チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

“Blinding Lights”の90週を振り返る

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こんばんは。久々に記事を書くことが出来ました。来月から年末系の記事もいくつか書く予定なので、そちらの方もよろしくおねがいします。

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 Hot 100滞在90週と、歴代最長記録を生み出してチャートを去った“Blinding Lights”。その滞在の長さから、Hot 100史上最もヒットした曲との認定も受けました。*1

 そんな大記録を生み出した曲のチャートアクションを振り返り、これがどのような記録だったかを見ていきます。

 

(まず、①で1週目から起きた出来事を説明します。そして②で考察等をします)

 

 

1 90週を振り返る

 

 滞在していた90週を最初から振り返り、その関連事項等を説明していきます。

 

 

1週目:登場

 “Heartless”と共にダブルシングルとしてリリース。コラボ、映画サントラへの提供を除くと2018年3月以来の新曲。その”Heartless”はHot 100で首位獲得に成功、一方”Blinding Lights”は11位でした。ストリーミングの数はそこまで差がなかったのですが、シングルだった“Heartless”はラジオやセールスに分があったため、少し順位に差が出ました。

 

(2019年12/14:11位)

↑この最後にある数字は、Hot 100の日付、その週の順位です。実際にチャートが発表されているのは、この日付の4日前、チャートの集計期間はこの日付の15日前~9日前です。

 

 

2週目:「相方」と共に下落

 “Heartless”が不名誉な記録を作ってしまいました。一気に17位まで順位を落とし、「1位からの下落幅が最大の曲」になってしまいました。(後に6ix9ineの“TROLLZ”などが記録を更新)

 ストリーミングではリリース直後の注目度が高く、近年メジャーなアーティストの曲は初週の順位がとても高い傾向にあります。しかしその「初動」が強すぎる故、2週目*2は「相対的に」順位を落とすことが多いです。

 この曲は初週にCDやヴァイナルを販売し、セールス増加に力を入れて「初週ブースト」を強化していたため、その分反動も大きくなりました。

 この特定の週を狙い、1位獲得を目指す「販売戦略」は2019年~2020年によく行われていたものです。CDやヴァイナルの物理媒体を販売(サイン入りを含む販売を行うアーティストも)し、それに付属するDL権利によってセールスを伸ばす戦略です。2020年の10月からは制限されています(付属のDL権利の分は反映されず、実物の発送日に反映されるように。これで狙った週にセールスを集中させる難度が上がる)

関連:Billboard 動向・10月号 【販売戦略の行く末 + オルタナティブ系 など】 - チャート・マニア・ラボ

 

 さらにこの期間はクリスマス曲が非常に多く、一般曲の順位が低くなってしまうという要素も大きかったです。

 “Blinding Lights”の方も、このような要因で52位まで順位を落としました。Chart Dataが”Heartless”のこの不名誉な記録を伝えるツイートには「”Blinding Lights”の方が……」というリプがいくつか寄せられていたのが印象的でした。非シングル時代から、支持は高かったのかもしれません。

 

(12/21:52位)

 

 

4週目:最も順位が低い週 

 72位にランクイン。90週で最も順位が低かった週。クリスマス曲がその年で最も多く(25曲)チャート入りしていた週で、その影響を受けた形に。

(2020年1/4:72位)

 

 

6週目:正式シングルカット

 シングルと非シングルの違いは曖昧で、ストリーミングではこの境界線が無くなりつつありますが、「この曲はシングルです」と宣言され、ラジオでかかったものをチャート界的にはシングルとすることが多いです。ウィキペディアもこの定義を採用しています。

 「曲名 Officially Impacted ○○系統 Radio」という声明が、このタイプの「シングルカット」の合図になっています。

 この宣言がされていなくても、ストリーミングの人気等を判断しラジオでかかるようなこともありますが、この手の曲は本格的には伸び切らないです。やはりラジオでかかるには基本シングル認定が必要、という考え方で良いと思います。

 ちなみにラジオのシングルカットの動向がストリーミングのプレイリストに影響を与えることもあります。しかし基本的に“Blinding Lights”はリリース時から一貫してストリーミングのプレイリストに含まれています。

 “Blinding Lights”がそのシングル認定を受けたのは1/6だそうです。これが反映されるのは1/18のチャートになります。ここから本格的な上昇を見せていきます。逆に言えば、これまで非シングルながらも人気を維持してHot 100に残り続けたということでもあります。

 

(1/18:39位)

 

 

12週目:トップ10入り

 初のトップ10入りにして、ピーク更新。最近はストリーミングとラジオのピークがズレる曲も多く、リリースから日が経っての曲の場合、トップ10に入ったとしてもそこから伸び悩むことも少なくないですが、この曲はストリーミングの強さを維持したままラジオが伸びていたので、以降も8位→7位→4位→2位と順位を伸ばし、首位に迫っていきます。

(2/29:10位)

 

 

17週目:アルバムリリース→Hot 100で首位に立つ 

 ついに首位に立ちます。この週にThe Weekndはアルバムチャートでも1位を獲得しています。元来の好調さに加え、アルバムによる加勢が効きました。

 アルバムのリリースは、現在シングルを上向かせる「最強のカード」です。各ストリーミング媒体では、アルバムリリース時に高い再生数が記録される傾向にあります。SpotifyのUSデイリー再生数ランク歴代上位記録を見ると(PkStreamsをタップすると、ソートします)、有名アーティストの非シングル曲がアルバムリリース時に注目を集め、数々のヒットシングルと同等以上の再生数を記録していることが分かります。

 ほか、Apple Musicでは再生数こそ表示されませんが、Spotify以上に「アルバム聞き」が盛んで、より頻繁にアルバム曲が上位を独占する現象が見られます。

 

(4/4:1位)

 

 

19週目:ラジオで1位に 

 Radio Songsで1位獲得、つまりラジオの再生数が1位に。”Earned It”、”Can’t Feel My Face”、”The Hills”に次ぐ4曲目の1位。

 ほかこの週にラジオで最も規模の大きいポップ系ラジオでも1位を獲得しています。この系統では通算3曲目の1位(後に”Save Your Tears”も1位に)

 

 一方でDrakeの新曲が注目を集めたため、Hot 100では2位に。先に述べたストリーミングにおける初週の強さ故です。ラジオで1位になった週でHot 100の順位が落ちるなんて、ストリーミング時代らしい現象?と感じるかもしれませんが、ラジオは以前から他の動向よりも若干サイクルが遅いため、ラジオで1位に立った週にHot 100で1位から外れる現象はストリーミング前時代でも別に珍しくはありません。

 

(4/18:2位)

 

 

21週目:4週にわたり1位に

 4/4付のHot 100で首位に立ち、以降合計4週で1位に。4/18こそDrakeに首位を譲りましたが、アルバムで得た勢いを維持し、しばらく支配力があったことが伺えます。それ以降も勢いが衰えたわけではありませんが、この5月は「販売戦略」でブーストをかける曲が相次ぎ、それらの後塵を拝する形になりました。

 一方で、こんなにロングヒットなのに意外と首位期間が短いという感想もあると思います。傾向として、そこまで首位期間とHot 100滞在期間の長さはリンクしない傾向にあるので、首位の長さはロングヒットの指標とは違いますかね。

 1位滞在が最も長い(19週)“Old Town Road”のHot 100滞在は45週のみ。逆にHot 100滞在が長い曲トップ10には、10週以上1位になった曲はありません。(このリストのうち週間1位になっていない曲も多い)

 

90週 The Weeknd – Blinding Lights (ピーク順位:1位×4週)

87週 Imagine Dragons – Radioactive (3位)

79週 Awolnation – Sail (17位?)

76週 Jason Mraz – I’m Yours (8位)

69週 LeAnn Rimes – How Do I Live (2位)

68週 LMFAO feat. Lauren Bennett & GoonRock – Party Rock Anthem (1位×6週)

68週 OneRepublic – Counting Stars (2位)

65週 Jewel – Foolish Games / You Were Meant for Me (2位) 

65週 Adele – Rolling in the Deep (1位×7週)

64週 Carrie Underwood – Before He Cheats (8位)

 

(5/2:1位)

 

 

23週目:“Heartless”が外れる

 同じタイミングでリリースされ、先にシングルカットをされていた“Heartless”がこのタイミングでチャートを後に。当初の序列を覆しました。

 リリースから勢いよくラジオを伸ばしたものの(2月にリズミック系で1位など)、長くは続かず。アルバム週に瞬間的に息を吹き返したものの、ラジオが下降線だったこともあり、比較的短命に終わりました。

 ちなみに“Heartless”がR&Bリスナー向け、”Blinding Lights”はポップリスナー向けと意図されていたことがオンエアされていたラジオの系統から伺えます。

 

(5/16:3位)

 

 

24週目:アダルトポップ系1位

 初の1位(後に”Save Your Tears”も1位を獲得) The Weekndが新しい領域に進出成功したと言えます。最終的にはこの系統で20週にわたり1位になっています(歴代3位の記録) 

 ラジオ系統の規模はおおよそ ポップ>>カントリー>>アダルトポップ=リズミック=RMS(通称アーバン)といったイメージです。ラジオヒットは、まずポップを抑えた上でアダルトポップかリズミックを第二の系統に据えていることが多いです。例えば2010年代前半のシングルヒットを例に挙げると、Katy Perryはアダルトポップ、Rihannaがリズミックをチョイスしています。しかしシングルごとに使い分けをする場合もあり、Katy Perryの“E.T.”はリズミックの方の順位が高かったです。

 このうちカントリーは他の系統へのヒットの飛び火がまれなため、あまり第二の系統としてカウントされません。しかし規模が大きいため、運良くポップ系との人気を両立すれば、大規模なラジオヒットになります。(Gabby Barrettの”I Hope”など)

 

 系統ごとの作風の都合上、飛び火の「距離感」は

アダルトポップ⇔ポップ⇔リズミック⇔RMS

 のような感じです。これはアダルトポップとRMSが最も遠い作風ということです。ポップから左に行くと穏やかな作風になり、ポップから右に行くとラップに近づくイメージです。

 ちなみに彼がそれまで最も得意としていた系統はリズミックで、これまで11曲が1位に立っています。つまり、ラップ寄りから穏やかな作風に進出したということです。(“Blinding Lights”が「穏やか」という描写は合わない気がしますが、「穏やか」な曲を好む層にも受け入れられたアップテンポの曲という解釈で良いかと思います)

 Hot 100の滞在が伸びる曲はこの系統で人気なことが多いです。ポップより若干曲の回転サイクルが遅いことが関係していると思われます。Hot 100の滞在後期はラジオのポイントが生命線になるので、ラジオ、とくにこの系統を抑えるとHot 100滞在がグッと伸びるような気がします。(逆にリズミック系は曲の回転サイクルが早めです)

 Post Maloneも初めてこの系統で1位を獲得した”Circles”がロングヒットになっていますね。

 

(5/23:4位)

 

 

32週目:次シングルの”In Your Eyes”が外れる

 ラジオで競合するのは他アーティストの曲だけではない? 次のシングルとしてリリースされていた“In Your Eyes”が先にチャートを後に。ピーク16位・滞在15週とかなり控えめな成績に終わる。他の曲はヒットしているだけに、意外な結果でした。

 かつてシングルは順番にヒットし、次のシングルが来たら前シングルのラジオは落ちる……という「シングル回転」がはっきりしていましたが、ストリーミング以降はそれがボヤケて来ました。有名アーティストでもシングルカットがうまく行かないことも多いです。

 その一つの例が、このような後シングルが優先されるような現象でしょう。”Blinding Lights”は次シングルとの競争に打ち勝ち、そのヒット期間を伸ばしました。

 

(7/18:2位)

 

 

37週目:Radio Songs記録更新

 Radio Songsで19週にわたり1位を獲得。Goo Goo Dollsの“Iris”が持っていた記録(18週)を上回り、最も長くラジオ1位を獲得した曲に。最終的にはこの記録を26週まで伸ばしています。

 Hot 100での滞在の後半はラジオが重要項目になるため、今回の記録更新を説明する上で重要な記録更新です。アダルトポップ系1位獲得など、支持層を広げたこと、シングルの回転速度が遅い系統に支持されたことが記録更新を支えたと思います。

 

(8/22:3位)

 

 

42週目:トップ5記録を更新

 トップ5滞在が28週目を迎え、記録を更新。最終的に43週まで伸ばしています。

 

43週 The Weeknd – Blinding Lights

27週 Ed Sheeran – Shape of You

27週 The Chainsmokers feat. Halsey – Closer

26週 Post Malone - Circles

 

(9/26:5位)

 

 

50週目:トップ10記録を更新

 トップ10滞在が40週目を迎え記録を更新。最終的には59週まで伸ばしています。

 

57週 The Weeknd – Blinding Lights

41週 Dua Lipa feat. DaBaby – Levitating (この記録の後に達成された)

39週 Post Malone - Circles

 

(11/21:5位)

 

 

53週目:上がるハードル

 この週以降、Hot 100残留のハードルが上がります。21週目~52週目までは、51位以下に落ちるとチャートから外れるのですが、53週目以降はこの「足切り」が26位以下まで引き上げられます。このルールが適応された曲はRecurrentと名付けられたチャートに移動するため、Go Recurrentと称されます。また、私はこのルールを慣習的に「リカレントルール」と呼んでいます。

 21週目時点のルールは1991年から存在しますが、53週目の方は2015年末から設定されました。

 “Blinding Lights”の前の最長記録(”Radioactive”)は2014年に達成されたため、このルールの前です。当時の記録は、”Blinding Lights”より低いハードルで達成されたものということです。ただし、仮に当時このルールがあったとしても、69週は滞在できたようです。

 

 ほか、このタイミングでクリスマス曲の勢い(この週3曲がトップ10入り)もあり、トップ10入り後では初めてトップ10外に。次週はトップ10に復帰しますが、またその次の週に再びトップ10外に落ちます。

 

(12/12:11位)

 

 

?週目:驚愕!実は1回チャートの外に?

 なんと、Hot 100から外れてしまいます!この時点での滞在期間は55週。記録樹立前に一回チャートから外れていたのです。理由はクリスマス曲の大量登場。この週は全体で39曲、トップ10のうち9曲をも占めるという過去最大規模のクリスマス週に。この勢いにより、2週前までトップ10だった”Blinding Lights”も陥落してしまうのです。

 

 クリスマス曲によるチャート上位占領は近年激しさを増しており、その期間は通常の曲が端に追いやられ、通常のチャート機能が失われているように感じます。その曲の多さ、期間の長さから、個人的には毎年この期間かなりもどかしさを感じますね……

 せいぜい1週間か、または少数精鋭の曲のみがヒットする、なら構いませんが、この規模感には毎年モヤモヤしています。(チャート観察者的、個人的な感想です。チャート以外にもメインストリームに与える影響が大きく、様々な視点からモヤモヤしていますが、本題ではないので割愛します。宗教観とかも絡みそうなので、あんまり簡単に考察できるテーマでも無い気もします)

 

(2021年1/2:圏外)

 

 

56週目:復活

 クリスマスが終了。一気にクリスマス曲が減少し、平時のチャートに戻っていく週です。この週に、“Blinding Lights”は3位でチャートに復帰します。

 1回リカレントルールでHot 100を去った曲は、違うサイクルにならないと復帰しません。例えば51位相当→49位相当のようにポイントが移行しても、51位相当の週にチャートから外れ、49位の週にもHot 100には復帰しません。*3

 しかし、クリスマスは別枠のようです。近年クリスマス曲がチャートを一時的にジャックするのはここまで述べた通りです。ビルボードもこれは異例のチャートアクションと見なしたのか、この時期に特別ルールを設定しました。2020年以降、①クリスマス時期に外れた曲で ②クリスマス明けの週に50位以上に相当する曲 は一律チャートに復帰するようになったのです。(クリスマス自体は2019年、チャート復帰が実行されるのは2020年)

 そして、なぜクリスマス前よりも上位(3位)で復帰したのも不思議かもしれません。これはラジオが関係しています。カウントダウンの企画なのか、毎年ポップやアダルトポップ系のラジオでは年始年末にかけて、その年のヒット曲が再浮上を果たします。一回再浮上を果たすと、その後も急激に落ちることはなく、ある程度その水準を維持します。“Blinding Lights”はこの両方で人気(ポップは年間1位、アダルトポップは年間2位)の曲だったため、この効果の恩恵を最も受けた曲といえます。

 

(1/9:3位)

 

 

62週目:The Weeknd ハーフタイムショーに出演

 ハーフタイムショーが集計に入っていた週。元来からの好調に加え、そのブーストが入るので1位復帰もあり得ましたが、当時の特大ヒット”drivers license”、さらにCardi Bの新曲“Up”の存在もあり、3位維持に留まりました。

 また、彼の現行シングルの”Save Your Tears”がこの週4位まで浮上しています。

(2/20:3位)

 

 

70週目:最後のトップ10

 トップ10最後の週。この週までにトップ10滞在は59週わたり、他を圧倒する記録となっています。

(4/17:9位)

 

 

76/77週目:強力なアルバムに負けず、残留

 ストリーミングでアルバムの強力さゆえ、有力アーティストがアルバムリリースした際には多くのアルバム曲がHot 100入りをします。76週目にはJ. Cole、77週目にはOlivia Rodrigoと超強力なアーティストがアルバムをリリースし、実際に上位に多くの曲を送り込みましたが、“Blinding Lights”は26位以下に落ちることなくHot 100に残留しました。新記録を樹立する上で、最後の難所だったと思います。

(5/29:23位 6/6:22位)

 

 

84週目:ついに新記録達成!

 “Radioactive”を上回り、ついに記録を達成。まだ外れる圏と少し差があり、かつポイントもほぼ横ばい状態が続いていることから、ここからもう少し粘りそうと考えていました。上位に複数曲を送り込める超大物のアルバム、またはクリスマス期間以外では外れないと考えていました。

(7/24:17位)

 

 

・外れる

 9/10付のHot 100で、ついにチャートから外れる。大往生。90週という歴代最長の滞在記録を残し、チャートを後にしました。

 一つ前の週では20位と、足切りラインからは少し離れていましたが、The Weeknd自身も参加したKanye Westのアルバム”DONDA”の曲が上位に多く登場したため、それに押し出される形。仮にこの週外れなかったとしても、次の週にもDrakeのアルバムがリリースされたため、その週が最後になったでしょう。

 

 

 

2 まとめ:この記録をどう受け止めれば良いのか

 

 まず、この記録がすごいのは間違いないです。というのも、ビルボードは頻繁に「これは新記録」という発信をするため、大々的に喧伝されながらも、中身が微妙な記録も存在します。

 例えば、条件が複数付き、ニッチでそこまで重要ではない記録も存在します。(デュオであるか、初週かどうかなどの条件)しかし、この記録は純粋に単純期間が長いというシンプルな記録を更新しており、重要な指標であるという認識で間違いないでしょう。

 もう一つ、「たしかに記録は更新しているんだけど、昔のデータと比較して良いのか?」という視点です。Drakeがトップ10記録更新!という報道は近年何度もされています。これらの比較対象がMadonna(トップ10総数)やThe Beatles(同時トップ10入り)と時代が違うアーティストであるため、単純な比較が出来ず、どう捉えて良いのか分かりづらいということです。

 しかし今回の滞在週数更新で2位3位にあたる記録がストリーミング導入以降の2014年のデータなので互換性はあります。しかも2014年時はリカレントで外れる順位が低かったため、当時より高いハードルを乗り越えた、ということがこの記録をより輝かせます。しかしラジオで変化があったので、少し環境に違いもあります(後述)

 

 

・ストリーミングに順応したラジオ?

 ストリーミングも優秀でしたが、このロングヒット記録を大きく支えたのはラジオです。ラジオ1位記録を大幅に伸ばしているように、この曲の大きな強みだったことは間違いないでしょう。

 なぜここまでラジオ記録が伸びたのか。そこにはラジオ側の変化があったと私は考えています。

 様々な側面で、ストリーミングとラジオではヒットに違いが見られます。特に2017年以降に顕著です。例えば2018年にSpotifyで週間1位に立った曲は全てラジオ1位になっていません。どのような点ですれ違っているのでしょうか。

 まずは好みのアーティストの違いです。ラジオ受けするか否かという差異は昔から存在すると思いますが、これはストリーミングでも見られます。そしてストリーミング環境ではアルバムが人気なことから分かるように、シングル単位で人気かよりも、アルバム単位で注目を集められるか=アーティスト単位で人気を集められるかがヒットのカギを握っています。

 仮にラジオ受け、つまりはシングル人気が無かったとしても、アーティストとしての基盤がしっかりとしていればシングルとして売り出さなくともストリーミング人気は得られるのです。こうした「インディー気質」のアーティストがジャンルに関わらず、近年ストリーミングのランキングでは多く発見されるようになりました。Lil Uzi Vert、Juice WRLDあたりが代表格でしょうか。彼らの(近年の)曲はストリーミングで高い注目を受ける一方、そのストリーミングでの注目度に相応しいラジオオンエアはありません。最近はTaylor Swiftもこの方向性に近づいている気がします。

 The Weekndはアルバム単位で人気を集めるアーティストではありますが、しっかりとラジオ人気も集めることは出来ています。ただし、2018年のEP ”Dear My Melancholy,”の時はストリーミング人気&ラジオ薄の傾向がありました。

 

 もう一つはサイクルの違いです。ラジオではヒットしてから一定期間が過ぎると、次の曲をヒットさせるために、メインシングルを切り替えていきます。かつてはこのサイクルに従い、曲もヒットしていく傾向がありました。

 しかしストリーミングはこれに従う必要がありません。アルバムのリリース時がピークになりやすいストリーミングのリスナー的には、そこから時間が経過してからシングルカットがあっても、「その曲もう知っているよ」となるのです。一方で、過去曲が突如伸びるなど、ストリーミングのヒットの回転は不規則極まりないのです。従来とは違うシングル回転のサイクルが見られるのです。

 もちろんこれが一致する時もあり、そうすればポイントが同時期に集中するため、Hot 100の順位が伸びます。これが得意なのはカントリーです。ラジオでもストリーミングでも、近い時期に似たような曲がヒットしているような印象が強いです。つまりストリーミングがラジオのシングル系統に従順ということです。これはカントリーのリスナーが、個別にバラバラの趣味を持つのではなく、「カントリー」という枠組みで曲を聞く傾向にある、と個人的には解釈しています。

 ただ、逆に言うとラジオもストリーミングも同じタイミングで落ちていく可能性があるため、一時の勢いがあれど、滞在期間が伸びるとは限りません。カントリー曲に限らず、ラジオがベースとなっているヒット曲は、ラジオが落ち次第すごい勢いでHot 100を駆け下りるケースもあります。

 

 このようにラジオとストリーミングでは違いが見られましたが、実は近年はそれに徐々に対応している様子が伺えます。この曲関連で見られたのは、後シングルの“In Your Eyes”を蹴落としてシングルとして続行したことでしょうか。うまいことストリーミングとラジオの合致点が見つかると、ラジオシングルとして長持ちする傾向が見られるようになってきました。

 

 このような変化はセールスとストリーミングの違いも影響しているのではないかと考えています。セールスは基本1回されれば、それで完了です。ある程度まで曲が浸透すれば、それ以上はセールスが伸びずに曲が売上的な側面で「用済み」になる可能性があります。しかしストリーミングは繰り返し行えます。この違いから、売上的な観点からのシングルの寿命が伸び、ラジオで同じ曲を書け続けるメリットが生まれたのでは、ということです。

 

 また2021年に起きたラジオ+ストリーミングの融合で最大のテーマといえば“Levitating”の扱い方です。この曲は1回通常のラジオヒットをし、ピークを終えてラジオのオンエアが減少し始めていました。しかしその「落ち始め」のタイミングでストリーミングが再浮上(TikTokもヒットに一役買う)。これにラジオ側も対応し、ストリーミングの動きに合わせてオンエア数が再浮上しました。これに伴い、ラジオの再生数を扱うMediabaseというチャートでは、曲が「再登場する」というルールが制定されました。これが意味することは、このようなラジオのオンエアの再浮上はかつて見られなかったということでしょう。後に”Heat Waves”も似たような対応が取られています。ストリーミングの不規則なシングルのサイクルに、ラジオも対応し始めた、印象的な出来事でした。(結果的に共に大ヒットとなっています)

 

 もちろん、ストリーミング側もラジオでオンエアされる手法を見つけたという側面もあるでしょう。ストリーミングで人気を得やすい「アーティスト性」を維持しつつ、ラジオヒットも得ることの出来る作風ということです。

 このような分析から、今回の大記録はラジオとストリーミングが互いにうまい合致点を見つけ始めたことによるものだと考えました。

 

 

ビルボードの反応にも注目

 ちなみにメジャーな記録更新があった場合、ビルボードが何かしらの仕様変更をする場合があります。かつて2014年に滞在期間更新があった後、2015年に53週ルールが導入されました。少し時間差がありますが。

 また”Old Town Road”が首位滞在期間を更新した時、その独走の要因の一つだったYouTubeの非公式ビデオに翌年メスが入れられました。“Old Town Road”はミーム的な人気を誇り、公式ビデオ以外からも多くの再生を得ていたのですが、現在非公式ビデオはHot 100の集計対象外です。(ただしビデオが集計対象外のRolling Stone Charts*4でも長きに渡り1位だったため、この非公式ビデオ抜きでもHot 100の記録を更新していた可能性大)

 

 要は、「ナーフ」です。(ゲームで強すぎるキャラに調整が入ること)この記録に対して何かしらの調整があるかにも注目です。

 

 

・ロングヒット=10年後もロングヒットになるか?

 この曲が歴代で屈指のヒットになったことを、この記録が証明しています。しかし楽曲はチャートを外れて終わりではありません。現在ストリーミングでは過去曲の再生が盛んです。Spotifyのランキング圏内には多くの過去曲がエントリーしています。具体的に言うと、200位以内に5年以上前の曲が30以上入っていることもあります。(クリスマス曲等、「ホリデーソング」を除いても)

 90週も長いですが、5年はもっと長いです。これらの曲はある意味このチャート期間よりも長いスパンでロングヒットしているとも言えるのです。これらの曲にはリリース当初はさほどヒットしていなかった曲、Hot 100に入っていなかった曲も含まれます。つまり年月を経て、ヒットの序列が入れ替わることが十分あり得るのです。

 「序列が入れ替わる」とするならば、“Blinding Lights”は追われる立場です。チャートから外れた後も、さらなるロングヒットを目指し、2030年代、2040年代となっても、「2020年代の代表曲」であり続けるのか。長い長い旅は続いていくでしょう。

 

 

 

・参照

https://www.billboard.com/charts/hot-100/ (Hot 100)

https://www.billboard.com/artist/the-weeknd/ (The Weekndの過去のチャート成績)

Billboard + アーティスト名で検索すると、過去のチャート成績が閲覧できます

https://www.billboard.com/chart-beat/ (ここに掲載される、毎週のチャート解説記事 ただし直近の週しか一般公開はされていません)

 

 

 

*1:Hot 100でのポイントを合計でどこまで稼いだか、に基づき作られるチャート。Hot 100滞在期間中のみが対象。時代ごとに比率の調整等もあると考えられています

*2:“Heartless”はこの時チャート滞在3週目ですが、1週目は週半ばリリースでフルの集計ではないので、実質2週目というとらえ方で良い

*3:違う系統のラジオに飛び火した、など新たなヒットの芽が出れば、Hot 100に復帰します。これで復帰するかには明確なルールは存在せず、ケースバイケースです

*4:現在は過去のアーカイブも含めて消失