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音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

2019のRIAA報告を見る:4年連続の2桁成長

 

 RIAAアメリカレコード協会)の売上データベース2019年版が更新されました!今年も引き続き2桁成長を達成し、ストリーミングを中心とした好調が続いていることが伺えます!

 RIAAによる分析記事もあるのですが(Charting a Path to Music’s Sustainable Success - RIAA - Medium) 

 私なりの目線でも2019年版のデータを掘り下げてみようと思います。RIAAのサイトにあるデータベースを見ながら、読んでみてください。

※この記事を書いているのは2020年ですが、便宜上 今年=2019年とします。

 

 

・4年連続の2桁成長

 2016年以降、2桁成長が4年連続で続きました。これはRIAAのデータベース上では初のことのようです。以下は成長率の変遷です。

※単位はM(Million)$

 

売上額 前年比 成長率 覇権媒体
1973 2000     ヴァイナル
1974 2200 200 10.0%
1975 2400 200 9.1%
1976 2700 300 12.5%
1977 3500 800 29.6%
1978 4100 600 17.1%
1979 3700 -400 -9.8%
1980 3700 0 0.0%
1981 4000 300 8.1%
1982 3600 -400 -10.0%
1983 3800 200 5.6% カセット
1984 4300 500 13.2%
1985 4400 100 2.3%
1986 5600 1200 27.3%
1987 6300 700 12.5%
1988 6300 0 0.0%
1989 6600 300 4.8%
1990 7500 900 13.6%
1991 7800 300 4.0% CD
1992 9000 1200 15.4%
1993 10000 1000 11.1%
1994 12100 2100 21.0%
1995 12300 200 1.7%
1996 12500 200 1.6%
1997 12200 -300 -2.4%
1998 13700 1500 12.3%
1999 14600 900 6.6%
2000 14300 -300 -2.1%
2001 13700 -600 -4.2%
2002 12600 -1100 -8.0%
2003 11900 -700 -5.6%
2004 12300 400 3.4%
2005 12300 0 0.0%
2006 11800 -500 -4.1%
2007 10700 -1100 -9.3%
2008 8800 -1900 -17.8%
2009 7800 -1000 -11.4%
2010 7000 -800 -10.3%
2011 7100 100 1.4%
2012 7000 -100 -1.4% ダウンロード
2013 7000 0 0.0%
2014 6700 -300 -4.3%
2015 6700 0 0.0% ストリーミング
2016 7600 900 13.4%
2017 8800 1200 15.8%
2018 9800 1000 11.4%
2019 11100 1300 13.3%

 (3年連続で続くことは何回かあったようです)

 

 今年は2007年以来の100億$超えを達成。仮に今後も2桁成長が続くとすれば、2022年には過去最高額の売上に到達します。

 

 

・全体の約80%がストリーミングから!

 今年の売上の中心になったのは、もちろんストリーミングです。中でもOn-Demand(選択式、SpotifyAppleなど)の有料会員からの収入は全体の53.4%を占めています。(額でいうと59億$)

 さらにその他のストリーミングである広告付きOn-Demand(8.2%)、広告付きその他のストリーミング(2.3%)、デジタル・ラジオ(8.2%)、制限付きストリーミング(7.5%)らを全て合わせると約80%を占めることになります。

 

 

・各ジャンルの増減

 さらに各ジャンルの伸び率を見ていき、今年の2桁成長の要因を探っていきます。2017年→2018年、2018年→2019年の推移を比較します。

 

※単位はM(Million)$

※ジャンルの詳しい説明は後述します

  2018→2019 2017→2018
全体 1300 13.3% 1000 11.4%
LP/EP 78 18.7% 31 7.9%
CD -84 -12.0% -402 -36.5%
Music Video (Physical) 0 0.4% -11 -28.5%
アルバムDL -105 -21.1% -169 -25.3%
シングルDL -76 -15.4% -188 -27.7%
Other Digital 2 8.6% 3 17.2%
On-Demand (Paid Subscription) 1200 25.5% 1200 34.3%
On-Demand (Ad-Supported) 149 19.6% 101 15.3%
Other Ad-Supported Streaming
0 -0.1% -10 -4.0%
Sound Exchange -45 -4.7% 301 46.1%
Limited Tier Paid Subsctiprtion
82 11.0% 156 26.3%
Synchronization -9 -3.2% 53 23.0%

 

 稼ぎ頭である有料会員のOn-Demandストリーミングは今年も昨年も同じ伸び「幅」です。ただし伸び「率」という観点で見ると昨年よりは劣ります。その他のストリーミングも同様に、昨年ほどの伸び率を記録していない媒体も多いです。

 これにも関わらず全体の伸び率は今年の方が高いです。理由として大きそうなのはCDの落ち幅をかなり抑えられたことです。2018年には約4億$(-36.2%)という凄まじい落下幅を記録しましたが、2019年は約8000万&(-12.0%)と控えめになりました。また、同様にダウンロードの下げ幅も2018年と比べて落ち着きました。

 

(表にするとこんな感じです)

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  今年の2桁成長は、もちろんストリーミングが引き続き伸びていることが大きいのですが、密かにセールスの落ち幅が控えめになったのもキーポイントだと感じました。

 

 ※ジャンル名の補足説明

・Other Ad-Supported:On-Demandなどのストリーミングではなく、後述のSound Exchange=ラジオ型でもないストリーミングのことを指しています。これ以外の有力なストリーミングというと、YouTubeが浮かびます。 (後日訂正:On-DemandのAd-SupportedにはVideo Serviceが含まれると書いているのでYouTubeはOther AdではなくOn-DemandのAdに含まれるっぽいです。すいません)

 

・Sound Exchange:デジタル・ラジオ、Pandoraなどです。

 

・Limited-Tier Paid Subscription:有料会員ではあるものの、機能に制限があるストリーミング。Amazon Echoの4$プランが例の一つのようです。

 

・Synchronization:映像媒体における音楽の使用料のことです。

 

 

・CDとダウンロードの推移

 最後に今年の2桁成長にある意味貢献(?)した、CDとダウンロードが登場以来どのように推移してきたかを見ます。

 

 ☆CD(シングル+アルバム)

売上(M$) 前年比 成長率
1983 17    
1984 103 86.1 500.6%
1985 390 286.2 277.1%
1986 930 540.6 138.8%
1987 1600 669.9 72.0%
1988 2100 500 31.3%
1989 2600 500 23.8%
1990 3500 900 34.6%
1991 4335 835.1 23.9%
1992 5345 1010 23.3%
1993 6546 1200.7 22.5%
1994 8556 2010.3 30.7%
1995 9511 954.8 11.2%
1996 10084 573.2 6.0%
1997 10173 88.6 0.9%
1998 11613 1440.5 14.2%
1999 13022 1409.2 12.1%
2000 13343 320.3 2.5%
2001 12979 -363.3 -2.7%
2002 12020 -959.8 -7.4%
2003 11236 -783.6 -6.5%
2004 11415 179 1.6%
2005 10511 -904.1 -7.9%
2006 9408 -1103.2 -10.5%
2007 7512 -1895.5 -20.1%
2008 5504 -2008.7 -26.7%
2009 4303 -1200.4 -21.8%
2010 3403 -900.2 -20.9%
2011 3104 -299.4 -8.8%
2012 2503 -600.3 -19.3%
2013 2102 -400.8 -16.0%
2014 1804 -298.8 -14.2%
2015 1401 -402.4 -22.3%
2016 1100 -300.9 -21.5%
2017 1102 1.2 0.1%
2018 699 -402.9 -36.6%
2019 615 -83.9 -12.0%

 

☆ダウンロード(シングル+アルバム)

売上(M$) 前年比 成長率
2004 184    
2005 499 315.5 171.9%
2006 857 357.5 71.6%
2007 1308 451.9 52.8%
2008 1635 326.9 25.0%
2009 1944 309 18.9%
2010 2172 228.1 11.7%
2011 2600 427.6 19.7%
2012 2800 200 7.7%
2013 2800 0 0.0%
2014 2500 -300 -10.7%
2015 2300 -200 -8.0%
2016 1769 -531.2 -23.1%
2017 1347 -421.8 -23.8%
2018 990 -356.9 -26.5%
2019 809 -180.8 -18.3%

 

  いずれも今年は黎明期並の数字に戻りました。「落ち止まり」みたいな感じですかね。これからすぐにセールスが皆無になることは考えづらく、今後CDやダウンロードの落下が全体の成長の足を引っ張るという展開は考えづらそうです。

 ただしDLに関してはiTunes廃止の説があるので、これが万が一実行されればDLが大きく落ちて、影響が出るは避けられないでしょう。実行されるのかは分かりませんが。

 

 これからはさらにセールスが全体に占める割合が落ちていくと思うので、いかにストリーミングが成長を保てるかが今後のテーマになりそうです。成長をしているうちに次なる手を打つのが理想的だとは思うのですが、果たして……?