チャート・マニア・ラボ

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謎に包まれたチャートDance / Club Songs とは? 【Katy Perryが強い?】

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今週、Katy PerryのChained to the RhythmがDance / Club Songsチャートで1位を獲得しました。17曲目の快挙。かつ17曲連続での1位。

 え?17曲?

よく考えると多すぎると思いませんか?Katy Perryの曲で客演を含めてシングル化されたのは23曲。つまり7割以上のシングルが1位を取っているか、または非シングルも1位を取っている、ということになります。しかもDanceと銘打ったチャートでなぜそんなDJでもないKaty Perryの曲が1位を連発しているのか。謎はますます深まるばかりです。

今回はそんな謎に包まれたチャート、Dance / Club Songsについて書いていきます。

 

・Dance / Club チャートとは?

www.billboard.com

ビルボードの説明にはこうあります。

 

“This week's most popular songs played in dance clubs, compiled from reports from a national sample of club DJs.”

今週最もクラブでかけられた曲を、クラブDJのレポートからサンプルして集めている。

 

その名の通り、クラブでどういう曲がかかっているかを集計しているチャートなのです。名前を変えつつ、1974年から存在しているチャートのようで、現存するDance系チャートでは最古のチャートです。

チャートとしてはややマイナーで、今年に入ってからBillboard公式Twitterが言及した回数は12回で、週あたり1回を下回っています。チャートマニアでもあまりチェックしないチャートなのでは、と個人的に思っています。

 

・”Katy Perry” “17”曲 1位の謎に迫る

ではこのチャートの謎に迫っていきます。なぜKaty Perryがこのチャートで強いのか。そしてなぜ17曲も1位を取っているのか。

近年のチャートの傾向を見てみましょう。以下が2016年以降にこのチャートで1位を取った曲です。

太字は注目ポイントです。

 

2016年

   

1月2日

Lucas Nord featuring Tove Lo

"Run On Love"

1月9日

Justin Bieber

"Sorry"

1月16日

Dimitri Vegas & Like Mike featuring Ne-Yo

"Higher Place"

1月23日

Lady Gaga

"Til It Happens to You"

1月30日

Robin S. and DJ Escape

"Shout It Out Loud"

2月6日

Disclosure featuring Lorde

"Magnets"

2月13日

Freischwimmer

"California Dreamin'"

2月20日

Mylène Farmer and Sting

"Stolen Car"

2月27日

Nathan Sykes featuring Ariana Grande

"Over and Over Again"

3月5日

99 Souls featuring Destiny's Child and Brandy

"The Girl Is Mine"

3月12日

Dave Audé featuring Andy Bell

"True Original"

3月19日

Coldplay

"Adventure of a Lifetime"

3月26日

Adele

"When We Were Young"

4月2日

Shawn Hook

"Sound of Your Heart"

4月9日

Jonas Blue featuring Dakota

"Fast Car"

4月16日

Troye Sivan

"Youth"

4月23日

Rihanna featuring Drake

"Work"

4月30日

Pet Shop Boys

"The Pop Kids"

5月7日

StoneBridge featuring Elsa Li Jones

"If You Like It"

5月14日

Empire of the Sun

"Walking on a Dream"

5月21日

WTS featuring Gia

"One Night"

5月28日

Sheila Gordhan

"Smile"

6月4日

Tony Moran featuring Jason Walker

"So Happy"

6月11日

Dillon Francis and Kygo featuring James Hersey

"Coming Over"

6月18日

Xenia Ghali

"Under These Lights"

6月25日

Sia featuring Sean Paul

"Cheap Thrills"

7月2日

Alex Newell, Jess Glynne and DJ Cassidy with Nile Rodgers

"Kill the Lights"

7月9日

Calvin Harris featuring Rihanna

"This Is What You Came For

7月16日

7月23日

Justin Timberlake

"Can't Stop the Feeling!"

7月30日

Rosabel featuring Jeanie Tracy

"Livin' for Your Love (Your Love)"

8月6日

Rihanna

"Kiss It Better"

8月13日

Erika Jayne

"How Many Fucks"

8月20日

Rihanna

"Needed Me"

8月27日

Joe Bermudez featuring Louise Carver

"Sunrise"

9月3日

Zayn

"Like I Would"

9月10日

JX Riders featuring Skylar Stecker

"Sweet Dreams"

9月17日

Enrique Iglesias featuring Wisin

"Duele el Corazón"

9月24日

Major Lazer featuring Justin Bieber and MØ

"Cold Water"

10月1日

Disclosure

"Boss"

10月8日

Britney Spears featuring G-Eazy

"Make Me..."

10月15日

Alicia Keys

"In Common"

10月22日

Katy Perry

"Rise"

10月29日

StoneBridge featuring Therese

"Put 'Em High (2016)"

11月5日

Betty Who

"I Love You Always Forever"

11月12日

Christina Aguilera featuring Nile Rodgers

"Telepathy"

11月19日

Jonas Blue featuring JP Cooper

"Perfect Strangers"

11月26日

Crystal Waters featuring Sted-E and Hybrid Heights

"Believe"

12月3日

Nervo featuring The Child of Lov

"People Grinnin'"

12月10日

Martin Garrix and Bebe Rexha

"In the Name of Love"

12月17日

Tony Moran featuring Jason Walker

"Say Yes"

12月24日

R3hab

"Icarus"

12月31日

Ralphi Rosario featuring Aneeta Beat

"Button Pusha"

     
     

2017年

   

1月7日

Lodato featuring Joseph Duveen

"Older"

1月14日

Dua Lipa

"Blow Your Mind (Mwah)"

1月21日

Rihanna

"Love on the Brain"

1月28日

Ono

"Hell in Paradise 2016"

2月4日

Vassy

"Nothing to Lose"

2月11日

Sia

"Move Your Body"

2月18日

J Sutta

"Distortion"

2月25日

Luciana and Dave Audé

"Yeah Yeah 2017"

3月4日

LeAnn Rimes

"Long Live Love"

3月11日

Britney Spears featuring Tinashe

"Slumber Party"

3月18日

Ed Sheeran

"Shape of You"

3月25日

4月1日

Bebe Rexha

"I Got You"

4月8日

Rihanna

"Sex with Me"

4月15日

Tony Moran and Dani Toro featuring Zhana Roiya

"Lick Me Up"

4月22日

Katy Perry featuring Skip Marley

"Chained to the Rhythm"

 

 

まず、この表をパッと見て曲数が多すぎる!と思いませんか?

そうです、このチャートはなぜかほとんど毎週1位が入れ替わるのです。2週以上連続で1位をキープする曲は年に1回出るか出ないか程度です。上の表ではThis Is What You Came For、Shape of You以外は全て1週で1位から陥落しています。この1位がほぼ毎週入れ替わる=1位になれる曲が多いチャートアクションKaty Perry17曲1位を生み出す要因なのです。他のチャートと比較すると、2016年にHot 100で1位になったのは11曲。そしてこのDance / Clubチャートでは51曲。年に約5倍の1位曲が誕生しているのです。

 

たしかに、このペースで1位が出るなら17曲もありえるかもしれないです。しかし、なぜDance / ClubチャートにKaty Perry?明るいポップ系が多く踊りやすいかも、とはいえDance系のチャートにKaty Perryは違和感がある気が……。表の曲をもう一回見てみましょう。

 

Katy PerryだけではなくSia、RihannaBritney Spearsなどの女性シンガーが複数エントリー。このチャートはDanceとは銘打っていますが、女性シンガーが強めなチャートといえそうです。実際、このチャートで多くの1位を記録したアーティストの上位5名は全員女性シンガーなのです。(1位Madonna、2位Rihanna、3位Beyoncé、4位Janet Jackson、5位Mariah CareyKaty Perry

また女性シンガーだけでなく、このチャートで結果を残していているDJたちもいて、昨年唯一の2週連続1位を記録していたCalvin HarrisのThis Is What You Came Forは年間1位を記録しています。他にも表にはDisclosure、Jonas BlueなどのDJ/プロデューサーもあります。しかし案外DJが全員強いわけではなく、The Chainsmokers、DJ Snakeはまだ1回も1位を取っていません。

じゃあ、女性シンガー最強チャート?とも言い切れず、Taylor Swift、Meghan Trainor辺りはまだ1位を取っていません。

このチャートでは○○のジャンルが強い!というは無く、様々なジャンルが入れ混ざった多種多様なラインナップになっています。共通点をあえて言うならば、少しメロディアスな曲が多いでしょうか。

 

・どうしてこんなチャートになっている?

しかし、なぜこのような掴みどころのないチャートになっているのでしょうか。クラブで1番かかる曲がキレイに1週ごとに交代するのはなんだか少し不気味さも感じます。DJたちはトレンドに敏感で流行は逃さないということでしょうか。別の似た系統のチャートと比較してみましょう。

今回比較するのは1001 TracklistというDJセットリストを掲載するサイトのランキングです。

www.1001tracklists.com

このチャートを見ると、キレイに1週ごとに交代するということもなく、またランクインしている曲もほとんどDJ/プロデューサーたちの曲で、こちらの方が「DJのかける曲」を表すチャートと言われてしっくり来る気もします。このデータからは別に多くのDJは1週間ごとに曲を変えるという行動をするわけではないことがわかります。

 

1週間で1位がキレイに交代していくとはこのDance / Clubチャート特有のものだと分かります。では、なぜこのように1位が毎週交代していくのかを推測してみます。

もう1回このチャートの説明を振り返ります。

 

“This week's most popular songs played in dance clubs, compiled from reports from a national sample of club DJs.”

今週最もクラブでかけられた曲を、クラブDJのレポートからサンプルして集めている。

 

この文面のDance Clubs、Reportsという点に注目します。

 

① Dance Clubsとは……?

Dance / Clubsがどういう場所が案外変な場所なのかも……?DJがノれる曲をかけて客を躍らせるというイメージが私の中にありますが、UltraなどのDJとはかなり違った環境なのかもしれません。私自身アメリカに行ったことがないので、アメリカの多くのクラブでは本当にこのチャートを意識してDJが曲をかけている可能性がある……?

まあ、①は妄想みたいなもんです………

 

② Reports……?

個人的な本題はこちらです。Reportsというに注目です。レポートとは文字通りレポートでしょう。DJが自分のかけた曲を報告する、というスタイルを取っているのでしょう。ただ実はこの点、他のチャートと比べると異質なのです。

現存するチャートの多くはニールセンという調査会社が収集したデータをもとに作成されています。ストリーミングは各サービスからデータを収集している、と説明されています。他のチャートができるだけ科学的にデータを集めるアプローチをするなか、このDance / Clubは人のレポートという地道で素朴な作戦に出ているのです。その点で異質なのです。

 

実はこのレポートでチャートを作るという文化、昔はHot 100でも行われていたようで、昔はCDショップからのレポートを元にチャートを作っていたようです。しかしCDショッピが売り上げをそのまま正確に報告しない可能性もあり、人気を正確に反映していない、とされて1990年代初頭に調査方法を変えたようです。調査方法を変更してからNWAのアルバムが2位と躍進しましたが、NWAの関係者によると「前からそんぐらい売れてたわ!」ということらしく*1、どうなのでしょうかね。

 

つまり何が言いたいかというと、このチャートの調査法によって毎週1位が交代するという現象が発生している可能性があるということです。他にも、一部からサンプルして全体を推測する?という方法もこれの一因かもしれませんね。

自分が感じた違和感に対して、自分はこう考えました。

 

・まとめ

このチャートを深く見ると、これが何のシーンを表しているかは正直によく分からないと思いました。ほかのチャートと比べてローカルなチャートだと思われます。ゆえにチャートの中で重要度は高くないということは言えると思います。

 

しかしこのチャートには魅力がない?ということではないです。去年のこのチャートの年間トップ10を確認します。

1 Calvin Harris ft. Rihanna – This Is What You Came For

2 Justin Bieber – Sorry

3 Alicia Keys – In Common

4 Sia ft. Sean Paul – Cheap Thrills

5 Dillon Francis & Kygo ft. James Hersey – Coming Over

6 WTS ft. Gia – One Night

7 Dave Aude ft. Andy Bell – True Original

8 Lady Gaga – Til It Happens to You

9 Justin Timberlake – Can’t Stop the Feeling!

10 Coldplay – Adventure of a Lifetime

 

これらの曲を全て知っている方はいらっしゃいますか?おそらく6位と7位が分からない方が多いと思います(このチャートを毎週チェックしている人以外は……)、上で述べたようにTaylor SwiftやThe Chainsmokersがなぜか上位に入りづらい一方で、このDance / Clubのチャートで実績を重ねているアーティストが多くいるのです。

7位のDave Audeはこのチャートで実績を重ねている人の代表例で、ほかのチャートにはあまり登場しない一方でここでは14曲もの1位を獲得するなどこのチャートでは無双しています。他にもオノ・ヨーコがリミックスを中心に多数の1位を獲得していて(13曲)、全米を対象としているチャートでは珍しく日本人も登場しています(他の日本人も登場したことがあると聞いたことがありますが、データは見つかりませんでした)

個性的な面子が多く登場するので、もしかしたら思いがけない面子を発見できるかも!という可能性もあるのです!

 

まとめると……

・良くも悪くも他のチャートとは一線を画している

・それ故に個性的な面子や並びが見られるチャートになっている

・珍しいアーティストを発掘できるかも…?

 

 

もし興味を持ったらぜひDance / Club チャートをチェックしてみてください!

 

*1:詳しくは S.クレイグ ワトキンス (著), 菊池 淳子 (翻訳) 『ヒップホップはアメリカを変えたのか』の48ページに書いてあります