チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Spotifyランキングから「原義に近いJ-Pop」が分かる? 【チャートを様々な角度から】

 

 

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☆チャートを様々な角度から見る試みをする記事です。今回はSpotifyと原義のJ-Popについてです。

 

 現在は「日本産ポップス」のようなニュアンスで使われることの多い「J-Pop」という言葉ですが、元々はどういった意味で使われていたのでしょうか?

 J-Popの原義についてウィキペディア(英語版)で調べてみると、「この言葉は最初、J-Waveが開局直後にピチカート・ファイヴフリッパーズ・ギターなど、洋楽に近いスタイルを持つ日本のミュージシャンのみを指す言葉として作られた」と記されています。他にも、複数の本でも「J-Popは洋楽と肩を並べられる曲を指す言葉として作られた」と複数の書籍で指摘されており*1、J-PopはJ-Waveによって提唱された「洋楽と並べても馴染むような日本産の音楽」というのが、定説のようです。

 この定義、つまり「洋楽が多く並ぶ環境の中で支持される日本産の音楽」が見つかるような環境を、各種チャートを見回っていたら私は見つけました。それはSpotifyの日本ランキングです。

 日本のSpotifyランキングがローンチされてから2年間(2016/10/17~2018/10/16)にトップ10入りした曲、全147曲のうち、日本産の曲はわずか27曲のみで、この27曲こそ、「J-Pop」という原義の意味を果たした「真のJ-Pop」ではないか?という考えが浮かびました。

 今回はそれらの曲をピックアップし、それぞれがどのようにヒットしていったのか、などを考えていくことにします。※データ参照元https://kworb.net/spotify/country/jp_daily_totals.html *2 

 

 ちなみに、直近Spotify日本のランキングのトップ10で 日本の曲:7 洋楽曲:3にも関わらず、洋楽ヒットの方が歴代で圧倒的に多いかというと、「洋楽曲はヒットのサイクルが早く、多くの曲がトップ10まで届く」「Spotifyは初期に邦楽のラインナップが少なく、洋楽人気が圧倒的だった」などが挙げられます。

※ただこの記事を作成した辺りを境に、圧倒的に邦楽が人気に=国内ユーザーにストリーミングが浸透した ので、現在はこの当時と環境がかなり違います。

 

以下がその27曲です!!

 

アーティスト ピーク リリース
DAOKO×米津玄師 打上花火 1 2017 2017
ONE OK ROCK Change 1 2018 2018
菅田将暉 さよならエレジー 1 2018 2018
Mr.Children HANABI 1 2018 2008
DA PUMP U.S.A. 1 2018 2018
サカナクション 新宝島 2 2018 2015
清水翔太 My Boo 3 2018 2016
あいみょん マリーゴールド 3 2018 2018
ONE OK ROCK Wherever you are 4 2018 2010
Superfly 愛をこめて花束を 4 2018 2008
GReeeeN 愛唄 4 2018 2007
Suchmos STAY TUNE 4 2017 2016
椎名林檎 & 宮本浩次 獣ゆく細道 4 2018 2018
[Alexandros] ワタリドリ 5 2018 2015
SEKAI NO OWARI RAIN 5 2018 2017
あいみょん 君はロックを聴かない 5 2018 2017
Mrs. GREEN APPLE 青と夏 5 2018 2018
Mr.Children Tomorrow never knows 5 2018 1994
AAA 恋音と雨空 6 2018 2013
MONGOL800 小さな恋のうた 6 2018 2001
欅坂46 ガラスを割れ! 6 2018 2018
中田ヤスタカ & 米津玄師 NANIMONO 6 2016 2016
MISIA feat. HIDE (GReeeeN ) アイノカタチ 6 2018 2018
Mrs. GREEN APPLE WanteD! WanteD! 7 2017 2017
宇多田ヒカル 花束を君に 7 2018 2016
あっこゴリラ & 向井太一 ゲリラ 7 2018 2017
AI ハッピークリスマス 8 2016 2016

 ※緑背景の曲は、リリース日とピーク日が大きく離れている曲

 

 上記の曲のヒットのパターンは大きく3つに分けられると思います。

 

① 一般的なヒット:リリース日とピーク日が近い

 曲のリリースからあまり時間をかけずにピークに達し、人気を得るという、想定されやすい「一般的なヒット」です。「打上花火」「Change」「さよならエレジー」「U.S.A.」などはこのパターンに当てはまります。

 これらはストリーミングが世間に登場してからヒットした曲なので、今後「ストリーミング期のJ-Pop」として記憶されていくかもしれません。(特に「U.S.A.」はネットでのバズがヒットの要因と言われているので、ストリーミングの象徴のように今後扱われるかも)

 このパターンの曲はリリース直後にピークが来ている場合があります。そのアーティストは「曲のリリース」自体に注目が集まり、熱心なリスナーを持つアーティストに起こりやすい現象です。海外ではこの「リリース時にピーク」の曲が非常に多いです。

 例えば、昨年のアメリカのSpotifyでトップ10入りした曲のうち、半数以上がリリース直後からトップ10圏内で登場していました。(つまり、Spotify内でヒットした曲のうち、半数以上は「リリース時から注目が集まっていた」ということ。アメリカに限っては、次第に世間に浸透して~のようなヒット形式が弱まりつつあります)

 

 

② 外的要因による過去曲ヒット

 CM放送などを受けて曲がヒットするというパターンです。このうち「ゲリラ」と「新宝島」はSpotifyのテレビCMに使われて、放送期間はかなり再生数を伸ばしていました。この2曲は放送期間中、SpotifyだけでなくApple Musicでも再生数を伸ばしていて、かなり音楽を拡散するのに役割を果たしていたようです。

 他に外的要因として挙げられるのはテレビ番組とクリスマスです。テレビ番組でストリーミングへの影響が顕著に見られたのは、今月の最初に放送されたアメトーークの「Mr.Children芸人」です。この放送を期に各ストリーミングではMr.Childrenの楽曲がランキングを急上昇し、Spotifyでは「HANABI」「Tomorrow never knows」の2曲がトップ10に到達しました。

※「HANABI」はMr.Childrenの楽曲がストリーミングで解禁された時もSpotifyのトップ10に入っていたが、アメトーークでピークを更新した。*3

 

 他にも「クリスマス」という時期的な外的イベントによって曲が再浮上するパターンも見られます。ここの表にあるのはリリース時期とピークが近いAIの「ハッピークリスマス」のみですが、この時期限定で再浮上するクリスマス曲も非常に多いです。

 

 ちなみにクリスマス期はSpotifyの再生数規模が膨らむ傾向があり、“All I Want for Christmas Is You”は昨年のクリスマスイブに日本のSpotifyの1日の再生数の記録を当時塗り替えていました。(後に訃報を受けた時のAviciiに抜かされる) 

※ほかイギリスやドイツなどでもこの傾向が見られます。アメリカでは見られません。(アメリカでは有力ラッパーのアルバムリリース時にもっとも再生数の規模が拡大します)

 

③ 「自然発掘」による過去曲ヒット

 これぞストリーミング!もっと言えばSpotifyらしい現象と言いましょうか。「愛をこめて花束を」「愛唄」などがこれに当てはまります。Spotifyや第三者が提供する多種多様なJ-Pop関連のプレイリストによって、リスナーが再び曲の良さに気づき、現在のヒット曲並のストリーミング数を記録する、という現象です。

 これらの多くは今まで少し忘れていた曲がプレイリストという「気づき」によって蘇り、リスナーの間で再び輝きはじめたというパターンが多いと思われますが、もしかしたらこれらのJ-Popを知らないような世代?がプレイリスト経由で新たに過去のJ-Popに触れ、過去の曲を「最近新しく知った曲」と消費している層も一定数いるかもしれません。

 

まとめ

 上記のような方法でJ-Popを探索したところ、最近のヒットに加え過去の曲も現在愛されている、ということが分かりました。多種多様なヒット曲が見つかり、あらゆるフィールドからの「J-Pop中のJ-Pop」を見つけた、とも言えるかもしれません。

 正直、他にも真のJ-Popとは何か?を規定する要因はあると思いますし、真のJ-Pop○曲を選ぶ!等になれば、深い知識や深い議論が必要になるとは思いますが、その一つの方法としてこのような手法を提案してみました。

 このように音楽チャートは見る角度を変えることによって様々な発見が出来るかもしれないので、皆様もぜひチャートを眺めて「何か面白いことは無いかな!?」と楽しんでみてください。

 

おまけ1 惜しかった曲

 

乃木坂46  シンクロニシティ 11
Generations Big City Rodeo 11
上白石萌音  なんでもないや 11
Officila 髭男 イズム  ノーダウト 12
ONE OK ROCK We Are 12
Suchmos 808 12
Mr. Children シーソーゲーム 12
ONE OK ROCK Bombs Away 12
乃木坂46 インフルエンサー 13
The Hotpantz Jingle Mingle Lover 13
清水翔太 Dream 14
家入レオ 君がくれた夏 14
SEKAI NO OWARI イルミネーション 14
清水翔太 君が好き 15
クリス・ハート I Love You 15
あいみょん 愛を伝えたいだとか 15
欅坂46  アンビバレント 15
三代目 J Soul Brothers RAINBOW 15
Suchmos A.G.I.T. 15

 

 トップ10で見られたような傾向が引き継がれています。ここで注目したいのはThe Hotpantzの“Jingle Mingle Lover”です。クリスマスという普段以上にプレイリストに注目が集まる時期に曲が人気を得たことで、普段の曲よりも高い順位をランキングで記録しました。(他複数曲がSpotifyの日本のランキングに登場したことがある)

 The Hotpantzは主に日本語で歌う、ポップスを志す多国籍バンドです。個人的なお気に入りは”Nowhereland” この曲の英語版 [Type B]は台湾のSpotifyランキングに入ったこともあります。

 

 

おまけ2 K-Pop

 

BTS FAKE LOVE 1
BTS DNA 2
TWICE TT (Japanese ver.) 3
TWICE One More Time ※ 3
BTS IDOL 3
BLACKPINK DDU-DU DDU-DU 4
TWICE BDZ ※ 4
TWICE Likey 5
TWICE What is Love? 5
TWICE Candy Pop ※ 5
TWICE Dance The Night Away 8
BTS Best Of Me 9
BTS Anpanman 10

※は日本オリジナルシングル

 

 K-Popはリリース時からいきなり高い順位でランキングに登場する傾向があります。ファンの間での情報収集が盛んであるということを示していると思います。

 

おまけ3 「J-Pop」英語版ウィキペディアに登場する人の描写

 

 最初に言及した「J-Pop」の英語版ウィキペディアがかなり読み物として充実していたので、良かったらこちらもチェックしてみてください!

J-pop - Wikipedia

 

 また上記の表に登場するアーティストで、一部この文中に登場しているアーティストがいたので、その記述を抜き出しました。これらのアーティストはJ-Popの歴史の一部になったアーティスト、といえるかもしれません。

 

Hide of Greeeen openly described their music genre as J-pop. He said, "I also love rock, hip hop and breakbeats, but my field is consistently J-pop. For example, hip hop musicians learn 'the culture of hip hop' when they begin their career. We are not like those musicians and we love the music as sounds very much. Those professional people may say 'What are you doing?' but I think that our musical style is cool after all. The good thing is good."

 

Mitsuhiro Hidaka of AAA from Avex Trax said that J-pop was originally derived from the Eurobeat genre.

 ※Mitsuhiro Hidaka = SKY-HI

 

Although Japanese pop music changed from music based on Japanese pentatonic scale and distortional tetrachord to the more occidental music over time, music that drew from the traditional Japanese singing style remained popular (such as that of Ringo Shiina).

 

Many artists surpassed the two-million-copy mark in the 1990s. Kazumasa Oda's 1991 single "Oh! Yeah!/Love Story wa Totsuzen ni", Chage and Aska's 1991 single "Say Yes" and 1993 single "Yah Yah Yah", Kome Kome Club's 1992 single "Kimi ga Iru Dake de", Mr. Children's 1994 single "Tomorrow Never Knows" and 1996 single "Namonaki Uta", and Globe's 1996 single "Departures" are examples of songs that sold more than 2 million copies.

 

In March 1999, Hikaru Utada released her first Japanese album, First Love, which sold 7.65 million copies, making it the best-selling album in Oricon history.

宇多田ヒカルはほか複数箇所で言及されている

 

In the late 1990s and early 21st century, female singers such as Hikaru Utada, Ayumi Hamasaki, Misia, Mai Kuraki, and Ringo Shiina became chart-toppers who write their own songs or their own lyrics.

 

Electronic music bands such as Plus-Tech Squeeze Box and Capsule were called "Neo Shibuya-kei". Yasutaka Nakata, a member of Capsule, became the song producer for girl group Perfume.

 

*1:例:『ポピュラー音楽の社会経済学』P101・『K-POP 新感覚のメディア』P56 など

*2:このデータはSpotifycharts.comをもとに作られている

*3:日本はテレビ、イベントなどの影響がストリーミングの再生数にもろに出やすい傾向にある(ように思う)

例えば、今年のグラミーではBruno Marsが主要部門を複数受賞しましたが、この週のアメリカ、日本のSpotify(週間)を見比べると、USでは”That's What I Like"の再生が15%伸びたのに対し、日本は47%増加(あと"24K Magic"は57%増加) アメリカで行われているイベントなのに、日本のほうが影響を受けています。考えようによっては、Bruno Mars受賞が日本人にとっては望ましい結果で、アメリカ人にとっては普通?の結果だったということを表しているとも言えるかもしれませんが。 これは音楽の情報が不足していて、代わりに主要メディアが情報源として期待されているから or それ以外に情報源が無い ことが理由なのではないか? という「仮説」が自分の中にあります。 ともかく日本におけるイベントが曲のヒットに与える影響力の比較?は面白いテーマではありそうです