チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100 12/29 見どころ 【躍進のクリスマス曲、記録を生み出す / 🍰🔪】

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 今週際立ったのはクリスマス曲たちです。今年はストリーミングでの人気に押し上げられる形で チャートを席巻したクリスマス曲。それによって様々な珍しい記録が今週は見られました。

 個人的に注目なのはAva Maxの”Sweet but Psycho"のHot 100デビュー。ヨーロッパでは既に大人気の曲ですが、アメリカでどこまでヒットするでしょうか。(ちなみに🍰=Sweet 🔪=Psychoです)

 

☆今週のHot 100 ショートハイライト

・集計期間は12/14~12/20の今週のチャート。クリスマス曲が20曲もHot 100に登場

・It’s the Most Wonderful Time of the Yearが10位に浮上。Andy Williamsにとって47年ぶりのトップ10

・Ariana Grandeの”imagine”が24位に登場

・JohnとYokoなどによるHappy Xmas(War Is Over)がHot 100に登場。日本人史上10曲目のHot 100登場に

 

・今週のトップ10

―1 Ariana Grande – thank u, next 

―2 Halsey – Without Me 

―3 Travis Scott – SICKO MODE 

△4 Post Malone & Swae Lee – Sunflower 

▽5 Marshmello & Bastille – Happier

▽6 Panic! At the Disco – High Hopes

▽7 Mariah Carey – All I Want For Christmas Is You 

△8 Kodak Black feat. Travis Scott & Offset – ZEZE 

▽9 Lil Baby & Gunna – Drip Too Hard 

△10 Andy Williams – It’s The Most Wonderful Time of The Year 

 

☆=新登場 ◇=再登場 △=上昇 ▽=下降 

 は先週と比べて曲のポイントが伸びていることを指す

 

1~100位までの順位表は↓

 

 

曲の個別解説

 

☆91 Calboy – Envy Me

 シカゴ出身19歳のラッパー、Calboyの“Envy Me”が91位に登場。キャリア初のHot 100登場です。

 この曲は主にストリーミングで人気。YouTubeApple Musicでは人気を集めていますが、Spotifyではまだランキング圏内に登場したことがないです。

 

☆90 Lauren Daigle – The Christmas Song

 今年存在感を放ったクリスチャンシンガー、Lauren Daigleによるクリスマス曲が90位に登場。彼女のヒットシングル、“You Say”は今週もチャートに「残留」しています。(本来は外れる順位にいるが、上昇の見込みがあるのでチャートに残っている)

 

※クリスマス曲は基本的に50位以上ではないとHot 100に登場しない制限がかかっているようですが、今年にリリースされたクリスマス曲のみは51位以下でも登場するようです。

 

☆87 Ava Max – Sweet But Psycho

 ヨーロッパで旋風を巻き起こしているAva Maxの底抜けに明るいポップス“Sweet but Psycho”がアメリカに上陸!87位でHot 100に登場しています。この曲は主にポップ系ラジオ、Spotifyで人気。

 Ava Maxは特徴的な髪型(サイドによって長さが違う)を持つポップシンガー。きらびやかなポップスという音楽スタイル、そしてメイクなどからLady Gagaと比較する意見もあるようです。

 彼女はアルバニアにルーツを持つアメリカ人ですが、最初にブレイクしたのは北欧。スウェーデンなどのチャートで上位に入ったあと徐々に他の地域にも浸透。現在ドイツで1位、イギリスで2位など規模の大きい国でも異彩を放っています。

 ポップスで、欧州でブレイクした、かつSpotifyで人気のタイプの曲はアメリカでは苦戦する傾向がありますが、この曲はどこまで頑張れるでしょうか?

 

 昨年におけるMaggie Lindemannのように、アメリカ出身シンガーながらもアメリカ「以外」でヒットするポップ曲もあります。(この曲もSpotifyで人気だった) Spotifyのチャートに対する影響が強いか弱いかが、「海外からポップスが流入するか」の分水嶺となっています。

 アメリカのチャートでは、ラジオなど複数の基準でチャートを測っていること、Apple Musicなど他のストリーミングが強いことなどからSpotifyのチャートに対する影響力が弱めです。ほかアメリカのリスナーが地産地消で地元アクトの曲を好むという傾向も読み取れます。

 

☆68 Katy Perry – Cozy Little Christmas

 Katy Perryのクリスマス曲が68位に登場。この曲はAmazon Musicのみでのリリースで、iTunesでのダウンロードや他の媒体でのストリーミングからポイントを稼げませんが、ラジオのポイントなどによってHot 100に入りました。

 この曲はアダルト・コンテンポラリーというラジオ系統で1位になっています。この系統はアダルトポップをさらに「大人向け」にしたもので、規模はオルタナティブロックやラテン系のラジオと同じくらいです。この系統は全系統のなかで最もクリスマス曲をかけているようです。

 

☆58 Kodak Black feat. Juice WRLD – MoshPit

 Kodak Blackが初のアルバム1位を獲得!売上8.9万のうち、8.2万相当の数字をストリーミングから記録しています。(再生数にすると1億1420万) DLなどの「純売上」*1は5000です。

 収録曲のうち5曲がHot 100に登場。先行曲の“ZEZE”が8位、”Calling My Spirit”が46位など上位にランクインしたほか、Juice WRLDとの“MoshPit”が58位などいくつか今週チャートに新登場しています。

 このアルバムはApple Musicでの高い人気と比べると、ややSpotifyでは人気が低めでした。Spotifyではこの期間クリスマス曲がランキングを制圧しており、それらに押される形でランクインが少なめでした。

 

☆45 John & Yoko / The Plastic Ono Band With The Harlem Community Choir – Happy Xmas (War Is Over)

 予想外な形で今年2曲目の日本人Hot 100エントリーが!John Lennon、Ono Yokoとそのバンドなどによる“Happy Xmas”が45位に登場。リリースは1971年でしたが今回がHot 100初登場です。

(歴代の日本人Hot 100エントリーについては……→ 今年Hot 100に登場した、日本に関連する曲 まとめ - チャート・マニア・ラボ

 今週8曲ものクリスマス曲がチャートに登場(or再登場)しており、今週Hot 100でのクリスマス曲は20まで増加。昨年のピーク時で8曲だったため、今年のクリスマス曲の躍進ぶりがよく分かります。

 ラジオ、ダウンロード、ストリーミングのうち昨年と比べてクリスマス曲が大きく順位を伸ばしていたのはストリーミングだったので、それが今年の躍進の要因ということは分かっていましたが、Apple MusicやSpotify、またYouTubeSoundCloud、Pandoraなどでもクリスマス曲はそこまで躍進しておらず、「どこでヒットしているのか?」と私は少し疑問に思っていましたが、以下の記事にその答えがありました。

 「アレクサ、クリスマス曲をかけて」などによってAmazon Music内での再生数がかなり伸びていたようです。記事内ではAmazon Musicのリスナーはホリデー曲(=クリスマス曲)を好む傾向があることや、90歳の大祖母が4歳6歳の子供との関係を良くするのにクリスマス曲が役に立っている事例などが登場します *2

 ちなみに以下が今年Amazon Musicで最も再生された曲トップ50らしいです。他のストリーミングと比べてカントリー曲人気が際立ちます。

  

☆24 Ariana Grande – imagine

 Ariana Grandeの新曲”imagine”が24位登場。”thank u, next”ほどではないですが高い注目を受けて、DLやストリーミングで高い数字を記録しました。

 アルバム“Sweetener”のシングルや”thank u, next”と同様に曲名がすべて小文字で表記されています。

 “thank u, next”と同様に、次のアルバムからの先行曲という可能性もあります。現時点ではこの”imagine”はラジオにまだかかっていないようです。シングルでは無いかも?(アルバム宣伝用のプロモーションシングル?)

 

△10 Andy Williams – It’s The Most Wonderful Time Of The Year

 Andy Williamsによるクリスマス曲“It’s The Most Wonderful Time Of The Year”が10位に浮上しました。Andy Williamsにとって1971年の"(Where Do I Begin) Love Story"以来47年ぶりのトップ10となり、歴代で最も期間の空いたトップ10返り咲きとなりました。

 それまで最も長い期間をかけてトップ10に返り咲いたのはDobie Grayで、1973年~2003年の30年でした。ちなみに2003年のほうのヒットは他人によるリメイク曲で、Dobie Grayは客演扱いでした。

 また今週のトップ10入りにより、Andy Williamsは「最初のトップ10~直近のトップ10の期間」が最も長いアーティストにもなりました。彼の最初のトップ10は1959年の“Lonely Street”なので、実にその期間は59年にもなります。

 今までこの期間が一番長かったのはPaul McCartneyでした。彼は1971年に"Another Day"/"Oh Woman Oh Why"で初のトップ10に入り、直近のトップ10は2015年のRihannaKanye Westとのコラボレーション”FourFiveSconds”だったので、その期間は44年でした。ちなみにThe Beatles時代も含めると1964年~2015年でその差は51年になります。

 

 ちなみに既にトップ10に入っていたMariah Careyの“All I Want for Christmas Is You”は今週6位→7位と順位を落としました。ダウンロードが先週よりも落ちたことが原因でしょうか。

 クリスマス曲のピークはもしかしたら今週かもしれません。今週のチャート集計期間は12/14~12/20(ラジオは12/17-12/23)で、イブや当日は含まれていませんが、来週の集計期間12/21~12/27(ラジオは12/24~12/30)のうち、後半の日々はクリスマス「後」の集計も含まれるため、この期間にクリスマス曲の再生が一気に落ちる可能性が高いのです。

 このことから、イブや当日があっても26日や27日に再生数が一気に落ちて1週間フルにポイントを集められないため来週クリスマス曲が上昇するか微妙なのです。

 

※英語だと”Longest Gap”という便利な言葉があって、これで「最長の○○ぶり」を簡単に表すことができるのですが、これを日本語にした場合はどうすれば良いのかが難しくていつもうまく表現できないです……

 

▽× Yella Beezy – That’s On Me

 新人ラッパーがHot 100に新登場した時、いつものように「この曲はストリーミングで人気……」と紹介されている、そういう印象を持っている人は多いかもしれません。

 しかし、この“That’s On Me”は新人ラッパーの曲ながらもラジオを主体にポイントを稼いでいる珍しい曲でした。以下の記事に詳しく書かれているのですが、この曲はラジオでじわじわと長い期間をかけて上昇し、少しずつヒットしていった曲なのです。

 近年多くのラッパーはリリースの量が多いです。そのため、一つ一つの曲を丁寧にプロモーションするよりは、矢継ぎ早に曲をリリースし注目を集め続ける手法が取られることが多いです。この曲はその逆で、一つの曲をラジオでプロモーションすることで段々リスナーがこの曲にハマっていき、最終的にヒットになったと分析されています。

 

 この曲は今週チャート滞在20週の「満期」でチャートを去りました。21週目以降は51位以下に落ちるとチャートから外れるという制限がかかるため、ヒット曲は20週まででチャート滞在を終えることが多いです。しかし、ヒット曲でもそれよりも早くチャートから外れてしまう曲もあるので、20週までチャート滞在が伸びていることはある程度長持ちした証拠でもあります。

 この曲のピークは56位なのですが、ストリーミング曲でこの程度のピークでは3週程度で外れることも多いので、この曲はラジオの恩恵を受けてロングヒットした曲といえます。

 

▽× NF – Lie

 ミシガンのラッパーNFの“Lie”が今週チャートから外れました。ピークは48位、チャート滞在は20週でした。

 昨年Hot 100未登場ながらもアルバム1位を獲得したことで注目を集めたNF。以降はシングルにも注目が集まり、“Let You Down”がヒット。Spotifyやポップ系ラジオで人気となり、Hot 100でも12位まで到達しました。

 ラップというよりは歌にも近い今回のシングル“Lie”もポップ系ラジオで人気。ラップ系のラジオではかかりません*3でしたが、ポップ系ラジオでは8位まで到達しています。

 アルバム1位を取るまではあまり知られていませんでしたが、“Let You Down”と”Lie”の連続ラジオヒットによってずいぶん地位を確立した印象です。

 

▽× Ariana Grande – God is a woman

 Ariana Grandeの“God is a Woman”がチャートから外れました。ピーク8位、チャート滞在は22位でした。アルバム”Sweetener”リリース時に一番人気だった曲です。

 ピーク8位、チャート滞在22位はやや物足りない成績にも思えますが、アルバムリリース後、すぐに”breathin”がシングルカットされ、”thank u, next”がリリースされるなど「ヒット曲の間に挟まれた」感があり、ラジオで多くかかっていた期間が短かったことが要因かと思います。

 個人的にはむしろアルバムリリース時に、人気を牽引した曲として重要な役割を果たした1曲だと考えています。

 

▽× Tyga feat. Offset – Taste

 Tygaの予想外の復活シングル“Taste”が今週チャートから外れました。ピークは8位、チャート滞在は29週でした。2012年のTygaのヒット”Rack City”のピーク7位を超えることは出来ませんでしたが、滞在期間がやや長いことなどから年間チャートでの順位は上回りました。(“Rack City”=年間45位、”Taste”=年間28位)

 

▽× lovelytheband - Broken

 オルタナティブロック系ラジオから、アダルトポップ系へ。さらにポップ系にまで飛び火したラジオ人気シングル“Broken”が今週チャートから外れました。ピークは29週、チャート滞在は22週でした。

 ピークは29位とそこまで高くないですが、中位にいた期間が長く2018年間チャート入りも期待されていたこの曲。しかしわずかにポイントが足りず年間チャート入りならず。心機一転、2019の年間チャート入りを目指していましたが、クリスマス曲に押し出される形でチャートから外れてしまいました。

 この時期に大量登場するクリスマス曲の影響で、多くの曲がチャートから外れますが、これらの多くは既にヒットした古めの曲が多いので、新年に向けた「大掃除」のような役目も果たしています。

 クリスマス曲はクリスマスが終わればチャートから外れるので、代わりに新しい曲が新年にチャートで飛躍する手助けにもなっています。この“Broken”のようにアンラッキーな曲もいくつかありますが。

 

 

今週チャートから外れた曲 (17曲)

【左の数字は先週の順位、右(ピーク順位🗻/チャート滞在週数⏰)】

99 Tyga & Nicki Minaj – Dip (🗻63位 /⏰6週)

92 Yella Beezy – That’s On Me (🗻56位 /20週)

91 6ix9ine feat. Lil Baby – TIC TOC (🗻53位 /⏰3週)

84 XXXTENTACION – Difference (Interlude)  (🗻84位 /⏰1週)

82 Meek Mill feat. Cardi B – On Me (🗻30位 /⏰2週)

78 6ix9ine feat. A Boogie wit da Hoodie – WAKA (🗻51位 /⏰3週)

70 NF – Lie (🗻48位 /20週)

68 XXXTENTACION – Staring At The Sky (🗻68位 /⏰1週)

65 XXXTENTACION – What Are You So Afraid Of (🗻65位 /⏰1週)

64 XXXTENTACION – Train Food (🗻64位 /⏰1週)

62 XXXTENTACION feat. Kanye West & Travis Barker – One Minute (🗻62位 /⏰1週)

61 Meek Mill feat. Rick Ross & JAY-Z – What’s Free (🗻20位 /⏰2週)

51 XXXTENTACION – I Don’t Let Go (🗻51位 /⏰1週)

50 Ariana Grande – God is a woman (🗻8位 /22週)

48 XXXTENTACION – Guardian Angel (🗻48位 /⏰1週)

46 Tyga feat. Offset – Taste (🗻8位 /29週)

45 lovelytheband - Broken (🗻29位 /22週)

 

 

・アルバムチャート(Billboard 200)に新登場した作品

1 Kodak Black – Dying to Live

5 OST – Spider-Man: Into The Spider-Verse

11 Bruce Springsteen – Springsteen On Broadway

53 Mitchell Tenpenny – Telling All My Secrets

61 Zayn – Icarus Falls

186 Derez De’Shon – Pain 2

190 Wisin & Yandel – Los Campeones del Pueblo / The Big Leagues

 

 

その他

 

・今週ラジオで伸びた曲

1 Ariana Grande – thank u, next

2 Halsey – Without Me

3 DJ Snake, Selena Gomez, Ozuna & Cardi B – Taki Taki

4 Bad Bunny feat. Drake – MIA

5 Ellie Goulding & Diplo feat. Swae Lee – Close To Me

※Hot 100の首位・2位がラジオでもバリバリ数字を伸ばしています

 

・来週以降Hot 100に入るかもしれない?曲

 

・Post Malone – Wow.

 12/24頃にリリースされた1曲。Spotifyではイブにクリスマス曲を上回り1位を奪うなど、注目度は高いです。集計は短めながらも来週のHot 100に登場しそうです。

 

・Charli XCX & Troye Sivan – 1999

 イギリスなどでのヒットを受け、アメリカのラジオでも再生数が上昇中。今週、ポップ系ラジオチャートの39位に登場しています!Charli XCXがポップ系ラジオのチャートに登場するのは、“Break the Rules”以来4年ぶりのことです。

 Troye Sivanは“My My My!”に次いで今年2回目のポップ系ラジオチャート入りです。

 

 

ビルボードによる今週のHot 100 / アルバムチャート解説(記事を書くうえで参考にしています)

 

*1:英語ではPure Salesと呼ばれているため、こう表記しています

*2:Amazon Musicのチャートを見られる場所を知っている人がいたら教えていただけると嬉しいです。Amazonプライム会員になってAmazon Musicを始めたらチャートを見られるようになるのですか?

*3:ポップス~ラップを融合したような系統、リズミックでは25位まで到達していた。