もなかなか面白そうです。

最後にCharli XCXZara Larssonがこの界隈と絡むようになったら本当に面白そう!↓にリンクのあるCharliのレビューでも言いましたが、Charliは幅広い面子と絡んで様々な試みを行っていて、仮に当人同士がコラボせずとも、関わりを持てばZaraの次のアルバムに面白い影響がもたらされると思います。ちなみに、両思いみたいですね、↓

 

・あと申し訳ないのですが、「アリソン・パック」さんの情報に辿り着くことができなかったので、詳しい方がいらっしゃたら教えて下さいませ……

(知識不足申し訳ない……) もしかして「アンダーソン・パーク」の聞き間違い…!?

 

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*1:Never Forget YouとAin’t My Faultは同じMNEKプロデュースなのでその2曲は雰囲気が近いですが