イギリスの年間シングルチャート、ベスト100から読み取れるポイントを10個取り上げて、考察しました。ちなみにその100曲はこちら↓
ちなみにこの記事を書いているのは2018年ですが、便宜上この記事では「今年」=2017年としています。
・ルールを変更させた? Ed Sheeranによるチャート支配
【Ed Sheeran】
シングル年間1位、アルバム年間1位を両取りし、さらに年間シングル100位以内に11曲を輩出するなど、今年圧倒的な活躍だったEd Sheeran。SpotifyでShape of Youが世界で最も再生された曲(歴代)になるなど、世界的に主役だった彼ですが、母国イギリスでの活躍具合は群を抜いていたという印象があります。
特にアルバムのリリースが反映された週のシングルチャートは衝撃的でした。
2017/3/10付けのチャート。ちなみに18位、19位もEd Sheeranの曲です。
Ed Sheeranのアルバムは12曲+ボートラ4曲の計16曲で構成されていて、当時はそのうちのShape of You、Castle on the Hillがシングルのような扱いを受けていました。つまり、残りの14曲はいわゆる「アルバム曲」で、それらの非・シングル曲がストリーミング数でほかのシングル曲を圧倒してチャート上位にのし上がったという現象が発生したのです。トップアーティストの持つ力の強大さがストリーミングで増しているともいえます。
このようなEd Sheeranの衝撃的なチャート成績を見て、2017年半ばにイギリスのシングルチャートに新たなルールが追加されました。それは1アーティストにつき3曲までしか同時にシングルチャートに入れない、というもので、狙いはアルバム曲よりも「シングル」を重視するチャート作りを目指したものだと思われます。他にもこの数的制限により、有名アーティストがシングルチャートの枠を支配することを防ぎ、新しいアーティスト・新しい曲が多く入るチャートを目指すという狙いもあるようです。
(ここからチャートマニア向けの難しい内容)ーーーーー
ストリーミングのチャートでの比率が増していく昨今、Spotifyのランキングとシングルチャートがかなり似通ったものになっていく傾向があります。その中で、「チャート」の独自性を出すために、様々なルールを新しく付けたという点は良いと思うのですが、実際に聞かれている新曲をチャートから除外することは正しいのか?という疑問はあります。Ed Sheeranの事例でいえば、シングルチャート4位相当の曲がチャートから除外されてしまうということなので、そこまでの人気曲をチャートで無視するのはかなり違和感があります。さらに、このルール変更は新しいアーティストのサポートになっているとも限らないという点も一つのポイントです。2017年はStormzy、J Husといったイギリスのラッパーが活躍。彼らはアルバムリリース時にストリーミングで凄まじい人気を得て、それぞれ15曲、9曲がシングルチャートに登場。この2人のアルバムはデビュー作で、彼らは間違いなく「新しいアーティスト」に該当するのですが、このルールが適用されたあとは、新人アーティストが一気にチャートに反映されることも無くなってしまいます。幸い(?)、彼らはこのルール適用前のアルバムリリースでしたが。
良い点もあるこのルール変更ですが、実際のヒットを反映できないケースがあることや、新しいアーティストをサポートするとも限らないという点から、個人的には少しこのルールに懐疑的です。「枠を空ける」という目的ならば、古い曲に制限をかけるUS方式にすれば良い気もするので……ちょっとマニアックな領域となりましたが、今後このルールがチャートにどのような影響を与えるか?観察してきたいと思います。
※UKチャートはUSのチャートよりも、「わかりやすさ」を重視しているように思えます。
(チャートマニア向け終わり)ーーーーー
・リリースから13年!Mr.Brightsideの年間リスト入り
Ed Sheeranと並んで衝撃的だったのは、Mr.Brightsideが2017年の年間チャートに入ったこと。この曲はもともと2004年リリースで、その時は週間10位に入るものの2004年の年間チャートには入れず。しかし、2017年の今となって大復活を遂げました。
リリースは最近ではないものの、2017年の年間チャートに入った曲としては他にAriana GrandeのOne Last Timeがあります。この曲は彼女のマンチェスターのコンサートでの爆発事件に対しての曲として話題となり、その後行われたOne Love Manchesterを象徴する一曲に。このように、One Last Timeは新たにシングルとして最注目された過程があっての今年の年間チャート入りでしたが、Mr.Brightsideはそのような理由以外でのチャート入りだと思います。
The Killersは今年アルバムをリリースし、見事イギリスでもアルバム1位を獲得しましたが、シングルのThe Manは65位ピークで、そこまで存在感を発揮できず。また、Mr.Brightsideの2017年内ピークがアルバムリリースのタイミングではなく、それよりも前という点から「新譜に誘発されての再ヒット」という理由ではないことが分かります。
この衝撃の13年越しの年間チャート入りの理由はストリーミングサービスにあります。Spotifyのイギリスのランキングを眺めると、だいたいMr.Brightsideは直近の新曲に混ざっておおよそ50位-70位に入っています。シングルチャートでは2017年内週間最高45位と爆発力はありませんが、それが1年ずっと続くとなるとかなり強力になります。ほかの新曲たちがそれぞれのピークを終え、チャートを下がっていくのを側にMr.Brightsideは定位置をキープし、気づいたら年末には今年のヒットを上回るまでのポイントを稼いでいた、ということなのです。
おそらく、元々イギリスでかなり人気のある曲だったとは思われるのですが、それがストリーミングの拡大、またSpotifyなどのプレイリスト機能によって再発掘されたことによって、その人気が今年はじめて可視化されたということなのでしょう。
2018年もMr.Brightsideは定位置をゆっくりキープして、もしかしたらまた年間チャートに入ってしまうかもしれません!?ただ、ルール変更で見られたようにUKチャートが「新しい曲の発掘」を目指すのならば、この曲をチャートでどうするのか?は避けられないテーマですね。
・2年連続の年間トップ10入り
【Zara Larsson】
2016年→2017年の2年連続で年間チャートにトップ10入りしているアーティストが3人(組)います。
まずはJustin Bieber。彼は2015年(What Do You Mean, Sorry)、2016年(Love Yourself)、2017年(Despacito)と3年連続でトップ10入りしていて、いかに近年のポップスを牽引しているかが分かります。2017年は客演仕事が多かったですが、2018年も同じように客演を受け持って、Despacitoのように誰かをスターダムに導くでしょうか。
そして、The Chainsmokers。昨年はCloserで、今年はSomething Just Like Thisでの年間トップ10入りを果たしました。2016年末~2017年初頭にかけての彼らの勢いは凄まじく、Ed Sheeranと並んで今年のポップス界の顔ともいえる活躍を見せていたと思います。客演無しでここまでヒットを連発できたのは快挙といえます。
最後に注目したいのは、Zara Larsson。昨年はLush Life、今年はClean Banditの客演を務めた*1Symphonyでの年間トップ10入り。まだ彼女はアメリカでは週間のトップ10入りの経験無し、さらにイギリスでも2017年にリリースしたアルバムが週間7位など、まだアーティストとしての地位が上がりきっていない段階なので、少し意外な記録なような印象もあります。しかし、この2年連続の年間トップ10入りは、それだけここ2年の彼女に対する期待感が相当高かったということを証明していると思います。また彼女はスウェーデン出身で、イギリスや北米以外のシンガー*2がここまで躍進しているという点でも注目すべき点だと思います。
Zara Larssonのアルバムの評論メディアから注目は薄く、さらにアルバムリリース後のシングルは不発に終わってしまいましたが、ここ2年の熱量を再び取り戻すかのような大活躍を今後期待したいです。
・Dua Lipaがついに飛躍 +ほかのイギリスシンガー
【Dua Lipa】
昨年から注目を受けていたDua Lipaがスターダムへ。New Rulesが夏頃に週間1位に上り詰め、年間11位まで食い込みました。また、YouTubeでは再生数が9億以上にまで達し、2017年にリリースされた英語曲のビデオの中では5番目*3に多い、と世界的にもブレイク。一気に「イギリス代表シンガー」という立ち位置にまでなったような気もします。彼女は他にもMartin GarrixとのScared To Be Lonely(年間42位)、Be The One(年間50位)、Sean PaulとのNo Lie(年間67位)と年間チャートに4曲をも送り込んでいて、今年かなり存在感がありました。
ほかにも飛躍したUKシンガーは多く、また昨年末から大きな注目を受けていたRag’n’Bone ManはHumanがシングル年間9位にランクイン。ほかSkinも年間41位にランクインしましたが、彼はアルバムチャートでも大活躍しています。これらの曲が収録されたアルバム”Human”が今年の年間アルバム2位に!UKの大型新人ここにあり!という立派な成績をシングル、アルバムの両方で叩き出しています。
R&BシンガーRAYEはJax Jonesの客演で年間10位入り。現在Ja RuleのAlways On Timeを大幅にサンプリングしたDeclineがシングルチャートを駆け上がっており、来年以降のさらなる飛躍に期待が持てそうです。
ほかClean Banditの客演と、自身のAlarmが年間チャートに入ったAnne-Maire、客演を含む2曲が年間チャートに入ったRita Oraなど多様なUK女性シンガーが活躍していました。
・さらに勢いを増すLittle Mix
【Little Mix】
昨年年間チャートに4曲がエントリーしたLittle Mixでしたが、今年は昨年よりも多い5曲が年間チャートに。自身のアルバムからの4曲(Touch、Power、No More Sad Songs、Shout Out To My Ex)に加えラテン系ボーイズグループの客演として参加したReggaeton Lentoのリミックス版が入っています。One Directionは活動休止し、Fifth Harmonyはメンバー脱退ならびに、今年のシングルはチャートで不調に終わるなど、他のポップグループ今年目立った活躍がなかったなか、Little Mixの今年の好調ぶりは際立ちます。今後USのヒットさえあれば、「世界代表・ポップグループ」にもなり得るかもしれません。
・アメリカの歌手がイギリスで飛躍?
【Maggie Lindemann】
アメリカのシンガーがUSよりもUKで飛躍するケースが数曲でありました。その代表例はMaggie LindemannのPretty Girl。この曲はCheat Codes, Cadeによるリミックスがストリーミングで人気を博し、躍進。イギリスでは週間8位まで達し、年間チャートでも28位に食い込みました。しかし一方母国アメリカでは、週間の100位にすら入れずあまり存在感を発揮できませんでした。アメリカのストリーミングではほぼラップ/R&B1強状態が続いており、Shape of Youなど一部を除いては、ポップスはそこまでストリーミングで数字を稼いでいません。また、アメリカのシングルチャートHot 100ではラジオも集計しているため、相対的にストリーミングの比率が低いこともあって、「ストリーミング発のポップス」は軒並みHot 100で苦戦する傾向にあります。
他にもCamila CabelloのCrying in the Clubが年間74位に入り(アメリカでは年間チャートには入れず)、P!nkやJason Deruloなども母国USよりは高い成績を記録。
もしかしたらUS出身の新人シンガーは母国USよりもUKを意識すると良いのかもしれませんね!?
・アメリカと同じで元One Direction勢は……
【Harry Styles + Zayn】
イギリスに限らず、世界的な人気を誇ったOne Direction。グループとしては活動休止し、それぞれがソロ活動に移行しましたが、グループ時と変わらず人気をキープしています。今年の年間チャートにはZaynがI Don’t Wanna Live Forever(52位)、Dusk Till Dawn(78位)の2曲、Liam PayneがStrip That Down(20位)、Niall HoranがSlow Hands(45位)、Harry StylesがSign Of The Times(56位)でそれぞれ登場。しかしLouis Tomlinsonだけは年間チャート入りならず。彼のBack To YouやJust Hold Onは週間のトップ10に入ったものの失速して年間チャートに入らず……来年以降のリベンジが期待されます。
ちなみに、アメリカでも同じくLouis Tomlinsonのみ年間チャートに入らず、残りのメンバーが年間チャートに入っていました。
・USヒップホップの浸透具合は?
【French Montana + Swae Lee】
イギリスの年間チャートにおいて、2015:7曲、2016:9曲、2017:11曲と着実に数を増やしているUS(北米含む)のラップ曲。なかでも、イギリスで年間4位にまで食い込んだFrench Montana、Swae LeeのUnforgettableは特筆すべきチャート成績を残したといえます。Swae Leeは昨年末のBlack Beatlesに引き続きグローバルヒットを達成し、才能を世界に知らしめました。French Montanaもこの曲のヒット以降、イギリス出身のStefflon Donやフィンランド出身のALMAの客演を務めるなど、活躍の場をかなり広げた印象があります。
また、今年は単にUSのラップ曲が増えただけでなく、Quavoが客演でも活躍し4曲が年間チャートに入り、Calvin HarrisがUSのヒップホップを強く意識した曲をリリースし、それが複数年間チャートに入るなど、USヒップホップの影響力がかなりイギリスの年間チャートにも現れるようになったといえます。また、2015年はFlo Ridaなどポップ系ラジオで主に人気なラッパーが多かったですが、2017年に入ったラップ曲はポップ系ラジオよりもヒップホップ色の強いラップが多く(ポップ系ラジオ人気のラップは1-800-273-8255くらい)、数以上にUSラップがイギリスで浸透しているとも言えると思います。
・UKヒップホップ元年になるか?
【Stormzy】
上記の項目でUSラップが浸透してきたと述べましたが、UKラップ/ヒップホップはどうでしょうか。昨年年間チャートに入ったUKヒップホップ系の曲は4曲、そして今年の年間チャートに入ったUKヒップホップ系の曲は5曲なので、数の面からはあまり変化が見られません。しかし、USヒップホップの項目で述べたように「脱・ポップ」はUKヒップホップでも進んでいます。
例えば昨年の年間チャートで、UKヒップホップでは最高位の26位に入ったTinie TempahのGirls Likeは客演Zara Larssonを活かしたポップ寄りのアプローチをした一曲。しかし今年の年間チャートに入った5曲(21位Did You See、44位Big For Your Boots、70位Bestie、92位Man’s Not Hot、94位Hurtin’ Me)はどれもヒップホップ寄りのアプローチをしており、サウンド面で「ヒップホップのヒップホップ化」しているように思います。ちなみにHurtin’ Meは最近USのヒップホップ系ラジオのお墨付きも得ています(かかりはじめている)
中でもStormzyの躍進は目を引くものもあり、イギリスでアルバム1位を獲得し、グライムのアルバムとしては初の1位を達成。またLittle MixのPower(年間33位)でも客演を務め、メインストリームでも活躍。またイギリスティーンの選ぶ「首相になってほしい人ランキング」では3位に名を連ねています!(1位はEd Sheeran)
他にもイギリスのR&BシンガーのMabelがラッパーのKojo Fundsと組んだFinders Keepersが年間76位に、またStormzyのBig For Your Bootsのビデオにも出演したイギリスのR&BシンガーRAYEが客演で年間10位にまで入るなど、関連ジャンルも活躍。来年は今年以上にUKヒップホップのヒットが生まれるかもしれません!
・昨年よりは流動的?
【Drake】
昨年は週間1位を獲得したシングルが14曲でしたが、今年は18曲に増加。またトップ10シングルも昨年75曲から、今年は98曲に増加。年間チャートでもその「流動」ぶりは反映されており、昨年はトップ10に入らずとも年間チャートに入った曲は27曲でしたが、今年はそのような曲は16曲にまで減少。ヒットが週間チャートで目立つ成績を残せるようになったといえます。
このことの一つ目の理由としては、ストリーミングのパワー増加で非シングル曲がトップ10に達するようになったこと。Ed Sheeranの項目で説明したように、超人気アーティストの曲であればシングルではなくても、一時的にその他のシングルを上回ることもあります。*4しかし、それらの「非シングル」は、ビデオ・iTunes割引などの継続的なプロモーションが無いため、リリース時のインパクトをそこまで維持できません。このことにより、短命のトップ10が生まれ、トップ10が流動的になるのです。
もう一つの理由は、チャートのルール変更です。「1アーティスト3曲ルール」がチャートに適用された時、同時に「古い曲の制限」というルールも適用されました。このルールについて詳しい説明は無いので、何を基準に「古い」なのかは不明ですが、たしかにSpotifyやiTunesの数字などと比べるとチャート順位が低い曲が最近増えたような気がします。このルールについての詳しい説明が無いため、はっきりとは言えませんが、このルールもトップ10の流動化に寄与している可能性が高いです。*5
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