チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Today’s Top Hitsを5つのポイントで見る

f:id:djk2:20200325000508p:plain
 Spotifyで圧倒的なフォロー数を誇る、総合ヒットプレイリストのToday’s Top Hits。そのリストを1年ぐらい熱心に追ってきたので、そこで分かったことを5つの項目に分けて説明します。

 

 

1 フォロワー数

 まずフォロワー数が圧倒的に多いです。2位以下にダブルスコアをつけてサービス内最大のリストとして君臨しています。この規模の大きさから、Today’s Top Hitsに入るだけでランキングを動かすこともあります。

 

Today’s Top Hits 2601万

RapCaviar 1273万

¡Viva Latino! 1058万

Baila Reggaeton 996万

Songs to Sing in the Car 925万

※フォロワー数は3/22の数字 

 

 Spotifyではこのような様々な曲をテーマ別に入れた「ディスカバー系」のリストが人気を集めています。一方アーティストプレイリストは、最もフォロワーの多いEd Sheeranでも447万人です。Today’s Top Hitsとは約6倍の差が開いています。

 そのEd Sheeranのフォロワー数はアーティストプレイリストの中では抜けていて、2位以下とは差があります

 

This Is Queen:319万

This Is BTS:297万

This Is Drake:290万

This Is Billie Eilish:259万

 

 主にディスカバー系のプレイリストが重宝されるようで、特定のアーティストを聴くよりも「発見」がプレイリストに求められる機能のようです。Queenがアーティストリストで2位なのも、Spotifyの主なユーザーである若い世代が映画等をきっかけに過去曲を「発見しよう」という需要によるのかもしれません。

 

 

2 曲数

 リストの曲数は基本的に50を維持します。Apple Musicのプレイリストは曲数が自在に変化しますが、Spotifyのリストは基本的に曲数を一定に保つ傾向にあります(多くの場合50曲) 

 唯一の例外はアーティストへの追悼の意を示す場合です。昨年ではAviciiのアルバムリリース時に”Wake Me Up!”が、Juice WRLDが亡くなった時に”Lucid Dreams”がリスト末尾に追加され、一時的に51曲リストになっていました。

 

 その50曲のうち、週平均で6曲が入れ替わります。主に曲が入れ替わるのはリリースが多い金曜日ですが、ヒット度に応じて週の途中に曲が追加されることも多いです。その場合は、何かしらの曲を外して50曲を維持します。

 また曲を入れ替えるだけでなく、順番の入れ替えも定期的に行われています。金曜日と週の途中に2回行われます。

 

 

3 入れる曲について

 その題名通り、基本的には現在ヒットしている曲がリストに入っているのですが、ランキング上位曲トップ50がそのままリストに入っている、というわけでもないです。

 ここで実際どのような曲が入っているか?を見ていきます。以下が2019年内に長くリスト入りしていた曲のランキングです。

 

 

1 Lewis Capaldi – Someone You Loved 47週

2 Billie Eilish – bad guy 37週 *1

3 Ed Sheeran feat. Khalid – Beautiful People 27週

4 Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus(など) - Old Town Road 26週

4 Lizzo – Truth Hurts 26週

4 Lizzo (feat. Ariana Grande) – Good As Hell 26週 (+)

7 Daddy Yankee feat. Snow (& Katy Perry) – Con Calma 25週

8 Sam Smith – How Do You Sleep 24週

8 Tones And I – Dance Monkey 24週 (+)

10 Ali Gatie – It’s You 22週

11 Lil Nas X – Panini 20週

12 Lewis Capaldi – Bruises 19週 ▲

12 Lil Tecca – Ransom 19週

12 Sam Feldt feat. Rani – Post Malone 19週 ▲

15 SHAED (& Zayn) – Trampoline 18週 (+)

15 Mabel – Don’t Call Me Up 18週

15 Khalid – Talk 18週

15 Y2K & bbno$ - LaLaLa 18週

15 Post Malone – Circles 18週(+)

15 blackbear – hot girl bummer 18週(+)

 

※(+)は2020年内も続けてリスト入りしていた曲

※▲はHot 100に入らなかった曲

※集計は毎週金曜日に行い、金曜日時点で入っているかどうか?でカウントしています。

※リミックス等も合算して集計しています

 

 まずはどのようなジャンルを主に入れるのか?を見ます。ベースとなっているのは英語のポップスです。”Con Calma”やOld Town Road”、”Panini”など一部他のジャンルも上記の滞在ランキングに入っていますが、これらは共通してUSのポップ系ラジオでかかっていました。

 “LaLaLa”と”It’s You”の2曲だけ実はUSポップ系ラジオであまりかかっていなかったのですが、その他のラジオ系統にも同様にかかっていませんでした。(USだとSpotifyのみのヒットで、そもそもラジオ側にあまり認識されなかった。ちなみにAli Gatieは次のシングルがポップ系ラジオにかかりました)

 

 これ以外のジャンルも入ってきますが、その判断は「英語ポップラジオとの距離」で測られているような印象です。実際にUSのポップ系ラジオでかかる見込みもある、英語の他ジャンルの曲は英語ポップに次いでリスト入りしやすいです。

 英語ラップはヒット度相応にリスト入りしますが、ポップと比べて滞在が短いことが多い印象です。他場合に応じて英語ロック、英語カントリーなどもリスト入りします。

 

 注目は非英語曲のヒットです。Spotifyのグローバルランキングに非英語曲が入るのは別に珍しいことではないです。グローバル週間トップ50には昨年平均して10.9曲の非英語曲*2が入っていました。多くがスペイン語曲ですが、韓国語曲、ドイツ語曲、フランス語曲のトップ50入りも昨年はありました。

 一方Today’s Top Hitsには平均して3.1曲の非英語曲が入っていました。グローバルトップ50の割合からするとやや少なめです。最多時で6曲、最少時で1曲でした。多くはスペイン語曲で、それ以外に時折K-Popが入ります。(BTSの"Boy With Luv"と"Make It Right"、BLACKPINKの"Kill This Love"、そして同メンバーJennieの"SOLO")

 このリストを観察し始めた当初は、「なぜ海外曲がここまで少ないのか?」という思いが強かったのですが、最近はテーマ上致し方無いと感じるようになってきました。というのも、

①グローバル上位といってもその語圏以外での人気が低い場合も多い(≒「グローバル」なヒットとは言い難い) 

②英語曲がメインで、英語圏のリスナーが主要のリストに非英語曲を入れてもハマる公算が低い(≒リストのカラーを守るため)

③真の意味でのグローバルヒットを知りたければランキングを見れば良いので、このリストの意義は必ずしもグローバルヒットを正確に伝えることではない

 

 などという考えが浮かんだからです。この「グローバル / 言語」の捉え方ってすごく難しくて、今後突き詰めていきたいテーマの一つではあります。

 

 

 そのような問題点を解決するためか、英語を含むスペイン語曲はスペイン語のみの曲よりもやや優先してリストに入れられる傾向にあります。

 ただし”Con Calma”ではスペイン語のみバージョンの期間の方が長く滞在していました。Katy Perryのリミックスが出た直後はその英語入りの方が入っていましたが、原曲の方の順位が一貫して高かったため、数週後にはスペイン語版に戻されました。

 USラジオは英語入り / 無しによってかなりオンエア数に差が出ます。その傾向はこのリストにもある程度見られますが、ラジオと比べると選曲は柔軟だと感じます。

 

 

 次に曲の滞在期間についてです。必ずしもヒット度=リスト滞在の長さ、とはなりません。滞在上位には”Someone You Loved”、”bad guy”と納得の大ヒット曲が並んでいますが”Señorita”や”7 rings”は滞在がそのヒット度の割には短めでした。

 まだ上位でも「ピークと比べると」勢いが落ちたと判定された場合、また先に述べた「非表示」が多い時など、これからの上昇が見込める材料が無いと、まだランキング上位にいる段階でもリストから外されることも多いです。

 また、同一アーティストの曲が複数ある場合には順位に関わらず新しい方の曲を優先して残す傾向があります。多くの曲にチャンスを与えるために「切る」判断も早い印象です。

 

 

 

4 グローバル順位との比較・順位の割にリスト入りする曲?

 この章は少しマニアックな内容です。リストに入っていた曲、そして実際の再生数(ランキング)とのギャップを見ていきます。再生数の割にリストに長く入っている曲、何かしらの要因で「リスト特有」になっている曲を探そうということです。

 理由としてまず考えられるのは、リスナーによる いいね/非表示の投票です。いいねを押せばプラス、非表示にすればマイナス票を入れるということになります。グローバル順位では微妙な位置でも、リストのリスナーのいいねが多ければ、リストに長く残ることが可能です。

 もう一つは「管理者による判定」です。リスト管理者が、「この曲は粘れば流行る」などと考えた場合は、長く残す判定をされるかもしれません。

 

☆調査方法

・リストに入った2週目以降、直近の週間グローバル順位が圏外なら+2、100位未満200位以上ならば+1ポイントを追加。1週目をカウントしないのは、その週リリースで順位が出ない曲もあるためです。

 

・楽曲ランキング

1 Maren Morris – The Bones 25P

2 Jeremy Zucker – comethru 21P

3 Dermot Kennedy – Outnumbered 20P

4 Dennis Lloyd – Never Go Back 16P

4 Alec Benjamin – Jesus In LA 16P

6 Dominic Fike – 3 Nights 14P

6 Bryce Vine feat. YG – La La Land 14P

8 Lewis Capaldi – Bruises 13P

8 Noah Cyrus – July 13P

10 Dermot Kennedy – Power Over Me 12P

10 Martin Jensen & James Arthur – Nobody 12P

10 Why Don’t We – I Don’t Belong In This Club 12P

 

・アーティストランキング

1 Dermot Kennedy 32P

2 Why Don’t We 26P

3 Maren Morris 25P

4 Jeremy Zucker 21P

5 Alec Benjamin 20P

6 Julia Michaels 19.5P

7 Lewis Capaldi 18P

8 Denis Lloyd 16P

9 Diplo 15P (複数名義)

10 Dominic Fike 14P

10 Bryce Vine 14P

※客演の場合は半分でカウント

 

 Why Don’t We、Diplo以外は全員シンガーソングライターです。曲の方でもそのWhy Don’t We、DJのMartin Jensen以外はそうです。ここに入っているシンガーソングライターは、なんとなくの共通点として「独特のスタイルを持つ」「飾らない」ような印象があります。このような価値観はリスナーから自然発生したものなのか、Spotify側の考えなのかは気になります。

 曲別ランキングでは、「上昇の気配が消えない曲」や「ピークが分散している曲」が長く入っています。

 ”The Bones”はリリース期にまずは1回リスト入り。その後ヒット度が微妙で外れますが、後にシングルカットくらいのタイミングで再びリスト入り。この時同じく女性カントリー歌手のKelsea Balleriniの曲もランク外ながらリスト入りしたので、Spotify側にカントリーへの何らかの期待感があったのかもしれません。

 ただその後はグローバルランキング入りを果たせず、再びリストから外されました。ただその後、USのラジオで人気に火が付きHot 100で順位をぐんぐんと上げました。Spotify内での成功は控えめでしたが、リスト内での期待を裏切らないヒットを外部で記録しました。

 アーティストで最も順位とのギャップがあったDermot Kennedyも同じく外部で成功を収めました。Spotify内でグローバルトップ100に入ったのはアルバムがリリースされた1週のみでしたが、UKのアルバム1位を獲得しました。

 

 ほか”comethru”、”3 Nights”、”July”あたりは粘ったことが功を奏し、最終的にはロングヒットになりました。長く残った曲/アーティストが必ずしも結果を残すわけではないですが、順位の割にリストに残っている曲は何かしらの意義があるのだと思われます。

 

 ちなみにこの調査を同様にアメリカのランキングでも行ってみたところ、グローバルランキングよりも少しギャップがあったので、このリストはアメリカよりもグローバルの再生数を意識して選曲していることが伺えました。(グローバルでは人気で、かつリストにも長めに入っているダンス系の曲が、アメリカではあまり奮わない)

 

 

5 サムネイル

 このリストにはサムネイルがあり、ある程度の宣伝効果が見込まれます。(ただしサムネになったとしても伸びるかどうかはケースバイケースです)

 私がこの集計を始めた以降のサムネの推移をまとめました。最も注目が集まるリリース週にサムネになることもあれば、注目を再起するためなのかリリース2・3週目にサムネになっているケースもあります。

 また、サムネになっているアーティストの曲がリストの1番目に配置されることが多いですが、時折1番目ではない時もあります。

 

サムネのアーティスト – その時一番上部に配置されていた曲

 

2/22 Daddy Yankee – Con Calma

3/1 benny blanco, Selena Gomez, J Balvin & Tainy – I Can’t Get Enough (S)

3/8 Bebe Rexha – Last Hurrah

3/15 Jonas Brothers - Sucker

3/22 Marshmello & CHVRCHES – Here With Me

3/29 Billie Eilish – bad guy (A)

4/5 Alec Benjamin – Let Me Down Slowly

4/12 Lil Nas X (feat. Billy Ray Cyrus) – Old Town Road

4/19 BTS feat. Halsey – Boy With Luv

4/26 Taylor Swift (feat. Brendon Urie) – ME! (S)

5/3 Bazzi - Paradise

5/10 Ed Sheeran (& Justin Bieber) – I Don’t Care *3 (S)

5/17 Lizzo – Truth Hurts

5/24 Shawn Mendes – If I Can’t Have You

5/31 Lewis Capaldi – Someone You Loved

6/7 Avicii (feat. Aloe Blacc) – SOS (S)

6/14 Katy Perry – Never Really Over

6/21 Shawn Mendes & Camila Cabello – Señorita (S)

6/28 Lil Nas X - Panini

7/5 Post Malone (feat. Young Thug) – Goodbyes (S)

7/12 Ed Sheeran (feat. Khalid) – Beautiful People (A)

7/19 Billie Eilish & Justin Bieber – bad guy (S*リミックス)

7/26 Sam Smith – How Do You Sleep 

8/2 Lil Tecca – Ransom

8/9 Katy Perry – Small Talk (S)

8/16 Lewis Capaldi – Someone You Loved

8/23 Taylor Swift – Lover (A)

8/30 Tones And I – Dannce Monkey

9/6 Post Malone – Circles (A)

9/13 Halsey – Graveyard (S)

9/20 Camila Cabello - Liar

9/27 Ariana Grande, Miley Cyrus & Lana Del Rey – Don’t Call Me Angel

10/4 blackbear – hot girl bummer

10/11 Travis Scott – HIGHEST IN THE ROOM

10/18 Harry Styles – Lights Up

10/25 Selena Gomez – Lose You To Love Me (S)

11/1 Dua Lipa – Don’t Start Now (S)

11/8 Arizona Zervas - ROXANE

11/15 Billie Eilish – everything i wanted (S)

11/22 Maroon 5 - Memories

11/29 The Weeknd – Heartless (S)

12/6 Camila Cabello (feat. DaBaby) – My Oh My (A)

12/13 Post Malone - Circles

12/20 Harry Styles – Adore You

12/27 Dua Lipa – Don’t Start Now

 

※(S)はシングルリリースの週にサムネになった

※(A)はアルバムリリースの週にサムネになった

 

 まとめると13名(のべ)がシングルリリースと同時にサムネに、5名がアルバムリリース時に、27名がその他のタイミングでサムネになっています。リリース即プロモすべきか、落ち着いてきた時に再浮上させるべきか、適宜使い分けながらサムネ起用がされています。

 シングル / アルバムリリース時には、サムネにしなくとも自然と盛り上がるので、そうではないタイミングでサムネにすることで、より多くの曲にチャンスが行き渡らせることができるかもしれません。

 回数も最多でもBillie Eilish、Post Maloneの3回で、なるべく多くのアーティストをサムネにしようという意気込みを感じます。

 

 

(おまけ2020年に入ってからのサムネの推移)

 

1/3 Justin Bieber – Yummy (S)

1/10 Selena Gomez – Rare (A)

1/17 Halsey – You Should Be Sad (A)

1/24 Roddy Ricch – The Box

1/31 The Weeknd – Blinding Lights

2/7 Dua Lipa – Don’t Start Now

2/14 Justin Bieber feat. Quavo – Intentions (A)

2/21 Doja Cat – Say So

2/28 Lady Gaga – Stupid Love (S)

3/6 Bad Bunny – La Difícil 

3/13 Lil Uzi Vert – That Way

3/20 The Weeknd – Blinding Lights (A)

 

 

*1:2020年にも入ったが、数日間だった

*2:英語+非英語が共存する曲は、ビルボードのジャンルで判定します。Hot Latin Songs or World Digital Songs等に入っていれば、その曲は非英語の要素が強いので、非英語曲としてカウントします

*3:ただし見出にはJustin Bieberへの言及あり