チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100 1/18 特集 【ルール変更:YouTubeの集計は公式ビデオが中心に】

f:id:djk2:20200118234454j:plain


 今週YouTubeに関するルール変更がありました。面白そうなので、記事にまとめることにしました!公式ビデオ・ユーザー作成ビデオに関するルール変更です。

 ↑の画像は今週のYouTube「楽曲」ランキング。↓の「ビデオ」ランキングと比較すると数字にギャップがあることが分かります。(=公式ビデオ以外からの再生数も一定数あるということを示す) *1

f:id:djk2:20200118235221j:plain

 

 

◇今週のHot 100 ハイライト◇

・Roddy Ricchの”The Box”がJustin Bieberを退け首位浮上!ストリーミングの数字が圧倒的(6820万)。彼はアルバムも1位

・Justin Bieberの”Yummy”は2位。セールスとラジオで抜群の成績も、ストリーミングは”The Box”の半分以下

・BROCKHAMPTONが初のHot 100入り!”SUGAR”が70位

YouTubeに関する集計変更で”Old Town Road”が15位→46位に。”Ransom”は33位から圏外に

 

 

1~100位までの順位表は↓

  

 

1 YouTubeのルール変更について

 突如ルール変更が来ました。今週のトップ10解説記事の後半に記載されています。

 

まとめると……

YouTubeからの再生を公式ビデオ・非公式ビデオで別々のカウントにする

・ユーザーが作成した非公式ビデオのうち、「曲」の体裁を成しているものは再生数のカウントをラジオ型ストリーミングと同じ水準に(=3/4引き下げる*2

・ユーザーが作成した非公式ビデオのうち、「曲」ではないもの、例えば複数曲が集められたコンピレーションなどは集計の対象外になる

 

 下記のアルバムチャートでの変更と合わせて「公式ビデオ重視」の路線を打ち出しました。「歌の体裁を成している」で主に該当するのは、ユーザーによる独自のリリックビデオなど。「成していない」で主に該当するのは、複数曲が含まれるコンピレーションなどです。

 勘違いされやすいのですが、「ユーザーに作成された」といっても後ろめたいものではなく、コネクトidというシステムで曲を使用した際には、権利の管理者側が収益を受け取る or ブロックなどの選択肢を取ることができます。

 

 この変更で大きな下降を見せた曲がいくつかあります。

・Old Town Road 15位 → 46位

・bad guy 15位 → 34位

・Ransom 33位 → チャート外(=51位以下相当)

・SLOW DANCING IN THE DARK 80位 → チャート外(=101位以下相当)

・ROXANNE 5位 → 9位 (順位の下降は地味ですが、ラジオが大幅に伸びながらも順位が下降しているのは変更のダメージを受けたと推測される)

 

 影響を受けた曲の数はそこまで多くないものの、その一部の曲はかなりの下落幅を記録しています。他の集計方法に関する記述はなく、据え置きのままと思われるので、他の指標で人気な曲が相対的に少し比重を上げたことになります。従来から強かったラジオやApple/Spotifyが今後もチャート上位を占めるものと思われます。

 

 

2 非公式ビデオの除外について考える

 1で紹介したルール変更の良い点、悪い点について考えていきます。まず、良い点として挙げられるのは「深追いしすぎ」だったのを改善できたという点です。

 YouTubeは収益が他の媒体と比べて収益が低すぎる点を指摘されています。それが非公式ビデオともなれば、さらに収益が下がるかもしれません。またコンピレーションであれば、アーティストの文脈からは「かなり離れた」コンテンツであります。

 私はミームが発生しても、それがいかに実際的な評価=有料ストリーミングなどの「見える評価」に変わることが大切と考えていました。つまりミーム単体で成立している曲と実際にApple/Spotifyで伸びる曲の間には大きな壁があると考えています。

 そのことから、収益面でも、アーティストに対する評価面でも寄与率が低いと考えられるこのタイプの動画まで集計する「深追い」のバランスが改善された、という見方もできます。

 

 一方悪い点として挙げられるのは、現在音楽消費の中心にいるストリーミングが相対的に弱体化されることです。個人的にはこっちの方が気になります。ストリーミングの一部の比重が下げられ、他が据え置きということで、Hot 100では主にラジオ(とDL)の比重が相対的に上がっています。

 このラジオの「相対的な強化」は今回が初ではなく、以前もありました。2018年7月に「無料会員の再生は2/3、プログラム型=ラジオ型再生は1/2」という変更があり、他の指標は据え置きだったため、その週ラジオで人気の曲が多く登場しました。(その週の記事:Hot 100 7/14 見どころ 【チャートの微調整でラジオに追い風が吹く可能性も? / Drakeの週】 - チャート・マニア・ラボ

  現在音楽消費を牽引しているストリーミングが2連続で比重を落とされるのは疑問に感じるので、このような変更をするならば全体的なポイント比重のテコ入れをするべきと私は考えています。

 

☆個人的な案

セールス:ストリーミングの比率がアルバムチャートよりもはるかにセールス重視に設定されているので、その比率をアルバムチャートと同程度にします。(とはいっても規模が小さいのでそこまでチャートに影響を与えませんが。ただ最近はバンドル戦略をシングルにも持ち込むアーティストが増えたため、要注目かも)

セールスは現状「固定ファンによる初週ブースト」の数字になっており、ヒットを証明するものとは微妙に違う印象です。

 

ラジオ:これの比重が強いせいで、ストリーミングでの人気が既に下がった頃合いにHot 100でピークを迎えることが多発。ラジオは依然として重要な指標とは思っていますが、現状のHot 100ではラジオのパワーが強すぎると感じます。

 

このことから……

セールス:実数/6 → 実数/10に変更

ラジオ:従来のポイントを×0.9

ストリーミング:従来のポイントを×1.1

が良いと考えました。現行のチャートシステムはMusic Pulse Boardで考案されたものを参考にしています。

 

 

3 アルバムチャートにビデオが入ったことについて

 こちらは事前に告知がありました。アルバムチャートでビデオの再生数が適用。公式ビデオのみが対象。RIAA(プラチナ認定などをする機関)では元々ビデオのストリーミングも集計対象だったため、これに近づいたことになります。 (RIAAでも同様に公式ビデオのみ。ただし、無料/有料会員で区別をするという記述は見当たらず、ビデオの比率がビルボードと比べて高いと思われる) 

 ただしこれの効果は限定的なものになっています。主要なビデオ媒体であるYouTubeからの再生は「広告付き再生」に分類され、少なく計算されていることが大きいでしょう。また、YouTubeではアルバム単位での再生はあまりされず、一部の曲(特にビデオがある曲)のみに再生数が集まりやすく、「アルバム全体の再生数」が伸びづらいことも関係しているかもしれません。

  ちなみに全盛期の”Old Town Road”でもプラス分は+1万になるかどうか程度だと思います。

 

※現行アルバムチャート

有料会員のストリーミング再生は1250 = 1枚

無料会員(広告付き)のストリーミング再生は3750 = 1枚

 これはそれぞれの1再生あたりの収益、または無料会員はアルバム単位での再生が難しいことなどが理由として考えられます。(例えばSpotify無料会員はアルバムの曲順がシャッフルしてしまう)

 有料会員の再生数の方が多く、だいたい1再生=1300~1350程度になることが多いです。(従来はすべて1500再生 = 1枚だった)

 

 

4 “The Box” vs “Yummy”について

 これもビッグテーマの一つ。気鋭のRoddy RicchとJustin Bieberの激しい1位争いは前者に軍配。ストリーミングで圧倒的な数字を残しました。Apple MusicとSpotifyの両方で圧倒的な首位。ビデオ無しながらもYouTubeでも首位です。

 DLとラジオではJustin Bieberが大きく上回りましたが、ストリーミングでの差が非常に大きかったです。(”The Box”は6820万、”Yummy”は2930万)

 

 “The Box”はアルバムリリースとともに頭角を表し、プレイリスト入りやミームでその規模を拡大する、というストリーミングらしい手法でヒット。気鋭のラッパーがストリーミングの爆発的人気によってビッグスターの新曲を抑えて1位を獲得するのは昨年の“Old Town Road”を彷彿とさせます。Justin Bieberは昨年の”I Don’t Care”に引き続き連続でこのパターンで1位を防がれています。

 ヒットの要因で大きいのはアルバム単位での人気を集められたことですかね。それだけアーティストに対する期待度が高かったということです。現在のストリーミングでは(特にApple)ではアルバムリリース時に規模が伸びることも多く、アルバムで成功できるアーティストがそのままシングルでもヒットを飛ばしやすい傾向にあります。

 また、閑散期にリリースされたことも要因の一つでしょうか。新リリースが少ない12月では珍しい上昇曲だったので、SpotifyのToday’s Top Hitsにも2週目に追加され、そこからさらに再生数を伸ばしました。そこから雪だるま式に再生数を伸ばしていきました。 

 現在Roddy Ricchという存在に対して大きな注目が集まっているのか、その他の曲も上昇中。Mustardを迎えた”High Fashion”は35位まで上昇。ほか“Start Wit Me”、”Tip Toe”、“Peta”と合計5曲がHot 100入りを果たしています。また、彼が客演するMustardの”Ballin’”も今週11位とピークを更新しています。アルバムチャートでは1位に再浮上。

 

 一方“Yummy”もそこまで悪くない成績を残しています。セールスは7.1万を記録。昨年6月の”You Need To Calm Down”(7.9万)以来最高の数字です。この数字はアルバムチャートで見られるような「グッズ戦略」と似たような手法で稼がれています。公式サイトで販売されたヴァイナル・カセット(一部サイン付き)が人気で、これの占める分量がかなり多いと思われます。(おそらく過半数

 ラジオも同様に好調。1週目ながらも既に”The Box”を凌駕するオンエア。彼が本来得意とするポップ系だけでなく、アダルトポップ、リズミック、アーバンと幅広い系統でオンエアが始まっています。アダルトポップとアーバンが両立する曲はなかなか珍しいです。(例えばPost Maloneの“Circles”はアダルトポップでオンエアされるが、アーバンではオンエアされない)

 しかしストリーミングで“The Box”に及ばず。どの媒体でもトップ10には入っていて悪くはない成績ですが、Justin Bieberとしては物足りないといった印象でしょうか。ラップ曲天下のApple Musicで1位にならないのは想定通りなのですが、Spotifyで”Roxanne”にも負けて3位だったこと、ビデオも用意したのにYouTubeで2位だったことは少し予想外でした。(”The Box”はビデオ無し)

 複数種類用意されたビデオからは「何が何でも1位を獲得してやる!」という強い意思を感じましたが、そのストリーミングで思うような数字を残せませんでした。

 さらに公式インスタグラムで一瞬アップロードされた「どうやったら“Yummy”は首位になるのか?」というファン向け投稿では、VPNを偽装(=居住地偽装)してストリーミングを伸ばすことを奨励しており、ネガティブな印象を残しています。

 

ちなみにRoddy Ricchはこんな発言をTwitterでしています。

 

 一見ライバルを励ます?かのようなツイートにも見えますが、これが発信された1/11は既に”Yummy”が一番伸びやすい1週目の集計が終わった後なので、個人的には「励ましに見せかけた勝利宣言」なのでは?とも考えました。そこまで深いこと考えているかは不明ですが。

 

一見謎のツイートだったのですが、次の週のアルバム1位を争う関係でもあるんですね。これも競合相手をなぜか応援。関係ふぁぼ・RTが上のツイートを越えています。Roddy RicchはSNSの扱いがうまそうな予感。

 

 

5 その他の新規エントリーについてざっと説明

 

☆60 Moneybagg Yo feat. Lil Baby – U Played

 Tay Keithプロデュースの1曲。彼はアルバムを先日リリースし。次のチャートに反映されます。

 

☆70 BROCKHAMPTON – SUGAR

 グループ初のHot 100エントリー!AppleSpotifyで大きく上昇中。そしてポップ系ラジオでもオンエアされています。(ビルボードのポップ系ラジオチャートにはまだ入っていない)

 

☆95 Dpja Cat – Say So

 TikTokでの人気も確認される1曲。このようなタイプの曲は今週大きく順位を下げたと説明しましたが、この曲はしっかりSpotify / Appleでも人気なのでHot 100入り。

 

☆98 Baby Keem – ORANGE SODA

 初のHot 100エントリー。人気はSpotify > Apple。アーバン系ラジオでもオンエア。

 

 

Hot 100に入った曲 (☆新登場 ◇再登場)

◇99 Moneybagg Yo & Megan Thee Stallion – All Dat

☆98 Baby Keem – ORANGE SODA

◇96 YoungBoy Never Broke Again – Make No Sense

☆95 Doja Cat – Say So

☆94 Lil Tjay – 20/20

☆93 Carly Pearce & Lee Brice – I Hope You’re Happy Now

☆90 Olivia Rodrigo – All I Want

◇86 Roddy Ricch feat. Meek Mill – Peta

☆70 BROCKHAMPTON – SUGAR

☆60 Moneybagg Yo feat. Lil Baby – U Played

☆2 Justin Bieber - Yummy

 

 

今週チャートから外れた曲 (11曲)

【先週の順位、アーティスト名、曲名、🗻ピーク順位、⏰チャート滞在週数】

98 Anuel AA, Daddy Yankee, 等... - China (🗻43位 /⏰18週)

97 Diplo feat. Morgan Wallen – Heartless (🗻78位 /⏰4週)

96 Doja Cat – Candy (🗻86位 /⏰6週)

95 DJ Snake, J Balvin & Tyga – Loco Contigo (🗻95位 /⏰2週)

94 Juice WRLD – Let Me Know (🗻78位 /⏰3週)

92 Ant Saunders – Yellow Hearts (🗻81位 /⏰8週)

91 Trippie Redd feat. DaBaby – Death (🗻59位 /⏰7週)

80 Joji – SLOW DANCING IN THE DARK (🗻69位 /⏰13週)

69 JACKBOYS, Pop Smoke & Travis Scott - GATTI (🗻69位 /⏰1週)

47 Lil Baby & DaBaby – Baby (🗻21位 /21週)

33 Lil Tecca – Ransom (🗻4位 /31週)

 

 

~その他のHot 100情報~

 

・今週のトップ10

△1◎ Roddy Ricch – The Box 🍎✅🚩

☆2◎ Justin Bieber – Yummy

▽3  Post Malone – Circles

▽4  Maroon 5 – Memories

△5◎ Dan + Shay & Justin Bieber – 10,000 Hours

▽6  Lewis Capaldi – Someone You Loved

―7  Tones And I – Dance Monkey

▽8  Lizzo – Good As Hell

▽9◎ Arizona Zervas – Roxanne

―10◎ Selena Gomez – Lose You To Love Me

🍎=Apple Musicで1位、✅=Spotifyで1位、🚩=YouTubeで1位

 は先週と比べて曲のポイントが伸びていることを指す

 

 

・Hot 100圏外の曲のうち各サービスで最も人気のあった曲

🍎 Roddy Ricch feat. Ty Dolla $ign – Bacc Seat (今週17位程度)

✅ Harry Styles - Falling (今週42位)*3

🚩 YoungBoy Never Broke Again – Bring ’Em Out (今週24位) 

Apple Musicは週の最終日の順位を週間の“参考順位”としています(Apple Musicには週間チャートが無い)

 

 

 

・各指標の順位

Spotifyhttps://spotifycharts.com/regional/us/weekly/2020-01-03--2020-01-10

Apple Music:【魚拓】Top 100: USA on Apple Music

YouTubehttps://charts.youtube.com/charts/TopSongs/us/20200103-20200109

・ラジオなど:https://kworb.net/radio/

 

 

 

 

 

*1:"Yummy"はリリックビデオも11位にランクイン。しかし合計しても「楽曲」の再生数には少し及ばない

*2:有料会員の再生を1とすると、YouTubeなどの無料会員の再生は2/3、パンドラなどのラジオ型ストリーミングは1/2で集計される

*3:不正操作疑惑のFrench Montanaは除く