チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Folklore関連の記録 ショートまとめ

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 先日、Taylor Swiftがアルバム“Folklore”をサプライズリリース。注目を集めることに成功し、様々な記録・好成績を収めることに成功しました。その記録に関して手短にまとめました。

 ビルボードが紹介していた記録を羅列すると以下のようになります。このうち、太字にした3つに関して補足していきます。

 

(アルバム関連)

・7枚目のアルバム1位

・アルバム1位デビューが女性最多

・2020年最多の週間売上、また昨年の自身のアルバム“Lover”以来最多の週間売上

・ここ4年での週間売上ベスト3は全てTaylor Swift

・週間の純セールスも“Lover”以来最多の数字

・1週目の時点で既に純セールスの合計が2020年最多

・週間売上が50万を超えたのがこれで7作目、ニールセン(=1991年)以降最多

・2020年女性アルバム(および非ラップ作品)で最多のストリーミング

Taylor Swift Achieves Seventh No. 1 Album on Billboard 200 Chart & Biggest Week of 2020 With 'Folklore' | Billboardより)

 

(シングル関連)

・初めてHot 100とBillboard 200の両方で首位デビューを達成

・首位デビューを果たすのは41曲目

・Taylor Swiftは6曲目のHot 100首位

・女性では初めてトップ5圏内に複数曲を「デビュー」させる

・3曲をトップ10圏内にデビューさせる

・Taylor Swiftは通算トップ10曲数が28まで到達、6位タイ

・トップ10デビュー曲数が18に(以前から女性で最多、全体の最多はDrake=25曲)

・全曲がHot 100入り

・Hot 100総エントリー数が113まで到達。Nicki Minajを抜き女性最多に(全体では4番目)

・1月の“All I Want for Christmas Is You”以来の女性ソロ曲首位に

・ストリーミングとセールスの両方で1位

Taylor Swift Debuts at No. 1 on Hot 100 With 'Cardigan,' Is 1st Artist to Open Atop Hot 100 & Billboard 200 in Same Week | Billboard より)

 

 

・初めてHot 100とBillboard 200の両方で首位デビューを達成

 

 一番この記録に反響があった印象です。Twitterのニュース欄にも“Make History”と称され掲載されていました。Hot 100で通常の首位+Billboard 200で首位デビュー、という組み合わせは今までよくありましたが、両方ともデビューだとレアということです。

 物珍しさはたしかにありますが、この記録にどれくらい意味があるのかを今回は考えてみようと思います。

 

 比較材料として用意するのは、ストリーミング時代のHot 100「2位」デビュー +  Billboard 200首位デビューの組み合わせです。過去に4回ありました

 

Drake 1位:Nice For What 2位:Nonstop (2018)

Lil Wayne 1位:Girls Like You 2位:Mona Lisa (2018)

Ariana Grande 1位:7 rings 2位:break up with your girlfriend, i’m bored (2019)

Juice WRLD 1位:ROCKSTAR 2位:Come & Go (2020)

 

 DrakeとAriana Grandeは自身の先行シングルが1位に、Lil WayneとJuice WRLDがその他の曲が首位に立っています。

 ラジオは再生数が伸びるまでに時間がかかり、リリース直後の新曲と先行シングルではラジオで大きく差がつきやすく、先行シングルがある場合はHot 100でも有利になりやすいです。*1

 新リリースは一般的にストリーミングで大きく注目を集めやすく、リリース直後がストリーミングにおけるピークになることも多いため、新シングルがそのラジオの差を乗り越えてHot 100首位デビューすることもあります。しかしアルバムでリリースされた場合はアルバム全体の再生数が伸びることが多いので、新リリース/先行でそこまで再生数に差はつかず、ラジオのある先行シングルが有利になりやすいのです。

 まず先行シングルが無かったことが、Taylor Swiftが今回両方でデビューを果たした要因の一つです。

 

 次にLil WayneとJuice WRLDの例を見ていきます。この2つに共通しているのはストリーミングでの高い成績 + ラジオがほとんど無い点です。またラジオでかかるような先行シングルも両者ともありませんでした。(Juice WRLDのアルバムには先行曲がありましたが、ラジオには全く恵まれていなかった)

 Lil Wayneは”Uproar”という違う曲をシングルに指定。Juice WRLDは”Come & Go”をシングルに選んだものの、1週目の時点では各種ラジオ系チャートで圏外でした。

 

 この2つとは違い、Taylor Swiftはストリーミング以外の要素でもポイントを得ていました。まずラジオ。リリース直後から数字を伸ばし、ポップ系やアダルトポップ系のラジオチャートにランク入りしています。

 そしてもう一つ大きいのは販売戦略を用いたことです。これは物理媒体とDLを組み合わせて初週の売上を稼ごうという戦略で、リリース直後に注目が集まりやすいストリーミングとの相性も良いです。ただし8/7以降のリリースでは制限がかけられます。

(詳しくは:バンドル等を制限するルール変更のまとめ・所感など - チャート・マニア・ラボ

  この2つによってストリーミング以外でもポイントを稼ぎ、シングルとアルバムの両方で首位デビューを成し遂げたのです。

 

 まとめると、この記録は先行シングルを用意しなかったこと、そして販売戦略を用いたことで生まれた記録です。つまりこの記録はどこで勝負をかけるか?という戦略上の違いによって生まれた記録だと思います。このことから、通常の1位とデビュー首位の価値に変わりはなく、「レアな記録ではあるが重要な記録ではない」というのが私のまとめです

 

(補足)

・2020年5月にラジオのバランスを微調整した影響で、Juice WRLDとTaylor Swiftのアルバム時は、以前よりも若干アルバム曲が有利なレートになっている(と考えられる)*2

・ストリーミングでは初週に食いつきが良い都合上、伸びるか不透明なラジオよりも安定して数字が取れるという考え方もできます。そこに販売戦略も加わるとより1位を獲得しやすくなるため、むしろ「1位デビュー」は「上昇の1位」よりも難易度が低い、という捉え方もできます。

・ラジオで人気のタイプのアーティストが先行シングルを用意しなかったのは、たしかに少し意外に思います

 

 

・Taylor Swiftの凄さが伝わる2つの記録

 

 ただこのアルバムが際立つ成績を残したのは間違いないと思います。その凄さを感じられるのが、以下の2つの記録だと思います。

 

・週間売上が50万を超えたのがこれで7作目、ニールセン(=1991年)以降最多

(次点はEminemの6枚)

 

 安定してビッグセールスを記録し続けていることが分かる記録です。ストリーミング時代はセールスの平均値が下がり、実際に次点のEminemは2017年以降の作品では50万を超えていないです。そこでも数字をキープするTaylor Swiftからは唯一無二のブランド性のようなものが伝わってきます。

 

・Hot 100総エントリー数が113まで到達。Nicki Minajを抜き女性最多に(全体では4番目)

 

(Hot 100エントリー数ランキング)

224曲:Drake

207曲:Glee Cast

169曲:Lil Wayne

113曲:Taylor Swift

111曲:Future

110曲:Nicki Minaj

109曲:Elvis Presley (プレHot 100期は除く)

108曲:Kanye West

101曲:Chris Brown

100曲:Jay-Z

 

(女性アーティストのHot 100エントリー数)

113曲:Taylor Swift

110曲:Nicki Minaj

73曲:Aretha Franklin

63曲:Beyoncé

62曲:Rihanna

57曲:Madonna

56曲:Dionne Warwick

53曲:Connie Francis

52曲:Ariana Grande

49曲:Miley Cyrus

 

 Taylor Swiftはこのうち客演が3つのみ(Boys Like Girls,  B.o.B, Sugarland)*3で、ほとんどが自身の曲からです。次点のNicki Minajは半数以上(=60曲)が客演です。

 

 このエントリーの多さの理由として挙げられるのは、DL時代からの非シングルの人気です。アルバム曲もシングルと変わらず消費できるため、ストリーミング時代ではアルバム曲のHot 100エントリーが一般化しましたが、DL時代にはあまり見られませんでした。

 2018年以降はアルバムから5曲以上がHot 100入りする事例が2週に1回以上のペースでありますが、DL時代では年に4回以下しか観測されていません。(ただし当時、Glee Castがアルバムではない括りでHot 100大量エントリーを果たしていた)

 そんな時代から非シングル曲のHot 100エントリーが多く、何かしら出せば常に一定の注目を集められる、という構図を維持していました。これもTaylor Swiftの長きにわたるブランド性を証明するデータの一つといえるでしょう。

 リリース時にストリーミングで公開されなかった”1989”と”reputation”からのエントリー数は少なめですが、ストリーミングで同時に公開されるようになった”Lover”と”folklore”ではいずれも全曲がHot 100入り。ストリーミング時代でも十二分の存在感を発揮できることを証明したのは非常に大きいことではないでしょうか。

 

 

(補足データ)

・ストリーミングが2億を超えたアルバム一覧 

今回の”folklore”は全体で15位でした

 

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 (ビルボードの記事より作成)*4

 

 

・2000年代、2010年代、2020年代にトップ10を達成したアーティスト

 今回のトップ10入りはTaylor Swiftにとって2020年代初。これで3Decade連続してトップ10入りを果たしました。同様の記録を達成したのは以下のような面々です。

 

Mariah Carey (1990年代も)

Maroon 5

Drake

Eminem

Lady Gaga

Beyoncé (Destiny’s Child時代を考慮すると1990年代も)

Lil Wayne

Chris Brown

Jason Derulo

Taylor Swift

 

 

 

その他の参考データ

ビルボードのChart Historyなど:Taylor Swift | Billboard

 

 

 

*1:ちなみにAriana Grandeの時はデビュー関連の記録を達成するために”7 rings”ではなく”break up~”の方を応援しようというキャンペーンが一部で繰り広げられていたらしいです:アリアナのファン、「7 Rings」再生をボイコット!? | MTV Japan

*2:5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ ←に詳しく書きました

*3:Wikipediaの記載だと、John Mayerの"Hall of My Heart"も含まれていますが、ビルボードの記録ではこの曲ではfeat. Taylor Swiftの表記がありません

*4:2週目以降は再生数が明示されない場合もあります。Lil Uzi Vert2週目は外部ソースを参照。Juice WRLD2週目の再生数はどこにも見当たらなかったため、Rolling Stone Chartsの数字を参照に推定しました