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アルバムチャートは純粋なセールス以外で勝負する時代? 【USアルバムチャートのここ4年の変化】

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☆現在USなどのアルバムチャートはセールス以外にもストリーミングなどを合わせて 集計されています。そのアルバムチャートを見ていると、「セールス」の比率が下がってきているな、と感じることが増えたので、それについてまとめました。

 

 2014年の末から、アメリカのアルバムチャートでは、セールス以外の項目が集計の対象となっています。具体的には……

シングルのダウンロード 10曲=1アルバムセールス

ストリーミング 1500回=1アルバムセールス 

 

(アルバム内の曲をどれでも1回再生すれば、カウント。つまり一つの曲だけ1500回再生されても1アルバムが売れたとカウントされる) 

 つまり、アルバムをシングル単位に分解して、アルバムチャートに反映させるということです。

 これらのセールス・シングルダウンロード・ストリーミングの3つを合計した数値を「総合値」 (Equivalent Sales)とし、アルバムチャートやディスク認定(プラチナ、ゴールド……などの)に使用されます。

 

↓(これがルール変更が実施されたときの記事です)

 

 シングルのダウンロードはもちろん、当時はストリーミングも「シングル消費思考」が強いと考えられていて、このルール実施当時は「シングルが強いアーティスト」がアルバムチャートで有利になると考察されていました。

 ビルボードはこの時、シングルヒットを飛ばしていたMaroon 5とHozier、Ariana Grandeを具体的な名前として挙げています。記事のサムネがAriana Grandeなのはそれが理由です。

 

 2018年7月~、このルールに変更が加えられます。ストリーミングは今まで一律1500再生=1アルバム という換算でしたが、来週からは 「有料ユーザー」は1250再生=1アルバム 「無料ユーザー」は3750再生=1アルバムという計算に変わります! 

 ストリーミングの台頭に伴い、影響力が強くなったので、ストリーミングを細分化してより正確なチャートを目指そうという意気込みが伺えます。

 そのルール変更についての記事はこちら↓

 

 今回は、そのルール変更を前に、今までのルールを振り返りたいと思います。

 最近のアルバムチャートを見ていると、セールスの影響力あ小さい と感じることが増えたので、アルバムチャートでセールスが占める割合はどれくらいか? ということを調査していきます。

 調査は、2015年以降のUSの週間アルバム1位の、3つを合わせた「総合値」のうち、セールスが何割を占めているか?という方法で行いたいと思います。

 「総合セールス」や「純セールス」の数字はビルボードの記事に毎週記載されています。(その記事の例↓)

 

 

凡例

・アルバム名 [アーティスト] [同]はセルフタイトル

・トータル=純セールス、ストリーミング、シングルDLをすべて合わせた合計値

・セールス=純セールスの数字

・率=トータルのうち、「純セールス」が占める割合

・🎫=チケット付きCD(または音源)を行ったアルバム (後述) *2

・色については↓

セールスの割合が95%を超えている
セールスの割合が50%を割っている

 

 

 2015

2015 アルバム名 トータル セールス
1/3 1989 [Taylor Swift] 375,000 331,000 88.3%
1/10 430,000 326,000 75.8%
1/17 244,000 172,000 70.5%
1/24 155,000 111,000 71.6%
1/31 Title [Meghan Trainor] 238,000 195,000 81.9%
2/7 American Beauty/American Psycho [Fall Out Boy] 218,000 192,000 88.1%
2/14 1989 [Taylor Swift] 101,000 71,000 70.3%
2/21 108,000 77000 71.3%
2/28 If You're Reading This It's Too Late [Drake] 535,000 495,000 92.5%
3/7 Smoke + Mirrors [Imagine Dragons] 195,000 172,000 88.2%
3/14 Dark Sky Paradise [Big Sean] 173,000 139,000 80.3%
3/21 Piece by Piece [Kelly Clarkson] 97,000 83,000 85.6%
3/28 Empire: Original Soundtrack from Season 1 [サントラ] 130,000 110,000 84.6%
4/4 To Pimp a Butterfly [Kendrick Lanar] 363,000 324,000 89.3%
4/11 123,000 107,000 87.0%
4/18 The Album About Nothing [Wale] 100,000 88,000 88.0%
4/25 Furious 7 [サントラ] 111,000 45,000 40.5%
5/2 Handwritten [Shawn Mendes] 119,000 106,000 89.1%
5/9 Sound & Color [Alabama Shakes] 97,000 91,000 93.8%
5/16 Jekyll + Hyde [Zac Brown Band] 228,000 214,000 93.9%
5/23 Wilder Mind [Mumford & Sons] 249,000 231,000 92.8%
5/30 Pitch Perfect 2 [サントラ] 107,000 92,000 86.0%
6/6 Blurryface [Twenty One Pilots] 147,000 134,000 91.2%
6/13 At. Long. Last. ASAP [A$AP Rocky] 146,000 117,000 80.1%
6/20 How Big, How Blue, How Beautiful [Florence + The Machine] 137,000 128,000 93.4%
6/27 Drones [Muse] 84,000 79,000 94.0%
7/4 Before This World [James Taylor] 97,000 96,000 99.0%
7/11 Dark Before Dawn [Breaking Benjamin] 141,000 135,000 95.7%
7/18 Dreams Worth More Than Money [Meek Mill] 246,000 215,000 87.4%
7/25 42,000 不明 不明
8/1 Black Rose [Tyrese] 86,000 83,000 96.5%
8/8 DS2 [Future] 151,000 126,000 83.4%
8/15 Woman [Jill Scott] 62,000 58,000 93.5%
8/22 Descendants [サントラ] 42,000 30,000 71.4%
8/29 Kill the Lights [Luke Bryan] 345,000 320,000 92.8%
9/5 99,000 83,000 83.8%
9/12 Immortalized [Disturbed] 98,000 93,000 94.9%
9/19 Beauty Behind the Madness [The Weeknd] 412,000 326,000 79.1%
9/26 145,000 77,000 53.1%
10/3 99,000 48,000 48.5%
10/10 What a Time to Be Alive [Drake & Future] 375,000 334,000 89.1%
10/17 Fetty Wap [同] 129,000 75,000 58.1%
10/24 Unbreakable [Janet Jackson] 116,000 109,000 94.0%
10/31 Revival [Selena Gomez] 117,000 85,000 72.6%
11/7 Pentatonix [同] 98,000 88,000 89.8%
11/14 Sounds Good Feels Good [5 Seconds of Summer] 192,000 179,000 93.2%
11/21 Traveller [Chris Stapleton] 177,000 153,000 86.4%
11/28 124,000 97,000 78.2%
12/5 Purpose [Justin Bieber] 649,000 522,000 80.4%
12/12 25 [Adele] 3,480,000 3,380,000 97.1%
12/19 1,160,000 1,110,000 95.7%
12/26 728,000 695,000 95.5%

(7/25は、音楽リリースが月曜日から金曜日に移る過程のチャートで、4日間集計という特殊なチャートになっている)

 

 2014年末にスタートされたアルバムチャートの「総合セールス」。その(ほぼ)初年度に当たる2015年は、セールスの比率が高いアルバムが1位になる傾向がありました。

 2015年はシングルヒットがあり、ダウンロードで強いアルバムが「セールス以外」の数値を伸ばす傾向にありました。

 シングルがバラ売りされる傾向が強い、サウンドトラックの"Furious 7"のセールス割合が一番低いことが特徴的です。(”See You Again"の人気に牽引されたのだと思われる)

 テイラーがシングルのDL人気によって(この時"1989"はストリーミングで解禁されておらず、ストリーミングのポイントは無し) アルバムセールス以外の数値をある程度稼ぐ一方、現在ではストリーミングでかなりの数字を稼ぐDrakeやKendrick Lamarが、アルバムセールスの割合が高いことが特徴的。(90%前後)

 2015年はまだアルバムチャートにおいてストリーミングの存在感は薄く、それよりも人気シングルのダウンロードがアルバムチャートに影響を及ぼしている、という印象です。

 ただし、年の後半にはFetty WapやThe Weekndなど、ストリーミングで数字をある程度稼ぐ新星の出現し始めています。

 

2016

2016 アルバム名 トータル セールス
1/2 25 [Adele] 825,000 790,000 95.8%
1/9 1,190,000 1,160,000 97.5%
1/16 363,000 307,000 84.6%
1/23 194,000 164,000 84.5%
1/30 Blackstar [David Bowie] 181,000 174,000 96.1%
2/6 Death of a Bachelor [Panic! At the Disco] 190,000 169,000 88.9%
2/13 25 [Adele] 116,000 97,000 83.6%
2/20 Anti [Rihanna] 166,000 124,000 74.7%
2/27 Evol [Future] 134,000 100,000 74.6%
3/5 25 [Adele] 151,000 125,000 82.8%
3/12 100,000 81,000 81.0%
3/19 I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful yet So Unaware of It [The 1975] 108,000 98,000 90.7%
3/26 untitled unmastered. [Kendrick Lamar] 178,000 142,000 79.8%
4/2 Anti [Rihanna] 54,000 17,000 31.5%
4/9 This Is What the Truth Feels Like [Gwen Stefani] 84,000 76,000 90.5%
4/16 Mind of Mine [Zayn] 157,000 112,000 71.3%
4/23 The Life of Pablo [Kanye West] 94,000 28,000 29.8%
4/30 Cleopatra [The Lumineers] 125,000 108,000 86.4%
5/7 The Very Best of Prince [Prince] 179,000 100,000 55.9%
5/14 Lemonade [Beyoncé] 653,000 485,000 74.3%
5/21 Views [Drake] 1,040,000 852,000 81.9%
5/28 313,000 175,000 55.9%
6/4 239,000 83,000 34.7%
6/11 189,000 50,000 26.5%
6/18 152,000 37,000 24.3%
6/25 135,000 32,000 23.7%
7/2 121,000 27,000 22.3%
7/9 124,000 33,000 26.6%
7/16 111,000 25,000 22.5%
7/23 California [Blink-182] 186,000 172,000 92.5%
7/30 Views [Drake] 92,000 16,000 17.4%
8/6 89,000 16,000 18.0%
8/13 85,000 16,000 18.8%
8/20 Major Key [DJ Khaled] 95,000 59,000 62.1%
8/27 Suicide Squad: The Album [サントラ] 182,000 128,000 70.3%
9/3 93,000 50,000 53.8%
9/10 Blonde [Frank Ocean] 276,000 232,000 84.1%
9/17 Encore: Movie Partners Sing Broadway [Barbra Streisand] 149,000 148,000 99.3%
9/24 Birds in the Trap Sing McKnight [Travis Scott] 88,000 53,000 60.2%
10/1 They Don't Know [Jason Aldean] 138,000 131,000 94.9%
10/8 Views [Drake] 53,000 8,000 15.1%
10/15 Illuminate [Shawn Mendes] 145,000 121,000 83.4%
10/22 A Seat at the Table [Solange] 72,000 46,000 63.9%
10/29 Revolution Radio [Green Day] 95,000 90,000 94.7%
11/5 Walls [Kings of Leon] 77,000 68,000 88.3%
11/12 Joanne [Lady Gaga] 201,000 170,000 84.6%
11/19 Trap or Die 3 [Young Jeezy] 89,000 73,000 82.0%
11/26 This House Is Not for Sale [Bon Jovi] 129,000 128,000 99.2%
12/3 We Got It from Here... Thank You 4 Your Service [A Tribe Called Quest] 135,000 112,000 83.0%
12/10 Hardwired... to Self-Destruct [Metallica] 291,000 282,000 96.9%
12/17 Starboy [The Weeknd] 348,000 209,000 60.1%
12/24 The Hamilton Mixtape [サントラ] 187,000 169,000 90.4%
12/31 4 Your Eyez Only [J. Cole] 492,000 363,000 73.8%

 

 年の初期はAdeleがアルバムチャートを支配。100万を超える週もあり、圧倒的な「純セールス」でアルバムチャートを牽引しました。

 ほかのアルバムもセールスの割合が高い作品が多かったのですが。そこに一石を投じたのはKanye Westの”The Life Of Pablo"でした。

  この作品はiTunesでリリースされず、ダウンロードするにはカニエの公式サイトからのみ。また、カニエは「アルバムは生きている」などと主張し、アルバムに何かしらの変化を加えることを示唆。(実際に1曲アルバムに追加された) ストリーミング時代の新たな「アルバム像」を提示したのです。

 その結果、DLは低めながらも高いストリーミングを獲得し、初めてストリーミングに牽引されたアルバム1位が誕生したのです。(アルバム1位を獲得したのはApple MusicやSpotifyで開放されたタイミング。その以前はTidal「のみ」でリリースされていた)

 ストリーミングの隆盛はさらに続きます。アルバムチャートがストリーミングによって左右される、その印象が決定的となったのはDrakeの”Views"です。

 リリース最初の週は852,000とセールスも圧倒的で、一般的なアルバム1位と比率は大差無かったですが、真の姿を現したのは3週目以降。

 圧倒的なストリーミングによってアルバム1位の座をなかなか譲りませんでした。リリースから9週連続1位と、圧倒的な強さを発揮したのです。

 途中の週にはAriana Grandeなど有名どころもアルバムをリリースしましたが、セールスの差をひっくり返す圧倒的なストリーミングで1位をキープし続けました。

 ビルボードはアルバムチャートに関する記事で、今までは「純セールス」の数値しか明言してきませんでしたが、”Views"がストリーミングの強さでアルバムチャートを制し続けたことを受け、6/18からストリーミングの数値も明言するようになりました。

 

 この”Views"の圧倒的なアルバムチャート制圧によって、「ストリーミングはアルバムチャートを動かす」という印象を決定づけました。

 1位ラストの週では「総合セールス」のうち「純セールス」の占める割合が15.1%まで落ちています。

 ”Views"はDrakeがストリーミングで人気のアーティスト、というだけでなく「曲数が多い」という点でもアルバムチャートで有利でした。

 アルバムチャートでは、「アルバムの曲数にかかわらず」 1500ストリーミング=1枚セールス なので、曲数が多ければ多いほど、アルバムチャートでは有利ということになります。 この”Views"は20曲収録、と大所帯アルバムのです。

 この点に目をつけて、The Weekndの”Starboy"、同じくDrakeの”More Life"など曲数の多いアルバムが”Views"以降にいくつか見られるようになりました。

 Pitchforkはこの「チャート戦略を意識した曲数の多いアルバム」について考察記事を2016年に書いています。

 

 2017

2017 アルバム名 トータル セールス
1/7 A Pentatonix Christmas [Pentatonix] 206,000 185,000 89.8%
1/14 101,000 82,000 81.2%
1/21 Starboy [The Weeknd] 69,000 18,000 26.1%
1/28 63,000 14,000 22.2%
2/4 61,000 13,000 21.3%
2/11 56,000 8,000 14.3%
2/18 Culture [Migos] 131,000 44,000 33.6%
2/25 I Decided. [Big Sean] 151,000 65,000 43.0%
3/4 Fifty Shades Darker: Original Motion Picture Soundtrack 123,000 72,000 58.5%
3/11 Future [同] 140,000 60,000 42.9%
3/18 Hndrxx [Future] 121,000 48,000 39.7%
3/25 ÷ [Ed Sheeran] 451,000 322,000 71.4%
4/1 180,000 87,000 48.3%
4/8 More Life [Drake] 505,000 225,000 44.6%
4/15 226,000 43,000 19.0%
4/22 136,000 16,000 11.8%
4/29 Memories...Do Not Open [The Chainsmokers] 🎫 221,000 166,000 75.1%
5/6 DAMN. [Kendrick Lamar] 603,000 353,000 58.5%
5/13 239,000 89,000 37.2%
5/20 173,000 57,000 32.9%
5/27 Everybody [Logic] 247,000 196,000 79.4%
6/3 Harry Styles [同] 230,000 193,000 83.9%
6/10 One More Light [Linkin Park] 🎫 111,000 100,000 90.1%
6/17 True to Self [Bryson Tiller] 107,000 47,000 43.9%
6/24 Hopeless Fountain Kingdom [Halsey] 106,000 76,000 71.7%
7/1 Witness [Katy Perry] 🎫 180,000 162,000 90.0%
7/8 Melodrama [Lorde] 109,000 82,000 75.2%
7/15 Grateful [DJ Khaled] 149,000 50,000 33.6%
7/22 70,000 16,000 22.9%
7/29 4:44 [Jay-Z] 262,000 174,000 66.4%
8/5 87,000 61,000 70.1%
8/12 Lust for Life [Lana Del Rey] 107,000 80,000 74.8%
8/19 Everything Now [Arcade Fire] 🎫 100,000 94,000 94.0%
8/26 DAMN. [Kendrick Lamar] 47,000 11,000 23.4%
9/2 Rainbow [Kesha] 🎫 117,000 90,000 76.9%
9/9 Science Fiction [Brand New] 🎫 58,000 55,000 94.8%
9/16 Luv Is Rage 2 [Lil Uzi Vert] 135,000 28,000 20.7%
9/23 American Dream [LCD Soundsystem] 🎫 85,000 81,000 95.3%
9/30 Life Changes [Thomas Rhett] 123,000 94,000 76.4%
10/7 Concrete and Gold [Foo Fighters] 127,000 120,000 94.5%
10/14 Wonderful Wonderful [The Killers] 🎫 118,000 111,000 94.1%
10/21 Now [Shania Twain] 🎫 137,000 134,000 97.8%
10/28 Perception [NF] 55,000 38,000 69.1%
11/4 Beautiful Trauma [P!nk] 🎫 408,000 384,000 94.1%
11/11 Flicker [Niall Horan] 🎫 152,000 128,000 84.2%
11/18 Live in No Shoes Nation [Kenny Chesney] 🎫 219,000 217,000 99.1%
11/25 The Thrill of It All [Sam Smith] 237,000 185,000 78.1%
12/2 Reputation [Taylor Swift] 1,238,000 1,216,000 98.2%
12/9 256,000 232,000 90.6%
12/16 147,000 131,000 89.1%
12/23 Songs of Experience [U2] 186,000 180,000 96.8%
12/30 What Makes You Country [Luke Bryan] 108,000 99,000 91.7%

 ※Katy Perryについて *3

 

 昨年からの「ストリーミング旋風」は続行。リリースから2ヶ月経ってもThe Weekndの”Starboy"がストリーミングの人気によってアルバム1位を支配し続けていることが特徴的です。

 2月・3月になってもMigosやBig Sean、Drakeなどがストリーミング人気によってアルバムチャートを牽引し、この傾向は続いていきます。

 "More Life"の3週目は、「総合セールス」における「純セールス」の割合が11.8%と驚異的な数字を記録しています。そのうち純セールスの割合が10%を下回る1位アルバムも誕生するのでしょうか??

 しかし、そんな「ストリーミング強し」の時代に新しい潮流が誕生します。それは「チケット付きCD」です。 ライブのチケットにCDを付けることで、アルバムチャートの成績を伸ばそう!という戦略です。CDを買えば、その分ある程度チケットの値段を値引く、またはCD購入に応じてチケット購入の優先権を得る、またはCDでなくデジタル音源購入でチケット値引き、などパターンは様々あります。

 これを最初に使ったのはThe Chainsmokers。チケット付きCDが無くてもアルバム1位を獲得できそうな彼らがこの戦略を使ったのは意外でしたが、チケット付きCDは2017年後半になるとかなり流行します。

 特にこれを利用したのは、ストリーミングの数字があまり期待のできないベテランのアーティスト(主にロック系統)で、9人(組)のアーティストが2017年の後半に、チケット付きCDによってアルバム1位を獲得しました。

 LCD SoundsystemやBrand Newなどは、この「チケット付きCD」によって初のアルバム1位を獲得しています。

 チケット付きCDで、今までアルバムチャートでスポットライトの当たらなかったLCD Soundsystemなどのインディーアクトが上位に躍り出ることは、意義深いのですが、チケット付きCDを使ったアルバムは、初週の反動で2週目にガクッと数字を落とす傾向にあります。

 アルバム1位とは言っても、結局最終的にはどれくらいのヒットだったのか?ということを年間チャートなどで再確認する必要もあるかもしれません。

 

 このようにアルバムチャートにおける戦略が多様化した2017年。アルバムチャートでは29週で「ストリーミングでセールス1位を抜いたアルバム」か「チケット付きCDのアルバム」が 「総合セールス」でアルバム首位に躍り出ています。

 つまり、半分以上の週で、「純粋な」セールス1位がアルバムチャートの1位に立てていない、ということになります。

 いかに「聴かれている」かのストリーミング、いかに「熱心なファンが多いか」のチケット付きCD……アルバムチャートは「アーティストの総合力」が問われる時代になってきたと感じます。

 

 2018

2018 アルバム名 トータル セールス
1/3 Revival [Eminem] 267,000 197,000 73.8%
1/6 Reputation [Taylor Swift] 107,000 79,000 73.8%
1/13 The Greatest Showman [サントラ] 106,000 78,000 73.6%
1/20 104,000 70,000 67.3%
1/27 Camila [Camila Cabello] 119,000 65,000 54.6%
2/3 Mania [Fall Out Boy] 130,000 117,000 90.0%
2/10 Culture II [Migos] 199,000 38,000 19.1%
2/17 Man of the Woods [Justin Timberlake] 293,000 242,000 82.6%
2/24 Black Panther: The Album [サントラ] 154,000 52,000 33.8%
3/3 131,000 40,000 30.5%
3/10 This House Is Not for Sale [Bon Jovi] 🎫 120,000 120,000 100.0%
3/17 Black Panther: The Album [サントラ] 76,000 15,000 19.7%
3/24 Bobby Tarantino II [Logic] 119,000 32,000 26.9%
3/31 ? [XXXTENTACION] 131,000 20,000 15.3%
4/7 Boarding House Reach [Jack White] 🎫 124,000 121,000 97.6%
4/14 My Dear Melancholy, [The Weeknd] 169,000 68,000 40.2%
4/21 Invasion of Privacy [Cardi B] 255,000 103,000 40.4%
4/28 Rearview Town [Jason Aldean] 🎫 183,000 162,000 88.5%
5/5 KOD [J. Cole] 397,000 174,000 43.8%
5/12 Beerbongs & Bentleys [Post Malone] 461,000 153,000 33.2%
5/19 193,000 24,000 12.4%
5/26 147,000 18,000 12.2%
6/2 Love Yourself: Tear [BTS] 135,000 100,000 74.1%
6/9 Shawn Mendes [同] 182,000 142,000 78.0%
6/16 Ye [Kanye West] 208,000 85,000 40.9%
6/23 Come Tomorrow [Dave Matthews Band] 🎫 292,000 285,000 97.6%
6/30 Youngblood [5 Seconds of Summer] 🎫 142,000 117,000 82.4%
7/7 Pray for the Wicked [Panic! At the Disco] 🎫 180,000 151,000 83.9%

 ※1/3→1/6は、ビルボードのチャートの日付変更の過程で、少し特殊な日程になっていますが、集計は1週間分されています(12/15 ~ 12/21=1/3付けのチャート、12/22~12/28 = 1/6付けのチャート)

 

  昨年からの「ストリーミング」と「チケット付きCD」という2大潮流は変わらず。今年のアルバム1位のうち、半数くらいが総合セールスにおける純セールスの割合が半分を下回っています。

 さらに2018年の中旬あたりからグッズに音源を付けるという戦略も台頭してきました。これはグッズを買うと、音源もおまけで付いてきて、グッズを手に入れたうえでアルバムチャートにも貢献できる、というお得?なシステムです。2018年後半ではチケットと同じくらいこの「グッズ戦略」が見られました

  ちなみに、チケット付きCDの効果でアルバム1位に返り咲いたBon Joviは「セールスほぼ100%」という珍しい記録を達成。ただし前述のように、チケット付きCDでは次週に息が続かない傾向があり、Bon Joviはこの週、「アルバム1位から、次週最もアルバムチャートの順位を落としたアルバム」という珍しい記録を作りました。

 

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↑アルバム1位の次週、順位を最も落としたアルバムのランキング。1位-5位がすべてチケット付きCDを利用したアルバムに。(https://en.wikipedia.org/wiki/Billboard_200#Largest_drops_from_number_one より)

 

  来週からのアルバムチャートのルール変更で、どのような変化が起こるでしょうか。ややディープな音楽チャート系のサイト、Hit Daily Doubleはこの有料 / 無料を判別するルール変更で5%-10%ストリーミングによるアルバムセールスの数字が伸びる、と試算しています。

 ↓の記事によると、Apple MusicとSpotifyのストリーミング数を合計した時、Spotifyの「無料」ユーザーによる再生数は全体の23%で、残りの77%は「有料ユーザー」だそう。この有料:1250 無料:3750のルールでは、「無料」ユーザーが25%を上回ると従来よりもストリーミングによるアルバムセールスが落ちることになるので、現状の比率だとアルバムチャートにおけるストリーミングが強くなる、という試算のようです。

 (ちなみに有料ユーザーの77%のうち、Spotifyが48%、Apple Musicが29%の再生数を占めている模様)

 

 

 このように複雑化していくアルバムチャートを今後も観察して、これからも変化を追っていきたいと思います!

 

 

おまけ

週間のストリーミングが多いアルバム・ベスト5 (2018/7/6時点)

※ストリーミングだけでアルバム何枚相当の売上に相当するか?というランキングです

※この数字を1500倍すれば、アルバムのストリーム数がだいたいわかります

 

1 Post Malone / Beerbongs & Bentleys  288,000枚相当

2 Drake / More Life 257,000枚相当

3 Kendrick Lamar / DAMN. 227,000枚相当

4 J. Cole / KOD 215,000枚相当

5 Migos / Culture Ⅱ 150,000枚相当

(ちなみに”Culture Ⅱ"の1週目よりも、”More Life"2週目のストリーミングのほうが多い =169,000枚相当)

 

※後にDrakeの”Scorpion"がこの記録を更新しています。

参考:Drakeがアルバム“Scorpion”で達成した記録まとめ + 考察・今後の予想 - チャート・マニア・ラボ (CML)

 

・ストリーミングが多い「女性」のアルバムベスト5 (週間)

※上の記録の女性版

 

1 Cardi B / Invasion of Privacy 135,000枚相当 (↑のランキングでは6位)

2 Beyoncé / Lemonade 77,000枚相当

3 Camila Cabello / Camila 38,000枚相当

4 Taylor Swift / Reputation 34,000枚相当

5 SZA / Ctrl 33,000枚相当

 

(Cardi Bは2週目以降でも、”Lemonade"のストリーミングを超えている可能性が高いです)

(BeyoncéとJay-Zのジョイントアルバム、The Cartersの”EVERYTHING IS LOVE"は49,000枚相当のストリーミングを記録。)

 

 

*1:書き込み Cdの Cd Rom コンパクト · Pixabayの無料写真 より

*2:ビルボードの記事に"Ticket" と関連付けられたと明記されているものをカウントしています

*3:その週のアルバムチャート解説の記事にはチケットについて明記されていなかったですが、後の記事 As Ticket Bundles Become a Go-To Chart Boost, Not Everyone Is Celebrating | Billboard で明記