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BTSが”Love Yourself 轉 'Tear' ”関連で成し遂げた各チャート記録まとめ + 個人的な考察を少し

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 BTSが最新アルバム”Love Yourself 轉 'Tear' ”で世界中のチャートを席巻!大躍進を果たしています。今回は、彼らが成し遂げたチャート記録の数々をまとめてみたいと思います!

 

・主要国でのシングル & アルバムチャート順位

 まずは、主要国の週間チャートでアルバム・シングルが何位を記録したのかをまとめます。

 

☆アルバム

  アメリ イギリス ドイツ オーストラリア 日本 韓国
Love Yourself 轉 'Tear' 1 8 17 6 1 1

 

☆シングル

  アメリ イギリス ドイツ オーストラリア 日本 韓国
FAKE LOVE 10 42 56 36 5 1
The Truth Untold - - - 100 - 7
Anpanman - - - - 34 34
Airplane pt.2 - - - - 87 37
134340 - - - - - 25
Paradise - - - - - 23
Love Maze - - - - - 28
Magic Shop - - - - - 32
So What - - - - - 44
Intro: Singularity - - - - - 54
Outro: Tear - - - - - 65

※ - はランキング圏外を表します。

 

 「主要国」には音楽市場規模が上位のアメリカ、日本、ドイツ、イギリス、に加えて第三の英語圏オーストラリア、そしてBTSの拠点地・韓国を選びました。

 日本には主要チャートにビルボードオリコンがありますが、ここではアルバム・シングルともにビルボードのチャートを採用しています。

 ちなみに国によってYouTubeがシングルチャートの集計対象に入っていたり入っていなかったりします。

 ビルボード系のチャートではYouTubeが集計対象になっているので、これに当てはまるアメリカや日本では、”FAKE LOVE"の順位が高めになっています。

 主にストリーミングでの人気によってシングルの”FAKE LOVE"以外の曲でもチャート入りしている場合があるようですね!

 

・USチャートで成し遂げた記録 ~アルバム編~

  BTSが今回のアルバムで注目された理由、それはやはりUSのアルバムチャートで1位を獲得したことだと思います!USチャートはビルボードという音楽誌によって管理されていて、「ビルボード」という言葉自体がチャートを指しているケースもあります。世界で最も知名度・影響力のあるチャートでBTSの”MIC Drop"の歌詞にも登場します!

ごめんね Billboard
ごめんね worldwide
人気あり過ぎてごめんねママ

※ 歌詞サイト Genius より

 

 その「USアルバム1位」がどのような記録なのか、記事とともに説明します。

BTSが初のアルバム1位を獲得!

 

  まず、現行のUSアルバムチャートがどのように集計されているかを説明します。現在USのアルバムチャートは純売り上げ + ストリーミング + シングルのダウンロードから成り立っています。

 「ストリーミング」では1500回再生で1枚アルバムが売れたとカウントされます。ただし、シングルで聴くことが前提となっているYouTubeのストリーミングはここではカウントされませんSpotifyApple Musicなどの「選択型ストリーミング」(On-Demand Streaming と呼ばれる)のストリーミングのみ集計されます。 ”FAKE LOVE"のビデオ再生はアルバムチャートには反映されていないのです。

 「ダウンロード」はシングルが10回ダウンロードされると、1枚アルバムが売れたとカウントされます。

 ちなみに「ストリーミング」も「ダウンロード」もアルバムの曲数に関わらず、1500再生=1枚や、10DL=1枚は固定なので、現行のアルバムチャートでは曲数の多いアルバムがやや有利という傾向があります。

 

 このアルバムチャートで、”Love Yourself 轉 'Tear' ”は約135,000枚相当の売り上げを記録し、見事にアルバムチャートの1位に立ちました!うち、「純売り上げ」は100,000枚、「ストリーミング」は26,000、「ダウンロード」は9,000を記録していました。

 ストリーミングを中心に大きくポイントを稼ぎ、その前の週まで3週連続でアルバム1位を獲得していたPost Maloneの”Beerbongs & Bentleys"とのアルバム首位争いを制したのです。そのBeer~はこの週約123,000枚のセールスを記録。

 BTSはファンの熱意が反映されたアルバムセールス、多くの人のBTSへの興味が伺えるストリーミングなどが重ね合わさり、僅差のアルバム1位レースを制したのです!

 このアルバム1位によっていくつか珍しい記録を打ち立てました。

 

史上5人(組)目、かつ12年ぶりの「英語ではない」作品によるアルバム1位

 アルバムチャートでは、その土地に根付いたファンが多くアルバムを購入するため、どうしても地元のアーティストが強くなりがちです。それが、英語以外の作品ともなれば、尚更ハードルは高くなります。その高いハードルを、今回BTSは越えました!歴代で5人(組)しかいない、という点が今回のBTSのアルバム1位の偉業ぶりを物語ります。

 

・初の「ワールドアルバム」による、USアルバム1位。

 「ワールドアルバム」とは何か。ビルボードは↑の記事でこう説明しています。 

(World albums can include titles that feature Hawaiian, Cuban, Celtic, European, Asian, Middle-Eastern, African, and South American music, in addition to any other music style that is native to lands outside of the contiguous United States.)

 ここでアジアも「ワールドアルバム」に含まれると書いてあるので、今回のBTSのアルバム1位はアジア圏では初の出来事ということが推察できます。そしてもちろん、K-Popとしても初のUSアルバム1位、ということにもなります!

 

・USチャートで成し遂げた記録 ~シングル編~

  次に、USシングルチャートです。ビルボードのこのチャートは、上記のアルバムチャートと並んで、世界で最も注目されているチャートといえると思いますそのシングルも、どのような成績か見ていこうと思います。

 

BTSの”FAKE LOVE"、29,000DLと2740万ストリーミングを記録し10位に登場

 この週のシングル1位がDrakeなので、記事のサムネイルはDrakeですが、記事の最後にしっかりBTSの内容が書かれています。

 現在のUSチャートはDL + ラジオ + ストリーミングで集計されているのですが”FAKE LOVE"はそのうちの、DLとストリーミングを大きく稼いで上位デビューを果たしました。

 ストリーミングのうち大きな割合を占めているのはYouTubeで、この週YouTube再生数がアメリカで6番目に多い数字を記録していました! (参考

 一方、ラジオからはほとんどポイントを得ていないと思います。ラジオはいきなりは伸びず、世間の浸透度に合わせて「だんだん」再生数が伸びていくので、よほどの大物の曲では無い限り、リリース直後にいきなり数字が伸びることは少ないです。

 BTSはシングルチャートでも、珍しい記録をいくつか樹立しました。

 

・史上17曲目の非英語曲によるトップ10

 シングルでも非英語曲が上位に入ることは珍しいです。主に英語以外*1の言語が使われた曲としては、”FAKE LOVE"は歴代で17曲目のUSトップ10を記録した曲となりました!

  ちなみにその17曲のうち、スペイン語が6曲、ドイツ語が3曲、韓国語が3曲、イタリア語が2曲、フランス語が2曲、日本語が1曲。

 

List of K-pop songs on the Billboard charts - Wikipedia

・史上9曲目のK-PopのHot 100エントリー

 K-PopがUSのシングルチャート、Hot 100にエントリーするのは これで9曲目に。”Gangnam Style"が世界的なインパクトを残して以降、着実にK-Popが勢力を伸ばしている様子が分かります。

アーティスト 曲名 ピーク位
2009 Wonder Girls Nobody 76
2012 PSY Gangnam Style 2
2013 PSY Gentleman 5
2014 PSY feat. Snoop Dogg Hangover 26
2015 PSY feat. CL Daddy 97
2016 CL Lifted 94
2017 BTS DNA 67
2017 BTS feat. Desiigner MIC Drop 28
2018 BTS FAKE LOVE 10

 

 

YouTubeで成し遂げた記録

・ビデオのリリース後24時間で、YouTube歴代で3番目に多い再生数を記録

 ”FAKE LOVE"のビデオがリリース後24時間で約3590万再生を記録!その数字が歴代で3番目に多い、という記録です。

 YouTube歴代でリリース後24時間の再生数が最も多いのはTaylor Swiftの”Look What You Made Me Do"、2番目は同じくK-Pop、Psyの”Gentleman"です。ちなみにこの記録の9位はBTSの”DNA"です。(約2230万再生)

  ちなみに、YouTubeでは、リリース直後が一番注目度が高いため、リリース後24時間の再生数ランキングが同時に「1日あたりのYouTube再生数ランキング」とほぼ同じになります。(ただし”Despacito"のオリジナルバージョンだけは、リリース直後以外のタイミングで約2570万再生を記録している)

 つまり”FAKE LOVE"は同時に「YouTubeで1日あたりの再生数が歴代で3番目に多い曲」となっています。

 

Spotifyなど、ストリーミングサービスで成し遂げた記録

  アルバムチャートの項で述べたように、近年はストリーミングの重要性が上昇しています。ここでは”FAKE LOVE"のSpotifyでの成績を見てみたいと思います。

 Spotifyは世界最大規模のストリーミングサービスで、国によってはSpotifyのランキングとシングルチャートがかなり似たような並びになるようなケースもあります。また、Apple Musicと比べるとランキングを広く公表している、という特徴があります。

 

 週間再生数ランキング 世界合計 アメリ イギリス ドイツ オーストラリア 日本
FAKE LOVE 14 21 62 80 39 1

 Spotifyのランキングでは「世界合計」という概念があります。シングルチャートでは「世界ランキング」のようなものはあまり無いので、「世界全体で今何が流行っている?」ということを調べるときには、Spotifyのグローバルランキング(世界合計)を見てみると良いかもしれません。

 ”FAKE LOVE"は世界合計、そしてこの5カ国でBTSにとって最も高い成績を記録しています!ちなみに韓国ではSpotifyが解禁されていないため、韓国のランキングはありません。

 日本のSpotifyで”FAKE LOVE"は週間1位に立っていますが、他にもインドネシアシンガポール、マレーシア、台湾、タイ、香港、ブルガリアで”FAKE LOVE"はSpotify再生数週間1位を獲得しています!アジア圏の国が中心ですが、ブルガリアは意外ですね。(ただしブルガリアの再生数の規模はかなり小さいみたいです)

 ちなみにApple Musicのランキングでは、リリース以降ずっと韓国で1位のようです。(日本でも昨日までずっとApple Musicで一位でしたが、今日”Shape of You"に抜かされてしまった)

 

・個人的な考察① BTSのファンはチャートをよく理解している?

  ここからは個人的な考察を少ししていこうと思います!

 気になったのはリリース直後、アルバム全曲がiTunesシングルチャートで上位を独占したことです!リリース初日では、アルバム全曲アメリカのiTunesシングル上位30位以内に入りました! (参考

 これはよく考えると金銭的には不合理な行動なのです。シングルの”FAKE LOVE"だけを購入するならともかく、アルバム全曲をシングルでダウンロードするならば、一括でアルバムをダウンロードしてしまったほうが便利ですし、安く済みます。

 しかし、それでもアルバム全曲がiTunesシングルチャート上位に入ったのは、チャート戦略を狙っているだからだと思われます。

 シングル以外の「アルバム曲」をDLすれば、純粋にそれらの曲がシングルチャートで上位に浮上するだけではなく、アルバムチャートでも有利になります。

 アルバムチャートの項目で述べたように、現行のUSアルバムチャートでは シングル10ダウンロード=1枚のアルバムセールスとカウントされます。つまり、iTunesでシングルをDLする行動は、シングル・アルバムチャート両方に影響力を及ぼせる行動なのです。

 さらに注目なのは”Love Yourself 轉 'Tear' ”の曲数です。このアルバムは11曲なので、アルバム全曲を手に入れる時アルバムごとダウンロードするよりも、シングルを1曲ずつダウンロードしたほうがアルバムチャートには貢献できるのです!(11曲DLは1.1枚アルバムが売れたとカウントされるので)

 実際どこまで考えてBTSのファンはシングルダウンロードをしたのかは分かりませんが、「ファンがチャートをよく理解している」ことはBTS躍進の理由の一つと考えても良いと思います。

 現在も各記録に向けてファンがチャートの仕様についての情報を交換しているようです!

 

 

・個人的な考察② ポップスアルバムの最先端かも??

 近年、ストリーミングの隆盛がフォーカスされています。アルバムチャートでは現在、ストリーミングが強いアルバムが上位に入るように、ストリーミングの影響力は拡大中です。この理由から、私はここ最近ストリーミングとアルバムの関係性をよく考察しているのですが、BTSの今回のアルバムはストリーミングと相性が良いように思いました。(実際USのSpotifyではリリース日、アルバム全曲がランキング入りした)

 ストリーミングでは「なんとなーく」人気を集めているラジオで人気のアーティストよりも、ファンが「濃い」アーティストのほうがストリーミングで人気を集める傾向にあります。さらに、「シングル集合体」のようなアルバムよりも、アルバム全体で作り込んでいるアルバムのほうがストリーミングでは人気が出やすいです。 

 最近その特徴がよく出ていたのはJ. Coleのアルバムです。J. Coleはチャートにストリーミングが導入される以前はシングルトップ10を記録していませんでしたが、アルバムには多くの人気が集まり、直近のアルバム”KOD"からは、ほぼストリーミングのみで3曲がシングルトップ10入りを果たしたのです!

 さらに驚異的だったのはボイスメッセージが中心で、アルバムの流れで聞かないと意味が薄い ”Intro"ですらシングルチャートの53位に入ったのです!

 BTSは元より「ファンの濃さ」を持っていましたが、今回の”Love Yourself 轉 'Tear' ” は、「アルバムとしての作り込み」も意識されていたと思います!

 その二つが融合した結果、セールスだけではなくストリーミングでも一定の支持を得たのだと思います!ポップスのアルバムはストリーミングで苦戦するケースも多いですが、今回のBTSの成功は他のポップスアーティストにとっても見習うべきポイントが多いかもしれません!

 今回のアルバム1位は「ファンの強さ」以外にも、複数の要因が絡んで達成された、そう言っても良いと思います。

 

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K-Popファンの熱意がすごい……!)

List of K-pop songs on the Billboard charts - Wikipedia (シングル編)

List of K-pop albums on the Billboard charts - Wikipedia (アルバム編)

List of K-pop on the Billboard charts - Wikipedia (その他のチャート編)

 

 

*1:「主なパート」というのは、メインのアーティストが英語かどうか、で判別されていると思います。例えば今年トップ10入りしたCardi Bの”I Like It”は半分以上のパートがスペイン語ですが、メインのCardi Bが英語で歌っているため、この「非英語曲」にカウントされていません