チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard 動向・10月号 【販売戦略の行く末 + オルタナティブ系 など】

 

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 今月もありがとうございます! ↑の画像にバリエーションがあるように、今月は比較的動いた月かもしれません。

 

 

 

1 勢いが止まらない販売戦略

 

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 今月も販売戦略がHot 100首位獲得に大きく関与しました。10月の1週目は”Dynamite”、2週目は”Franchise”、3週目は”Savage Love”と販売戦略を使った曲が1位に。残り2週は一般的なヒット“Mood”でした。

 

 このうち、”Franchise”は事前の予想では1位ではなかったこともあり、意外がられました。(Complexはこの1位獲得を分析する記事で、ファンの間でも反応が微妙だった曲としています) ただ実は上記の曲のうち、唯一Rolling Stone Charts*1で1位を取っており、ストリーミングは優秀といえば優秀です。(ただ過去曲と比べると微妙) 他の曲はラジオでのヒット度が大きく、その恩恵を受けている節があるため、RS Chartsで1位でなくともHot 100では首位を獲得できます。

 ただ“Franchise”はストリーミングでも勢いを失い、2週目に25位まで落下。週の途中のリミックスが無ければもっと落ちていたかも?この落下は”Savage Mode II”の曲が上位に大量登場した煽りを受けたという部分もあります。

 

(1位からの落下幅が大きい曲)

1-34:6ix9ine & Nicki Minaj – TROLLZ (2020)

1-25:Travis Scott feat. Young Thug & M.I.A. – Franchise (2020)

1-17:The Weeknd – Heartless (2019)

1-15:Billy Preston – Nothing from Nothing (1974)

1-15:Dionne Warwicke & The Spinners – Then Came You (1974)

1-13:Ariana Grande & Justin Bieber – Stuck With U (2020)

※1-圏外:Mariah Carey – All I Want for Christmas Is You (2020)

 

 とはいえこの曲、実は以前の曲よりもラジオが好調で、意外とうまくいく可能性も?2週目に25位に落下した次の週、ポイントはマイナスながらも順位は23位に上がっています。ストリーミングでは既に厳しいですが、ラジオヒットという新たな可能性を切り開くかもしれません。(Travis Scottはストリーミングの反応と比較するとラジオのオンエアに恵まれない傾向にある)

 

~補足~

M.I.A.の記録

 イギリス籍のラッパー、M.I.A.は初のHot 100首位、かつ3曲目のトップ10入りを達成。その3曲のヒットが2008年の”Paper Planes”、2012年のMadonnaの客演を務めた”Give Me All Your Luvin’”と2020年の“Franchise”とそれぞれDecadeが異なっており、ヒットの数こそ少ないものの、3Decade連続でのトップ10入りという記録を達成。総勢11人/組目の記録で、北米以外のアーティストでは初。(この2000~2020の期間では、という意味)

 彼女はHot 100エントリー数も4つのみと少なめ。(もう一つはスラムドッグ・ミリオネアのサントラからの”O…Saya” = 93位) 他に“Paper Planes”を大胆にサンプリングしたT.I.らの”Swagger Like Us”=Hot 100で5位というヒットもありますが、この曲では彼女はクレジットされていません

 

・“Kawasaki”

 この曲は“Kawasaki”というワードが含まれていますが、Geniusで調べる限りこのワードが含まれている曲では、初の首位&初のトップ10のようです。次点は11位だった”Taki Taki“(ただこの曲ではあまり好ましい使われ方をされていない)

 

・”Savage Love”

 もう一つの販売戦略首位曲、“Savage Love”について。BTSは”Dynamite“と連続で首位を獲得し、史上14人/組目の自身の曲同士でHot 100首位が交代したアーティストに。 また、この2曲で1位&2位同時独占を達成。(史上21人/組目) 

 だしラジオ等でオンエアされているバージョンは基本的にオリジナル版なので、次の週以降はクレジットから外されてしまいました。(ただし1位の記録は残る)

 Jason Deruloは”Watcha Say”以来、11年ぶり2回目の首位。M.I.A.の項目で述べた3Decade連続のトップ10を彼も達成しています。

 そしてこの曲を元々作り上げたJawsh 685は初のHot 100首位。もともと彼が作っていたインスト音源がTikTokで流行→それに目を付けたJason Deruloが歌を乗せたら大ヒット、という流れなのである意味2回のリミックスで躍進を果たしているような曲です。

 彼は2013年のLorde以来、7年ぶりのNZ出身のHot 100首位獲得に。またシンガー、ラッパー、グループではない、いわゆる「プロデューサー」が首位を獲得するのは2017年のDJ Khaledの”I’m the One”以来です。

 

 

2 その販売戦略の今後?

 このように販売戦略に基づく1位獲得が相次ぐ中、ビルボードはこの状況をまとめたレポートをリリース。

Why Have There Been So Many No. 1 Debuts This Year on the Hot 100? | Billboard

 

 この記事では1位デビューの変遷を追いつつ、昨年までは珍しい現象だったと説明。そして今年は昨年と比較して、販売戦略が増加したことにより1位デビューが頻発したと説明しています。そして記事のラストには気になるコメントが。

Is this just the new normal for the Hot 100's top spot? Perhaps, though if history has taught us anything in this respect, it's to not expect this or indeed any chart trend to just continue indefinitely; sooner or later, some change will come that alters a key variable in the race for No. 1, and mucks up the whole equation.

 

 これは相次ぐ販売戦略による1位を制限するルール変更を示唆していると考えて良いでしょう。

 ビルボードはそれまで主に用いられていた、物理媒体+DLのコンビ販売を制限する(=実物が発送されるまで集計されない)というルール変更を今年8月に行いましたが、全く歯止めが効かず、この現象は引き続き見られました。新ルールはこの二の舞になることを防げるでしょうか。

 考えられそうなのは、iTunes等を通さず、ウェブサイトなどで直接ファンに購入を促す、D2C(Direct to Customer)を集計しないことでしょうか。現在はこれが強力なセールスの源とされています。Rolling Stone Chartsでは既にD2Cは対象外で、販売戦略を使った曲が1位になる頻度がかなり少ないです。

 また、セールスのポイント比率を落とすことも有力な策でしょう。個人的にはこちらの方が根本的な解決につながると考えています。

 実は、Hot 100は他の媒体と比べるとセールスがやや高めに設定されていると考えられています。この比率をビルボードは公表していないので、推測にはなりますが Pulse Music Boardにある情報を参考にすると……

 

Hot 100:1セールス = 250再生(有料会員) = 375再生(無料会員)

RS Charts:1セールス = 120再生(有料会員) = 360再生(無料会員)

RIAA*2:1セールス = 150再生

 

 と、他の媒体と比べてセールスを2倍くらい高く評価していることが伺えます。そう考えると、セールスの比率を直す意義はある気がするのですが、果たして……?

 

 ちなみにビルボードが新設したGlobal 200では1セールス = 200再生(有料会員) = 900再生(無料会員)で構成されています。こちらもセールスに比重が寄っています。この比率の恩恵を受けてなのか、LiSAの「炎」が10/31付のランキングで、チャート誕生以降(先月~)最大のDL(9.7万)を記録して8位に入りました。セールスの比重の高さを活かし、上位進出を果たす日本の曲が今後も出るかもしれません。

 

 

3 ネクストPost Malone?24kGoldnとiann diorの可能性?

 

 ここでは販売戦略「ではない」形で1位を獲得した、24kGoldnとiann diorの”Mood”について触れていきます。TikTokでも人気があったとされる*3この曲は、イギリス、ドイツ、カナダなどで先に首位を獲得しており、世界的に大ヒットとなっています。

 彼らは2人ともラッパーと表記されることが多いものの、この曲はジャンルレスなポップのような雰囲気を持ちます。ポップ、R&Bオルタナティブの成分も感じます。

 この曲はラジオでポップ ≧ リズミック > オルタナティブ > アダルトポップの順で人気。また、RMS*4ではかからず、オルタナティブという珍しい系統でかかっているという点で、この曲はPost Maloneの“Circles”に似ています。ジャンルの枠を取っ払ったスタイルで世界的な存在となった彼のように、24kGoldnとiann diorの2人も今後規模の大きい存在になっていくでしょうか。ちなみにそれぞれ19歳、21歳と若いです。

 

◇Hot 100首位曲でオルタナティブ系ラジオに入った曲(2010年~)

・24kGoldn feat. iann dior – Mood (11位) / 2020年

・Post Malone – Circles (23位) / 2019年

・Billie Eilish – bad guy (1位) / 2019年

・Magic! – Rude (19位) / 2014年

・Lorde – Royals (1位) / 2013年

・Macklemore & Ryan Lewis feat. Wanz – Thrift Shop (14位) / 2013年

・Gotye feat. Kimbra – Somebody That I Used to Know (1位) / 2012年

・fun. feat. Janelle Monáe – We Are Young (1位) / 2012年

・Adele – Set Fire to the Rain (31位) / 2012年

・Adele – Rolling in the Deep (21位) / 2011年

 

 Katy Perry(”I Kissed A Girl”)やMaroon 5(Harder To Breathe”)など、ブレイクのきっかけとなった曲はオルタナティブ系ラジオでかかっていたものの、その後は縁が無くなるパターンもあります。Post Maloneはある程度キャリアを築いてからオルタナティブ系ラジオでかかったので、その逆。

 

 

4 その他のトップ 10 + 今後のトップ10候補

 

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 その他のトップ10、また今後のトップ10候補を見ていきます。

 

・Justin Bieber feat. Chance the Rapper – Holy

 初週に3位デビュー。Justin Bieberにとって20曲目のトップ10、Chance the Rapperにとっては3曲目でその全てがJustin Bieberとのコラボ。

 2週目にはトップ10から外れ、尻すぼみになっていく近年大物アクトにありがちな動きを見せるかな?と思っていましたが、10月の最終週にトップ10復帰。その週リリースされた”Lonely”と合わせてTVで披露された効果。ラジオで好調、ストリーミングでも悪くはない成績なので、“Yummy”よりは上手く行きそうな気配。

 

・Gabby Barett feat. Charlie Puth - I Hope

 カントリー系ラジオでのオンエアから始まった長旅を続ける曲。現在Hot 100滞在43週目。10月に入ってからはラジオ1位も獲得することに成功。現在最も人気があるラジオ系統はアダルトポップ。このラジオでの粘りは果たしていつまで続くのか……

 今月に入ってから、リミックス版がメインと見なされ、Charlie Puthのクレジットが追加されました。

 

・The Weeknd - Blinding Lights

 先月“Before You Go”に奪われたラジオ1位の座を取り返し、今月3週間ラジオ1位に。歴代最長のラジオ1位滞在を26週まで伸ばしました。(次点は18週)

 またトップ5滞在記録も歴代最長の30週まで伸ばしています。ビルボードがルールにテコ入れをしない限り、他の各種ロングヒットも破っていきそうです。トップ10滞在最長記録まではあと3週。

39週:Post Malone – Circles

36週:The Weeknd – Blinding Lights

33週:Shape of You / Girls Like You / Sunflower

 

・Internet Money & Gunna feat. Don Toliver & NAV – Lemonade *5

 TikTokでの人気も追い風となり、ヒット。最近ではむしろ珍しく感じる「上昇しての」トップ10入り。Gunna以外は初のトップ10。

 Roddy Ricchリミックスがリリースされた10/17は”Savage Mode II”の曲に阻まれトップ10入りならず。翌週はポイントを少し落としたものの、その”Savage Mode II”の2曲がトップ10圏外に落ちたことにより、代わりにトップ10へ。不思議な形でのトップ10入り。

 

◇トップ10候補

 考えられるのはPop Smokeの2曲、”For the Night”と”What You Know Bout Love”です。両方ともストリーミングの好調に加え、ラジオでもオンエアが開始。前者はラップ系、後者はポップ系のラジオが中心。

 ほかラジオで好調の”Kings & Queens”や”ily”にも多少の芽はありそうですが、ラジオ以外のポイントが足りなさそうなのがネック。

 ほか来月に入ると、クリスマス曲が上位に増えてトップ10の難易度が上がる可能性もあります。(ただの個人的な邪推ですが、一応過去曲を嫌う傾向のあるビルボードが何らかの策を用意する可能性も少しは考えられるかもしれません?)

 

 

5 今月のアルバムチャート

 

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 今月のアルバムチャートは盛り上がっていたと思います。特に2週目と3週目は注目作品が多かったです。

 今月一番の成績を残したのは21 SavageとMetro Boominによる”Savage Mode II”。前作が長く愛されていた作品だったこともあり、今作もストリーミングで絶大な支持を受け、Hot 100には全曲が登場しました。うち”Runnin”と”Mr. Right Now”の2曲はトップ10。両者とも2度目のアルバム1位です。この週競り合ったBLACKPINKに関しては、後の項目で述べます。

 

 この週と同様に盛り上がったのは2週目。1位を獲得したのはMachine Gun Kelly。初のアルバム1位。彼はラッパーとして分類されるも、オンエアされるラジオはオルタナティブ系。“Bloody Valentine”はこの系統の2位まで到達。このアルバムの内容も、エモラップという領域を飛び越え、もはやポップパンクそのものといった感じです。ちなみに3章で述べたiann diorがこの作品に参加しています。

 2位はSuperM。セールスとストリーミングの両方を稼いだ1位と3位(Joji)とは違い、ストリーミングからの売上は0.3万枚のみ。強固なファンベースの元、セールスのパワーを見せつけ10万超えを果たしましたが、前作のようにアルバム1位獲得ならず。

 

 3位はJoji。個人的にはアルバム1位をかなり期待していたのですが、惜しくもならず。ただ前作の売上を大幅に更新することに成功しています。(5.7万→9.2万)

 グッズ等でセールスを稼ぎつつ、ストリーミングでも存在感を示したという点はMachine Gun Kellyと似ていますが、違った点はApple Musicでの人気。Machine Gun KellyはSpotifyAppleの両方で好成績(初日にほとんどトップ100)でしたが、JojiはSpotifyでのみ好成績。(Spotifyでは全曲トップ100、Appleではトップ100に0曲)

 JojiのジャンルはR&Bと表記されることが多いですが、一般的にR&Bが人気なApple Musicで人気が無いということは、おそらくR&Bファンでは無い層に支持されていると推測されます。それはラジオのオンエア系統に表れており、彼のこのアルバムからのシングルはポップ(”Your Man”)やオルタナティブ(”Daylight”)でオンエアされているようです。

 またJojiはシングルでも惜しい成績を残しました。この週、Hot 100には1つも入りませんでしたが、101~125位相当のBubbling Underには5曲がランクイン。彼はこれまでHot 100入りした曲よりもBubbling Under止まりだった曲の方が多いです。(3曲と5曲)

 

 

6 Fleetwood現象

 

 今月最も目を引いたかもしれないテーマがFleetwood Macの“Dreams”の人気。TikTok経由で人気に火がつくと、ストリーミングやiTunesで大きく浮上。43年ぶりのHot 100再登場を果たしました。順位は21位→12位→21位と推移。トップ10には手が届きませんでしたが、見事な大健闘でした。アルバムチャートでは7位まで到達。またストリーミングでは、この曲以外のFleetwood Macの曲がランクインを果たしていました。

 ちなみに2018年のQueenの”Bohemian Rhapsody”は33位→40位→50位と推移していたので、それよりも好成績を残したということになります。アルバムチャートではQueenの方が好成績だったので、どっちの注目度が大きいかはまた別の話ですが。

 

 この曲が普通のTikTokヒットと違う点は特定のビデオがヒットの要因として挙げられている点だと思います。後にTikTokでも人気を得ましたが、ヒットの後追いのような形なので、ほぼこのビデオが単独で再浮上のきっかけになったという印象が強いです。つまりそのビデオがミュージックビデオのような効果が果たし、ヒットにつながったという感覚かなと思っています。

 

 彼らはもともとブレイク前から、アルバムチャートトップ50の定番で(この曲も収録される“Rumors”が)、かつ“Dreams”は何回かUSのSpotify圏内に入るなど、既に「アンセム」としては評価が確立されていました。

 このように元からFleetwood Macをヒットさせる下地が整っていたことが、小さなきっかけで大きなヒットになった要因かと思います。

 

 『ソーシャルメディアの生態系』という本には、人工頭脳学者のフランシス・ハイリゲンが語るミームがヒットする要因に関する記述があります。そこでは「ミームの重要性「独自性」「真新しさ」以外に、宿主の中にすでに存在する認識の枠組みにミームが適合するかという点だ」と説明されているのですが、この「枠組み」に当てはまるのは43年経ってなお高い、このアルバムへの評価なのかなと感じました。

(逆にこのような音楽としての枠組みに当てはまらない、「TikTokダンス用BGM」のような曲はTikTokで大ヒットしようとも、ストリーミングでのヒットにはならないのかもしれません)

 

 

7 Alt TikTok

 

 今月のTikTokヒットで印象的だったのは“Sofia”。昨年のアルバムが高く評価されるなど、基本的に「オルタナティブな批評」というフィールドで活躍していたClairoがTikTokの力を借りてHot 100初登場を果たしました。ちなみにClairoが昨年主に評価されていた楽曲は”Bags”でした。*6

  この曲は主にオルタナティブ系ラジオでオンエアされ始めたのですが、最近のオルタナティブ系ラジオのオンエア曲を見るとTikTokに関係するものがいくつか見られます。

 

(10/31 Alternative Airplay)

4 Wallows feat. Clairo – Are You Bored Yet?

8 Peach Tree Rascals – Mariposa

10 Royal & The Serpent – Overwhelmed

11 24kGoldn feat. iann dior – Mood

29 jxdn – So What! (関連曲というか、彼は有名なTikToker)

32 Ritt Momney – Put Your Records On

※“Sofia”はこの週の時点でまだ40位圏外、次週以降ランクイン見込み

 

 他にもTikTokがきっかけで注目された経歴を持つBeabadoobeeやGus Dappertonもランクインしています。またAshnikkoの“Daisy”がオルタナティブ系ラジオでオンエアが始まったという情報もあります。

 

 従来はリズミカルで踊りやすい曲がいわゆるTikTok曲という印象が強かったですが、”death bed”や”Supalonely”等のヒットを潮目に、今や「隠れたオルタナティブ曲」を見つけるメディアとしても機能し始めています。

 このTikTok発のオルタナティブ系ヒットの増加には、Alt TikTokという文化が関係しているのかもしれません。豪邸などを背景に、リズミカルな曲でダンスチャレンジをする一般的なTikToker = Straight TikTokとは対照的に、挑戦的な選曲・動画を配信する人物や文化圏を指すワードです。別名Elite TikTok。Straightの対義語なのでGay TikTokと呼ばれることもあるらしいです。

 このワードについてPitchforkやRolling Stoneが記事を書いたこともあります。(どちらも趣旨としては、Alt TikTokという文化を紹介しつつ、そのAlt TikTok発の曲をStraight TikTokが使ったら反発を買ったというもの)

Why Cringey Remixer Tiagz Is the Most Hated Producer on TikTok | Pitchfork

Alt TikTok Is Music's Latest Scene, and Straight TikTok Has Noticed - Rolling Stone

 

 TikTok発のヒットは、TikTok内の再生数と必ずしも一致しないことも多いですが、このTikTokオルタナティブ系ヒットの場合は、TikTok内再生数規模が小さいこともよくあります。(”Sofia"はそう、Tokboardのランキングであまり上位には進出していないながらもHot 100入りを成し遂げた) 同じTikTok内でも、再生数に繋がりやすい層と、繋がりにくい層が存在するのかもしれません。

 

◇その他のTikTokヒット

 

・Sada Baby feat. Nicki Minaj - Whole Lotta Choppas

 TikTokで注目を集め、Hot 100入り。1週間の滞在で終わるも、TikTokでの人気が落ち着いた後にNicki Minajリミックスをリリース。これで大きく注目を集め、最初のエントリーよりもはるかに高い35位でHot 100再登場を果たしました。

 ちなみにこの曲でNicki MinajはHot 100総エントリー数を113まで伸ばし、Taylor Swiftに追いつきHot 100エントリー数が女性最多タイになりました。

 

・YFN Lucci – Wet (She Got That…)

 TikTokのヒットから遅れること約3ヶ月、ラジオヒットによりHot 100入り

 

・Larray - Canceled

 TikTokerが他の同業者をディスる曲が注目を集め、YouTubeで週間1位を獲得。この効果でHot 100入りを果たす。現在ヒットを飛ばすInternet Moneyがプロデュースも、他ストリーミングでは存在感希薄

 ネット発セレブリティーのHot 100入りと言えば、2017年のJake Paul周りの楽曲を連想しました。

 

・Metro Boomin feat. Gunna – Space Cadet

 TikTokのヒットのタイミングが、そのアーティストの新作リリース時期と重なり、その相乗効果なのかストリーミングでもランキングに入るという動きを見せました。この動きは先月のTaylor Swift – Love Storyと完全に重なります。

 

 

8 BLACKPINK

 今月の注目アクト、BLACKPINKについて書いていきます。英語圏アーティストとのコラボ+初アルバムで層の拡大に挑んだ彼女ら。競合が厳しく、アルバムチャート2位でしたが、11万とアルバム1位クラスの数字を獲得しました。

 前の週に2位だったK-PopグループのSuperMはストリーミングはが0.3万枚に対して、BLACKPINKは2.6万枚相当の数字を獲得し、ストリーミングでも存在感を示しました (BLACKPINKの方の曲数が少ないながらも)

 Spotifyではかなりの成績。Savage Mode IIの曲と競合しながら、初日のランキングでは全曲が61位以上に収まりました。Globalだと全曲25位以上だったので、初アルバムが及ぼした影響力は世界的に大きかったようです。

 BTSの前アルバム曲はSpotifyのGlobalで23位―81位のランクイン(新規追加曲)、これに対してBLACKPINKはトップ10圏内4曲を含む、全曲がトップ25と考えると勢いのすごさが分かるかと思います。

 このように初アルバムは成功に終わったと言えますが、“Ice Cream”も既にラジオのオンエアが落ちるなど、USでのシングルヒットは不発に終わったので、次の課題はそこですかね。

 

 

9 滞在が短い曲たち

 

 滞在が短い曲を取り上げていきます。まずは滞在が10週以下だった曲たち。

Maroon 5 – Nobody’s Love (🗻41位 /⏰10週)

Calvin Harris & The Weeknd – Over Now (🗻38位 /⏰5週)

Juice WRLD & The Weeknd – Smile (🗻8位 /⏰8週) ※のちに再登場し、10週まで滞在が伸びる

 

 Maroon 5は2018年の”Girls Like You”がラジオで特大ヒット。それに続く2019~2020年の“Memories”も成功させたので、ラジオでは外さないアクトのような印象がありましたが、今回のシングルは不発に。トップ40を逃したのは、2015年のシングル”Feelings”以来

 Calvin HarrisとThe Weekndはラジオヒットの名手同士のコラボということもあり、初週から注目を集めトップ40圏内に登場。ただその後はストリーミング、ラジオともに注目が続かず、わずか5週で外れるという結果に。プロデューサー+The Weekndの組み合わせで、かつ高順位デビュー → 尻すぼみという展開は、Gesaffelsteinとの“Lost in the Fire”を思い出します。

 Juice WRLDとThe Weekndの“Smile”が短期滞在に終わったのは単純にラジオでオンエアされなかったからです。逆にその位置づけのシングルなのにトップ10入りしていたことを称えるべきだと思います。

 

 次に、20週には到達したものの「思ったよりは」滞在が短かった曲。

 

Lady Gaga & Ariana Grande – Rain On Me (🗻1位 /⏰20週)

 1位デビューも、そこまでは長くもたず20週きっかりで外れる。一般的な1位としては短い滞在なのですが、他の販売戦略1位曲が20週も持っていないことを考えると、そこまで悪くはない成績な気がします。VMAなど、リリース以降も注目度はありました。

 

・Megan Thee Stallion feat. Beyoncé - Savage (🗻1位 /⏰28週)

 こちらもやや短い滞在。5月の“Say So”との首位争いが大きくチャートを盛り上げていましたが、”Say So”は38週滞在、こちらは28週滞在です。

  “Savage”が主にオンエアされていたラップ系ラジオ(リズミックやRMS)は入れ替わりが激しく、ヒット曲もすぐに他と入れ替わるため、ラジオが大きい割合を占めるHot 100でのロングヒットは厳しいです。また、入れ替わりが遅くHot 100上でのロングヒットの因子になりやすいアダルトポップ系とラップの相性が悪いことも痛いですね。

 これが理由でDrakeクラスでもHot 100滞在はそこまで長くないことも多いです。Post Maloneは主にオンエアされているのがポップ系なので、滞在は長いです。

 

 

10 その他の曲の短評

 

・Anitta, Cardi B & Myke Towers - Me Gusta

 ブラジルのスター、Anitta初のHot 100。彼女は普段ポルトガル語*7で歌っていますが、この曲ではスペイン語と英語で歌っています。グローバルヒットを目指してスペイン語歌唱に挑戦したことは過去にもありました。(J. Balvinとの“Downtown”)

 

・Maren Morris - The Bones

 歴代で74曲目の滞在が1年に到達した曲。カントリー曲では9曲目で、いずれもポップ系やアダルトポップ系への飛び火を果たした曲たちです。これらの曲はポップ系よりもアダルトポップ系の成績が高い傾向にあります。Gabby Barrettの“I Hope”も近いうちにこのリストに加わるでしょう。

 

・LeAnn Rimes – How Do I Live:69週(1998)

・Faith Hill – Breathe:53週(2000)

・Faith Hill – The Way You Love Me:56週(2001)

Carrie Underwood – Before He Cheats:64週(2007)

Lady Antebellum *8 – Need You Now:60週(2010)

・The Band Perry – If I Die Young:53週(2011)

・Florida Georgia Line feat. Nelly – Cruise:53週(2013)

・Bebe Rexha & Florida Georgia Line – Meant To Be:52週(2018)

・Maren Morris – The Bones:52週(2020)

 

 

・Ashe feat. Niall Horan - Moral of the Story

 TikTokでブレイクし、ストリーミングで人気を得て3月にHot 100入り。当時は2週でチャートから外れるも、その後じわじわとラジオヒットとなり、7ヶ月ぶりにHot 100再登場。ストリーミングでのヒットとラジオヒットにギャップがある、という現代にありがちなケースの一つです。

 また、シングル化に伴いNiall Horanのクレジットが追加されています。

 

・Doja Cat feat. Nicki Minaj - Say So

 ピーク1位、滞在38週という成績でチャートを後に。ストリーミングで勢いを付け、リミックスのセールス増で1位獲得。そしてピーク後はラジオで粘りも発揮し、3指標全てを味方に付けた印象のある1曲。

 Nicki Minajが悲願のHot 100首位を獲得したことでも印象深い1曲。もちろん、Doja Catもこの曲を機に注目度が向上し、客演等の出番が増加しています。またDr. Lukeが”Dark Horse”以来、6年ぶりのHot 100首位を獲得したという側面もあります。

 

・Lil Mosey - Blueberry Faygo

 (🗻8位 /⏰33週)という成績で外れる。TikTokでの人気もあり、Lil Moseyキャリア最大のヒットに。リズミック系で首位、RMSで5位、ポップ系で13位と広く人気を獲得していました。

 

・Why Don’t We - Fallin’

 販売戦略の小規模版。CDの販売を行い、グループ初のHot 100入りを達成。しかもトップ40圏内(37位) その後1週でチャートを後にしましたが、ラジオでは浮上中のため、再登場の芽もありそう。Kanye Westの”Black Skinhead”をサンプリングした意欲作。

 

・Lil Baby & 42 Dugg - We Paid

 7月にはほぼストリーミングのパワーのみでトップ10入りを達成。そこからラジオでオンエアされるも、ストリーミングでのピークほど勢いが出ず、中位に留まるというLil Babyにありがちなパターンのヒット。こうしてピークがズレることが曲のロングヒット化に一役買っているような側面もありますが、もしストリーミングとラジオが一致すればより順位が高くなるのでは……という気持ちもあります。

 

・Morgan Wallen - Chasin’ You

 先月リリースの”7 Summers”がいきなりトップ10に登場し、驚きを提供したMorgan Wallen。その彼の前シングルが、(🗻16位 /⏰36週)という好成績を残してチャートを後に。一般的なカントリー曲のチャート成績は、ピーク40位前後、滞在20週程度なので、彼が現行カントリーシーンで飛び抜けた存在であることが伺えます。特に他系統のラジオへの飛び火無しでの36週滞在が優秀です。

 

・Future feat. Drake - Life Is Good

 (🗻2位 /⏰38週)という成績でチャートを後に。“The Box”とピークが完全に被ってしまったため、1位を獲得できませんでしたが、ポイント的には1位クラスの曲。粘りも十分だったことから年間トップ10入りが有力です。ピークの2位、滞在38週ともにFutureのキャリアハイの成績。Drakeにとっても38週滞在は2番目に長い成績です。*9

 YouTubeでの人気が根強く、チャートから外れた週もビデオランキングで1位に立っていました。

 

・Maddie & Tae - Die From A Broken Heart

 カントリー曲は滞在が21週以上になったら、ロングヒット傾向と考えて良いと思います。女性デュオによるこの曲はピーク22位、滞在25週と優秀な成績を残しました。

 

・Yung Bleu feat. Drake - You’re Mines Still

 Drakeのアシストもあり、Yung Bleuは初のHot 100入りを達成。この曲で気になったのはラジオ型ストリーミングで1位を獲得したこと。ラジオ型ということで、あまり初週から1位という動きは以前まであまり見られなかったのですが、最近は初週から高順位デビューを果たす曲が増えてきたような印象があります。しかも、他のストリーミングとは少し違う曲が人気を得ることも多いので、ここから独自のヒットが生まれる現象が今後も見られるかも?

 

 

今月のデータ

 

・主に外れた曲

(ピーク=🗻が10位以上 or 滞在=⏰が10週以上)

 

10/3

29 Maren Morris – The Bones (🗻12位 /⏰52週)

59 Luke Bryan – One Margarita (🗻19位 /⏰20週)

90 Ashley McBryde – One Night Standards (🗻76位 /⏰15週)

100 Pop Smoke – Got It On Me (🗻31位 /⏰10週)

 

10/10

47 Doja Cat feat. Nicki Minaj – Say So (🗻1位 /⏰38週)

48 Megan Thee Stallion feat. Beyoncé - Savage (🗻1位 /⏰28週)

50 Lil Mosey – Blueberry Faygo (🗻8位 /⏰33週)

 

10/17

41 Future feat. Drake – Life Is Good (🗻2位 /⏰38週)

46 Morgan Wallen – Chasin’ You (🗻16位 /⏰36週)

48 Maddie & Tae – Die From A Broken Heart (🗻22位 /⏰25週)

49 Lil Baby & 42 Dugg – We Paid (🗻10位 /⏰22週)

78 Gunna feat. Young Thug – DOLLAZ ON MY HEAD (🗻38位 /⏰17週)

81 Juice WRLD & The Weeknd – Smile (🗻8位 /⏰8週)

82 Doja Cat feat. Gucci Mane – Like That (🗻50位 /⏰18週)

86 Maroon 5 – Nobody’s Love (🗻41位 /⏰10週)

90 Lil Durk feat. Lil Baby & Polo G – 3 Headed Goat (🗻43位 /⏰14週) ※のちに再登場

 

10/24

65 Lady Gaga & Ariana Grande – Rain On Me (🗻1位 /⏰20週)

 

 

アルバムチャートのキリ番

 

10/3

1周年:DaBaby – KIRK (109位)

150週目:Elton John – Diamonds (44位)

150週目:H.E.R. – H.E.R. (193位)

200週目:Soundtrack – Moana (77位)

200週目:The Weeknd – Starboy (122位)

 

10/10

1周年:Summer Walker – Over It (44位)

100週目:Lynyrd Skynyrd – All Time Greatest Hits (133位)

200週目:Kane Brown – Kane Brown (172位)

 

10/17

1周年:YoungBoy Never Broke Again – Al YoungBoy 2 (123位)

1周年:Lil Tjay – True 2 Myself (137位)

200週目:Post Malone – Stoney (59位)

350週目:Bob Seger & The Silver Bullet Band – Greatest Hits (197位)

350週目:Drake – Nothing Was The Same (163位)

 

10/24

200週目:Frank Ocean – BLONDE (140位)

 

10/31

150週目:Soundtrack – The Greatest Showman (91位)

 

 

・各週の上位デビュー

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◇は再登場

 

・各週で順位の上げ幅が大きかった曲

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・各指標の1位推移

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・Rolling Stone Chartsのトップ10

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 こちらでは”Dreams"が3位まで到達しています。ほかストリーミングで再浮上しているPop Smokeのシングル2つもトップ10に。一方”Dynamite"はどの週もトップ10に入らず。違いが際立っています。

 

 

・各週の動向まとめ

 

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参照リンク

 

・Hot 100:The Hot 100 Chart | Billboard

Billboard 200:Billboard 200 Chart | Billboard

・ChartBeatの記事:Chart Beat | Billboard

・Kworb(ラジオ等):https://kworb.net/

・TokBoard:https://tokboard.com/

Spotify Charts:Spotify Charts

 

過去の月の記事

 

9月:Billboard 動向・9月号 【BTS / ロングヒット記録 / ヒットの4メトリクスなど】 - チャート・マニア・ラボ

 

8月:Billboard 動向・8月号 【圧巻の"WAP"、アルバムはTaylor Swift】 - チャート・マニア・ラボ

 

7月:Billboard 動向・7月号 【Pop SmokeとJuice WRLDの活躍 販売戦略のその後……】 - チャート・マニア・ラボ

 

6月:Billboard動向・6月号 【コラボ曲の首位が相次ぐ / アルバムチャートはリリース減少?】 - チャート・マニア・ラボ

 

5月:5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ

 

4月:Hot 100 / Billboard 200まとめ 4月号 【The Weekndがアルバム4タテなど無双】 - チャート・マニア・ラボ

 

3月:Hot 100・Billboard 200まとめ 3月号 【Lil Uzi Vert・Bad Buny・Lil Baby・BTSなど…アルバム大盛況】 - チャート・マニア・ラボ

 

2月:Hot 100・Billboard 200まとめ 2月号 【アルバム激戦区・不動のシングル上位など】 - チャート・マニア・ラボ

 

1月:Hot 100 2020年1月まとめ 【激動の1ヶ月、Roddy Ricch大活躍など】 - チャート・マニア・ラボ

 

 

 

 

*1:ストリーミングの比率が大きい ラジオが集計されない

*2:ゴールド認定などをする機関

*3:ただしTikTokでの使用数を調べるTokboardではトップ20には入っていない

*4:Mainstream R&B /Hip-Hop = 旧アーバン

*5:媒体によってはDon Toliverがメインアーティスト側に入っている表記の時もある。個人的には存在感でいうとDon Toliverが7割くらいを占めていると思うので、むしろメインではないのが少し意外です

*6:でも自分のベストソングでは“Sofia”の方を選んでいた、ということをアピールしておきます!?

*7:ブラジルの言語はポルトガル語

*8:現在はLady Aに改名。今月、改名後初のHot 100入りを果たす

*9:“No Guidance” = 46週に次ぐ。52週滞在ですが、彼がクレジットされていない”SICKO MODE”は除く