チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

My Best Albums 2020

f:id:djk2:20201229213246p:plain

 こんばんは!毎年恒例、ベストアルバムの記事です。まずは選考基準を紹介します。(Tracksの基準と似ていますが、新たに説明を追加した部分もあります)

 

・対象期間はおおまかに2020年。ただし12/25以降のアルバムは来年の選考に回します。

 

・同一アーティストがアルバムを年に複数した場合は、どれか1つに絞って選出しますが、その複数アルバムも評価の参考材料にはしています。

 

・主に「自分の好み」「その曲の影響力/意義」の2大要素で構成されています。比率はやや「自分の好み」に寄っています。「影響力/意義」の部分にはチャート観察で得た見識も存分に含まれています

 

サウンド重視で聞く習慣が強いため、歌詞よりもサウンドにかなり重点を置いています

 

・もちろん作品の質的な高さ、が選考の基準ですが、それだけで絞り切るのは難しいため、「仮に自分がメディアだとしたら、どのような“路線”を推すのか?」という視点を導入しています。わかりやすい話をすると、音楽の質的な高さでは30位前後だと感じたとしても、全体のバランスを考えて外されるような場合もあります。

 例えばNMEは、ジェネラルな視点を導入しつつも、結局ランキングからはNMEイズムのようなものを強く感じるので、イメージ的にはそのような感じです。余談ですが今年のロキノンの年間ベストはそのジェネラル/独自色の使い分けが巧みでした。

 ここで言う「私の路線」を言葉に変えると「アウトサイド/ネクスト・ポップ」みたいなイメージです。あとはもちろん、音楽チャートブログなのでそれも重要な要素の一つではあります。

 

・昨年は各種「グローバルランキング」で、上位ならばどの作品もなるべく平等に扱うべき、という考えが私の中であり、それがある程度ベスト選考にも反映されていました。

 しかしそれは「界」が異なり、全く交わりが無く、同じ音楽というフォーマットを取っていても相互の影響が全く皆無なケースもあるように最近では考えるようになりました。そのため、場合によってはいくらグローバルランキングでは上位と言っても、局地的な受容では、突然違う「界」の話をしだす、考えようによっては突然「議題を変えた」ようなことになってしまうため、昨年ほどディグをグローバルまでは広げず、ランキングの統一感を重視しました。(昨年と今年の考え方、どちらが正しいかの結論は出ないと思いますが、メディアやリスナーの考え方を観察し、今後も柔軟に考えていきたいです)

 

(ここら辺はソングにも当てはまることなのですが、選考している段階で書きたいと感じたので追加しました)

 

・既に完成した物を言葉に直すのは難しく、説明の長さはまちまちです。(上記の通り、サウンド重視で聞いているため、なんとなく「フィーリングが良い」みたいな場合もある)

 

以下ランキングです!Go!

 

40 Polo G – THE GOAT

 昨年のデビュー作で見せたクールなラップスタイルはそのままに、スケール感を拡大することに成功。豪華プロデューサー(Mike-WiLL Made ItとTay Keith)の激しいビートを気鋭のラッパーと共にラップする“Go Stupid”や、アルバムを締めくくる”Wishing For A Hero”などが印象的。複数曲がストリーミングで人気を得たこともあり、長い期間存在感を放っていました。

 

 

39 Ariana Grande – positions

 前作で商業的にも批評的にも頂点を迎えたため、その反動により今作への反応は微妙でした。たしかに商業的にも前作よりは数字を落とし、特別な意義も見出しづらいのは事実ですが、それでも彼女が従来から得意とする、R&B的なセンスを持つ美しいメロディーのポップスという魅力は健在。また前作よりも数字を落としたとはいえ、複数シングルがしっかりヒットしており、次第にこのアルバムの魅力も多く見いだされそうです。

 

 

38 Flo Milli – Ho, why is you here?

 Nicki Minaj、Megan Thee Stallionの初のHot 100首位に湧いた今年。女性ラッパーのスターが格段に増加していますが、その中でもフレッシュで印象的なデビューを飾ったのが彼女。プロダクションに面白さのある1枚です。また“In the Party”や”May I“と複数曲がTikTokでも人気を得ました。来年以降の飛躍に期待。

 

 

37 Rico Nasty – Nightmare Vacation

 Pitchforkによると、「今までの成功を全て突っ込んだような作品でゴチャゴチャしている:74点」だそう。たしかに、「通してのカラー」がややボヤケているような印象もありますが、それでも彼女の鋭いラップやバラエティ豊かなラインナップの魅力が上回るように思います。新境地の“iPhone”が主に注目されました。”Smack A Bitch”のリミックスでは次代の女性ラッパーを複数起用。(ppcocaine, Sukihana & Rubi Rose)

 

 

36 Arca – KiCk i

 「脱構築されたポップスとレゲトンが交差する」というコンセプトの作品。Björk、ROSALÍA、Sophieと豪華かつそれぞれカラーの強い客演を迎え、それらをまとめ上げた作品。ロボットと肉体が融合したようなアートワークも目を引きます。

 

 

35 Yaeji - What We Drew 우리가 그려왔던

 ハウス~ヒップホップのプロデューサー初のミックステープ。韓国系という出自もあり、韓国語/英語を織り交ぜて歌います。アルバムの途中には客演のYonYonによる日本語ヴァースも。多彩なサウンドプロダクションで、彼女の才能を感じる一枚です。登場以来、複数EP→今回のミックステープと来ましたが、今後来るであろうアルバムではどのような姿を見せてくれるでしょうか。

 

 

34 Joji – Nectar

 幅広いフィールドからゲストを迎えつつ、彼のスタイルであるオルタナティブR&Bの幅を広げたセカンドアルバム。“Gimme Love”、”Run”、”Sanctuary”とシングルが連続する中盤は聞き応えあり。Spotify等で高い人気を得る一方、伝統的なR&Bが人気なフィールド、例えばApple MusicやMainstream R&B/Hip-Hopラジオ(かつてアーバン系と呼ばれた)等での反応は極めて薄いですが、それだけ彼のやろうとしていることが挑戦的ということでしょうか。

 

 

33 Run the Jewels – RTJ4

 変わらずの質の高いハードなアルバムを完成させたRun the Jewels。今年はその怒りのようなエネルギーが時勢とマッチしていたこともあり、高く評価されました。Pitchfork曰く、「支配階級や警察を正すためのカムバック」

 

 

32 A.G. Cook – Apple

 少し前に出した約2時間半の”7G”と合わせて、ある意味「2連」のデビューアルバム。温かくアコースティックな“Oh Yeah”など新たな可能性も見せつつ、PC Musicの長が才能を証明する一歩目を踏み出します。

 

 

31 Yukika – Soul Lady

 日本出身のK-Popシンガー(歌唱は韓国語でされている)。元は「けいおん!」等にも出演歴のある声優だったらしいです。そんな複雑な経歴を持つ彼女のデビュー作はシティポップからの影響を感じる1枚で、夜のネオンを連想とさせる綺羅びやかな曲が並びます。海外の批評空間でもそれなりの注目を集めました(AOTYやRate Your Music等の)

 

 

30 Pop Smoke - Shoot for the Stars, Aim for the Moon

 アルバム自体もヒットした上、収録曲もそれぞれシングルとして大ヒットしたPop Smoke。TikTokでの人気が高かったこともあり、ストリーミング上ではかなりの曲が「疑似シングルカット」をされ、非常に愛されている作品だと感じました。SpotifyのRapCaviarでは、アルバムから計8曲がリスト入りを果たしました。*1

 客演の数が多いですが、その豪華なゲストにも押されず、声の魅力によりPop Smokeがアルバムの主役を張り続ける様もこのアルバムの魅力です。

 

 

29 BENEE – Hey u x

 彼女はシンガーと分類されますが、個人的にはラッパーのようなアプローチを感じる1枚。粘るようなボーカルを使いこなし、リズミカルにライム。幅広いフィールドからの客演、そして多様なプロダクションから遊び心を感じる作品です。オルタナティブなフィールドから、ラップの可能性を試しているような作品だと感じました。彼女は今年Jojiのアルバムにも参加しましたが、今後もこのようなクロスオーバーの客演にも期待。

 

 

28 The Avalanches – We Will Always Love You

 年末にリリースされた都合で、あまりメディアのリストには載りませんが、見逃せない作品と感じました。豪華客演と共に、彼らの温かみのある世界観を作り上げます。

 私は2017年のフジロックで彼らを見たのですが、その時に「ボーカルをどうするんだろう?」と思っていたら、ライブ用のシンガー(Eliza Wolfgrammという人)が登場し、力強い歌唱でライブを盛り上げました。その様子がこのアルバムでも再現されているような気がして、なんだか感慨深いです。

 

 

27 Phoebe Bridgers - Punisher

 メディアから高い評価を得たインディー/フォークシンガー。私はこのジャンルにそこまで明るいわけではないですが、そんな私でも楽しむことのできる作品でした。“I Know the End”と”Kyoto”と、複数曲がAOTYの「ベストソング集計リスト」のトップ10に入ったことから分かるように、今後インディーアンセムになりそうな曲も多いです。

 

 

26 The Weeknd – After Hours

 シングルヒットを飛ばし続けたブレイク以降期、そして不気味な雰囲気が強かった初期の合致点をうまく見つけたと好評な作品。ヒット&評価を両立し、今後の彼のキャリアに大きくプラスに働きそうな1枚に。特大ヒットとなった“Blinding Lights”はもちろんのこと、先行シングルで、アルバムの方向性を印象づけた長尺の“After Hours”もインパクトがありました。

 

 

25 Phoebe Ryan – How It Used To Feel

 キュートなボーカルを持つシンガーのデビュー作。台頭からデビュー作まで時間がかかっていたので、何よりもアルバムをリリースできたことが良かったです。個別記事に詳しく書きました:連載⑪ Phoebe Ryanとは? 【デビュー作の役割】|トコトコ (チャート)|note

 

 

24 Kali Uchis - Sin Miedo (del Amor y Otros Demonios) ∞

 今作ではスペイン語で歌唱。やはり言語が変わると響きも変わり、これまでとは違った味を出すことができます。ほかレゲトン的な要素も導入。従来からの魅力と新しい要素が混じり合う作品です。

 

※どの曲をソングの方に選ぼうかなと迷っていたら、ベストアルバムに選んだのに収録曲をベストトラックの方に曲を入れ忘れてしまいました……確認ミス失礼いたしました!“//aguardiente y limón %ᵕ‿‿ᵕ%” を51位相当という扱いにします(ベストトラックの記事にも記載しました)

 

 

23 Don Toliver – Heaven or Hell

 どうしても自身の師でもあるTravis Scottと比較されがちですが、彼のボーカルには独特の魅力があり、その味をうまく活かした曲が並びます。ヒットした“No Idea”や“After Party”のパーティーソングから、ゆったりとした”Cardigan”や”Euphoria”まで、一人のアーティストとしての高い可能性を示した1枚。年の後半には、客演ながらも彼が主役と言っても良い“Lemonade”がヒットを飛ばし、飛躍の時を迎えています。

 

 

22 Lady Gaga – Chromatica

 アコースティックな“Shallow”のヒットからは一転、ダンスポップへの回帰は私含め多くの人を喜ばせました。最大のヒットの”Rain On Me”はもちろんのこと、先行シングルの”Stupid Love”もなかなか好み。あまりヒットしなかったのは残念でしたけど。ほかElton Johnを迎えたSebastian Ingrossoプロデュースの“Shine From Above”も○。

 もう一つ面白いと感じたのは、アルバムでインタールード的な役目を果たす“Chromatica II”がTikTokで人気を得ていたこと。単体での運用が従来は考えづらいインタールードがこのような使用法をされたのはとても興味深いです。アルバムの細部へのこだわりが光り輝いた、ということでもあると思います。

 

 

21 Yves Tumor – Heaven To A Tortured Mind

 ネオサイケデリック・ミュージシャンの新作。ジリジリしたサウンドにどっぷりと浸ることができます。私のお気に入り曲、“Kerosene!”でボーカルを担当している女性シンガーは、Diana Gordon(別名義:Wynter Gordon)という方で、Beyoncéの”Lemonade”にプロデューサーとして参加した経歴の持ち主

 

 

20 Kylie Minogue - DISCO

 キャリアは約40年、そしてこのアルバムは15枚目と大ベテランと呼べる域に入るシンガーですが、今回も非常に高いダンスポップを提示し、我々を非常に楽しませてくれました。

 アルバムの名前の通り、ディスコ系のポップスが並ぶ作品。特別メディアに取り上げられそうな新奇性があるわけではないですが、とても楽しめるアルバムでした。彼女はUKでの人気が高く、2作連続8枚目のアルバム1位獲得。

 

 

19 070 Shake – Modus Vivendi

 2018年に続けてリリースされたKanye West関連作品で大きな存在感を放ったG.O.O.D Music所属のシンガー/ラッパー。そこで披露したボーカルやラップ、そして骨のあるサウンドプロダクションと融合。その中で“Guilty Conscience”が特に際立つ曲で、Dummyというサイトの「将来のカラオケクラシック」という評が好きです。

 

 

18 Mac Miller - Circles

 訃報後初のアルバム。ふやけるような彼のボーカル、そして淋しげなプロダクションが合わさって、味があり染み渡る世界観が広がる1枚。Eminem、Halseyと競合が激しい週のリリースながらも高いストリーミング人気を得て、10曲がHot 100入り。USアルバムチャートでは3位だったものの自己最高売上を記録しました。

 

 

17 Hayley Williams – Petals for Armor

 Paramoreのボーカリストによるソロデビュー作。バンドメンバーのTaylor Yorkプロデュースの元、広い方向性を試みつつも、彼女のボーカルの魅力は健在。“Sudden Desire”ではジリジリとしたプロダクションに、彼女の叫び声が響き渡ります。

 

 

16 Chloe x Halle – Unghodly Hour

 R&Bデュオ。プロダクションの幅を大きく広げ、スケールがグンとアップ。R&Bアンセム“Do It”はTikTokの恩恵も受け、ヒットに。リミックスでの女性ラッパー大集合(Doja Cat、City Girls、Mulatto)も素晴らしかったです。ほか、その”Do It”から続く4~6曲目(“Tipsy”と”Unghodly Hour”)、そして最終曲の“ROYL”あたりが印象的でした。

 

 

15 Ava Max – Heaven & Hell

 ダンスポップの新星として2018年末から登場。以降一貫してダンスポップへの挑戦を続け、2020年ついにアルバムリリース。瑞々しいダンスポップ曲が多く並び、私のようなダンスポップ愛好家にとってはまさに「夢の国」。あまりアーティストとしての注目度は高くないですが、彼女の行っていること、そしてそれを確実にヒットに結びつけていることはもう少し評価されても良いと考えています。

 

 

14 Dorian Electra – My Agenda

 メディアやAOTYのレビューを見ると、「掴みどころが無く混乱させる点が長所」のような記述が多く見られました。Hyperpopを超えた「カオス系ポップ」の領域。ですがうまくまとめられており、作品全体も不思議と高いです。

 Pussy Riot、Village Peopleと独自の客演で私が一際目を引いたのはRebecca Black。2011年にリリースした“Friday”がかつてJustin Bieberの”Baby”とYouTubeの最多低評価数争いをしていた彼女。彼女はJustin Bieberほどは有名ではないので、人に対するヘイトではなく、本当に曲が質的に批判されているのだと思います。

 逆にそういう評価から私は興味を持ち、以前からちょくちょく聞く曲だったのですが、感想は一貫して「今でも未来の曲に聞こえる」というものでした。「いつか評価されたら面白いなぁ」と思っていたところ、それが思ったよりも早く来てびっくりした、というわけです。

 Dorian Electraのレビューなのに、Rebecca Blackの話ばっかりしてすいません!

 

 

13 Megan Thee Stallion – Good News

 昨年以上にヒットを飛ばし、今年の顔となったMegan Thee Stallion念願のデビュー作。遊び心あるビートが並び、“Body”、”Cry Baby”とラジオシングルでは無いながらも、TikTokで人気を得てストリーミングでシングルのような地位を確保する曲も。それだけ魅力的な曲が多いということでしょう。

 競合が強く(BTS)、アルバム1位は獲得出来ませんでしたが7曲がHot 100入りなどストリーミングで人気。ヒットの面でも結果を残し、スターであることを受容/質の両面から証明した1枚であると言えます。

 初の首位となった“Savage”はもちろんのこと、個人的には”Don’t Stop”がお気に入り。バキバキしたプロダクションが際立つシングルです。(アルバムの配置的に、ボートラ的な扱いかもしれませんが)

 

 

12 Fiona Apple - Fetch the Bolt Cutters

 久々のアルバムリリースで健在ぶりを示し、今年最も高い評価を得た作品。自らの飼い犬がクレジットされるなど、プロダクションの多芸さという「アートポップ的要素」以外にも、迫力のようなものもこのアルバムの魅力の一つだと思います。

 

 

11 Perfume Genius – Set My Heart on Fire immediately

 終始美しい作品。アルバムを通した時の「読後感」ならぬ「聴後感」という観点では今年屈指の存在です。正直申すと、私はこのアルバムをうまく説明する語彙を持ち合わせていないのですが、そのような人間でも上位に入れたくなるような魅力がある作品ということです!

 

 

10 HAIM - Women in Music Pt. III

 とにかくアベレージが高いと感じた作品。Best Tracksのほうで書いたように、いくつものベスト収録曲候補がありました。そこで選んだ“Up From A Dream”のほか、“3AM”や”Another Try”あたりも良かったです。統一感/完成度が高い中にも、幅広さのようなものも見られた作品だったと思います。

 

 

9 Taylor Swift – folklore / evermore

 The NationalのAaron DessnerやBon Iverを制作に迎え、インディー調でアルバム志向路線に振り切ったことが大きな話題を読んだTaylor Swift。そんな新境地でも彼女のソングライトの才能は輝き、質の高い作品に。売上でも優秀な数字を残し、再生数(週間)はUS2億超え。複数アルバムで2億を超えた唯一の女性アーティストです。

 年末には姉妹アルバムの”evermore”もリリース。このアルバムも負けず劣らず良い作品でした。むしろ私含めてこちらの方が好きな人も多いかも。この作品の存在により、私のベストアルバム企画では順位を上げました (ちなみにこちらも2億再生超えを果たしています)

 

 

8 21 Savage & Metro Boomin - Savage Mode 2

 4年ぶりのシリーズ2作目。2人の相性の良さは健在で、従来からのダークなプロダクションを存分に味わえます。さらにそれだけではなく、シングルとして存在感を放つ“Mr. Right Now”、スクラッチする”Steppin on Ni**as”、そして最後の甘美な”Said N Done”など、異なるムードの曲を差し込むことで、緩急をつけて、全体の完成度を大きく高めている点が素晴らしいです。

 

 

7 Tame Impala – The Slow Rush

 前作と比べるとギターの割合が減り、サイケ度が増したとの評。悪くはない評価を得ていますが、前作ほどの評判は得られず。私はその路線の象徴である“Posthumous Forgiveness”がたいへんお気に入り(昨年のベストトラックで7位に選出)だったため、この作品も非常に好みでした。

 もちろん前作“Currents”の壁は高いですが、この作品の魅力も多いように思います。際立つ”Posthumous~“のほか、アルバム先頭トラックの役目を高水準で果たす”One More Year”がお気に入り。

 

 

6 Lil Uzi Vert – Eternal Atake

 前作から3年ぶり。ファンが渇望した作品がついにリリース。1週目にリリースされた“Eternal Atake”は、ゲストは最小限に抑えられ、彼のボーカルや世界観の魅力を全面的に押し出された作品になっています。そんな彼の世界観にリスナーは熱狂し、歴代で5番目に高い、4億再生をリリース週に記録しました。

 個人的にこの作品をインディー系シンガーのようなものと捉えています。まず、最小限のゲストとボーカルや世界観を重視した作風という質的な要素。そしてシングルヒット(主にラジオでの)が少なく、彼が「アーティスト」という単位で突出した存在であるということ。Hot 100エントリーも大量にあるので、意外と感じるかもしれませんが、彼はシングルヒットが近年はとても少ないです。その理由はラジオでほとんどかからない点にあるのです。

 このようにラッパーで、シングルヒット無くともアーティストでの存在感は突出するインディーアーティストのような売れ方をするのは非常に面白いと感じました。

 あと触れられない気がしますが、ラッププロジェクトと思わしき2枚目もなかなかお気に入りです。

 

 

5 Bad Bunny – YHLQMDLG

 スペイン語作品ながらも、Spotifyで今年最も再生されたアルバムに輝きました……この事実がこの作品の際立つ功績であるように思います。おそらく今後も続くであろう英語曲/非英語曲の枠組み破壊という歴史を語る上でベンチマークとなりそうな作品です。USでも2億再生超え/11曲がHot 100入りするなど大きくヒット。USでも大きな存在感を示していることは、メディアにも高く評価される要因の一つだと推測しています。(「グローバル」のランキングでヒットしていても、人気が特定のエリアに集中しているとメディアにそんな取り上げられないので、「真にグローバル」になるにはUS人気が必要という仮説)

 ゲスト少なめで統一感が重視された前作からは一転、今作は各シングルが際立つパーティー作品に。“Safaera”を筆頭に、彼がミニスカートやブーツを履くビデオが印象的だった”Yo Perreo Sola”、このジャンルを常に牽引してきたDaddy Yankeeとのコラボとなった“La Santa”など、単体でのパワーは前作より力強いです。このシングルのパワーがヒットを大きく牽引したのは確かでしょう。

 分量的にやや長い気もしますが、終盤の“Hablamos Mañana”~”<3”の締めくくり方は見事で、「聴後感」をとても良くします。

 彼はこの作品以外にも、アルバムから漏れた曲を集めた“LAS QUE NO IBAN A SALIR”、そして年末に“EL ÚLTIMO TOUR DEL MUNDO”と別のアルバムもリリース。こちらも人気を集めました。“EL ÚLTIMO~”は”X 100PRE”期イズムも感じられる作品。

 

 

4 Rina Sawayama - SAWAYAMA

 新潟出身、イギリス育ちのシンガー。2017年にリリースしたEP、“RINA”で高い評価を得ると徐々に注目度が向上。念願のデビュー作となった今作では、その高い期待度を上回る出来を披露し、各メディアで絶賛。スターとなりました。

 ニューメタルやR&B的な要素を取り入れた、ハイブリッドなポップス作品。怒りを表現した先行シングルの“STFU!”や”XS”がニューメタル的、“Bad Friend”や”Akasaka Sad”がR&B的。Pitchfork曰く、ここでのニューメタルに当たる部分はEvanescence等で、R&B的なポップがBritney Spears等のため、Y2Kフラッシュバックだそう。

 このようなユニークな所からインスピレーションを得て完成したアルバムは、自身の素質を伝えるというデビュー作の役割を高次元で果たしています。

 

 

3 Dua Lipa – Future Nostalgia

 ディスコ的なテーマを元に、色鮮やかで個性あふれ曲が並び、それでいて統一感もバッチリ。売上と質の高さを高次元で両立したこともあり、早くも2020年代を代表するアルバムになった気がします。

 シングルがカットされれば、どれも逃さず人気に。正直シングルだった“Braky My Heart”が弱く感じるくらい(?)には、シングル候補の層がとても厚いアルバムです。(”I Wanna Stay At Home”の部分が時勢にめちゃくちゃ合っていたので、シングル選定自体は必然な気がしますが)

 このアルバムはフォローアップも面白かったです。Missy ElliottMadonna等のシンガー、ハウス系プロデューサーを多く呼び寄せたClub Future Nostalgiaでは曲間をつなぐミックス仕様で、クラブの空気感を再現。

 ほかフランスのシンガーAngèleとコラボした“Fever”もリリース。自らの境界を広げる意欲的なコラボレーションを多く実行しました。

 

 

2 Charli XCX – how i’m feeling now

 私は密かに、アルバムには点数を付けていて、今年の1位とも前作(昨年1位)とも同じ点数です。ほぼ同率1位みたいなものです。

 感染症に苛まれる状況を鑑みて急遽リリースが決まった今作は、ファンとのミーティング(私が普段見ているStan Twitterみたいな人が会議に参加していた)も経由して完成。「この状況下にアーティストが出来ること」への一つのアイデアとして、素晴らしいものを提示したと思います

 このように短期間で作られたものの、アルバム自体は安心と信頼の高品質。昨年のスタジオアルバムよりも「鋭さ」や「パワー」のような物は増していています。最初の曲からいきなり飛ばし、そして後ろ2曲で激しく終わるという配置もナイスです。

 最近のアルバムは、デラックス版等その後にフォローアップをリリースすることが多いですが、この作品では自身のDJイベントを音源化した物をリリース。これが素晴らしかったです。(Apple Music限定みたいですが)

 

 

1 Poppy – I Disagree

 前作で垣間見せたメタルポップを、メインテーマに据えたのが今回の作品。統一感/聴後感のようなものが特に優れており、アルバム全体のパワーは個人的には今年屈指、いや歴代有数でした。メタルというパワーのある音楽を軸に、曲単位でも強/弱を使い分けることで、通しで聞いた時の強度と聞きやすさを両立。そして終盤にかけて次第にムードある曲へとシフトしていくことで、理想的なアルバムの締め方をしています。前半では“Concrete”と“BLOODMONEY”、後半では”Sick of the Sun”が印象的。

 また、このアルバムを通しての完成度こそが、おそらく誰もが比較対象として持ち出すBabymetalとの大きな違いだと考えています。彼女らはライブアクト(?)ということが関係しているのか、アルバムではシンガロングを目指すような曲が多く並んでいます。(「META!メタ太郎」が個人的に好みでした)ただ、そのような結果なのか曲ごとにプツプツ切れるような印象があり、アルバムを通すには向いていないと感じるのです。

 メタル+ポップという組み合わせ自体はBabymetalが確立したものかもしれませんが、メタル+ポップを「アルバム」に落とし込んだという点でPoppy、そしてこの作品から特筆すべき点を感じたのです。

 

 Poppyは今年アルバム外でも精力的に活動。自身のメタルポップスタイルを用い、“All the Things She Said”や”Pokemon Theme”をカバー。そのチョイスに私は大喜び。さらに、このアルバムとは違うスタイルのノイズアルバムもリリース。アーティストとして様々なことに挑戦しています。この革命的なポップシンガーに、もう少しスポットライトが当たればなぁ、と私は考えました。

 

 

今年の選出アルバムをまとめた画像

f:id:djk2:20201230183344p:plain

 

 

ベストトラック編!

 

 

*1:Make It Rain, The Woo, For The Night, Creature, Aim For The Moon, Got It On Me, Mood Swings, Hello。これ以外にも“What You Know Bout Love”がポップ系のToday’s Top Hitsに入っています