チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100(USシングル) 2019年間チャートを10のポイントで振り返る

f:id:djk2:20191214010240j:plain
 こんばんは!この記事では先週発表されたビルボードHot 100の振り返りを行います。主に誰が多く入ったか?どのジャンルが多いか?男女比は?○○年連続は?などの視点から分析していきます。(最後に表もつけています)

 

 

 

 

 

1 最多エントリーは? 客演も活用したCardi B!

 

 まずは誰が多く年間チャートにエントリーしたか?を見ていきましょう。

 

6曲:Cardi B

5曲:Post Malone, Ariana Grande, Khalid

4曲:Drake

3曲:Billie Eilish, Travis Scott, Brendon Urie (Panic! At the Disco), DaBaby, Lil Baby, Offset (Migos), Dan + Shay

※Migosはメンバーごとにカウント。今年はソロ名義がOffsetしかいない

Panic! At the Discoは現在、正式メンバーはBrendon Urie一人の模様

 

 昨年に引き続き、Cardi Bが年間チャートに最多のエントリーを果たしました。(昨年は8曲、Drakeと同数) 自身の曲3つ(”Please Me”, “Money”, “I Like It”)に加えて客演で3つもエントリー(“Girls Like You”, “Taki Taki”, “Clout”)したことが大きいです。

 昨年から継続している曲もいくつかあり、また自身の曲・客演の曲がバランスよくあることから、コンスタントにそして幅広く活躍していたことが伺えます。

 ポップの客演を務めた“Girls Like You”、ラテン要素のある”I Like It”や“Taki Taki”。そしてR&Bを取り入れた”Please Me”、ラップの“Money”や”Clout”とジャンルの幅もかなりあります。

 自身の直近のシングル“Press”は尻すぼみに終わってしまいましたが、来年以降も活躍が見られるでしょうか。

 

2 客演無しで5曲が年間に! 大ヒットも多いPost MaloneとAriana Grande

 

 Cardi B以上に際立っていた印象があるのはPost MaloneとAriana Grandeです。今年の年間チャートの主役はこの2人かもしれません。2人は上位エントリーが多いことに加え、いずれも客演無しで5曲を年間チャートに送り込んでいます。さらにアルバムチャートでも上位です。

 Post Maloneは出すシングルが軒並み上位に。2017年の”rockstar”以降、メインのシングルに据えられている曲は少なくとも3位以上にランクインしています。これを支えているアーティスト・Post Maloneへの圧倒的な支持です。それがどこで分かるかというと過去作品を含めたアルバムの人気です。アルバム年間チャートでは3つのアルバムがそれぞれ5位、9位、24位にランクイン。このように過去作を含めた複数アルバムで人気がある、ということは日常的に彼の楽曲を聴いている人が多くいるということです。そんな普段から「意識されている」ことがリリース後に即注目を集める要因と考えています。

 

 そしてAriana Grande。昨年のアルバムもストリーミングで一定の成功を収めましたが、今年はさらにパワーアップ。シングルの”thank u, next”での首位獲得をきかっけにもう一段上のアーティストへと飛躍を遂げました。その前後のシングルが成功を収め、年間チャートに多数エントリーを果たしました。

 ただし直近のCharlie’s Angelサントラシリーズが振るわなかったのはやや気がかりです。“Boyfriend”も尻すぼみでしたが、こちらはギリギリ年間チャートに滑り込みました。

 

 この2人と同数の5曲を送り込んだKhalid。彼は自身のアルバムからの曲が2つ、コラボレーションが3つとタイプ的にはCardi Bに近いヒットの稼ぎ方です。彼は”Eastside”と”Love Lies”は滞在50週超え、“Talk”と”Better”も40週超えとロングヒットが多いのが特徴的です。

 

 上記の3人に次ぐのは4曲を送り込んだDrakeです。自身の曲1つ、その他は客演。今年は自身の正式な新作が無かったことが影響しているでしょう。(“Care Package”は過去ボツ曲集で、SoundCloud等には既に転がっていたとの話) それでも客演できちんと存在感を発揮するのはさすがDrakeといったところです。”MIA”ではスペイン語ヴァースに挑戦するなど、幅も広げています。

 

 3曲を送り込んだのは7人(組)います。今年大ブレイクのBillie EilishとTravis Scott。昨年から今年にかけて大活躍のPanic! At the Disco、Lil Baby、Dan + Shay。Travis ScottとOffsetは客演の曲が多めです。

 

 

3 Hip-Hop / R&Bの上昇止まる & ポップ再浮上 背景にあるのは?

 

 次に今年の年間チャートをジャンル別に分類していきます。ビルボードのジャンル別チャートを参照して作成しています。どのジャンルにも属していない曲、また複数ジャンルに属している曲はポップ扱いにします。(今年は“Taki Taki”)

 

f:id:djk2:20191214010702j:plain

 

 昨年と比較すると、Hip-Hop / R&B(以下アーバン)とポップの差が縮まっています。理由の一つはもちろん、Ariana GrandeやBillie Eilishなどポップスでもストリーミングを多く獲得できるスターが増えたことです。前者は5曲、後者は3曲年間チャートに送り込んでいて、この2人だけでかなりの増加数です。

 

 もう一つ理由として考えられるのは、ラジオの影響力増加です。ビルボードは昨年の7月からストリーミングに関するルール改定を行い、「無料会員」によるストリーミングの再生数は有料会員の2/3の数字でカウントされることになりました。

 関係するのはYouTubeSpotifyの無料会員などです。これは収益や、聞き方(途中に広告が挟まるか、シャッフルであんまりきちんと聞けない)など理由のある変更なのですが、この時に他の指標にはテコ入れをしていないので、ストリーミングだけが若干ポイントを落とし、相対的にラジオやDLの影響力が増すことになりました。

 

 このルールが導入された週、ラジオで強いカントリー曲の順位が伸びるという現象が発生しました。昨年の年間チャートでは途中から(期間は半年以下)の導入だった一方、今年はこのルールが1年間ずっと導入されていたので、その影響力が昨年よりも強まったということです。 (実際にラジオ年間75位以内に入りながらも、Hot 100の年間チャートに入らなかった曲の数は13→8で昨年よりも減少しています。)

 

 そしてラジオの規模は一般的にポップス>アーバン系統です。ラジオの規模はおおよそポップス(Top 40)>カントリー>アダルトポップ=リズミック=アーバン*1 くらいのイメージです。うちポップス曲が主にオンエアされるのはポップスとアダルトポップ、アーバン系統の曲がオンエアされるのはリズミックとアーバンです。

 

 このラジオの変化は、ポップス増加&アーバン減少の両方を説明できます。アーバン系統は今年調子を落ちたというよりは、ポップが良かった、または「ゲームに負けた」ような印象です。ビルボードが今後もラジオ重視の方針を続けるならば、アーバンの過半数超えは少し難しいミッションかもしれません。 

 

 

4 ラジオの恩恵を受けつつ、躍進も果たしたカントリー 

 

 3章のラジオの影響力増加で恩恵を受けたもう一つのジャンルはカントリーです。カントリー系ラジオはポップ系に次ぐ規模を持ち、カントリー曲はこのラジオ再生数のポイントのみ(ほぼ)でHot 100にエントリーすることもあります。そして何故か多くの曲が1位になるように、ほぼ毎週でカントリー系ラジオの1位が入れ替わるため、多くの曲にラジオのポイントが行き渡ります。多くのカントリー曲が似たようなチャートアクションを見せるのはこれが理由です。

 ほぼカントリー系ラジオのみでポイントを稼ぎ、カントリー系ラジオで1位になった後に次第に落ちるという「平均的カントリー曲アクション」だと年間チャートで当落線上です。しかしラジオが強まるとこのようなタイプでもギリギリ年間チャートに届くようになります。ラジオの強みを生かし80位以下カントリー曲が8つエントリーしています。(ただし“Tequila”と”One Thing Right”の2曲は今年カントリー系ラジオでのポイントは多くない)

 

 ただしラジオ以外の面でも、実際にカントリー曲は今年躍進していた印象です。“One Thing Right”や”The Git Up”はあまりカントリー系ラジオでかかっておらず、またDan + Shayの“Tequila”や”Speechless”が今年の年間チャートに入ったのはポップ系ラジオへのクロスオーバーが主要因です。(つまりこれらの曲の年間チャート入りの要因はカントリー系ラジオ以外にある)

 これ以外にも“God’s Country”と”Whiskey Glasses”、そしてLuke Combsのシングルなどストリーミングでも人気を得るカントリー曲も一部ありました。今までカントリー曲はストリーミングの成績がかなり低い傾向にあったので、これらの躍進は少し意外でした。

 

 最後に、忘れてはならないのは“Old Town Road”です。元々カントリー曲と分類されていたこの曲が突如Hot Country Songsから削除。Lil Nas Xはこの状況を逆に利用し、Billy Ray Cyrusを迎えたリミックスが大ヒットし年間1位を獲得したということは今年の一大トピックです。

 この記事ではジャンルの定義をビルボード準拠にしているので、この曲はカントリーのカウントには入れていませんが、その後カントリー曲にも影響を与え(”The Git Up”はモロに影響を受けている)、このジャンルへの注目度を高めたという点で、今年のカントリーを語る上で欠かせない存在だと考えています。

 

5 その他のジャンル、ダンス、ラテン、ロックは?

 いずれも2曲エントリーだったその他のジャンル、ダンス・ラテン・ロックについて見ていきます。ちなみに“Taki Taki”はダンス&ラテンの複数ジャンルに入っているので、ここではポップとして分類しています。

 

 ダンスは“Happier”と”Close To Me”の2曲。この3ジャンルの中で先が見えづらいと考えています。要因として考えているのが、このジャンルのヒットを生み出すDJたちが「シングル主義」であることです。Post Maloneの項で述べたように、アーティスト自体への注目度が高ければシングルは出せば一定のヒットはします。

 一方DJたちはシングルごとにその時の流行を取り入れて、「シングルヒット」を狙います。ただ、これは裏を返せば「アーティスト単位での一貫性の低下」ということにもつながり、○○の曲だから聞こう!という動機付けが薄くなるような印象です。Marshmelloはむしろ意図的にシングルごとにスタイルを変えることでメインストリームをうまく乗りこなしているような気もします。

 この戦略だと、波に乗ればシングルヒットを量産できるのかもしれませんが、一つ一つ「のるかそるか」になってしまい、安定感はどうしても欠いてしまいます。スタイル変幻自在のMarshmelloも、あまり注目を受けずに沈んでいったシングルも多いですし……(ただリリース曲数は多いので、最終的にはヒットを連発しているような印象になる)

 

 ロックはPanic! At the Discoの2曲のみ。これ以外では、ロック系ラジオにかかるアクト(しかしHot Rock Songsには分類されない)の躍進(Billie Eilish・SHAED)というトピックもありました。さらにPost Maloneの曲が一部オルタナティブ系ラジオでオンエアされるなど、メインストリームとの関わりは持っています。

 一定の存在感は今も発揮していますが、エントリーが10曲を超えていた年も以前はあることを考慮するとやはり苦戦しているということは間違いないです。

 昨年の年間記事で、ロックはストリーミングを苦手にしており、過去曲ばかりがRock Streaming Songsでは上位に入ると話題に挙げましたが、今年も同様の傾向が見られました。今年のRock Streaming Songs上位50のうち……

 

2019年は1曲 (Machin Gun Kellyの“I Think I’m OKAY”のみ ロック系アクトのYUNGBLUDとTravis Barkerの存在などによりロック曲扱いに)

2018年も5曲 (Panic! At the Disco×2 Imagine Dragons×2 twenty one pilots)

 

……でした。逆に過去曲も発掘されるというのがロックの良さと捉えるのも良いのかもしれませんが。(ストリーミングのチャートを見る限り、ロックは過去曲のディグという点では他ジャンルに劣らない印象はあります)

 

 ラテンは“MIA”と”Con Calma“の2曲。昨年と比べると減少していますが、ストリーミングで覚醒する以前は0曲エントリーの年も多く、元々の規模が大きくないのを考えると悪くはない成績です。この2曲にはカウントされない、“I Like It”や”Taki Taki”などのラテンアーティストが参加する曲もあり、着実にジャンルは浸透しているといえます。

 ほかDaddy YankeeとJ Balvinは3年連続年間チャート入り、Bad BunnyとOzunaは2年連続 人気を確立しているアーティストも増加しているので、来年以降も活躍が期待できるジャンルです。

 

6 女性アクトの巻き返し それを下支えしたジャンルは?

 

 今年の年間チャートでの男女比を見ていきます。コラボレーションは名前が先頭にあるアーティストの性別を参照しています。男女混合グループの場合はボーカリストの性別を参照します。(今年はSHAED) *2

f:id:djk2:20191214012841j:plain

 

 今年は女性が巻き返しました。大きいのはAriana GrandeとBillie Eilish(二人で8曲)というビッグスターの活躍が大きな理由として挙げられるのです。この2人は年間アルバムチャートの1位2位も獲得することに成功しています。(Billieが1位)

 年間アルバムチャートでは3位も4位も女性のアルバムでした。(Lady Gaga、Taylor Swift それぞれ年間シングルにもエントリーしている)

 

 このポップアクトの躍進以外に、もう一つ注目したいのはHip-Hop / R&B領域での女性の躍進です。このジャンルの女性の、それぞれ年間チャートへのエントリー数は以下のように推移しています。

2019:8

2018:6

2017:2

2016:4

2015:5

 と数の上では微増程度ですが、層が厚くなっていることがポイントだと考えています。Cardi BとElla Maiの2人だけだった昨年に対し、今年はこの2人に加えてLizzo、Megan Thee Stallion、Saweetie、City Girlsなど多くのアクトがエントリーを果たしています。彼女らが来年以降も活躍できれば、このジャンルでの女性エントリー増加に期待が持てるかもしれません。

 

 Hip-Hop / R&Bで女性の躍進が見られた一方、カントリーでは全14エントリーが全て男性による曲でした。ラジオの影響力増により、今後も年間チャートへのエントリー数が多くなりそうなジャンルなので、女性のエントリー数を増やすにはこのジャンルでの女性シンガーの活躍も必要になるかもしれません。

 

7 Rihannaがストップ! 現在年間チャートに最も連続してランクインしているのは

 

 何年も連続で年間チャートに入り続けていれば、それだけコンスタントにヒットを生み出しているということを証明します。以下は3年以上連続で年間チャートに入り続けているアーティストです。

 

13年連続:Taylor Swift

11年連続:Drake

10年連続:Nicki Minaj

7年連続:Ariana Grande

5年連続:Shawn Mendes、Justin Bieber、Camila Cabello(グループ時代含む)、Selena Gomez

4年連続:Young Thug、Post Malone、Halsey、Travis Scott、Ty Dolla $ign

3年連続:Swae Lee、Khalid、Ed Sheeran、Maroon 5、Cardi B、Migos、Bruno Mars、21 Savage、Gucci Mane、J Balvin、Sam Smith、Luke Combs、Daddy Yankee、Kane Brown

 

 最大のトピックは昨年まで14年連続で年間チャートに入り続けていたRihannaの記録がついにストップしたことです。前アルバム“ANTI”からおよそ3年リリースがほとんど無い状態が続いており仕方がないです。昨年までは客演やコラボ等で細々とエントリーを続けてきましたが、今年はそれもありませんでした。

 彼女以外にも昨年まで8年連続だったCalvin Harris、5年連続のBeyoncé、そして4年連続だったThe Weeknd、Charlie Puth、Alessia Caraあたりが今年の年間チャートに入っていません。

 

 Rihannaに代わって最長エントリーとなったのはTaylor Swift。アルバムはおよそ2年に1度のペースですが、適宜シングルカットを行っているためここまで連続で入り続けています。ほとんど客演曲が無いという点が特徴的。今までの年間チャートエントリーで客演だったのはTim McGrawの“Highway Don’t Care”、Boys Like Girlsの”Two Is Better Than One”のみ。 またこれで自身の曲での連続年間チャートエントリーは最長になりました。(それまでは1990~2001年まで12年連続のMariah Carey

 ただし来年もこの記録が続くかは微妙です。“Lover”は来年の年間チャートに入るか微妙な成績なので、シングルカットでよほどの成功を収めるか(近年アルバム”後“のシングルカット成功率は低い)、新曲を出すかなど何かしら戦略を練る必要があります。

 

 次いで長いのはDrakeの11年。客演でのエントリーも多いですが、実は彼も同様に毎年少なくとも1曲は自身の曲が年間チャートにエントリーしています。彼がメインストリームから消える展開は現在全く想像できないので、数年後に連続エントリー最長記録を更新するかもしれません。

 

 3番目に長いのはNicki Minaj。今年は自身の”MEGATRON”が大コケするなど *3で、年の前半はヒットが無く記録のストップの可能性がありましたが、後輩ラッパーMegan Thee Stallionの客演を務めた“Hot Girl Summer”が見事にヒットして、ギリギリで滑り込みました。

 ちなみに4年連続のTy Dolla $ignも同様に年間チャートエントリーはこの曲のみです。彼は”Work from Home”、”Sucker for Pain”(自身メイン表記になっているが、映画の曲でかつ大所帯なのでほぼ客演のようなもの)、”Swalla”、”Psycho”と客演での活躍が多いです。

 

 これに続くのはAriana Grande。7年目で自己最高クラスの存在感を発揮しました。アルバム”thank u, next”は前作から間髪入れずにリリースされたことが注目されましたが、以降もこのペースで作品をリリースし、来年も年間チャートに入るでしょうか。 

 そして5年連続エントリーの4人(Shawn Mendes、Camila Cabello、Selena Gomez、Justin Bieber)はいずれも “Señorita”、”Lose You to Love Me”、”10,000 Hours”と来年の年間チャート入りが有力な曲があるので、全員記録を伸ばしそうです。

 

 

8 ラジオもAppleSpotifyも無し? 異例のYouTubeヒット

 

 2017年あたりからラジオでかからずとも、ストリーミングのみでポイントを多く稼いで年間チャートに入る曲が登場し始めました。今年も”Robbery”や”Swervin”がこれに当てはまります。

 従来、ここで言う「ストリーミング」とはAppleSpotifyなどのいわば「On-Demand Streaming」が多かったです。シングルカットされなかったものの、アーティストとしては人気が高いので曲として再生数が伸びた、のようなイメージです。(いわばアルバム曲なので、アルバム曲志向の強いOn-Demandで人気ということです。プレイリストも理由の一つですが、そもそもプレイリストの選曲はもともとアルバムリリース時に人気だった曲がそのまま採用されるケースが多い)

 しかし今年はラジオに加え、さらにOn-Demandでもスコアが高くない“Baby Shark”が年間チャート入りを果たしました。今までに無いパターンです。

 鍵を握ったのはYouTubeでの圧倒的な再生数でした。そのビデオは歴代5位の41億再生までジャンプアップ。アップロードは2016年ですが、子どものキャンプファイヤーのBGMなどとして使用されているうちに次第に浸透していったようです。ちなみに「曲」として見なされなかったのか、YouTube Chartには登場していません。(ビルボード等の再生数の集計には入っている)

 ここまで大規模な再生数を記録したのは、「一般的なリスナー以外」を巻き込んだからだと考えています。例えば、昨年ビルボード記事では「音楽ストリーミング有料会員“全体”の数はNetflix単体(5600万)よりも少ない」ということが指摘されていました。ストリーミングのユーザーが増加傾向とはいえど、全体的に見ると加入していない人のほうが多いのです。つまり、普段音楽を聞かない層まで巻き込むことができれば数で圧倒できるのです。これは、ここ数年ストリーミングでの躍進が目立つクリスマス曲にも似たようなことが言えるかもしれません。

 

 

9 週間トップ40未満でも年間チャート入りする曲の増加

 

 週間チャートでのトップ40はヒットの目安とされています。少なくともこのトップ40に入らないと、年間チャートには手が届かない、というのが定石でした。しかしこれが2015年に破られて以降、「トップ40未満」の曲が毎年いくつか年間チャートに入っています。

2015:El Perdón(56位)

2016:Wicked(41位) Really Really(46位)

2017:Both(41位)

2018:X(41位) Dura(43位) IDGAF(49位)

2019:Close Friends(47位*) Worth It(48位) Talk You Out Of It(57位) Walk Me Home(49位)

*集計期間でのピーク

 

 これら多くに共通するのはピークが分散して、長くチャートに残ったということです。ピークの分散にはラジオ、リミックスの2パターンがあります。

 

 ラジオのにも2つのパターンがあります。元々違う系統でかかっていたものが時間をかけて他系統に移るもの、もともとストリーミングで人気だった曲が遅いタイミングでラジオにかかるものがあります。“El Perdón”は他系統に移るパターンでしたが、最近はもっぱらストリーミング→遅いラジオのパターンですね。(“Close Friends”や”Worth It”など)

 特殊パターンだったのは、今年の“Talk You Out Of It”です。この曲は最初からカントリー系ラジオでかかっているだけでした。しかし、伸びのペースが異常に遅く21週目以降のタイミングでもまだラジオが伸びていたので、Hot 100に残留し続け、その滞在の長さから年間チャート入りを果たしました。クロスオーバーもしないのにここまでラジオの伸びが鈍重なのは異例ですし、さらに新人でもないのにここまで順位が伸びないのも不思議です。(4章で述べた通り、カントリー系ラジオでは多くの曲が1位に到達するので)

 この不思議な現象は再現性があるものなのか、そしてそもそもこれを狙うメリットはあるのか……謎は深まります……

 

 もう一つのリミックスは単純明快、少し調子が落ちてきた曲をリミックスで再び盛り上げようという作戦です。これは客演などが多く大所帯な傾向のラテンで起きやすい現象です。(“X”や”Dura”など) 2017年の”Both”はラジオ現象とリミックス現象のハイブリッドで年間チャート入りを果たしています。

 

 

 

10 集計期間の謎

 

 時期調整で1/3→1/6→1/10という日程がとられたため、昨年の年間チャートは11月ラスト週の一つ前(=11/17)まででした。今年は11月が5週にわたるため、ラスト一つ前の4週目=11/23までを想定していました。

 

 しかし終盤にヒットしていた曲が軒並み予想よりも順位が低いことから、集計期間は11/16=3週目までだったのではないかと考えられています。「ラスト週の一つ前」ではなく「3週目」のほうが採用されたのです。

 来年以降も11月3週目〆というスケジュールで年間チャートは運営されるのでしょうか。「毎年52週」にしてしまうと、少しずつ期間がズレてしまうので……何にせよ、ビルボードは以前から集計時期の明確な説明を行っていないので、推測でしか分かりません。(発表される時期から純粋な1月~12月ではないということは分かりますが)

 ちなみに「チャート日程上」で11月の3週目までだと、実際の集計期間は11月の上旬までになります。

 

 集計期間が明示されておらず謎だった、という説明でしたが、ビルボードは他にも謎が多いです。集計のポイントシステムも具体的には説明されていないし(一部マニアがなんとなくは分析していますが) さらに毎週のチャートなどを見ると何でこれがここに?のような曲も一部存在します。

 この複雑さが、ヒットを総合的に反映させているとの信頼性を上げる要素の一つでもある気はするのですが、ファン向けに分かりやすさを重視するRolling Stoneチャートなどのライバルが登場するなか、ビルボードは今後どうするのか? そんなテーマをこの年間チャート記事を書いていて改めて感じました。

 

 

 

おまけ1 年間チャート表

 

アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年
1 Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus Old Town Road 1 36  
2 Post Malone & Swae Lee Sunflower 1 *49  
3 Halsey Without Me 1 *46  
4 Billie Eilish bad guy 1 32  
5 Post Malone Wow 2 44  
6 Marshmello & Bastille Happier 2 *39 80
7 Ariana grande 7 rings 1 33  
8 Khalid Talk 3 39  
9 Travis Scott SICKO MODE 1 *37 42
10 Jonas Brothers Sucker 1 36  
11 Panic! at the Disco High Hopes 4 *37  
12 Ariana grande thank u, next 1 *26  
13 Lizzo Truth Hurts 1 27  
14 Sam Smith & Normani Dancing with a Stranger 7 54  
15 Shawn Mendes & Camila Cabello Señorita 1 20  
16 Ed Sheeran & Justin Bieber I Don't Care 2 26  
17 Benny Blanco, Halsey & Khalid Eastside 9 *34 77
18 Meek Mill feat. Drake Going Bad 6 37  
19 Lady Gaga & Bradley Cooper Shallow 1 *38  
20 Khalid Better 8 *39  
21 Chris Brown feat. Drake No Guidance 5 22  
22 Maroon 5 feat. Cardi B Girls Like You *7 *27 10
23 Ava Max Sweet but Psycho 10 35  
24 DaBaby Suge 7 32  
25 J. Cole Middle Child 4 27  
26 Lil Baby & Gunna Drip Too Hard *8 *26  
27 Lewis Capaldi Someone You Loved 1 26  
28 Lil Tecca Ransom 4 23  
29 Shawn Mendes If I Can't Have You 2 23  
30 Post Malone feat. Young Thug Goodbyes 3 18  
31 Kodak Black feat. Travis Scott & Offset Zeze *7 *20  
32 Post Malone Better Now *10 *23 13
33 5 Seconds of Summer Youngblood *12 *24 36
34 Drake feat. Rick Ross Money in the Grave 7 21  
35 Dan + Shay Speechless 24 *29  
36 Ariana grande break up with your girlfriend, i'm bored 2 20  
37 Cardi B & Bruno Mars Please Me 3 20  
38 Cardi B Money 13 *22  
39 Taylor Swift You Need to Calm Down 2 20  
40 Lil Nas X Panini 5 20  
41 A Boogie wit da Hoodie Look Back at It 27 31  
42 21 Savage a lot 12 23  
43 Taylor Swift feat. Brendon Urie of Panic! at the Disco ME! 2 20  
44 Bad Bunny feat. Drake Mia *18 *22  
45 Polo G feat. Lil Tjay Pop Out 11 27  
46 Luke Combs Beautiful Crazy 21 *27  
47 Blueface Thotiana 8 20  
48 Juice Wrld Lucid Dreams *5 *19 12
49 Sheck Wes Mo Bamba 6 *16  
50 Ed Sheeran feat. Khalid Beautiful People 13 19  
アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年
51 Gucci Mane, Bruno Mars & Kodak Black Wake Up in the Sky 11 *17  
52 Morgan Wallen Whiskey Glasses 17 27  
53 Blake Shelton God's Country 17 23  
54 Dean Lewis Be Alright 23 *26  
55 Mustard & Migos Pure Water 23 25  
56 Blanco Brown The Git Up 14 20  
57 DJ Snake feat. Selena Gomez, Ozuna & Cardi B Taki Taki *18 *19  
58 Ellie Goulding & Diplo feat. Swae Lee Close to Me 24 25  
59 Calboy Envy Me 31 27  
60 Lauren Daigle You Say 29 *25  
61 Panic! at the Disco Hey Look Ma, I Made It 16 22  
62 Post Malone Circles 2 10  
63 Luke Combs Beer Never Broke My Heart 21 21  
64 Young Thug, J. Cole & Travis Scott The London 12 20  
65 Daddy Yankee & Katy Perry feat. Snow Con Calma 22 25  
66 YNW Melly Murder on My Mind 14 20  
67 Billie Eilish when the party's over 29 *28  
68 City Girls Act Up 26 21  
69 Cardi B, Bad Bunny & J Balvin I Like It *24 *19 7
70 SHAED Trampoline 14 23  
71 Flipp Dinero Leave Me Alone 20 *16  
72 Ariana grande breathin 12 *12  
73 Billie Eilish bury a friend 14 20  
74 Lil Baby Close Friends *47 *27  
75 Pinkfong Baby Shark 32 20  
76 Saweetie My Type 21 19  
77 YK Osiris Worth It 48 25  
78 Jonas Brothers Only Human 18 21  
79 Luke Bryan Knockin' Boots 31 22  
80 Ella Mai Trip *15 *12 92
81 Lee Brice Rumor 25 20  
82 A Boogie wit da Hoodie feat. 6ix9ine Swervin 38 20  
83 Sam Smith How Do You Sleep? 24 16  
84 Lil Baby & DaBaby Baby 21 16  
85 Thomas Rhett Look What God Gave Her 32 20  
86 Kane Brown Good as You 36 20  
87 Offset feat. Cardi B Clout 39 20  
88 Khalid & Normani Love Lies *19 *13 19
89 Marshmello & Kane Brown One Thing Right 36 20  
90 Megan Thee Stallion feat. DaBaby Cash Shit 36 20  
91 Dan + Shay Tequila *29 *14 32
92 NLE Choppa Shotta Flow 36 20  
93 Megan Thee Stallion feat. Nicki Minaj & Ty Dolla Sign Hot Girl Summer 11 12  
94 Florida Georgia Line Talk You Out of It 57 26  
95 Bazzi feat. Camila Cabello Beautiful 26 13  
96 Chase Rice Eyes on You 38 20  
97 Dan + Shay All to Myself 31 20  
98 Ariana grande & Social House boyfriend 8 12  
99 Pink Walk Me Home 49 20  
100 Juice Wrld Robbery 27 18  
アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年

 昨年=昨年の年間チャートでの順位

ピーク・週数は今年の集計期間内の数字です。

 

 

おまけ2 予想の答え合わせ

 だいたい半年程度が終了した時点で、最終的に年間チャートはどうなるか?という予想をしています。今年の予想はこうでした!(記事はこちら

 

  予想 結果
1 Old Town Road                  
Old Town Road
2 Without Me Sunflower
3 Sunflower Without Me
4 Happier bad guy
5 Wow. Wow.
6 High Hopes Happier
7 7 rings 7 rings
8 bad guy Talk
9 thank u, next SICKO MODE
10 Sucker Sucker

 2017年・2018年とトップ10正答率は8、ピタリが2でした。今年もトップ10は同数ですがピタリが4になったので少し精度を上げられたということになります!やったね!

  純粋な順位以外にも、細かく予想がズレているところもあるので(例:“I Don’t Care”はHAC系でかからなさそう等 実際は多くかかった) そこは次回以降の糧にしていきたいですかね。

 

 

関連記事

 

この記事の2018年版:Hot 100(USシングル) 2018年間チャートを10のポイントで振り返る - チャート・マニア・ラボ

この記事の2017年版:Hot 100(USシングル)・2017年間チャートを10のポイントで振り返る - チャート・マニア・ラボ

 

*1:ビルボードではMainstream R&B / Hip-Hopと称される

*2:2014年と2017年のClean Banditは男性扱いしています

*3:2週目の Billboard Hot 100:#92 (-72) という落ち幅が話題になり一部でコピペ化していました