↑リリース日にアルバム全曲がSpotifyのランキングに入ったアルバム
近年アルバムリリースと同時に、シングルではない「アルバム曲」を含む複数曲が各国シングルチャートに大量エントリーする事例が各所で見られています。中には、アルバム曲全てがシングルチャートに入るような事例もあります。(詳しくは記事の最後に貼った関連記事を参照してください)
その大量エントリーを支えているのはストリーミングのポイントです。リリースと同時に各ストリーミングサービスで大量に再生され、そこで得たポイントがチャートに反映されるのです。実際、アルバムのリリース日、金曜日の各ストリーミングのランキングでは各アルバムの曲が上位へと浮上しています。そこで、今回は金曜日のストリーミングのランキングを参考に、「どのようなアルバムがストリーミングでは人気なのか?」ということを独自の方法で検証したいと思います。「初日の注目度」、「アルバム単位で人気かというか」に注目しているので、純粋な「最もストリーミングされたアルバム」とは若干違う目線からの分析になります。
以下が調査方法です。
① Spotifyのアメリカのランキングを参照にする (規模が大きい・ランキングが参照しやすい)
② アルバム収録曲の半分以上がデイリーランキング200位以内入っていれば「人気」と判定する
③ 基本的にはリリース日のランキングを参考にするが、例外も一部あり。
その条件で2017年、1年間Spotifyランキングを調査したところ以下の43のアルバムが該当しました。
Spotify デイリー200位圏内に、アルバム収録曲の半分以上が入ったアルバム | ||||
リリース日 | 名前 | アルバム名 | 率 | |
1月13日 | The xx | I See You | 60.0% | |
1月27日 | Migos | Culture | 100.0% | |
2月3日 | Big Sean | I Decided. | 100.0% | |
2月17日 | Future | Future | 100.0% | |
2月24日 | Future | HNDRXX | 100.0% | |
3月3日 | Ed Sheeran | ÷ (Deluxe) | 100.0% | |
3月19日 | Drake | More Life | 100.0% | |
4月7日 | The Chainsmokers | Memories. Do Not Open! | 100.0% | |
4月7日 | Joey Baddass | All-Amerikkkan Badass | 91.7% | |
4月14日 | Kendrick Lamar | DAMN, | 100.0% | |
4月28日 | Gorillaz | Humanz (Deluxe) | 53.8% | |
5月5日 | Logic | Everybody | 100.0% | |
5月12日 | Harry Styles | Harry Styles | 100.0% | |
5月26日 | Bryson Tiller | True to Self | 100.0% | |
6月2日 | Halsey | Hopeless Fountain Kingdom | 61.5% | |
6月16日 | Lorde | Melodrama | 100.0% | |
6月16日 | 2 Chainz | Pretty Gilrs Like Trap Music | 68.8% | |
6月23日 | DJ Khaled | Grateful | 78.3% | |
6月23日 | Imagine Dragons | Evolve | 100.0% | |
6月30日 | Calvin Harris | Funk Wav Bounces Vol.1 | 100.0% | |
7月7日 | 21 Savage | Issa Album | 100.0% | |
7月21日 | Tyler, The Creator | Flower Boy | 100.0% | |
7月21日 | Lana Del Rey | Lust for Life | 87.5% | |
7月21日 | Linkin Park | Hybrid Theory | 58.3% | ※ |
7月21日 | Linkin Park | One More Light | 70.0% | ※ |
8月4日 | Ugly God | The Booty Tape | 70.0% | |
8月11日 | Kesha | Rainbow | 64.3% | |
8月25日 | Lil Uzi Vert | Luv Is Rage 2 | 100.0% | |
8月25日 | XXXTENTACION | 17 | 100.0% | |
8月25日 | A$AP Mob | Cozy Tapes, Vol.2: Too Cozy | 70.6% | |
9月8日 | Thomas Rhett | Unforgettable | 78.6% | |
9月18日 | BTS | Love Yourself : Her | 88.9% | 月 |
9月29日 | Miley Cyrus | Younger Now | 54.5% | |
10月6日 | Lil Pump | Lil Pump | 93.3% | |
10月20日 | Future & Young Thug | Super Silemy | 100.0% | |
10月20日 | Niall Horan | Flicker | 60.0% | |
10月31日 | Metro Boomin, 21 Savage, Offset | Without Warning | 100.0% | 火 |
11月3日 | Sam Smith | The Thrill of It All (Deluxe) | 100.0% | |
11月17日 | Lil Peep | Come Over When You're Sober Pt.1 | 85.7% | ※ |
12月1日 | Taylor Swift | Reputation | 100.0% | |
12月8日 | Big Sean & Metro Boomin | Double or Nothing | 100.0% | |
12月15日 | Eminem | Revival | 100.0% | |
12月22日 | Huncho Jack | Huncho Jack | 100.0% |
(各日にちをクリックすると、当時の詳しい成績を見ることができます)
・※はリリース日とは遠い日月にアルバムが半数以上入ったアルバムです。いずれも追悼の意を込めたストリーミング増です。
・「月」「火」はそれぞれのリリースされた曜日を指します。一般的にアルバムがリリースされる金曜日ではないため、注目を独占できる可能性があります。一方、「新作リリースは金曜日」との認識が浸透してきていると思われる*1ため、逆にノーマークになる可能性もあります。
曲数、各アルバムで最高位を記録した曲のデータなどの詳しい表は↓です。(ブログの横幅の問題で入り切らなかったです、、、)
これらを国籍別に分類すると、US:33、UK:7、カナダ/ニュージランド/韓国が1つずつでした。
また、ジャンル別に分類すると、ラップ:24、ポップ:11、ロック:5、ダンス:2、カントリー:1でした。
さらに、形態別に分類すると、ラッパー:24、女性シンガー:6、バンド:5、男性シンガー:4、DJ:2、ポップグループ:1でした。
アメリカのSpotifyのランキングから取っているので、当たり前ですがアメリカのアーティストが順当に多かったです。見どころとの一つに、激戦区があります。Linkin Parkの複数アルバム、Tyler, the Creator、Lana Del Reyに加え表には無いNav+Metro Boomin、Meek Millのアルバムがリリースされた7/21は特に印象深かったです。ほかLil Uzi Vert、XXXTentacionのアルバム全曲がエントリーし、A$AP Mobのアルバムが半分以上エントリーした週などもありました。
また、逆に「このアルバムが意外と入っていない!」のような視点で上記の表を観察してみると面白いかもしれません。上記の表から私が読み取ったことをいくつか述べていきます。
① 一番人気のジャンルはやはりラップ!ただし……
事例43のうち、ラップアルバム24と過半数を占めています。その中でも全曲がランキング圏内に入ったアルバムが25件なのですが、そのうち17がラップアルバムでした。Kendrick LamarのDAMN.やDrakeのMore Lifeがリリースされた時には上位がそれらにアルバム曲で埋め尽くされました。ストリーミングで注目アーティストの非シングル>他のアーティストの正式シングルという現象が発生していたのです。
Futureが2017年にアルバムを3つ、またMigosがグループでのアルバム、ジョイント作をそれぞれでリリースしたようにラップ界はリリースペースが非常に早いですが、それでも多くのアルバムが上位にランクインし続けるあたり、現在のラップの勢いやストリーミングとの相性の良さを感じます。(リリースペースの早さがラップの人気の要因の一つと聞いたこともあります)
ただし、全部のラップアルバムが必ず人気という訳ではなく、例えシングルをヒットさせたようなアーティストでもアルバム単位では人気にならないという事例もあります。それに当てはまるのはFrench Montana、Gucci Mane。それぞれUnforgettable、I Get the Bagとビッグアンセムが収録されたアルバムを2017年にリリースしましたが、French MontanaのJungle Rulesは4/18曲エントリー、Gucci ManeのMr.Davisは 8/17曲といずれも過半数を下回る結果に。(とはいってもそこそこ入っていますが)
このようにシングルヒットがあってもアルバム単位では再生数が稼げないケースもあるので、シングルヒットと「アルバム」でいかに人気かは少し違う事象なのかなと思いました。
② ポップスも一定の支持
次いで多かったジャンルはポップス。世界的に人気だったEd Sheeranの÷はアメリカでも人気。ストリーミングでの人気により、Hot 100でも大量エントリーしました。今年世界で最もSpotifyで再生されたアルバムにも選ばれていました。ほかHarry StylesやSam Smith、LordeやBTSなどアメリカ以外のアーティストも人気。多様なアーティストが活躍していました。ただし、アルバムが全曲入っていた事例は少なめ(Ed Sheeran、Harry Styles、Sam Smith、Lorde、Taylor Swiftの5人)で、ラップよりも人気は控えめでした。
また、ラップと同じくシングルヒットを飛ばしてもSpotifyでアルバムが人気とは限りませんでした。その最たる例がSorry Not Sorryがヒットだったにも関わらず2曲しかランキングに登場しなかったDemi Lovatoでしょうか。R&Bに寄った完成度の高いアルバムだと個人的に思っているのですが、ここまでストリーミングで無反応だったのは意外でした。(むしろシングルが不振だった、同じ週リリースのMiley Cyrusのアルバムのほうが人気)
③ ロックの苦戦
2017年はチケットをCDのおまけに付ける手法が流行。その恩恵を受けるなどして、6つのロックアルバムがアルバムチャートで1位を獲得しました。しかしストリーミングでは人気ではなく、ロックアルバムで「人気」に当てはまるのは事実上3例。Linkin Parkも2つアルバムが人気でしたが、これはボーカルのチェスターに対する追悼のもので、One More Lightリリース当時はランキングに入ったのはわずか1曲のみでした。
近年メインストリームでのロックのヒットが減り、ロックの勢いが落ちているからとも考えられますが、後述するイギリスのSpotifyではそれなりにロックアルバムも人気だったので、地域的な問題もあるかもしれません。
(参考 チケット+CDについて)
④ セールスとは比例しない女性シンガーのストリーミング
ロックと並んで、ストリーミングでやや不調だったのは、女性シンガーのアルバムです。アルバムチャートでは女性シンガーの1位は多く、これまた「チケット付きCD」で人気を得たShania Twain、P!nkなどが多くのセールスを記録しました。しかしShania Twainのアルバムからランキングに登場したのは0曲、P!nkのアルバムからランキングに登場したのは3曲のみでした。Shania Twainはカントリー出身で、シングルヒットは出なくても独自の固定ファン*2がいるやや特殊な事例?なようにも思いますが、P!nkのアルバムがSpotifyで人気が無かったのは象徴的だと思います。
先行曲What About Usは多くのダウンロードを記録し、またラジオでも大人気。しかしWhat About Usはリリース時からアメリカのSpotifyで人気が無く、アルバムリリース後もSpotifyでは浮上せず。ラジオ・ダウンロードでは今まで築き上げてきたキャリアがプラスに働くと思うのですが、若者が多いSpotifyユーザーには響かなかったということでしょうか。ほかKelly Clarkson、Katy Perryの新アルバムもストリーミングでは人気が出ないなど、中堅以上の女性シンガーはストリーミングで厳しい結果が。ほかTaylor Swiftも全曲がランクインはしましたが、爆発的なセールスの割にそこまでSpotifyでの順位が高くないなど、全体的に不足感があります。
中堅女性シンガーがストリーミング時代においてどのようなアルバム戦略を取るべきか、それともストリーミングは気にせずセールスを重視するべきなのか?今後の動向に注目したいです。
⑤ インディーポップ勢の意外な奮闘
全体的に女性シンガーが思ったほどのストリーミングを記録していないと述べましたが、2人の例外がいます。それはLordeとLana Del Reyです。二人はオルタナティブロック系ラジオでも人気を博すなど、インディーにも寄ったスタイルのシンガーですが2017年のアルバムがストリーミングで人気を博しています。
Lordeのアルバムは強力なライバル2 Chainzがいたものの、全曲がランキング圏内に。そしてアルバム1位も獲得。そしてLana Del ReyはTyler, The Creator、Linkin Park(追悼)、Nav+Metro Boomin、Meek Mill……など多くのライバルの中で 14/16曲がランキングに。初日の曲の再生数を見ると、Lordeよりもストリーミングで人気だったようにも思います。こちらもアルバム1位を獲得しています。
この2人はシングルヒットに恵まれてはいませんでしたが*3、アルバムがストリーミングで注目されました。両方のアルバムは批評家からも評価が高く、「純粋に質が高かった」*4のも理由の一つですが、他にも理由があると私は考えます。
それはアーティストとしては注目を集めていること。メインストリームでシングルヒットが出なくても、音楽メディアで取り扱われる回数は多く*5 曲だけではなく、人としても注目を集めているという印象がありました。
(↓Lana Del Reyが人として人気を集めている一例 この熱狂的な人気が他のリスナーにも伝播しているのでしょうか)
THE MOAN pic.twitter.com/nQuwnxTG02
— jonah (@planettropico) 2018年1月6日
また、「アルバムとしての作り」を意識し、シングル単位ではなくアルバム単位で主に聴かれていたということなども理由に挙げられるでしょうか。
とにかく、「ストリーミングはラップ一辺倒」と言われるなか、女性シンガーがシングルヒット無しでここまでストリーミングで注目を集めたという点は特筆に値すると思います。この2つのアルバムは、純粋に室の高いアルバムという理由だけではなく、ストリーミング時代の一種の「成功例」としても賞賛されて良いと感じています。
2018年に入り、Camila Cabelloは自身のアルバムで、Frank Dukesをメインのプロデューサーにしています。彼はLordeのアルバムの約半分の曲をプロデュースした人物でもあり、アルバムの雰囲気も少し似ているように感じました。そのアルバムがSpotifyで人気を博していて、さらにシングルヒットもあったことからLorde、Lana Del Reyを上回る成績を記録しています。このインディーポップのアイデアを受け継ぎつつ、シングルでも成功を収めているという点は興味深いです。(今後の女性シンガーのストリーミングとの付き合い方としての「模範解答」として参考になると思います)
ほか、イギリスのThe xx、Gorillazが意外にもエントリーを果たすなど、インディー寄りの曲は案外ストリーミングと相性が良いのかもしれません。2018年はこの流れが加速し、様々なインディー曲が多くの人の耳に届いたら面白いと思います!
おまけ UK
1/13 The xx
2/10 Rag N Bone man (7/12)
2/10 Nines (13/15)
2/24 Stormzy
3/3 Ed Sheeran
3/17 Zara Larsson (9/15)
3/19 Drake
4/7 The Chainsmokers
4/14 Kendrick Lamar
4/28 Gorillaz (19/26)
5/12 J Hus
5/12 Harry Styles
5/12 Paramore
6/16 Lorde (10/11)
6/23 Imagine Dragons
6/23 DJ Khaled (13/23)
6/30 Calvin Harris
7/21 Tyler the Creator (10/14)
7/21 Linkin Park Albums
10/6 Giggs
10/6 Liam Gallagher
10/13 P!nk (8/13)
10/20 Krept & Konan
10/20 Niall Horan (6/10)
11/3 Sam Smith
11/3 Dave (EP)
11/24 Noel Gallagher
12/15 Eminem
USと比較した場合のUKの特徴を完結に述べると、
① 純粋にUKアーティストの人気がある
② USほどではないが、UKでもラップの台頭が著しい
③ ギャラガー兄弟を中心にUSよりはロックが人気
④ Spotifyで「アルバム聞き」が定着していないのか、USよりも事例が少なめ (?件)
辺りでしょうか。他にも、Tyler, the Creatorが激戦区を勝ち抜いて支持を得ている点は意外でした。また、5/12は3つのアルバム(J Hus, Harry Styles, Paramore)の全曲が200位圏内に入るという、なかなかの濃い週に。J HusがストリーミングでHarry Stylesを上回ったというのはなかなかインパクトがありました。(その結果はシングルチャートにも反映されています)
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