チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billie Eilishヒットの推移 Spotifyランキングから

 

 現在Billie Eilishが注目を集めています。USのシングルチャートでは4曲が同時にランクインし、リリースから約1年半が経過したEP“dont smile at me”はアルバムチャートで現在15位につけています。このアルバムはリリース当初は注目を集めておらず、圏外からスタートしましたが、徐々に注目度を高めてリリースから長い時間をかけてピークを迎えています。

 そんな熱狂、特殊な経緯のヒットの要因はストリーミングにあります。先週(2/7)のアメリカのSpotifyランキングを見ると以下の11曲がランクインしています。

 

3 bury a friend

26 when the party’s over

37 lovely

48 idontwannabeyouanymore

85 bellyache

92 ocean eyes

147 my boy

150 you should see me in a crown

183 come out and play

188 bitches broken hearts

196 COPYCAT

 

今回はBillie Eilishの楽曲のSpotifyランキングでの順位推移をグラフにして、曲がヒットした経緯を探ってみようと思います。(ランキングはSpotify Chartsで見ることができます)

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◇表の見方◇

アメリSpotifyにおける週間順位の変遷をグラフにしています

・☆がついているのは2017年のEP”dont smile at me”に収録されている曲です。

・順位の推移なので相対評価=他の再生数が伸びると全体的に順位が下がることもあります。7月頭に下がっているのはDrakeのアルバムリリース、12月末に下がっているのはクリスマスの効果です。

・”when the party’s over”や”bury a friend”が2週目に大きく順位を上げているのは、リリース曜日が週の途中で、1週目の集計日数が短いためです。

 

 

 この表から読み取れるポイントは、新曲リリースが呼び水となって過去曲への注目度が高まっているということです。

 上記のグラフでは時期による多少の浮き沈みが見られます。そのうち10月末~11月末・2月初頭は特に伸びが大きく、ほぼ全ての曲の順位が伸びています。これらの時期に共通するのは、「新曲がリリースされた」ということです。

 10月末には”when the party’s over”、11月末には”come out and play”、2月初頭には”bury a friend”がリリースされています。

 これらの新曲リリースが人びとの「Billie Eilish聞いてみよう」という気持ちを促し、過去曲に注目が集まったという構図が読み取れます。☆が付いている曲はEPからの曲、つまり2017年の曲(ただし"bitches broken hearts"は2018年3月リリースの模様)がこの時期に伸びています。

 特に”when the party’s over”~”come out and play”を短いスパンでリリースした11月頃の伸びは大きく、ここで一気に地位を確立した印象があります。

 Billie Eilishは3/29に初のスタジオアルバムをリリース予定です。それに向けて先行シングルもいくつかリリースするかもしれませんが、それらのシングルリリースでもこのような「過去曲への再注目」のさらなる流れが来るでしょうか?今後の動向を観察していきたいです。また、アルバムでの盛り上がりにも注目したいです。

 また、この盛り上がりでもう一つ特徴的なのは「ラジオの影響がほぼ皆無」という点です。Billie Eilishは総合ラジオチャート(USの各ラジオの再生数を合算したチャート、50位まである)のランキングに今まで登場したことがありません。

 しかしラジオ系チャートはこれだけではなく、ビルボードには細かいジャンル別のラジオチャートがあります。そこでは中規模のオルタナティブロック系ラジオに”you should see me in a crown”が7位にエントリーしていますが、彼女のラジオシングルは今の所これだけです。*1

Billie Eilish Chart History | Billboard

 

 この系統でしかかかっていなかったので、露出度は大規模なポップ系ラジオの曲と比べるとかなり低いです。さらにはラジオでの再生数のピーク(12月頃)とストリーミングの再生数のピーク(7月~8月)がずれています。つまりラジオの影響によるストリーミング再生はあまり無いということが考えられます。

 このことからラジオのようなメディアの露出による影響がほとんど無く、ストリーミングのプレイリストやファンによる評判でじわじわ曲がヒットしていったということが分かります。

 2017年にはPost Malone、そして2013年にはLordeがストリーミングの影響でヒットになったと伝えられています。しかしこの2人はブレイクしたタイミングで既に一定のラジオを得ていました。

 Post Maloneは2017年の10月頃~ストリーミング再生規模が大きく拡大。彼はその前の8月に“Congratulations”はラジオ再生が34位まで到達していました。Lordeに関してはラジオの伸びとSpotifyの伸びのタイミングがUSではほぼ同じタイミングだったと見受けられる。(参考:Lorde - Royals - Spotify Chart History

 Billie Eilishはこの2人よりもさらにラジオの影響が少なく、「ネット発のスター」感が際立っています。

 

※ここ最近はストリーミングとラジオの人気曲の分離が進んでいます。2018年にUSのSpotifyで週間1位になった曲は全てラジオで週間1位になっていません。

ラジオ順位
rockstar 4
God's Plan 3
Call Out My Name -
Nice For What 3
Better Now 2
This Is America 33
All Mine -
Lucid Dreams 6
SAD! -
Nonstop 16
In My Feelings 3
SICKO MODE 8
Lucky You -
I Love It -
Falling Down -
Mona Lisa -
Drip Too Hard 22
Zeze 13
Mo Bamba -
thank u, next 3
Sunflower 7

(Post Maloneの“Better Now”のラジオ2位が最高位、XXXTENTACIONの”SAD!”やThe Weekndの“Call Out My Name”はSpotifyで週間1位になりながらも、ラジオ再生数が週間50位にも入っていません。)

 

 

・アルバム聴きの仮説

 まだ仮説の段階ですが、私はグラフからもう一つの特徴を読み取りました。それは「アルバム聴きが強い」ということです。

 ☆をつけたアルバム収録曲(ここでの場合はEPですが)の再生数は急激に落下しないことに対し、☆の無い新曲は再生数が乱高下するケースがあります。(例えば”you should see me in a crown”、”come out and play”などはピークの高さの割に急激に順位を落としている)

 このことから、ストリーミング上で人びとが曲を聴く形態として結局行き着くのが「アルバム」という単位で、だからEPの収録曲の再生はある程度安定しているのでは?ということです。

 ただし、同じ非アルバムのシングルでも”lovely”や”when the party’s over”ならば再生数が長く安定していること、そもそもまだBillie Eilishの曲自体が少ないので判定材料が少ないことなどから、「ストリーミングではアルバム聴きが人気」と言い切れるわけでもありません。

 

 個人的にはストリーミングではシングルと非シングルの壁が下がり、アルバムアーティストの時代が来たようにも感じています(J. Coleが最も顕著) これは果たして本当なのか、今後のアルバムの変遷……などストリーミングにおける「聴き方」というテーマは興味深いです。

 

 

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*1:Rock AirplayはAlternative系、アクティブロック系(Mainstream rock)、トリプルA系の合算チャートなので、オルタナティブ系ロックの再生数がカウントされているだけ