チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100 9/9 見どころ 【予想外の登場・予想外の圏外】

来週に登場するのでは?と考えられていた曲が今週に登場し、まだ消えないだろうと思われていた曲が今週に消えました。今週のテーマは「大物の予想外」

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予想外にHot 100に現れたのはテイラー。その理由とは?

また消えてしまったのは……?

https://itunes.apple.com/jp/playlist/hot-100-9-9-%E8%A6%8B%E3%81%A9%E3%81%93%E3%82%8D/idpl.u-2xqeIza1xb

 

99 Major Lazer feat. Travis Scott, Camila Cabello & Quavo – Know No Better (Re)

ポップ系ラジオでの支持向上によって久々のHot 100復帰。Major LazerのKnow No Better。ストリーミングでのピークは過ぎてしまったものの、ラジオのポイントで再浮上なるか?この曲と似たような動きをしているJonas BlueのMama(少し前にストリーミングで好調、今はポップ系ラジオで好調)もそのうちHot 100に入るかもしれません。

※この曲に代わって、Major LazerはSua Cara、Travis ScottはButterfly Effect、Camila CabelloはHavana、QuavoはI Get the Bag*1がストリーミングでは好調です。特にCamila CabelloのHavanaは際立っていて、現在Spotifyグローバル14位。Hot 100でも今週再登場しています。

 

90 Chris Brown – Questions (New)

10月末にリリース予定のアルバムからの先行シングル。Chris BrownのQuestionsが90位で登場。アルバムは他の先行シングルParty、Privacyを含む2枚組40曲収録の大規模なものと言われています。この曲はカリブ海のセントビンセント*2島出身Kevin Lyttleの2004年のデビューシングルTurn Me Onのキャッチーなフレーズをサンプリング。このTurn Me Onは昨年Spotifyグローバル“年間”88位と大ヒットだったCheat CodesのLet Me Hold Youでも使われていたフレーズのため、2004年当時を知らない世代にも馴染みがあるフレーズではないでしょうか。

 

80 RiceGum feat. Alissa Violet – Its Every Night Sis (New)

ともにYouTuberのRiceGumとAlissa VioletによるIts Every Night Sisが80位で登場。タイトルが似ているJake PaulのIt’s Everyday Broのオマージュソング。これらのYouTuberソングは、ラジオ等での数字は期待できない故チャートからはすぐ落ちてしまうという点から”チャート的観点”からは「(現状では)規模の小さいGlee Cast」のようなものだと個人的には捉えていますが、どうなのでしょうか……今後もこの系統の歌は多くHot 100に登場するのでしょうか?

 

79 Miley Cyrus – Younger Now (New)

Miley CyrusのYounger Nowが79位で登場。9月末リリースのアルバムタイトルも同じくYounger Now。この曲ではMalibuと同じソングライターOren Yoelを起用していて、アルバムでも2013年の前アルバム時のTwerkマイリーから、オーガニックマイリーへの回帰をするのだろうと予測できます。前アルバムではヒップホップに傾倒したスタイル故客演が6人いましたが、今回のアルバムでの客演はDolly Partonのひとり。

 

77 Taylor Swift – Look What You Made Me Do (New)

私が毎週、週末に書いている【新リリース曲の初動】の記事では「再来週(9/16)に1位デビューが確実」としていましたが、まさかの今週(9/9)での登場。この現象は曲がコケて77位で登場したのではなく、逆に注目度が高すぎるが故の77位です。

Hot 100は基本的に金曜日 ~ 木曜日のサイクルで集計されています。現在ほとんどの曲が金曜日にリリースされていて、そのサイクルに合わせるためです。このLookも8/25の金曜日にリリースされているので予定通り次の9/16のHot 100に登場するはずだったのです。(参考:P!nkのWhat About Usのような木曜日リリースの曲は、そのサイクルと1日分ずれるために感覚よりも1週はやくHot 100に登場します)

しかしHot 100の指標のうちラジオだけは金曜日 ~ 木曜日「ではない」サイクルで集計していないのです。ラジオは月曜日~日曜日サイクルです。今週の場合だと以下のようなことです。

 

金曜日 8/18 – セールス&ストリーミングの集計開始

月曜日 8/21 – ラジオの集計開始

木曜日 8/24 – セールス&ストリーミングの集計終了

金曜日 8/25 – Look What You Made Me Doのリリース

日曜日 8/27 – ラジオの集計終了

火曜日 8/29 – Hot 100チャートの発表。次の土曜日=9/9付けのチャートとして発表される

 

この表を見てわかる通り、ラジオのみが”Look”の集計が今週に一部入ることになります。しかし、ラジオの特性を鑑みると最初3日分が入ったところでチャートの登場週がずれることは滅多に無いのです。最初から注目度が最大になるダウンロード・ストリーミングとは違い、ラジオはどの曲も「弧を描く」ようなチャートアクションを取ります。どの曲も最初は規模が小さく、だんだんと上昇し、そして少しずつ落ちていく……のです。つまり、まだまだ規模の小さい最初ラジオ3日分を集計しただけではHot 100に入る相当のポイントを稼ぐのは至難の業なのです。近年まれに見るロケットスタートだったAdeleのHelloもこの「最初3日分」のラジオで週の45位に入るまでポイントを稼ぎましたが、Hot 100入りならず。また昨年のJustin TimberlakeのCan’t Stop the Feelingは「3日」で週のラジオ27位まで入りましたがHot 100入りはならず。しかし、このテイラーの“Look”はそれを成し遂げたのです。

”Look”は今週「3日分」で今週のラジオ23位にエントリー。そしてそのラジオのみでHot 100では77位。ストリーミングがHot 100に2013年から集計されるようになって、ラジオの比率が相対的に下がったためこの「ラジオ3日分」“だけ”のHot 100入りは前よりも難易度が上がりましたが、それを乗り越えてのHot 100入り。さすがの記録です。

 

ちなみにそのストリーミングが導入された2013年以降ではKaty PerryのRoarに次ぐ2つめの事例。Roarはその時ラジオ29位、Hot 100は85位だったのでテイラーは今回どちらの順位でも上回っています。こんなマイナーな記録に目をつける人は少ないと思いますが、「Katy Perryが唯一持っていた記録をテイラーが上回って更新した」と聞くと本人は喜ぶのでは……?笑

 

またストリーミング以前でもテイラーはWe Are Never Ever Getting Back Togetherで同様の記録を成し遂げていて、ダウンロード導入以降では唯一2回「ラジオ3日分」エントリーを成し遂げているアーティストなのです。ラジオとの親和性は元より高いテイラーですが、今回のシングルではダウンロードとストリーミングでも爆発的なので、特に最初の数週間はかつてないような巨大ヒットになるかも……?

 

※ちなみにビルボードは一つの指数「だけ」で伸びている曲はHot 100に入りづらい設計にしています。例えば、日蝕で注目を集めたBonnie TylerのTotal Eclipse Of Heartはダウンロードで今週13位だったのですが、ダウンロード以外でのポイントが殆ど無かったため、チャートに入れず(※かつて20週以上チャートに入っていたためエントリーには50位以上に入る必要があります)

 

53 Kodak Black feat. XXXTENTACION – Roll in Peace (New)

Kodak Blackのミックステープ、Project Baby Twoが今週アルバムチャート2位で登場。そこから2曲がHot 100に。Transportin'が82位、XXXTENTACIONとのRoll in Peaceが53位で登場。Apple Musicを中心としたストリーミングで好調でした。(純セールスは13位のものの、ストリーミングで稼いで総合アルバムチャートでは2位なので)

ちなみに今週のアルバム1位はBrand NewのアルバムScience Fictionが獲得。PitchforkからBest New Album認定をされるなど評論家から好評。Linkin Park、Arcade Fireに次いで今年3作目のロックアルバムによるアルバム1位です。

 

39 Cheat Codes feat. Demi Lovato – No Promises (↑)

ポップ系ラジオでの好調(今週10位)とiTunes値引きによるダウンロード増でCheat CodesのNo Promisesが39位に浮上。Spotifyで昨年あたりから大活躍の彼ら。Sexが昨年のグローバル年間34位、Let Me Hold Youが同88位、今年もMaggie LindemannのPretty Girlを彼らがリミックスしたバージョンがSpotify内で大ヒット。Spotifyでの活躍の割に今まではHot 100へのエントリーは無かったのですが、初のHot 100エントリーのこの曲でトップ40まで辿り着きました。ラジオにまだ伸びシロがありそうで、さらなる上昇に期待が持てそうです。

 

34 Gucci Mane feat. Migos – I Get The Bag (↑)

今年客演で引っ張りだこの2組による新曲、Gucci ManeとMigosのI Get The Bagが34位で登場。ラップ曲が得意とするストリーミングで17位と順調なスタートを切っただけでなく、ダウンロードでも21位と複数媒体で高めな数字を記録したことが、Hot 100での34位という高い順位に繋がりました。客演以外ではGucci Maneにとっては8年ぶりのトップ40かつ自己最高位となりました。

※この曲とメイン・客演が入れ替わりになっているMigos feat. Gucci ManeのSlipperyはピーク29位・チャート滞在21週と上々な成績を記録し、今週チャートから外れました。

 

20 Justin Bieber + BloodPop – Friends (New)

今年に入ってからもリリースが続くJustin Bieberの新曲。今回は客演ではなくBloodPopと組んでの自身名義の曲。Justin Bieber自身名義の曲なので、1位かトップ10圏内でデビューしそうかな?と個人的には読んでいたのですが、その期待を下回り20位スタートに。

Purposeより後にリリースされたJustin Bieber関連の“シングル”*3、Cold Water・Let Me Love You・Despacito・I’m the One・2U、そしてこのFriendsのうち、リリース当初の順位が最も低いのはこのFriendsです。ここから順位を上げる可能性は十分にありますが、Justin Bieberの人気ゆえかリリース最初の週にダウンロードを中心としたポイントが集中し、デビューした週がピークのまま終わるケースが多い(上記の5曲中、3曲が登場時にピークが来ている)ので、なんとも言えないところです。

 

10 Yo Gotti (&Mike Will Made-It) feat. Nicki Minaj – Rake It Up (↑)

アーバン系ラジオでの好調に加えて、Tidalで先行リリースされたビデオによってストリーミングにブーストがかかって、一気にトップ10まで到達。Yo GottiのRake It Upが10位に。Yo Gottiは同じくNicki Minajと組んだDown in the DM(ピーク13位)を上回って自己最高位を記録。

 

9 Ed Sheeran – Shape of You (→)

ビルボードは今週のHot 100を「歴史的な週」と紹介しています。理由はふたつあって、まずはDespacitoが歴代最長タイの16週1位を記録したこと。そしてShape of Youが33週目のトップ10滞在となって歴代最長の記録を更新したこと。いままではCloserとLeAnn Rimesによる32週が最長でした。記録達成の要因はラジオが未だに7位と上位に入っていること、そしてラジオでのヒット曲がやや苦手とする傾向のあるストリーミングでもバッチリと数字を稼いだこと(今週14位)でしょうか。ストリーミング「だけ」で強い曲、ラジオ「だけ」で強い曲などの傾向があり、曲やジャンルによってポイントの偏りが現れるケースも増えてきたのですが*4、こういう時にラジオ・ダウンロード・ストリーミング全てで強いとHot 100で無双する傾向があるように思います。落ちるスピードはゆるやかなため、まだまだ記録を伸ばすかもしれません。

※密かに「トップ10でデビュー後の最長トップ10滞在週数」というマイナーな記録も更新しました。今までの記録はCloserの32週です。2015年辺りまではそれなりに参照されていた記録なのですが、Closerがトップ10滞在を最長タイまで伸ばしたと同時にこの記録を更新したあたりからは「トップ10滞在週数と同じ記録だし……」ということで全然この記録について聞かなくなりました。分かりづらい記録なので今後もあまり話題に上がらないと思います。

 

× Selena Gomez – Bad Liar (↓)

リリース時はPitchfork様からBest New Trackのお墨付きをもらい、華々しくスタートしたSelena GomezのBad Liarでしたが、ピーク20位 / 14週滞在という不完全燃焼でチャートを後に。Hot 100では「51位以下に落ちた21週目以降の曲はチャートから外す」というルールがあるので、そのルールが適用されうる直前の20週目まで到達することを一部チャートマニアは「完走」と呼びます。このBad Liarは14週滞在で「完走」できず、不完全燃焼というわけです。

Pitchfork以外にも多くの批評メディアが2017前半のベストソングの一つとしてこのBad Liarを選んでいましたが、批評家に人気ということはある意味、もとのSelena Gomezのリスナー層とは相性の悪い音楽だったという分析もできるかもしれません。後続のFetishも現在落ち気味で7週目の今週は48位 → 55位。チャートでの燻りは無視して、この音楽スタイルを取り続けるのか、あるいは機転を利かせるのか……

 

× Miley Cyrus – Malibu (↓)

はじめて1週間分の集計が行われた週のHot 100では10位だったMiley CyrusのMalibu。上のBad Liarと同じくチャート滞在15週の不完全燃焼でチャートを後に。一時期はトップ10で期待度は大きかった分、この不完全燃焼は少し意外な結果でした。ちなみに今年トップ10に入りながらも「完走」できなかったのは、Harry StylesのSign of the Times(13週)、DrakeのPortland (16週)、Katy PerryのChained to the Rhythm (15週)、Miley Cyrus のMalibu(15週)の4つ。それぞれの原因を考察してみると:Sign of the Timesは曲のスタイルがかなり挑戦的で、ヒットをあまり狙っていない感が。Portlandはラジオでかからず、あまりどころか”ほとんど”ヒットを狙っていなかった。(Passionfruit という目玉シングルがもう一つあったことも理由のひとつです) と前ふたつは理由がそれなりに見えます。

一方、Chained to the RhythmとMalibu は比較的受けの良さそうな穏やかなポップス*5だったのですが、「なぜか」ヒットせず。ストリーミング・ダウンロードの数字はどちらもそこまで悪くなかったですが、ラジオで奮わず。ラジオはストリーミングと比べると、有名アーティストの曲が順当にヒットしていく傾向があるように思うので、尚更この不振は謎が深まります。

※ラジオでの選曲の基準が気になるところです……

 

チャートで今週伸びを見せた曲たち

今週最もラジオで伸びた曲          Niall Horan – Slow Hands

今週最もダウンロードが上昇した曲 Demi Lovato – Sorry Not Sorry

今週最もストリーミングが伸びた曲 Yo Gotti feat. Nicki Minaj – Rake It Up

最も高い順位で新登場した曲          Justin Bieber & BloodPop - Friends

 

 

今週チャートから外れた曲 (11曲)

【左の数字は先週の順位、右(ピーク順位🗻/チャート滞在週数⏰)】

100 Playboi Carti feat. Lil Uzi Vert – Wokeuplikethis* (🗻76位 /⏰10週)

99 Nicky Jam – El Amante (🗻92位 /⏰15週)

98 Chris Jason – Fix A Drink (🗻98位 /⏰1週)

96 Descendants 2 Cast – It’s Goin’ Down (🗻77位 /⏰4週)

92 Wiz Khalifa feat. Ty Dolla $ign – Something New (🗻92位 /⏰1週)

84 Tee Grizzley – First Day Out (🗻48 /⏰20)

83 Selena Gomez – Bad Liar (🗻20位 /⏰14週)

78 Miley Cyrus – Malibu (🗻10位 /⏰15週)

60 Thomas Rhett feat. Maren Morris – Craving You (🗻39 /⏰20)

46 Migos feat. Gucci Mane – Slippery (🗻29 /⏰21)

45 Brett Young – In Case You Didn’t Know (🗻19 /⏰28)

 

 

Hot 100以外の場所で好調なものの、Hot 100にエントリーしていない曲をピックアップしました。

(調査対象:Spotifyデイリー、Shazam、Pandora、Apple Music、各種ラジオなど)

XXXTENTACION – Jocelyn Flores (Apple2位、Spotify3位)

Lil Uzi Vert – Sauce It Up (Apple3位、Spotify26位)

Lil Uzi Vert – The Way Life Goes (Apple5位、Spotify12位)

XXXTENTACION feat. Trippie Redd – F**k Love (Apple6位、Spotify10位)

XXXTENTACION – Everybody Dies in Their Nightmares (Apple7位、Spotify15位)

Lil Uzi Vert – 444+222 (Apple9位、Spotify30位)

Lil Uzi Vert – Two (Apple10位、Spotify65位)

 

次のチャートでは主に2アルバムからのHot 100へのエントリーがある見込み。Lil Uzi VertとXXXTENTACIONのアルバム。Apple Music / Spotifyのいずれかでトップ10に入っているシングルをここでは挙げました。ここから何曲か、またそれ以上がHot 100に入るかもしれません。

何曲入るかは分かりませんが、それ以外にも注目リリースが多いので入れ替わりが激しい週となる予感がします。

 

Dej Loaf – No Fear (Shazam 28位)

従来のアーバン系ラジオだけでなく、ポップ系ラジオでもかかり始めました。ストリーミング・ダウンロードでの注目度は低いものの、複数系統ラジオでかかる曲はHot 100で強い傾向にあるので、そのうちヒットの兆しを見せるかもしれません。個人的にはAriana GrandeのInto Youと少し似ていると感じました。

 

*1:Gucci Maneの客演の一人として

*2:ちなみにアメリカのシンガーのSt. VincentはHot 100入りの経験なし。シングル系チャートにはあまり登場していないものの、2014年のSt. Vincentはアルバムチャート12位でした

*3:プロモーショナル・シングルのような扱いのPost MaloneとのDeja Vu、Chance the RapperとのJuke Jamは除き

*4:例PandaやBad and Boujeeがストリーミングに大きく傾いている、など

*5:特にMileyは前作と比べて行動もかなり穏やかに