チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard動向・6月号 【コラボ曲の首位が相次ぐ / アルバムチャートはリリース減少?】

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 今月のビルボードチャートを10のポイントで語る記事です!今月のテーマは……

 

 

  

 

① 続くコラボ曲の首位 販売戦略と関係

 

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 今月の1週目にはLady GagaとAriana Grandeの”Rain On Me”、2・3週目にはDaBabyとRoddy Ricchの”ROCKSTAR”、そして4週目には6ix9ineとNicki Minajの”TROLLZ”が首位に立ち、これで7連続コラボ曲が1位の座を占めることになりました。(史上初。それまでは2016-2017年の5曲連続が最長記録でした)

 それまでは長くソロ曲が1位を取ってきましたが(昨年の9月の”Truth Hurts”から今年5月の”Blinding Lights”まで)、一転コラボが増加しました。このデータと深く結びつくのは先月からおなじみ、販売戦略です。

 ストリーミングやDLなど他に安価で曲を聞く手段がある以上、CDやヴァイナルなどを売る販売戦略は基本的にファン向けのもので、ファンの力を増強することが販売増、そしてチャートでの順位浮上に繋がります。そこで手っ取り早くファンを「擬似的に」増やすことができるのが他人とのコラボなのです。

 “ROCKSTAR”を除くと、この期間1位を取った曲は販売戦略を用いています。セールスの平均が低い上、さらにリリース量が少ない昨今は歴史上かつてないほど1位を狙って取りやすくなったため、販売戦略をサポートできるコラボレーション曲は続く予感がします。(これはファン文化効果が栄えた影響か、ファンやアーティストの間でHot 100首位のステータスが上がったという可能性も考えられます)

 

~今月のマーチ利用~

・Rain On Me セールス:7.2万 利用形態:カセット、CD、ヴァイナル

・TROLLZ セールス:11.6万 利用形態:カセット、CD(一部サイン付)、ヴァイナル 

ほかAlternateバージョンのリリース、リリース直後からのiTunesでの割引も

→このような熱心な販売戦略、またNicki Minajファンの初動の強さなどによって今年最大のセールスを記録しました。(それまでは”Stuck with U”の10.8万が今年最大だった)

 

 

② DaBabyと6ix9ineに加え、初の栄冠はプロデューサーにも!

 今月1位を獲得した3曲で、DaBabyと6ix9ineが初の首位を獲得。ほかRoddy RicchとNicki Minajは2回目、Ariana Grandeは4回目、Lady Gagaは5回目の首位獲得です。

 またアーティスト自身だけではなく、多くのプロデューサーが初の1位を獲得しました。

 

(それぞれのプロデューサー、下線が初の1位)

Rain On Me……BURNS、BloodPop

ROCKSTAR…SethInTheKitchen

TROLLZ…Jahnei Clark、Sad Pony

 

 BURNSは”Sour Candy”など、Lady Gagaの他のアルバム曲もいくつか担当。これ以外ではBritney Spearsの“Make Me...”が一番のヒット曲です。

 SethInTheKitchenのこれまでの実績はDaBabyのアルバム曲をいくつか担当した程度。しかしこの曲の大ヒットを期に、他のラッパーのプロデュースも増えていきそうな予感がします。名前を覚えておいて損は無いと思います。

 最後にJahnei Clark。彼は”GOOBA”に引き続き6ix9ineの曲をプロデュース。これらの曲はデビュー順位こそ高いものの、総合的なヒット具合は微妙なため、今後他のアーティストからも起用されるかは微妙です。

 ちなみにBloodPopが過去に1位を獲得したのはJustin Bieberの”Sorry”。Sad Ponyが過去に1位を獲得したのはLizzoの“Truth Hurts”です。(ただしSad Ponyはこの時プロデューサーでは無くソングライターの一人としてクレジットされています)

 

 

③ 続くFemaleコラボ

 その1位曲ラッシュで注目されたのは女性同士のコラボの多さです。先月のDoja Cat + Nicki Minaj、Megan Thee Stallion + Beyoncé、そして今月のLady Gaga + Ariana Grandeと、これまで5例しか無かった女性コラボ首位曲が短期間に連発されました。

 

1979 Barbra Streisand & Donna Summer – No More Tears

1998 Brandy & Monica – The Boy Is Mine

2001 Christina Aguilera, Lil’ Kim, Mya & P!nk – Lady Marmalade

2011 Rihanna feat. Brtiney Spears – S&M

2014 Iggy Azalea feat. Charli XCX – Fancy

2020 Doja Cat feat. Nicki Minaj – Say So

2020 Megan Thee Stallion feat. Beyoncé – Savage

2020 Lady Gaga & Ariana Grande – Rain On Me

 

 これに関してビルボードは記事を作成。「それぞれの曲のヒット経路は違うが、これらに共通することは“スターパワー”だ」と記しています。関係者の意見などを引用し、女性アーティストの重要性が上がったことを説明。この現象は偶然ではなく、文化的な変換点だとしています。

 

 この記事で書かれる女性アーティストのスターパワー、そして今後女性同士のコラボが増える点に関しては私もそう思いますが、それぞれの1位獲得の直接的な要因となった販売戦略についての記述が全く見られない点に関しては気になりました

 Beyoncéリミックス登場後に“Savage”のラジオが急激に伸びるなど、コラボが販売戦略以外に果たした功績ももちろんあるのですが、これらの曲が1位に立ったのは1週のみで、かつその週には販売戦略をどの曲も活用していることから、「女性コラボの首位曲が相次いだ理由」の説明としてはこの販売戦略が一番当てはまるのです。

 

 私なりの解釈をまとめると以下の通りです。

・女性同士のコラボ曲の首位が相次いだ最大の理由は販売戦略をうまく活用できたから

・なぜ販売戦略を活用できるのか?というと、熱心なファン層を持つ女性アーティストが多いから(=スターパワー)

・販売戦略が盛んに行われる今、これをうまく活用できる女性アーティストが重宝される機会も増えると思われる

 

 あともう一つの理由として感じるのは、女性ラッパーの台頭です。ラップは客演を迎えるにしても、客演としても加わるにしても、他のジャンルと比べてリミックス作成が盛んだと思うので、この女性ラッパーの選択肢が大幅に増えたことは大きいと思います。

 また、女性に限らずラップが近年大きく台頭し、複数アーティストのコラボレーションが一般化したことも要因の一つでしょう。

 

 

④ ネクストトップ10候補

 続いて来月にトップ10に顔を出しそうな曲を紹介します。

 

 まずは直近の週で11位まで上り詰めたLil Moseyの”Blueberry Faygo”。7月の1週目にもトップ10入りしそうです。トップ10入りすれば彼にとって初。(トップ40もこの曲が初だった)従来からのストリーミングでの好調に加え、かなりラジオが伸びてきました。リズミック系で最も好調、それに続くのがポップ系とアーバン系といった印象です。

 そしてリミックスを公開したJack Harlowの”Whats Poppin”も近いうちのトップ10入りが有力。DaBaby、Tory Lanez、Lil Wayneが参加したリミックスはAppleSpotifyの両方でトップ10入り。7月の1週目、もしくは2週目でのトップ10入りが濃厚です。仮にリミックスで参加のアーティストがクレジットに載ることになれば、Tory Lanezは初のトップ10です。(そしてJack Harlow自身も)

 もう一つは現在19位、Harry Stylesの”Watermelon Sugar”。ストリーミング時代の昨今は、大ヒットのアルバムでもリリースから時間を置いたシングルカットは上手くいかないことも多いですが、この曲のシングルカットは絶好調ですね。

 

 ほか不思議なチャートアクションを見せる、女性カントリーシンガーの2曲(”The Bones”、”I Hope”)もチャンスはあります。

 

 

⑤ 新作が減少するアルバムチャート その中で活躍するLil Baby

 

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 1週目にはGunnaがストリーミング中心の成績で1位を獲得。2週目には販売戦略も活用したLady Gagaが1位に立ちました。このアルバムはストリーミングでも健闘を見せました。

 ただその後は2週連続でアルバムトップ10に新規登場がゼロになるなど、リリースが減少傾向にあります。クリスマス前後の週以外で、2週連続でトップ10に新規アルバムが皆無になのは2013年以来のことだそうです。

 

 そのリリースが少なかった3週目と4週目で1位を獲得したのはLil Babyでした。リリースから15週目で1位に返り咲くことに成功しました。

 

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※左軸が順位、右軸が売上

 

 5/16の週にデラックス版がリリースされ、そこで再浮上。そのデラックス版に入っていた曲も人気を持続したことで数字をキープし、そしてリリースの少ないここ2週でアルバム1位まで再浮上を遂げたのです。

 これらの数字はほとんどストリーミングから。6/20の週には推定500*1というアルバム1位としては歴代で屈指に低いセールスを記録しています。(ビルボードは1000刻みで売上を表記するため、1000を下回ると正確な数字が分からないことが多い)

 

 そのストリーミングの人気ぶりから複数曲がHot 100にランクイン。現在ラジオでかかっているのは”Emotionally Scared”ですが、そうではない”We Paid”、”Grace”、”All In”もランクイン。中でも”We Paid”は”Emotionally Scared”を上回る27位にランクインしています。 

 そして6月最後の週には新シングル”The Bigger Picture”が3位にランクイン!Lil Babyにとってキャリア最高位。このシングルは現在アルバム”My Turn”に含まれていませんが、その週にアルバムのセールスも増しており、今後アルバムとその収録曲にも好影響を及ぼすかもしれません。(特に”We Paid”に期待がかかります)

 

 

⑥ Hot Rock & Alternative Songsが誕生

 ビルボードは”Hot Rock Songs”を”Hot Rock & Alternative Songs”に名称を変更し、"death bed", "everything i wanted", "Supalonely"など複数曲がこのチャートにデビューしました。

Billboard Introduces Revamped Hot Rock & Alternative Songs Chart & Debuts Two Rankings | Billboard

 

 これらの曲はAlternative系ラジオでオンエアされている曲で、そのラジオ区分とHot ○○ Songsを一致させたということになります。このAlternative Airplayはロック系ラジオに分類されます。ロック系のラジオの中では規模が最も大きいです。またHot Alternative Songsという、今回追加された部分のみをピックアップしたチャートも新規で追加されています。

 

 これに関しては「変更」というよりは「もとに戻した」印象の方が強いです。以前はAlternative AirplayでかかっていたLordeやLana Del ReyもこのHot Rock Songsに登場していました。彼女らの音楽はロックか?というと諸説あるところですが、ラジオ区分的にはロックで間違いありません。しかし昨年オルタナティブ系ラジオでもオンエアされていたBillie Eilishの曲はなぜかHot Rock Songsに登場せず。どこかのタイミングで判断基準が変わっていたと推測されます。その判断基準を名称変更とともに戻し、Billie Eilishもこの新ランキングには登場しました。

 

 個人的にHot ○○ Songsをジャンルで分けることにはあまり意義を見いだせず、またジャンルを分けが難しくなったことなどから、このHot ○○ Songsという存在自体にはやや否定的ですが、そのジャンル分けの基準を明確にしたことは良い傾向だと考えています。

 

 

⑦ 「アーバン」という言葉、そのラジオでの格差?について

 グラミーやRepublic Recordsが、人種的な不平等を生んでいるという観点から、「アーバン」という言葉を取り下げると発表しました。(下記リンク参照)ラジオの系統の一つとして「アーバン」という言葉の使用量は日本有数(?)な私には気になるニュースでした。この名称はラジオ関連の情報を提供する多くのサイト、例えばHitsDailyDoublなどで使われています。ただしビルボードはこの以前から、Mainstream R&B/Hip-Hopと表記しています。私もこれを期に表記を考え直したいと思います。

 

 

 この名称変更を機にRolling Stoneはこの「アーバン」という言葉にまつわる記事をリリース。記事を要約すると、黒人であるということを理由にプロモーション等で不平等が生じていたという歴史的な事例を紹介し、現代も「アーバン」というラジオ区分の存在によって不平等は今も残るということを説明しています。

 

 たしかにラップ曲はラジオでポップスと比べて不利な傾向にあります。これは各系統の規模の違いによるものです。大雑把なイメージで言うと、ポップ>>>>カントリー>アダルトポップ=リズミック=Mainstream R&B/Hip-Hop*2 といった感じです。ポップとアダルトポップ、そしてリズミックとMainstream R&B/Hip-Hopはそれぞれ選曲が似ています。 

 ストリーミングの人気によって10週以上Hot 100首位を獲得していた近年のラップ曲、”God’s Plan”・”In My Feelings”・”Old Town Road”・”The Box”はいずれもラジオ再生数では1位に立っていません。ラジオ1位を獲得するには、規模が最も大きいポップ系で1位または2位くらいに入る必要があるため、ラップ曲にはハードルが高いのです。(もちろんその壁を乗り越えてポップ系ラジオとMainstream R&B/Hip-Hopの人気を両立するラップ曲もたまに存在はしますが)

 “The Box”は10週以上Hot 100首位に立った曲としては珍しくポップ系ラジオのトップ10に入れませんでした。

 (ちなみに1997年はラジオでの人気曲が一部Hot 100入りせず、ラジオとHot 100順位の不一致も観測されていた時代です。)

 

 このようにラップはラジオで不利を取る傾向があるのですが、このラジオのジャンル分けは人種差別か?と言われると難しいと思います。*3

 私なりに色々考えてみたのですが、この区分をどう捉えてよいのかを、うまく答えが出せませんでした、すいません。以降の課題として情報を集めます。*4

 

 ちなみにジャンルによる扱いの違いはストリーミングのプレイリストにも存在します。Spotifyの最大手プレイリストToday’s Top Hitsは、ポップスに比べるとラップ曲の取り扱いが(ヒット度と比較して)やや短い傾向があります。一般的なポップラジオと比べるとジャンルの壁は少し低いようにも思いますが、実際の再生数の低めなポップス曲を長く扱うこともあり、ラジオだけではなくプレイリストにも格差が存在することが伺えます。(ちなみにラップのプレイリストRapCaviarのフォロワーはToday’s Top Hitsの半分程度)

参考:Today’s Top Hitsを5つのポイントで見る - チャート・マニア・ラボ

 

 

⑧ 当人たちも活躍し始めたTikTok

 

 今月のTikTokで興味深かったのは、Tiktoker当人たちが活躍しだしたことです。まずはjxdnの”Angels And Demons”。数ヶ月前からスニペットTikTok内で人気だった曲で、正式にリリースされると各媒体で人気を得ました。iTunesでは20位程度、SpotifyAppleでは150位程度にランクインし、その結果6/6にBubbling Underで22位にランクインしました。(Hot 100で122位相当)

 個人的に、このスニペットの正体を知りたい!と思っていたタイミングでこの曲が正式にリリースされたため、私も見事にこの戦略にハマったというわけです。

 jxdnはBlink-182のドラマー、Travis Barkerのレーベルに既に所属しており、シンガー兼TikTokerと表記するのが正しいのかもしれません。Travis Barkerはこの曲のソングライトにも参加しています。曲のテイストはエモラップのロック成分を強めたもの、といった感じです。

 

 そしてもう一つはJawsh 685とJason Deruloの”Savage Love”です。この曲は初週のHot 100順位こそ地味(81位)ですが、リリース以降ぐんぐん浮上中。Spotifyグローバルランキングでは最高3位まで到達しました。

 Jason Deruloの本職はもちろんポップシンガーなのですが、“Tiktoker“とカウントしても良いと思えるほどTikTokでも大活躍しています。カオスな世界観の料理動画などが人気を博し、多くのフォロワーを獲得。ネット発のタレントが多く上位を占めるTikTokフォロワー数ランキングで20位(6/29現在)に入っています。(ネット発タレント以外ではWill Smith、Dwayne Johnsonに次ぐ3位)

 

 そしてTikTok内で流行していたインスト曲”Laxed – Siren Beat”に彼が歌を乗せたのがこの曲です。Jason DeruloTikTok内で新たな人気を獲得し、TikTokで人気の曲を歌うかなりTikTok成分が強い曲です。彼はシンガーというキャリアがありながらも、気持ち新たにTikTokに馴染み、そのコミュニティー発の曲でヒットを飛ばしたのです。

 本人のセンスに依る所もありますが、彼は近年では屈指の、巧みで華麗なシングルのプロモーションを成功させたと思います。

 

Thank you for 24 Million!!! #MilliMeal

独特な料理動画の一例

 

We did it family #Savagelove #1

ファンによるサイトながら、アーティスト当人が利用することもある、KworbをJason Deruloも用いる動画

 

Congrats @dixiedamelio on releasing her first song #HAPPY

有名TikTokerのDixie D’Amelioがデビュー曲をリリースしたことを祝う動画。こういうのを見るとJason DeruloTikTokコミュニティーの一員として浸透していることが伺えます。(ちなみにこの曲がチャートに反映されるのは7/11の週です。しかしヒット度がイマイチなので、どのチャートにも登場しない可能性があります)

 

 あとビルボードTikTok記事が興味深かったです。要旨としては、TikTokで曲がヒットしてもその後アーティストとしてキャリアを成功させられるかは別物、というものです。それ故なのか、「TikTokのアーティスト」と見なされることを嫌がるアーティストが出てきて、この記事の取材を断るアーティストが何人かいたという点が一番印象的でした。

 

~おまけ 今月躍進した or 新規登場した曲のうち、TikTok曲との認識がある曲~

Wiki   Visicks Tunes  Apple  公式   私    
8 Roses   21
11 Blueberry Faygo       2
18 WHATS POPPIN         3
19 Watermelon Sugar         0
72 ily         0
81 Savage Love     16
83 Do It     0
85 Like That   32

WikiWikipediaTikTokでヒットしたとの旨の記述があるか

Visicks Tunes Apple 公式 はリンク先のリストに掲載されているかどうか

※「私」は私が調べたTikTok Top Tracksの3月~5月で使用された回数です。

 → TikTok Top Tracks(仮)案 - チャート・マニア・ラボ

※"Savage Love"はLaxed - Siren Beatとの合算記録です

※「位」は6月最終週のHot 100順位です。

 

 

⑨ Hot 100初登場アーティストたち

 今月は4週で15人(組)のアーティストがHot 100デビューを果たしました。

 

6/6:Surf Mesa, Emilee, Agust D(ソロ*5では初)

6/13:ROSALÍA, Tierra Whack, Hardy

6/20:Sleepy Hallow, J.Rey Soul, Ashley McBryde

6/27:Rowdy Rebel, Kid LAROI, Tyla Yaweh, Jawsh 685, Chloe x Halle, J.I.

 

 先月はHot 100デビューを遂げたのは7人でした(5週で) ここまでデビューが相次ぐのは新曲のリリースが減少し、新人に出番が回るようになったという捉え方もできるでしょう。新人アーティスト+有名アーティストのコラボが多かった最終週からは特にそれを感じました。このうちいくつかを取り上げて紹介します。

 

 ROSALÍAはBubbling Underに2回入ったことがあり(”Con Altura”と”Yo X Ti, Tu X Mi”)、惜しい所までは以前も来ていましたが、今回はその壁を破ってHot 100入りを成し遂げました。

 Kid LAROIはかすれた声が特徴的なオーストラリアのラッパー。一般的にはThe Kid LAROIと表記されます。これまでLil TeccaやLil TjayのコラボなどでUSのSpotifyランキング入りした経歴があります。ほか有名TikTokerの名前をそのまま曲名にした”Addison Rae”も同様にランク入りを果たし、注目を集めたことも。世界中でラップが流行中、といえどHot 100にランク入りするラッパーは専ら北米出身で、彼のような存在は珍しいので注目したいです。

 J. Rey Soulは個別でクレジットされていますが、Black Eyed Peasの新メンバーです。フィリピン版The Voiceのファイナリストになったことが注目されたきっかけとされています。

 

 

⑩ その他の曲の短評

 

・Lewis Capaldi – Someone You Loved

 ラジオを中心に驚異的な粘りを発揮していましたが、ビルボードが先月突如ラジオのポイントを落ちたため(実際に減少したのか仕様変更なのかは不明)、その煽りを受けて外れてしまいました。

 最終的にはピーク1位、滞在54週でチャートから外れました。仮にこのラジオ減算がなければ60週ぐらいまで到達したかもしれません。

 

 この曲に関して、Music Pulse Boardという掲示板の民が仮に現行ルール(53週以降26位以下で外れる)が過去にも適用されていたら、最も滞在が長い曲はどれか?という面白い検証をしていました。(”Someone~”は歴代6位相当の長さになるようです)

f:id:djk2:20200630005656j:plainhttps://pulsemusic.proboards.com/post/7475275

 

・Post Malone – Circles

 トップ10滞在歴代最長の38週という記録を残し、トップ10を後に。次の注目ポイントは何週までチャートに残るか。53週目以降は26位以下に落ちると外れてしまいますが、その期間になっても25位以上に入り、そのハードルを何回か超える気もします。現在13位で42週目。

 

・Drake feat. Playboi Carti – Pain 1993

 通算トップ10曲数でMadonnaと並んだ記念すべき1曲でしたが、わずか3週で圏外に。滞在が短いという、アルバム曲の宿命から逃れられませんでした。”Toosie Slide”に次ぐ「ミックステープの曲その②」の座を”Chicago Freestyle”に取られたことも痛かったです。

 

・Mustard feat. Roddy Ricch – Ballin’

 ピーク11位、滞在41週とかなりの好成績を残し、チャートを後に。昨年半ばからじわじわヒットし、チャートを浮上。Roddy Ricchがブレイクする土台を作りました。そして彼の“The Box”がヒット以降は、それに引っ張られる形でこの曲も長持ちしました。

 

・Lil Yachty & Tierra Whack feat. A$AP Rocky & Tyler, the Creator – T.D

 かつてワイルドスピードのサントラに採用され、Bubbling Underにも登場した(20位)、日本のヒップホップグループTeriyaki Boyzの”Tokyo Drift”をサンプリングした1曲です。

 

・The Black Eyed Peas & J Balvin – RITMO

 ピーク26位、滞在27週で外れました。J Balvinの効果でラテン圏の人気を得た後、BEPの効果でUSラジオの人気を得るという「助け合い」な構図でヒットした曲。ラテン曲は英語ヴァースが無いとあんまりラテン以外のラジオでかけてくれないため、BEPヴァースの存在がラジオヒットの要因となりました。

 この英語ヴァースはSpotifyの最大手プレイリストToday’s Top Hitsに入るのにも役立ちました。(スペイン語のみで構成された曲よりも、英語が混ざった曲の方が優先される)

 

Eminem feat. Juice WRLD – Godzilla

 ピーク3位、滞在20週。後半は中下位に滞在していましたが、20週と「完走」を果たしました。両者ともラジオに恵まれない傾向にあり、この曲もリズミック13位、Mainstream R&B/Hip-Hop圏外などあまりラジオでオンエアされませんでした。しかしビデオをきっかけに再浮上したこともあり、20週滞在することに成功しました。

 

・Tones And I – Dance Monkey

 イギリスで11週1位、ドイツでも11週1位、そして彼女の母国オーストラリアでは歴代最長の24週1位を記録するなど各国で爆発的に売れたこの曲。USでもピーク4位、滞在36週とそれなりにはヒットしました。他国の成績と比べると見劣りしますが、USで不遇傾向のエレポップ曲であることを考えると、よく健闘した方だと思います。

 

・Camila Cabello feat. DaBaby – My Oh My

 前作のようにアルバム1位は獲得できなかったCamila Cabello。しかしそのアルバムと同時にリリースされたこの曲は好調を維持。ラジオで粘ったことで、4月までは少しずつ順位を上げていましたが、そのラジオの伸びが終わってからは一気に順位を落としました。

 ピークは12位、滞在は27週でした。またポップ系ラジオでは1位を獲得しました。(ソロ名義で5曲目)

 

・JACKBOYS & Travis Scott feat. Young Thug – OUT WEST

 アルバム曲という立場ながら、TikTokで人気を得たことなどが追い風となり、ほぼストリーミングのみで10週Hot 100に滞在。その後シングルカットされ再浮上。ラジオが伸びていることもあり、51位以下ながらも22週目までチャートに残りましたが、その伸びが止まったと判断され最終的にはチャートから外れました。この+2週分が有効に働き、年間チャートに滑り込みそうです。

 

・The Weeknd – In Your Eyes

 Doja Catリミックスをリリースし、再浮上。ここからシングルヒットを狙うぞ、といった矢先にラジオのオンエアが減少を始めたのでこれからの浮上は望みづらそうです。結局アルバムの週の順位(16位)がピークになりそうです。

 

 

 ・今月の各データ

 

外れた主な曲

 

6/6

20 Lewis Capaldi – Someone You Loved (🗻1位 /⏰54週)

49 Mustard feat. Roddy Ricch – Ballin’  (🗻11位 /⏰44週)

86 Drake feat. Playboi Carti – Pain 1993 (🗻7位 /⏰3週)

 

6/13

42 The Black Eyed Peas & J Balvin – RITMO (🗻26位 /⏰27週)

50 Lil Baby – Sum 2 Prove (🗻16位 /⏰20週)

 

6/20

42 Lady Gaga – Stupid Love (🗻5位 /⏰10週)

80 Eminem feat. Juice WRLD - Godzilla (🗻3位 /⏰20週)

 

6/27

40 Camila Cabello feat. DaBaby – My Oh My (🗻12位 /⏰27週)

50 Tones And I – Dance Monkey (🗻4位 /⏰36週)

55 JACKBOYS feat. Young Thug – OUT WEST (🗻38位 /⏰22週)

86 NAV, Gunna & Travis Scott - Turks (🗻17位 /⏰11週)

92 Lil Uzi Vert – That Way (🗻20位 /⏰12週)

96 Brett Young - Catch (🗻29位 /⏰17週)

 

 

各週のデビュー上位曲(上位から5つ)

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◇は再登場の曲

※スペースの都合でアーティストクレジットを一部簡略化しています。

 

 

・各指標の1位推移

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“ROCKSTAR”の強さが際立つようになってきました。

 

・Rolling Stone Chartsのトップ10

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 最後の週に”TROLLZ”が3位なのが興味深いです。セールス/ストリーミングの計算比率が若干Hot 100と異なる可能性も考えられます。

 

 

・各週の動向まとめ表

 

6/6

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6/13

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6/20

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6/27

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・参考リンク

 

各週のHot 100

6/6:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-06-06

6/13:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-06-13

6/20:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-06-20

6/27:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-06-27

 

ラジオ等の情報参考:https://kworb.net/radio/

曲のクレジット等の情報参考:Genius | Song Lyrics & Knowledge

その他ビルボードのChart Beat記事:Chart Beat | Billboard

 

 

・過去の月の記事↓(画像をクリック / タップすると記事に飛びます)

 

・5月号

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・4月号

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・3月号

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・2月号

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・1月号

f:id:djk2:20200606222105p:plain

 

 

 

 

 

*1:次の週にA Little Less Than 1000、でかつ先週比+91%と表記されていたので、それから計算しています 

*2:かつてKworbに存在したラジオのジャンル別オーディエンスの表を参考にしたイメージ。現在規模を知る手段としてはHitsDailyDoubleなどがあります

*3:ちなみに、白人アーティストということでポップに振り分けられた事例として記事でTrevor Danielの“Falling”とblackbearの”hot girl bummer”が挙げられています。最終的にはポップ系での人気を得た曲でしたが、この2曲はそれぞれポップ/リズミックでオンエアが開始された時期はほぼ同じでした。(ビルボードのPop SongsやRhythmic Songsを参照)

 つまり初期のジャンル分けでの区分よりも、そのジャンルのリスナーに合うか合わないかがヒットの分かれ目だったと考えられ、「優遇」とは少し違う印象です。

(あと、”hot girl bummer”の曲名は”Hot Girl Summer”のパロディですが、それ以外の要素には共通点が見当たらず、単純に比較して良いものなのか、という点も疑問です)

*4:US以外のラジオと比較して、このアーバンという存在が他の国に無く、その分ラップのラジオ再生が少ないのでは?という仮説も考えたのですが、US以外のラジオデータが見当たらず、答えは出なかったです

*5:過去にBTS名義の曲だけど彼がソロを務めた曲がHot 100入りしたことがあります。ChartDataがよく言っているやつです