チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

音楽市場規模2位の意地? 日本での大ブレイク=世界トップ100入り?

 最近2種類のストリーミングチャートで「日本で人気の」日本人アクトが「世界ランク」トップ100入りを果たしたので、そのことについて手短に説明しようと思います。

 なぜ世界トップ100入りを果たしたか?の理由を簡潔に述べると「他の国でヒットせずとも、日本の再生規模がそれだけ大きい」ということです。(媒体にもよる)

 

① YouTube 世界ランク 米津玄師 – パプリカ =53位

 

https://charts.youtube.com/charts/TopSongs/global/20190809-20190815?hl=ja

 米津玄師は以前もYouTubeでの世界トップ100エントリー歴があります。“Lemon”は最高67位、滞在5週という成績を残していました。

 今回のシングルは既存のヒットでもあり、新曲でもあるという特殊な条件が重なり(自分が書いた曲のセルフカバー)かなり注目が集まったようです。“Lemon”を超える53位にランクインすることに成功しています。日本のアーティストとしては格別の成績をYouTubeで叩き出しています。

  米津玄師の月間リスナー8140万のうち日本のリスナーは6960万です。比率に直すと86%で、世界的にブレイクしたというよりも、どちらかというと日本の規模の大きさ故に世界トップ100入りを果たしたという印象です。日本以外では台湾、韓国、アメリカで月間リスナーが100万を越えています。(台湾ではかなり人気を確立している印象です。)

  Kworbが計算した国別YouTube規模では18位でした。イギリスやドイツの規模を上回っているようです。アクセスがしやすい分、人口の多さが規模に反映されやすい印象です。

 

② Apple Music 世界ランク Official髭男dism – Pretender =92位

 

 どちらかというと驚きだったのはこちらです。日本で1位のこの曲が最高でグローバル92位にランクイン。ここ3日程度グローバルトップ100に入っているようです。

 Apple Musicは再生数を表示しないので国別の規模が基本的には不明です。1位の曲がグローバルトップ100にでも入らない限り規模が推し量れないな~という考えは少しあったのですが、本当にランクインするとはビックリしました。

 なぜこんなにトップ100入りに驚いたかというと、Spotifyでの日本の再生数規模がかなり小さく、似たようなApple Musicのストリーミングの規模があまり大きくないと考えていたからです。Spotifyでは日本1位の曲の再生数=世界200位の1/5程度です。世界トップ100からはかなり遠い成績です。

 日本ではApple Musicのローンチの方が早く、Appleの会員数や再生数がSpotifyよりも多いということは考えていましたが、ここまで規模に差があり、トップ100入りまで果たすのは驚きでした。

 さらにイギリス1位の“Taste (Make It Shake)”はグローバルトップ100に入っていないので、現状日本のApple1位 > イギリスのApple1位みたいです。

(ちなみにApple Musicのグローバルランクの国別比率は、他の媒体と比べてかなり偏りがあり、アメリカがかなり大きいです。グローバルランクはアメリカの人気曲ばかり入っています)

 

 日本以外の国Apple Musicではランクインしていないようで、この曲も同様に日本の再生がかなり多いと思われます。Spotifyでこの曲は9割程度*1が日本からの再生で、Apple Musicでも日本/海外の比率はこれくらいなのでは、と考えています。 

 

~アルバムは?~

 10/9にアルバムをリリースしたのでその動向も追いました。アルバムは一番良い感じのタイミングで以下のような成績でした。

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 台湾、香港、ノルウェー、そしてこの少し前にタイでもiTunesのトップ10入りを果たしました。つまり海外4の国と地域でiTunesトップ10入り。ただしApple Musicの順位はそこまで高くないです。またシングルが単体でランクインすることはほぼ無いようです。

※日本はSpotifyYoutubeで英語表記扱い、Apple MusicとiTunesで漢字表記扱いになっており、このサイト内では別のアーティストの扱いになっています。

 

 アルバムのタイミングで”Pretender"が再生数を伸ばし、再びグローバルトップ100に復帰すると考えていましたが、そうなりませんでした。1つ要因として考えられるのは、Apple Musicランキングの競合がその時激しかったということです。

 Apple Musicの再生数の比率はかなりアメリカに偏っており、そのアメリカで人気の高いDaBaby・Summer Walkerがアルバムをリリースしたばかりだったことから、Apple Musicグローバルランキングの再生数の水準が高かった可能性があります。

 もう1つ考えられるのはアルバムの恩恵をあまり受けなかった、ということです。Spotifyでアルバム直前、アルバムリリース日の有力曲の再生数を比較しました。

 

Official 髭男 dism 137,356 → 144,992 増加率 +5.6%

あいみょん 50,800 → 61,726 増加率 +21.5%

 

 日本のSpotifyの規模自体はかなり伸びていて、純粋な再生数はあいみょんを上回るのですが、「アルバムの効果」という点ではあいみょんに軍配が上がっています。

 Apple Musicでも、アルバムの他の曲の上位独占具合はあいみょんのほうが凄かった(あいみょんは低い曲でも30位くらい、Officialはトップ50に入らない曲もあった) Spotifyと同様に、アルバムリリースでの再生数増加がそこまで大きくないのでは、と考えました。

 

 アルバム後もグローバルランキングを見張っていたら、なんと"Pretender"が64位まで浮上しました。そして宿命が97位、イエスタデイも98位にランクインしました。直前まで"Pretender"も100位圏外だったので少し意外でした。

 Spotifyのデータを見ると日本は休日に再生数を伸ばす傾向があります。これは彼らに限らず、全体にその傾向があります。おそらく休日は時間に余裕がある、というシンプルな理由でしょう。

 この上位にランクインしたのも、即位礼正殿の儀による祝日の時でした。海外では祝日 or 平日による再生数の差はあまり無いものの、リリースの金曜日から離れるほど全体の再生数が落ちる傾向にあります。今回はリリースから離れた火曜日に祝日がバッティングするタイミングの妙で一気に順位を上げたのだと思います。あとはUSで人気のアルバムが直近でなかったことも理由の1つでしょう。

 個人的にはアルバムのリリース時にピークが来るかと読んでいたのですが、そうではないようです。もしかしたら、曲のピークが分からなくなるくらいに日本でストリーミング登録者数がうなぎ登りなのかもしれません。

 ちなみにこのランキング入りしていたタイミングで、海外のApple Musicでは韓国、台湾、香港でアルバムが100位~150位くらいに入っています。韓国は少し意外です。シングル単位でのランクインはこのタイミングではありません。

 

 

・まとめ

 日本はストリーミングの導入が遅く、再生数が低いというのがこれまでの定説でしたが、次第に伸びて一部のトップ中のトップが世界ランクにも入るようになりました。日本で特大ヒットを飛ばせれば、ほぼその成績で世界トップ100相当の再生数を稼げるようになったのです。*2

 旧来iTunesには世界ランクのようなものがありませんでしたが、ストリーミングサービスが世界ランクを設置して、「日本の規模が如何ほどか?」がわかるようになったのは面白いです。

 

 少しずつ音楽市場規模2位の「片鱗」程度は見せ始めた日本。今後ストリーミング数の規模も市場規模のスケールに迫っていくのでしょうか?

 

 

 その後”Pretender"は金曜日にトップ100を外れる →週の半ばに少しランクイン →金曜日に外れる……という流れを繰り返しています。金曜日に外れるのは新曲リリースで再生数の規模自体が伸びるからです。合計トップ100滞在日数は8日くらいになった気がします。

 

※ちなみに86%や9割と、日本の再生数の比率が高いということは確かですが、2005年の「J-Popとは何か」で提示されていた著作権使用料をもとにした「邦楽の輸出率」は0.5%だったので、その時代と比べると海外での消費率は上がっているともいえます。

 

*1:リリース以降、日本のSpotifyランキングでは全ての日でランクイン。これらの再生数を合わせたものを、Spotifyのアプリ内で表示される全体の再生数で割ると 87%~88%程度の数字が出る

*2:媒体による差はあります。Spotifyでの調査では日本の規模は20位~30位程度でしたが、YouTubeApple Musicはそれよりも規模が大きいということが直近の動きで分かりました。