チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Spotifyグローバルトップ10曲を4パターンに分類 [2019]

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  この記事では昨年(2019年)のSpotifyグローバルのトップ10曲を分類し、そのうち「上昇した曲」について特に深く見ていきたいと思います。

※特に断りが無い限り、この記事での順位はSpotifyグローバルの週間チャートの順位を指しています。

https://spotifycharts.com/regional/global/weekly/latest (←直近の週のランキング)

 

 昨年、新たに*1Spotifyグローバルトップ10に入った曲は76ありました。これらを「ヒットの仕方」に注目して4つのタイプに分類していきます。

 

①:登場時からトップ10でスタート 

②:(先行曲が)アルバムリリース時にトップ10入り 

③:下位から上昇してのトップ10 (アルバム以外) 

④:その他(クリスマスなど)

 

(表の見方)

週:トップ10に入った週 

型 → ①:無印 ②:ア ③:☆ 黄色背景:非英語曲 

 

アーティスト 曲名
1/3 Post Malone Wow.  
1/3 Ava Max Sweet but Psycho
1/3 Pedro Capo & Farruko Calma
1/17 Sam Smith & Normani Dancing With A Stranger  
1/17 Panic! At the Disco High Hopes
1/24 Ariana Grande 7 rings  
1/31 J. Cole MIDDLE CHILD  
2/7 Billie Eilish bury a friend  
2/14 Ariana Grande break up with your girlfriend, i'm bored  
2/14 Ariana Grande needy  
2/14 Ariana Grande NASA  
2/14 Ariana Grande bloodline  
2/14 Ariana Grande bad idea  
2/21 Daddy Yankee feat. Snow Con Calma
3/7 Jonas Brothers Sucker  
4/4 Billie Eilish bad guy  
4/4 Billie Eilish wish you were gay
4/4 Lil Nas X Old Town Road
4/4 Billie Eilish when the party's over
4/11 Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus Old Town Road (Remix)  
4/11 BLACKPINK Kill This Love  
4/18 BTS feat. Halsey Boy With Luv  
4/18 Avicii feat. Aloe Blacc SOS  
4/25 Khalid Talk
5/2 Taylor Swift feat. Brendon Urie ME!  
5/9 Logic feat. Eminem Homicide  
5/9 Shawn Mendes If I Can't Have You  
5/16 Ed Sheeran & Justin Bieber I Don't Care  
5/23 Sech feat. Darell Otro Trago
5/23 Tyler, the Creator EARFQUAKE  
5/23 Lunay feat. Daddy Yankee & Bad Bunny Soltera
5/30 Young Thug feat. Travis Scott & J. Cole The London  
5/30 Ed Sheeran feat. Chance the Rapper & PnB Rock Cross Me  
6/6 Lewis Capaldi Someone You Loved
6/13 Bad Bunny & Tainy Callaita
6/20 Taylor Swift You Need To Calm Down  
6/20 Drake feat. Rick Ross Money in the Grave  
6/27 Shawn Mendes & Camila Cabello Señorita  
6/27 Lil Nas X Panini  
6/27 Katy Perry Never Really Over
7/4 Ed Sheeran feat. Khalid Beautiful People  
7/11 Post Malone feat. Young Thug Goodbyes  
7/18 Ed Sheeran & Travis Scott Antisocial  
7/18 Billie Eilish & Justin Bieber bad guy (Remix)  
7/18 Ed Sheeran feat. Camila Cabello & Cardi B South of the Border  
7/25 Anuel AA, Daddy Yankee & Karol G feat. J Balvin & Ozuna China  
7/25 Sam Smith How Do You Sleep?  
7/25 DJ Snake & J Balvin feat. Tyga Loco Contigo
8/1 Lil Tecca Ransom
8/8 Ariana Grande & Social House boyfriend  
8/22 Taylor Swift Lover
8/22 Taylor Swift The Man  
8/29 Tones And I Dance Monkey
8/29 Post Malone Circles  
9/5 Post Malone Saint-Tropez  
9/5 Post Malone Hollywood's Bleeding  
9/5 Post Malone feat. Ozzy Osbourne & Travis Scott Take What You Want  
9/5 Post Malone feat. DaBaby Enemies  
9/12 Ariana Grande, Miley Cyrus & Lana Del Rey Don't Call Me Angel  
9/12 Y2K & bbno$ Lalala
10/10 Travis Scott HIGHEST IN THE ROOM  
10/10 Dan + Shay & Justin Bieber 10,000 Hours  
10/10 Maroon 5 Memories
10/17 Harry Styles Lights Up  
10/24 blackbear hot girl bummer
10/31 Selena Gomez Lose Yo To Love Me  
10/31 Kanye West Follow God  
10/31 Selena Gomez Look At Her Now  
11/7 Dua Lipa Don't Start Now  
11/7 The Black Eyed Peas & J Balvin RITMO
11/14 Arizona Zervas ROXANNE
11/21 Billie Eilish everything i wanted  
11/28 Bad Bunny Vete  
12/5 The Weeknd Heartless  
12/5 The Weeknd Blinding Lights  
12/19 Harry Styles Adore You
12/19 Trevor Daniel Falling
12/19 KAROL G & Nicki Minaj Tusa

 

 集計:

①:登場時からトップ10でスタート → 51曲

②:(先行曲が)アルバムリリース時にトップ10入り → 4曲

③:下位から上昇してのトップ10 (アルバム以外) → 21曲

④:その他(クリスマスなど) → 0曲

 

 

 

 一番多いのは登場時から既にトップ10に入っていたパターン①です。つまり元からヒットが見込まれる曲がそのまま順当にヒットした、ということです。ここにはアルバムと同時にリリースされたシングルも含みます。(2/14のAriana Grandeや9/5のPost Maloneなど)

 ②は先行でリリースされた時点ではトップ10に入っていなかったものの、アルバムのタイミングでトップ10に浮上するというものです。現在のストリーミングではアルバムが強力なフォーマットであり、アルバム効果で順位を上げる現象が度々見られます。ただし、この恩恵を受けられるクラスのアーティストはそもそも曲の登場時から既にトップ10に入っていることが多いです。

 ③はリリース・アルバム以外の要因で大きな上昇を見せ、最終的にトップ10まで「浮上」した曲のことです。一般的に「ヒット」として想定されやすいパターンはこれだと思いますが、意外とあまり数は多くないです。

 ④に関しては、クリスマス曲が5つ、そしてその他の要因(訃報)が1つトップ10入りを昨年成し遂げたのですが、いずれも一昨年以前に既にトップ10入りしていた曲なので、「新たに」トップ10入りした曲は0でした。 

 

※参考

2019年にトップ10入りした曲のうち、2018年以前にもトップ10入りしていた曲

1/3 Travis Scott SICKO MODE  
1/3 Marshmello & Bastille Happier
1/3 DJ Snake, Ozuna, Selena Gomez & Cardi B Taki Taki  
1/3 Bad Bunny feat. Drake MIA  
1/3 Post Malone & Swae Lee Sunflower  
1/3 Halsey Without Me
1/3 Ariana Grande thank u, next  
2/28 Lady Gaga & Bradley Cooper Shallow
12/5 Mariah Carey All I Want for Christmas Is You
12/12 Juice WRLD Lucid Dreams
12/26 Wham! Last Christmas
12/26 Ariana Grande Santa Tell Me
12/26 Michael Buble It's Beginning to Look a Lot like Christmas
12/26 Bobby Helms Jingle Bell Rock

 

  ①と②に関してはヒットの理由は「元から知名度・期待感があった」で説明できると思います。このパターンがストリーミングで多いことからから、現在「人への注目度・期待感」がヒットの資本になっている、という印象があります。

 一方で新たなヒットが生まれるとしたら、③が有力です。今回はその③に当てはまる21の曲を分析し、「次なるヒット」はどのような経路で生まれるのかを考えていきます。この21曲をさらに分類しました。

 

 

パターン1:ラテン(8)

Pedro Capó & Farruko – Calma

Daddy Yankee feat. Snow – Con Calma

Sech feat. Darell – Otro Trago

Lunay feat. Daddy Yankee & Bad Bunny – Soltera

Bad Bunny & Tainy – Callaita

DJ Snake & J Balvin feat. Tyga – Loco Contigo

The Black Eyed Peas & J Balvin - RITMO

KAROL G & Nicki Minaj - Tusa

 

 ラテン曲は、リリース時に一気に食いつかれるよりは、じわじわ定着して徐々に浮上していくパターンが目立ちます。順位をグラフにすると山なりになるようなイメージです。ラテン圏のトップ10は、ほとんどがこの下位からの上昇パターンです。(登場時からいきなりトップ10なのは”China”と”Vete”の2曲)

 さらにトップ10を果たしたラテン曲のうち、リリースの週がピークになっている曲はBad Bunnyの”Vete”のみでした。これは彼が最も新曲に食いつくアメリカでも人気があることが理由の一つかと思われます。(同様にラテン圏でもメキシコで登場から1位などロケットスタートだった) この「食いつくタイミング」の地域・アーティストの差も面白そうなテーマです。

(※”China”はトップ10圏内で登場後もさらに順位を伸ばした)

 

 また、上昇にはもちろんプレイリストが寄与していると思います。ラテン系のプレイリストは¡Viva Latino!とBaila Reggaetonはそれぞれサービス内で3番目・4番目に人気のリストであると2018年末に発表されています。(おそらく現在も)

 

  名前 説明 Like
  Today's Top Hits 総合ヒットリスト(英語曲メイン) 25,655,673
  RapCaviar 主にUS方面のラップ 12,616,329
  ¡Viva Latino! ラテン曲総合ヒットリスト 10,540,418
  Baila Reggaeton レゲトン(ラテンアーバン)特化 9,921,456
  Songs to Sing in the Car ノリやすい過去曲で構成 100曲 9,078,737

※Like数は執筆時(2020年の2/11)の数字

 

 ただしSpotifyで最も人気のあるプレイリスト、Today’s Top Hitsでのラテン曲の扱いは微妙で、グローバル順位の割にリストの下の方に配置される傾向にあります。“Callaita”に関してはリストに入りすらしませんでした。

 英語圏アクトも共演している”Loco Contigo”と”RITMO”はラテン曲としては少し扱いが良かった印象です。またヒット度が優秀だった”Con Calma”もリストに残る期間が長めでした。

 

 

パターン2:TikTok(4)

Lil Nas X – Old Town Road

Y2K & bbno$ - Lalala

Arizona Zervas – ROXANNE

Trevor Daniel – Falling

 

 今年多く見られたパターンです。TikTokで発掘された後、「曲」としての評価も確立して順位をグングン伸ばすというパターンです。TikTokでよく使われるだけでは、ヒットするか微妙で、実際に「曲」としてのポテンシャルが無いとヒットまではたどり着かない印象です。

 “Old Town Road”や”Lalala”は比較的ワールドワイドにヒットした印象です。特に”Lalala”は英語曲があまり流行しないブラジルで9位まで到達することに成功しました。(USの12位よりも高い順位)

 2020年も同様にTikTok発のヒットは生まれるでしょうか?現状でトップ10入りが期待できそうなのはDoja Catの”Say So”でしょうか。(直近の週25位)

 

TikTokのヒットについて考えた記事

  

パターン3:実は「元から知名度」型(3)

Khalid – Talk (アルバムから2週後で到達)

Katy Perry – Never Really Over (最初から11位、4週目)

Maroon 5 – Memories (3週目 最初29位)

 

 定義上は上昇ながらも、チャート動向を観察すると「じわじわ」よりも「知名度による」上昇に近い曲です。これらはリリース時(orアルバム時)から順位が高めで、その流れでトップ10まで到達したような曲です。

 

Talk”の推移

1週目:25位

2週目:18位

~~~~~

9週目:13位(アルバムリリース週)

10週目:14位

11週目:10位

※9週目に一旦Today’s Top Hitsから外された(他のKhalidのアルバム曲が入れられた)が、10週目に戻り、11週目はリストの上位に配置された

 

“Never Really Over”の推移

1週目:11位

2週目:16位

3週目:14位(Today’s Top Hitsの表紙に 配置は10番目)

4週目:10位

※だいたい表紙アーティストはリスト1番目、またはそれ近くに配置されており、10番目で表紙になっているのは珍しい

 

“Memories”の推移

1週目:29位

2週目:17位

3週目:10位

 

 

パターン4:ナチュラル上昇型 (6)

Ava Max – Sweet but Psycho

Panic! At the Disco – High Hopes

Lewis Capaldi – Someone You Loved

Lil Tecca – Ransom

Tones And I - Dance Monkey

Blackbear – hot girl bummer

 

 曲が後から浮上するのがベースになっているラテン曲以外で、下位からの上昇を見せた曲たちです。

 もともと知名度が高くないアーティストでもヒットする可能性があるのはTikTokと、そしてこの「ナチュラル上昇」です。これはリリースから長い時間をかけてプレイリストなどを上昇し、最終的にはヒットになる……というパターンです。

 従来の「ヒット」のイメージに合うのはこのパターンかもしれませんが、ストリーミング環境ではどちらかというと少数派のヒットの仕方です。

 何がヒットするかが偶発的で全く読めないTikTokと比べると少し再現性があると思います。これらをさらに細かく分類し、ヒットのパターンを追っていきます。

 

☆US外から型

Lewis Capaldi – Someone You Loved (イギリス)

Tones And I – Dance Monkey (オーストラリア)

 

 地元でヒットの兆しを見せ、プレイリスト採用などによってそれが世界に広まっていくというパターンです。このタイプの曲は、USでヒットするのは遅くなりやすいので、USでヒットすることに成功すればピークが分散し、ロングヒットになります。

 

 Lewis Capaldiはまず2018年のBBC Sound of…にノミネートされるなど地元UKで徐々に頭角を現していきます。(1位~5位には選ばれなかった。ちなみにBillie Eilishもこの年ノミネートされ、同様に1位~5位外だった)

 そして2018年の11月に”Someone You Loved”がToday’s Top Hits入り。当時イギリスでヒットしかけていたのは”Grace”という別の楽曲だったのですが、なぜ”Someone~”の方が選ばれたのかはよく分かりません。ただ結果的にリスト加入から少しして、UKで”Someone~”も上昇し成功を収めました。

 1回はヒットが終わったとみなされて2019年の4月にリストを外されるものの、その後も継続して順位を上げたことによって、5月にリスト復帰。そこからUSでもロングヒットになったこともあり、年明けまでリストに残っていました。USのラジオでオンエアが始まったのもその5月辺りでした。

 Today’s Top Hitsでは、ヒット中であっても「ピークが終わった」と判断されれば早めのタイミングでリストから外されます。その中で1年以上リストに居座るという、異例な曲です。

 

 “Dance Monkey”はオーストラリア → ヨーロッパ → アメリカ含むその他エリアと3段階でヒットし、かなりロングヒットに。Spotifyグローバル首位の累計滞在日数は歴代1位タイの113日。(この曲にタイで並ぶのは”rockstar”)

 

(主要国+オーストラリアでのピーク)

オーストラリアのピーク週:2019年9月5日

イギリスのピーク週:2019年10月24日

ドイツのピーク週:2019年10月17日

メキシコのピーク週:2020年1月16日

ブラジルのピーク週:2020年1月16日

アメリカのピーク週:2020年1月9日

 

グローバルチャートのピーク週:2020年1月16日

*ピーク=再生数が最も多い週

 

 英語圏でヒットすれば、ローカルヒットの段階でもToday’s Top Hitsには採用されやすいので、そこからワールドワイドになるチャンスは大きく広がります。そこからどこまで飛躍するか?はその曲のポテンシャル次第ですね。

 一方で非英語圏曲の場合はなかなかToday’s Top Hitsには入らないので、ローカルヒットからの飛躍は別ルートを探す必要がありますね。

 

☆USラジオ連携型

Panic! At the Disco – High Hopes

 ラジオの上昇とともにSpotify順位を上げていったパターンです。 タイミング・選曲の両面でラジオとストリーミングの人気曲はここ数年乖離しているので、珍しく感じます。

 この曲が初めてSpotifyのトップ10に入ったのは1/3の週だったのですが、USのラジオ再生数で首位に立ったのはこれより前でした。

 

 ただし、彼*2ロック系アクトとしては珍しく、アルバム曲がすべてUSのSpotifyランキング100位以内に入るなど、元からストリーミングでの注目度も高かったです。(ただ"High Hopes"単品ではシングルカット後の方が順位は高かった)

 つまりラジオがすべての要因ではないということです。

 

 

☆US「非」ラジオ型

Lil Tecca – Ransom

blackbear – hot girl bummer

 

 USの地域でヒットした曲のうち、ラジオでかかる前にヒットし、そしてTikTokでヒットしたという記述があまり見られないものです。

 “Ransom”のヒットの理由として考えられるのは曲が高く評価されたことが大きいかもしれません。その評価の高さから彼への期待度は高く、デビューアルバムから計5曲をHot 100にエントリーさせることに成功しました。またPitchforkはこの曲を年間ベストリストに掲載しています。

 ただし”Ransom”はミームで使われていた?という捉え方もできます。Hot 100で公式ビデオ以外のYouTube再生数のポイントが大きく低下した週に大きく順位を落としています。つまりYouTubeで公式ビデオ以外の再生が大きい=ミーム的人気があった?とも考えられます。

この週についての詳しい解説:Hot 100 1/18 特集 【ルール変更:YouTubeの集計は公式ビデオが中心に】 - チャート・マニア・ラボ

 

 “hot girl bummer”はMegan Thee Stallionの”Hot Girl Summer”をもじったタイトルで注目を集めたことが大きいでしょう。

 

 

☆その他

Ava Max – Sweet but Psycho

 

 US出身のシンガーながらもヨーロッパでヒットし、アメリカに逆輸入されました。プレイリストなどで曲が発掘されて、最終的に大ヒットになる……というSpotifyでよく想定されるパターンに一番あてはまる曲かもしれないです。

 別に地元でヒットしたというわけはなく、さらにTikTok発でもなさそうなので、本当に「曲」のパワーでチャートを駆け上がった、ナチュラルヒットです。

 

 

 

 

*1:一昨年=2018年以前にもトップ10入りの経験がある曲は除く

*2:Panic! At the Discoの正式メンバーは現在Brendon Urie1人らしい