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Hot 100 11/24 見どころ 【Panic! At The Disco12年ぶりのトップ10 + 年間チャートラストの週】

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 今週の注目ポイントはPanic! At The Discoの12年ぶりトップ10入り。"High Hopes"がラジオ中心に人気を博し、上位進出を成功させました。また今週は2018年間チャートの最後の週なので、それについても触れていこうと思います。

 

☆今週のHot 100 ショートハイライト

・“High Hopes”が8位に浮上!Panic! At the Disco、12年ぶりのトップ10ヒット!

・”thank u, next”が首位をキープ

・アルバム1位はカントリー界の王子Kane Brown

・登場時は順位が高かった、”No Brainer”や”Killshot”が短い滞在でチャートを後に

・Taylor Swiftの”Delicate”が外れる。週のピークは12位だったものの、長持ち(35集滞在)だったことから、”reputation”からの最大のヒットかも

・”Happier”がラジオ1位に、“Girls Like You”の連続ラジオ1位を止める

 

・今週のトップ10

―1 Ariana Grande – thank u, next 

△2 Travis Scott – SICKO MODE 

△3 Marshmello & Bastille – Happier 

△4 Halsey – Without Me 

▽5 Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You

▽6 Juice WRLD – Lucid Dreams

△7 Sheck Wes – Mo Bamba 

△8 Panic! At The Disco – High Hopes 

▽9 Kodak Black feat. Travis Scott & Offset – ZEZE

▽10 Lil Baby & Gunna – Drip Too Hard 

 

☆=新登場 ◇=再登場 △=上昇 ▽=下降 

 は先週と比べて曲のポイントが伸びていることを指す

 

1~100位までの順位表は↓

 

曲の個別解説

☆96 Chris Stapleton – Millionaire

 Chris Stapletonの“Millionaire”が96位に登場。2002年にリリースされたKevin WelchというSSWの”Millionaire”という曲のカバーです。バックボーカルにはChris Stapletonの妻が参加しています。約1年前にリリースされたアルバムのファーストシングルが今のタイミングでカントリー系ラジオを上昇し、Hot 100に到達しました。

 ほかにもKip Mooreの“Last Shot”が95位、Dustin Lynchの”Goog Girl”が93位、Thomas Rhettの“Sixteen”が91位など、カントリー系ラジオで上昇中の曲が今週多くHot 100に登場しました。

 

☆79 Imagine Dragons – Bad Liar

 Imagine Dragonsの“Bad Liar”が79位に登場。アルバムリリースのタイミングに合わせてシングルとして一部でプロモーションされていた曲です。(例:SpotifyのプレイリストNew Music Fridayに入るなど) Spotifyやダウンロードでポイントを稼ぎ、Hot 100入りを成し遂げました。まだラジオではあまりかかっていません。

 アルバムチャートでは2位に。昨年の前作と同様にiTunesで1位に立っていたものの、アルバム1位を獲得出来ませんでした。 

 

☆55 Trippie Redd feat. Juice WRLD – 1400 / 999 Freestyle

 今週ストリーミングで一番人気だったのはTrippie Reddのアルバム。純セールスは1.1万のみながらも、ストリーミングで相当を7.2万「売り上げ」、アルバムチャートの3位に入っています。Trippie Reddにとってキャリア最高位。

 シングル単位では、52位に浮上した先行曲“Topanga”、55位に新登場したJuice WRLDとの”1444 / 900 Freestyle”など計5曲がHot 100入りしています。ほか5曲がBubbling Under=101位~125位のチャートに入っています。

 

☆44 Juice WRLD – Armed And Dangerous

 今年大きな存在感を発揮したJuice WRLDの新曲、“Armed And Dangerous”が44位に登場。主にストリーミングでポイントを稼ぎました。

 Juice WRLDは“Lucid Dreams”が年間チャートでかなり高い順位に入りそう。年間12位前後ぐらいでしょうか?あとは”All Girls Are The Same”も年間チャートに入るかどうかの当落線上にいます。

 

△38 Dan + Shay – Speechless

 カントリーデュオDan + Shayの“Speechless”が38位へ浮上。彼らにとっての2曲目のトップ40に。カントリー系ラジオでの好調に加え、ストリーミングのポイントも優秀。現在カントリー曲としては唯一Apple Musicのトップ100に名を連ねています。

 彼らの1個前のシングル、“Tequila”もロングヒット中。ポップ系、アダルトポップ系などに人気が飛火したことが大きな理由です。今週36週目の滞在ながらも43位→36位と浮上し、驚異の粘りを見せています。

 

△37 Flipp Dinero – Leave Me Alone

 Flipp Dineroの“Leave Me Alone”が37位へ浮上。これが初のHot 100エントリーでしたが、トップ40まで到達しました。リズミックやアーバンといったラップ系統のラジオや、ストリーミング(Apple MusicとSpotifyの両方)で特に好調です。 

 

△28 Kane Brown – Lose It

 カントリー界の若手シンガー、Kane Brownがキャリア初のアルバム1位を獲得。アルバム購入でコンサートチケットが割引になる戦略の効果もあって、多くのセールスを記録しました。アルバムの総合売り上げ12.4万のうち、10.5万が純セールスによるものでした。

 そのアルバムの効果でシングル“Lose It”のストリーミングやラジオ等の数字が上向き、53位→28位と大きく順位を上げました。

 Kane Brownはカントリー界でやや珍しいタイプの歌手で、自身を「自分は複数の血を引いているし、タトゥーも入れている」点でほかと違うとしています。彼はJustin Bieberのキャリアを参考にしているそうです。 

 

 

☆16 XXXTENTACION – BAD!

 XXXTENTACIONの“BAD!” が16位に登場。ストリーミングで上位(6位)に入っただけでなく、DLでも12位と高水準の成績を記録しています。

 この“BAD!”はXXXTENTACIONの3枚目のアルバム”Skins”からの1曲。このアルバムは今年の12/7リリース予定。10曲入りで、20分弱という構成が予想されています。

 また、彼がLil Peepとタッグを組んだ“Falling Down”は今週72位です。今週アルバムチャート4位に登場したLil Peepのアルバムに採用された(ボートラ扱いですが)こともあり、順位を少し上げました。この曲はリズミック系のほか、オルタナティブロック系のラジオでもかかっているようです。

 

△8 Panic! At the Disco – High Hopes

 ラジオでの再生数を猛烈に上げている“High Hopes”がついにトップ10入り!Panic! At the Discoにとって”I Write Sins Not Tragidies”以来12年ぶりのトップ10入りです。

 12年ぶりというとかなり久しぶりのトップ10になりますね。歴代で最も長い「○○年ぶりのトップ10シングル」という曲を成し遂げたのはブルース歌手のDobie Greyでその差は30年でした。(1973年の”Drift Away” 2003年の”Drift Away” 後者はUncle Krackerによるリメイク版 *1

 ラジオでの絶好調に加え、ストリーミングでも一定の人気があります。今年6月のアルバムリリース時にはSpotifyで収録曲全てがランキング圏内、しかも100位以内に登場。

 今年アメリカのSpotifyでアルバム全曲がランキング圏内に入ったロック系統のアクトはPanic! At The DiscoとTwenty One Pilotsだけだったので、Panic! At The Discoのストリーミング人気がそれだけ「珍しい」ということがわかります

 ヒットの主な要因はラジオの好調ですが、それを下支えした、ロックとしては珍しいストリーミングでの人気も見逃せない要因の1つだと思います。

 

※ 上記の2組以外だと、Arctic Monkeysは収録曲の半分以上をSpotifyランキング圏内に送り込んでいました。バンドでストリーミング人気があったのはこの3組ぐらいですかね……

 

△3 Marshmello & Bastille – Happier

 MarshmelloとBastilleの“Happier”が今週3位。ここ数週グングン順位を上げて首位に接近中です。

 その好調を支えているのはラジオ。ポップスなど従来Marshmelloが得意としてきた系統に加え、Bastille効果でオルタナティブロック系ラジオでも人気。今週、この曲のラジオ再生数が1位となり、“Girls Like You”の連続ラジオ1位(16週)をストップしました。

 この“Happier”、今週4位の”Without Me”が次の1位有力候補と思われます。今週2位の“SICKO MODE”にも可能性はありますが、”Happier”、“Without Me”ほどの勢いはありません。

 1位は先週に引き続き”thank u, next"です。少し前まで1位だった”Girls Like You"は今週5位。

 

※“Girls Like You”による16週ラジオ1位は歴代2番目に長い記録でした。2010年代では最長。この曲自体のラジオ再生数は飛び抜けて高いわけではないですが、他の曲の再生数が高くなかったため、ラジオ1位が長く続きました。

 

1位 Goo Goo Dolls – Iris(18週)=1998年

2位 Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You =2018年、Mariah Carey – We Belong Together =2005年、No Doubt – Don’t Speak =1997-1998年 (16週)

 

 

▽× Eminem – Killshot

 Eminemの“Killshot”が今週チャート圏外に。登場時は3位でしたが、チャート滞在はわずか8週でした。登場時はYouTubeで1週間に5010万再生(アメリカのみの再生数・観測史上最多)など凄まじい注目を集めていました。しかし、その後すぐに再生数が落ちていってしまい、最終的に短い滞在でチャートを後にすることとなりました。

 この曲は「ディスに対するアンサー」が主な目的で、聞き馴染むことを重視していなかったことが再生数が落ちた理由の1つでは、と考えています。またラジオもこの曲をほとんどかけなかったこともチャートで順位を落とした要因です。 

 この曲に限らず「曲が注目を集める」ということと、「曲がヒットする」ということは微妙に違うことで、チャートの登場時に高い注目を集めてもその後それが続くとは限らないので、登場時だけでなく「その後」を見ていくことが大切だと私は思いました。ストリーミングの影響で新曲への食付きが強くなったことから、「注目度」と「ヒット」の分離が進む昨今ではこのことを意識しながらチャートを見ると面白いと思います。

 また、今週はDJ Khaledの”No Brainer”も圏外に。この曲は“Killshot”とは違い、ラジオでかかっていましたが、ピークが高いながらも思ったより短いチャート滞在だった、という点は共通しています。(ピーク5位、チャート滞在15週)

 他にはCalvin Harrisの“Promises”がピーク65位、滞在12週という成績でチャートを後に。先週7曲がHot 100に入っていたMetro Boominは、4曲がチャートから外れ、3曲がHot 100に残りました。ストリーミングで人気のアルバムでも2週目は全滅というケースも多いので、3曲はよく残った部類かと思います。

 

▽× Taylor Swift – Delicate

 Taylor Swiftの“Delicate”が今週チャートから外れました。ピークは12位ながらも、チャート滞在35週とロングヒットでした。最終的なヒット度において、”reputation”の中で一番のヒットかもしれません。(年間チャートの成績を比較すると分かりやすいと思います。昨年の“Look What You Made Me Do”は年間39位でした。 ”Delicate”が入る2018年の年間チャートは来月発表予定……)

 それまでのシングルとは違い、落ち着いた作風のシングルであったことが功を奏し、アダルト系ラジオの2系統(アダルトポップと、アダルトコンテンポラリー)で1位を獲得しました。”reputation”からのシングルでこの系統を制するのは初。この幅広いシングルがロングヒットにつながり、最終的に今までで一番のヒットになったかもしれません。

 このヒットは今後のテイラーのキャリアの歩み方にヒントを与えるかもしれませんね

 

▽× Selena Gomez – Back To You

  Selena Gomezの“Back To You”が今週チャートから外れました。ピークは18位、チャート滞在は26週という成績でした。

 昨年の“Wolves”は23週滞在、”Bad Liar”は14週滞在だったので、それと比べると少し「長持ち」の曲だったといえます。ピークはそこまで高くないですが、上位にいる期間が長かったので、年間チャートの上半分(=50位以上)に入るのではないでしょうか。

 

今週チャートから外れた曲 (12曲)

【左の数字は先週の順位、右(ピーク順位🗻/チャート滞在週数⏰)】

100 Metro Boomin feat. Travis Scott & Young Thug – Up To Something (🗻100位 /⏰1週)

99 Takeoff – Casper (🗻99位 /⏰1週)

98 Eminem – Killshot (🗻3位 /⏰8週)

96 Old Dominion – Hotel Key (🗻48位 /⏰19週)

94 DJ Khaled feat. Justin Bieber, Chance the Rapper & Quavo – No Brainer (🗻5位 /⏰15週)

88 Calvin Harris & Sam Smith – Promises (🗻65位 /⏰12週)

79 Metro Boomin feat. Travis Scott, Kodak Black & 21 Savage – No More (🗻79位 /⏰1週)

72 Metro Boomin feat. Swae Lee & Travis Scott – Dreamcatcher (🗻72位 /⏰1週)

68 Takeoff – Last Memory (🗻54位 /⏰2週)

62 Metro Boomin feat. Travis Scott - Overdue (🗻62位 /⏰1週)

49 Taylor Swift – Delicate (🗻12位 /35週)

47 Selena Gomez – Back To You (🗻18位 /26週)

 

 

・アルバムチャート(Billboard 200)に新登場した作品

1 Kane Brown – Experiment 🎫

2 Imagine Dragons – Origins

3 Trippie Redd – A Love Letter To You 3

4 Lil Peep – Come Over When You’re Sober, Part 2 👕

6 The BeatlesThe Beatles [White Album] (リイシュー、再登場)

12 Muse – Simulation Theory

15 Jon Bellion – Glory Sound Prep

17 Lil Durk – Signed To The Streets 3

29 Tee Grizzley – Still My Moment

43 Crowder – I Know A Ghost

50 Sarah Brightman – Hymn

58 The Piano Guys – Limitless

78 The Revivalists – Take Good Care

80 Various Artists – Cities 97.1 Sampler 30: The Final Chapter

89 Architects – Holy Hell

103 Sabrina Carpenter – Singular: Act I

105 Train – Greatest Hits

137 Emery – Eve

148 I Don’t Know How But They Found Me – 1981 Extended Play

153 Steve Aoki – Neon Future Ⅲ

154 All That Remains – Victim Of The New Disease

191 Smino - NOIR

 

 

来週以降の動向など

 

・来週以降Hot 100に入るかもしれない?曲

 

・Billie Eilish – Ocean Eyes

・Billie Eilish – idontwannabeyouanymore

 新曲の好調などで、多くの人がBillie Eilishの存在に「気づき」、過去曲を再発掘中。SpotifyApple Music両方のストリーミングで昨年のEP、“Don’t Smile At Me”の楽曲が再浮上中。上記の2曲は今週Bubbling Under(101位~125位相当のチャート)入りも果たしています。 (”Ocean~“が111位、”idont~”が118位) これらの曲がそのうちHot 100圏内まで到達し、昨年のPost Maloneのような現象を起こすかもしれません。

 Billie EilishのEP、”Don't Smile At Me"は今週アルバムチャート滞在47週目にして、ピークを更新しています(36位)

 

・Ava Max – Sweet but Psycho

 北欧を中心に旋風を巻き起こしている“Sweet but Psycho”がアメリカでも浮上中!今週115位相当と少しずつHot 100に近づいています。主にSpotifyで人気。

 その明るいポップセンスと風貌からLady Gagaになぞらえる意見もあるようです。Jason Derulo、Viceと組んだ“Make Up”ではしっとりとしたヴァースもこなし、器用さを見せています。

 北欧を中心に!というとAva Maxは北欧出身の歌手なのか?と思うかもしれませんが、彼女はアメリカ出身シンガーです。Rita OraやDua Lipaと同じコソボにルーツを持っているようです。

 

ビルボードによる今週のHot 100 / アルバムチャート解説(記事を書くうえで参考にしています)

 

 

 

*1:リメイクって本人は関与してないじゃんか!これはノーカウント!という捉え方をするならば、Paul McCartneyの29年間が最長 1986年の“Spies Like Us~2015年の”FourFiveSeconds”