チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

私のベストアルバム 40+ 2019

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 今年のベストトラックを発表します! ※記事の最後に順位だけを貼った表があるので、順位だけが気になる人は最後まで飛んでください。

ベストトラック編は↓

 

 まずはどのような基準でアルバムを選んでいるかを説明します。

 

・対象期間は「およそ」2019年。ただ昨年末ギリギリにリリースされ、昨年の選考に間に合わなかったアルバムも一つ今年のリストに入れています。

 

・自分の好み7:3世間的な流れ くらいのバランスです。 音楽のベストはこの2つの軸があると思っています。私は自分の好みをベースに選曲をしつつ、チャート研究者として一年間見てきたものも一部ランキングに落とし込みました。

 

・うまく説明できないけど、聞いて良かったです!というアルバムもあるので、コメントが短い作品もあります💦

 

 

40 Megan Thee Stallion – Fever

 前アルバムの“Big Ole Freak”のラジオヒットを経て注目を集めた新鋭女性ラッパー。その曲でも見せていた高いラップスキルを披露する1枚です。DaBabyとのシングル”Cash S**t”は特に注目を集め、さらなる飛躍に繋がりました。ちなみに夏頃リリースされた”Hot Girl Summer”はこのアルバムには入っていません。

 このアルバムは何曲かがJuicy Jプロデュースで、feat.の無い曲でもちょいちょい登場します。“Dance”ではslob on my knobスタイルも。

 

39 Little Simz – GREY EREA

 UKの女性ラッパー。個人的にはR&B的な印象もあります。ジリジリと滋味のあるサウンドプロダクションが特徴的。

 

38 Kehlani – While We Wait

 ポップさが弾ける前作よりは、落ち着いた作品という感想を持ちました。際立つ曲はUS国外でもそれなりにヒットした“Nights Like This”ですが、次に配置される”RPG”にも魅力を感じました。

 

37 Kanye West – Jesus Is King

 キリスト教に寄せたコンセプティブな内容。前作に続く短尺の傾向。私はキリスト教に通じてはいないのでうまく共感出来なくて、そしてカニエの音楽はもっと長尺で浸りたい!という希望があって、多少「?」と感じる部分もあります。

 ただそういった「?」を押し返せるほどのカニエならではの音楽的クオリティは実感できました。

 

36 Dave - Psychodrama

 昨年”Funky Friday”でUKシングル1位を獲得したUKのラッパー。アップテンポだった“Funky Friday”とは違い。物憂げな曲が並ぶアルバムです。

 これがUKで大ヒットになり、「アルバム単位」でヒット。USとは違い、UKのストリーミングではあまりアルバム単位で曲が再生されないのですが、この作品はシングル以外も長く人気を保ち「アルバム単位」での人気が際立ちました。

 

35 Denzel Curry – ZUU

 ラップの中にも3種類の分類があると私は考えています。ポップラップ、アーバンラップ、インディーラップの3つです。

 ポップラップは主にポップ系ラジオでかかるラップのことでシングル志向が強いことも多いです。例はMacklemoreやPitbullです。

 アーバンラップとは一般的なラップと同義と考えて良いです。ラジオ区分で言うとポップ系ラジオではあまりかからないものの、アーバン系でよくかかります。(逆に上記のポップラップはアーバン系ラジオでかからない)

 最後にインディーラップとは、アルバム単位での作品志向があり、ラップ以外のジャンルからも影響を受けているものです。

 ただこれらのジャンル分けは曖昧な線引きで、複数ジャンルを兼ねる場合も多いです。Post Maloneは上記3つ全てに当てはまるのではないでしょうか。

 

 彼の前作はインディーラップ寄りのアプローチだったと思っているのですが、今回はTay KeithやRick Rossなどアーバン系のビッグな面子も呼び寄せて新規要素を追加。よりスケールアップした印象です。

 

34 DaBaby – Baby on Baby

 DaBaby大ブレイクの先駆けとなった”Suge”が収録されているのはこのアルバム。彼は年の後半にもう一つアルバムをリリースしましたが(”Kirk”)、彼のラップスタイルの魅力がより伝わるのは先にリリースされた“Baby on Baby”の方だと思います。

 “Suge”などが並ぶアルバム最初3曲の破壊力は特に際立っています。

 

33  Rico Nasty & Kenny Beats – Anger Management

 19分という短い構成の中にRico Nastyの破壊力のあるラップの魅力が詰まっています。曲単位でも尺は短いのですが、それぞれがインパクトを持っています。彼女のラップをKenny Beats、また客演で参加するBaauerなどが迫力のあるサウンドで「迎え撃って」います。 

 あと昨年のアルバムもKenny Beatsが中心のプロデュースだったのに、昨年のベストアルバム記事だとTay Keithの話ばっかしていてKenny Beatsさんすいません

 

32 JPEGMAFIA – All My Heroes Are Cornballs

 主に批評サイドで注目を集めているラッパー。そのサウンドプロダクションが魅力的だと思います。所々ある歌っているシーンも好きです。

 

31 J Balvin & Bad Bunny – Oasis

 ラテンアーバン界の巨星2人のコラボアルバム。Apple Musicの説明欄がすごく詳しく書いてあるので、それを読むのがこの作品を理解するのには一番良いと思います!

 それまでラテンアーバンの正統派として活躍してきたJ Balvinと大胆不敵なスタイルを持つBad Bunnyによるコラボ。アルゼンチンのベテランバンドLos Enanitos Verdesや、ナイジェリア出身のMr. Eaziなど幅広い要素も取り入れ、収録曲数は少ないながらもバラエティ豊かです。

 あと説明欄に載っている昼夜逆転のエピソードも好き。J Balvinは普通の早起き型のリズムですが、Bad Bunnyは超絶夜型で、J Balvinが起きる時間=Bad Bunnyの寝る時間らしい。

 

30 MACHETE – MACHETE MIXTAPE 4

 ミラノに拠点を置くラップレーベル・MACHETEによる作品。イタリアのストリーミングランキングでは、USと同じようにラッパーが上位を独占し、アルバムリリース時には大きく再生数が跳ね上がります。Spotifyのピーク時の再生数はかなりのもので、イタリアだけで複数曲が100万 / 日を突破。ほぼイタリアの人気のみながらも、グローバルランキングでトップ100にも入ったことも。

 

 ラッパーがアルバム単位で人気、というUSと同じ需要の構造を持ちながらも、サウンドはUSとはかなり違うものを感じます。全体的にダンサブルで、かつ激しく衝動的なサウンドが特徴的です。USでは「アートラップ」と称されてもおかしくはないサウンドに思いますが、イタリアではこの特殊(に感じる)サウンドが大きな人気を獲得したのです。”Yoshi”のGeniusには”Going Bad”から影響を受けたと記されていますが、私は聞いていてそう感じたことは無かったです💦

 USとは似て異なる、そんな多様なラップの広がり方に感銘を受けました。

 

 またこの作品は日本からの影響を感じます。イタリアでシングル1位も獲得した“YOSHI”は任天堂のキャラ・ヨッシーのことを指していて、他にも”GOKU”や“KEN SHIRO”と曲名が日本関連のものが3曲もあります。

 複数の流れが絡まった先にあるカオスな世界観を楽しむ1枚です。PCのフォルダの背景に炎がメラメラ燃えるカバーアートはアルバムの内容を表しているようにも感じます。(PCのフォルダはインターネットを通じて遠い世界の要素を取り入れていること、炎は衝動的さを感じるサウンドプロダクションを感じました)

 

29 Caroline Polachek – Pang

 Chairliftの女性シンガー。雰囲気のあるエレクトロな曲が並び、“So Hot You’re Hurting My Feelings”と”Door“と目玉シングルが続く終盤にクライマックスを迎えます。

 PC MusicのA.G. CookやDanny L Harleが参加しています。

 

28 King Princess – Cheap Queen

 昨年”1950”がSpotifyでヒットしたシンガーのデビュー作。序盤にインタールード的に配置されている“Useless Phases”、そして後半の”Trust Nobody”がお気に入りです。

 彼女の声質が好みで、それがうまく映えるメロディーラインがある展開が良かったです。

 

27 Carly Rae Jepsen – Dedicated

 “Call Me Maybe”が大ヒットした2012年も遠く昔に感じます。完全に「玄人も認める実力派」ポップシンガーになったCarly Rae Jepsenの新作。

 魅力的なポップソングが多く並んでおり、個人的なお気に入りは1曲目に配置されるしっとり系ポップソングの“Julien”。ほかにパーティーダンスポップの”Now That I Found You”、サウンドが楽しい”Want You In My Room”などバラエティ豊か。

 

26 Rich Brian – The Sailor

 88risingのインドネシア人ラッパーの新作。前作ほどストリーミングの注目は集めなかったものの、スケールアップを感じる作品でした。

 荘厳な“Yellow”など曲の幅があって、アルバム単位での迫力を感じます。リズムが切り替わる”Slow Down Turbo”もなかなか興味深いです。

 

25 Lizzo – Cuz I Love You

 軽やかな過去シングル、”Truth Hurts”や”Good As Hell”が突如ヒットして一躍スターダムに躍り出たLizzo。同時に今年リリースされたアルバムも注目を集めましたが、その収録曲は逆に濃厚でパワフルな曲が集まっています。Hot 100首位を獲得するだけの実力を証明する曲が並んでいます。

 元々このアルバムに入っている曲がそこまでヒットしなかったのは少し残念です。“Juice”は少しヒットしていた時期もありましたが、”Truth Hurts”にシングルが切り替わって存在感を落としてしまいました……

 

24 Sigrid – Sucker Punch

 2017年に”Don’t Kill My Vibe”でブレイクを遂げたノルウェー人シンガーのデビュー作。過去シングルの“Don’t Kill My Vibe”や”Strangers”も収録されています。

 これらのパワーあるシングルに加え、今年加わった強力なシングルが“Don’t Feel Like Crying”。メロディーラインが印象的なポップさが弾ける1曲で、”Strangers”に次ぐUKでのヒットにもなりました。アルバム全体にみずみずしいポップセンスが広がります。

 

23 Hannah Diamond – Reflections

 PC Musicの歌姫、Hannah Diamondによる待望のデビュー作。ただかなり古い曲も含めた既存曲中心の構成だったため、「ついにベールを脱いだ」感は無く、元々ある彼女の魅力を感じる1枚でした。PC Music流のプロダクションと美しいメロディーのコーラスを感じる作品。

 ちなみにベストトラック編で”Concrete Angel”はアルバムで珍しい今年の曲だ!と言っていましたが、YouTubeSoundCloudには2017年にアップされていたようだったので、その部分訂正しておきました💦 (変えたのは記述だけで、ランキングは変えていません)

 

22 Dorian Electra - Flamboyant

 Charli XCXの“Pop2”にも参加したシンガー。代名詞はTheyのことが多いです。バブルガムベースを基調としたポップアルバムです。表題曲の”Flamboyant”が印象的です。出だしのピアノがちょっとゲームBGMっぽくて心をくすぐられました。全体的にドラマチックな構成の曲が多いです。

 

21 Vampire Weekend – Father of Bride

 過去作のほとんどが大絶賛をされているバンドの6年ぶりの作品。否が応でも期待感は高まりまくります。その高すぎる期待感に応えられるか?がこの作品の焦点になっていたと思います。

 批評メディアの点数、また年間リストの順位を見る辺り、その期待感に真っ向から応えられたわけではなかったようですが、悪くはない評価を得ておりリスナーを失望させることは無かったようです。難しい状況を、無難に切り抜けられたとも表現できます。(Pitchforkがそんな感じのこと言っていた

 

 ヒット面でも一定以上の成果を挙げています。USでは3連続でアルバム1位を獲得。Hot 100登場歴が無いアーティストとしては最多タイの数字です。(Slipknotと並んで) ポイントはチケット戦略でのセールスを中心でしたが、Spotifyでは8曲がUSのランキング圏内に登場するなど、ストリーミングでも健闘しています。

 タイトルどおりハーモニーを感じるシングル、“Harmony Hall”は彼らにとって最大級のラジオヒットにもなっています。

 

20 Flume – Hi, This Is Flume (Mixtape)

 ミックステープと称された作品で再出発をしたFlume。メインストリームでも大きく活躍したポップな前作から一転、歪なサウンドを披露しています。

 名タッグになっているKučkaやSophieや、UKのラッパーSlowthaiなどが参加。Slowthaiが参加する“High Beams”はアルバム随一のユニークな楽曲。

 

 

19 FKA twigs - MAGDALENE

 終始強い「情」を感じる1枚。最後の”cellophane”はシンプルなプロダクションながらも強いインパクトを残します。Futureとのコラボは意外でしたが、彼女の作風にもよくマッチしていて、同時にFutureの持ち味も出ていると感じました。

 

 

18 Billie Eilish – WHEN WE ARE FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?

 期待値マックスの状態から、すごくうまく「着地」した印象があります。結果的に批評的評価もセールスも成功を収め、一躍ビッグスターとしての地位を確立しました。

 特にすごかったのはセールス面の方で、USでは年間アルバムチャート1位を獲得!ストリーミングもセールスも素晴らしい数字を残しました。

 彼女の雰囲気を保ちつつ、セールス面で躍進を引っ張った”bad guy”がやはりMVPでしょうか。アルバムは全体的な再生数も優れていて、現在Spotifyでは最後の”goodbye”(と短すぎて測定不能の”!!!!!!””)以外は全ての曲が1億再生に到達しています。

 

 

 “bad guy”以外では”xanny”、または“wish you were gay”のラストの拍手→”when the party’s over”の繋がり方が好きです。

 

 

17 Tove Lo – Sunshine Kitty

 安心と信頼のポップ曲を提供するシンガー。ヒットを飛ばす → 玄人も納得のポップシンガーという流れは少しCarly Rae Jepsenとも似ています。

 最初の2曲、“Glad He’s Gone”→”Bad as the Boys”で一気に心を掴まれます。後半にあるKylie Minogueが客演した“Really Don’t Like U”も見どころの一つです。

 

 

16 Young Thug – So Much Fun

 自身の影響が明確に現れるスタイルを持つ後輩のGunnaやLil Babyなどを客演に迎え、異質と捉えられて来たYoung Thugラップスタイルの定着や進化を感じさせます。

 この作品はストリーミングで高い支持を得て、アルバム1位を獲得。Young Thugにとっては初のこと。形式上は「デビューアルバム」ながらも、「Young Thug帝国の完成」を高らかに宣言するようなアルバムだった気がします。

 

 

15 Harry Styles – Fine Line

 ソロ活動以降、実は目立ったシングルヒットはありませんでした。“Sign of the Times”や”Lights Up”などは最初高い注目度を集めはするものの、すぐに再生数は落ちてしまいます。それはこれらの曲が、シングルよりもアルバム曲として設計されたからで、シングル単体での再生数が伸びづらいのも納得はいきます。

 愚直に続けたアルバム路線が大きく花開いたのがこの作品です。USで47.8万という総合売上でアルバム1位を獲得。これはTaylor Swift、Post Maloneに次ぐ今年3番目の成績。多くはチケットやグッズに基づくセールスの数字ですが、ストリーミングでも1億再生越えと優秀な数字を収めています。

 

 

14 Tyler, the Creator – IGOR

 再生数的な面でも大きく飛躍したTyler, the Creator。Denzel Curryの項で説明したラップの分類では「インディーラップ」に属する彼 / またこの作品は、シングル単位に分解するのは難しく、あまりメインストリーム向きとは言えません。しかし“EARFQUAKE”を中心にかなりの再生数を得て、DJ Khaledとのアルバム争いを制しました。

 この作品は自身がプロデューサーやアレンジを担当。ソロのラッパーでプロデュース&アレンジをしてアルバム1位になるのは初のことだそうです。それだけ他のラップアルバムとは一線を画する特殊なアルバムだったということです。

 

 

13 Hatchie – Keepsake

 とにかく聞き心地が良いドリームポップシンガーHatchieのデビュー作です。曲が個別で力強かった昨年のEPとは違い、アルバムという尺を意識した構成になっています。

 アルバム全体を聞いて雰囲気に浸るのに適している作品のように思います。どちらかというとインディーリスナーの間で話題になっている気がしますが、ポップ系のリスナーにもハマる作品かなーとも思います。

 

 

12 100 gecs – 1000 gecs

 アメリカ発・バブルガムベース界に新風を吹き込んだデュオ。その奇抜で実験的なサウンドでリスナーを虜にして、批評家からも高く評価されました。特に始まりの2曲はパンチが効いていて、はじめて聞くと驚くと思います。1番目の”745 Sticky”は衝動性が抜群、そして2番目の“Money Machine”は批評家の間で最も評価が高いです。

 ”xXXi_wud_nvrstøp_ÜXXx"ではSoulja Boy Tell’emの”Kiss Me Thru the Phone”を引用するという意外な一面も。

 今後は他のアーティストのプロダクション担当の仕事にも期待したいです。

 

 

11 Slayyyter – Slayyyter

 バブルガムなポップをスタイルとするシンガー / ラッパー初の作品。デビューアルバムではなく、ミックステープという形式でのリリース。

 現行のメインストリームではなかなか見られない、ギラついたプロダクションが全体的に広がっています。一番ギラギラしていて激しい曲は”Alone”。先行曲だった“BFF”や”Daddy AF”も際立つ存在です。

 

 

10 Clairo – Immunity

 少しピントがボケたようなボーカル(ローファイ)とRosatmが監修するプロダクションが魅惑の1枚。

 お気に入りは”Sofia”。アルバムの中で一番アンセム感を覚えた曲で、サビのローファイ音かきならしがたまらないです。個人的には2015年のCourtney Barnettの”Pedestrian At Best”や2018年のKero Kero Bonitoの”Only Acting”系統に入る、お気に入りタイプの曲です。

 もう一つ面白いと思ったのは”Closer To You”。ラップなどで見られるジリジリとしたプロダクションをポップにも導入した1曲で、このサウンド&ローファイボイスの融合は新しい発見でした。アルバムの中で何かメインストリームでヒットする曲があるとすれば、これな気がします。メインストリームのアーティストもぜひやってほしい「融合」です。

 

 

9 Juju – Bling Bling

 イギリスと音楽市場規模3位の座を争っているドイツからの1枚。Spotifyの再生数を見る限り、ドイツのラップの規模はイギリスのラップを凌駕しています。

 Jujuの”Vermissen”はSpotifyで100万再生 / 日越えを達成。ドイツのシングルチャートで年間4位に入る大ヒットになっています。

 彼女はかなり高いスキルを持ち、早口なラップをこなすことが可能です。そのとても高いスキルをまず1番目の曲、”Intro”で証明します。しかしそれだけではなく、アルバム全体で緩急をつけ、アルバムでアルバム全体の流れも良好です。(個人的に、早口ラップがあまりにも連続するアルバムは息苦しく感じる)

 「急」側の代表が”Intro”ならば、「緩」側で印象的だったのは”Hi Babe”です。”Intro”で見せる力強いラップに対して、キュートさも感じる1曲です。ほか大ヒットの”Vermissen”、ポップな魅力あふれる”Sommer in Berlin”など粒ぞろいです。

 

 

8 Solange – When I Get Home

 ゆったりとしてアンビエントな雰囲気を持つアルバム。複数登場するInterludeなどが、曲と曲の間をなめらかに繋げて全体の聞き心地を高めている印象です。いかにムードに入るか、がよく練られているアルバムだと感じました。

 メインストリームはほとんど意識していないであろう作品ですが、彼女への期待感からなのか、リリース時には各ストリーミングでも一定の人気を獲得しました。

 

 あと評価がもっと高かった2016年の前作は当時のベスト記事に全く登場させていない(シングルすら)ので、Kenny BeatsやシングルのROSALÍAと同様に「あの時はすいません」の一つですね💦

 

 

7 おとぼけビ~バ~ - いてこまヒッツ

 京都のガールズバンド。昨年はコーチェラ出演。そして今年アルバムリリース。有名音楽批評YouTuber・The Needle Dropの紹介を挟んで海外リスナーにも注目を集め始め、一部で高い評価を得ています。

 関西弁を巧みに操る強烈な歌詞を、ハードなサウンドにのせる1枚で、日頃の怒りを表現しています。(週6労働はキツいなど)

 サウンドこそハードですが、歌詞のリズムの良さなどから、かなり聞きやすいと思います。1回聞き始めると、どんどん進んで気づいたら最後まで行きます。聞けば聞くほど魅了されました。

 実は数年前にライブをチラッと見たことをあるのが密かな自慢です。

 

 

6 Liz – Planet Y2K

 待望のデビュー作で幅の広さを見せつけました!元から得意にしていたバブルガム、そして以前から自称していた「セーラームーンR&B」、また1990年代風のポップなど、多様なラインナップが並んでいます。

 全体的に好ポップスが並んでいますが、まず目を引いたのは”Intuition”でしょうか。5曲目の”Intuition”は元々Kylie Minogueのデモだったものが不思議とLizの元へ渡った曲。ソングライトにLizの名前が無いので、デモをそのままカバーして出したものと思われます。どのような経緯で渡ったのかは不思議ですが。

 実質カバー曲とも捉えられますが、この曲を世に送り出したのは立派なLizの功績だと考えています

 アルバムで次に配置される”Mickey”は本人が志していた「セーラームーンR&B」の完成形だと思っています。ポップ性あふれるプロダクションとリズミカルな歌唱が融合しています。最後に「あなたは超バカ さよなら」と言うのもポイントです。

 

 

5 Lana Del Rey – Norman f*****g rockwell

 批評家から高く評価された1枚。デビュー時から注目は集めていたものの、批評メディアの評価は五分五分だった印象。それが今作はそれまでを上回る「大絶賛」な評価を得た印象です。

 複数客演を迎えるなど、ポップアルバムのようなアプローチだった前作と比べると、元の作風に戻った印象で、あらためて彼女が築き上げた魅力が再確認されたような印象です。曲単位で際立っていたのは”the greatest”です。絶頂します。

 

 

4 Ariana Grande – thank u, next 

 ポップスはシングル戦略中心。それはポップスのラジオの規模が大きく、ラジオでのオンエアさえ始まればヒットにつながることが多いからです。ポップスのシンガーはラジオで有効に再生されるように丁寧にシングルカット。そのカットの多さから、ポップシンガーはアルバムのリリース間隔がだいぶ空くケースもあります。

 しかし近年はラジオの影響力が低下。ストリーミングとラジオの人気曲が分離しだしたのです。ポップスはこのままシングルカットを基調とした戦略で良いのか?

 

 そこで画期的な試みを行ったのはAriana Grandeです。2018年後半~2019年初頭にかけて矢継ぎ早にシングルをリリース。ラジオでのシングルカットを粘るのではなく、新曲や新アルバムのリリースを優先。そしてストリーミングでかつて見ないクラスの人気を獲得し、Hot 100では1~3位独占+全曲が50位以上にランクインと特大の成功を収めました。

 この試み自体ももちろん素晴らしいですし、それを実現させるだけのアルバムの内容も素晴らしかったです。(シングル以外も聞いてもられるだけの内容、つまりアルバム曲の内容も良かったです)

 

 個人的に面白いと思ったのは、シングルを全て最後に配置しているところです。 ストリーミングは終盤の曲の再生数が少なめになる傾向があり、それを解消するための配置なのでしょうが、そもそも聞き始めてもらえなければ意味はないです。そのために一般的に序盤にキャッチーな曲を配置する場合が多いですが、このアルバムは「静」から始まります。

 それでも聴いてもらえる自信があったからこその配置なのでしょうが、このセオリーに反する「実験的配置」は評価に値します。そしてアルバムの流れで実際によく機能していると思います。

 

 

3 Bad Bunny – X 100PRE

 昨年の12月末にリリースされたアルバムです。J Balvin & Bad Bunnyのコラボアルバムをベストアルバムに入れようかな~となった時、それならこちらのBad Bunnyのデビュー作も取り上げたいと思い、リストに入れました。時期が特殊ということもあり、もう少し控えめな順位にもしようかな、とも思ったのですが聞く度にこのアルバムの重要性を理解したので、かなり高い順位に配置しました。

 

 このアルバムはUSでもヒット。ストリーミングでの人気が長く続き、週間のアルバムチャートでのピークは11位ながらも、年間チャートでは43位にランクインすることに成功します。

 Drakeとの”MIA“ありきの成績では?と考えられるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。Spotifyでは”MIA”以外にも6曲が1億再生越え。アルバム全体のアベレージも約1.43億と高いです。

 アルバムではそれを納得させるだけの充実のトラックが並んでいます。後半の変則的な展開で人気の“Caro”、後半の「広がり方」に魅力のある”Otra Noche en Miami”、静→動へのダイナミックな展開が光る”Solo De Mi”などアルバムのどこを取っても魅力的です。(紹介したい曲は正直もっとある)

 ちなみに”MIA”はアルバムの最後に配置され、流れから考えると「ボートラ感」があります。つまりDrakeはあくまでアルバムの宣伝的な存在で、アルバムは主に自分で勝負したい、そのような意思が伺える配置です。

 アルバム全体を見渡してもラテンのアルバムとしてはかなり客演が少なく、つまり人の名前ではなく楽曲の魅力で人気を得る自信があったということでしょう。それを裏付けるだけのカリスマ性が彼にはある気がします。(ちなみに彼はキャラ立ちも面白いので、気になる方は英語版ウィキペディアのImageの項目を読んでみてください)

 

 このアルバムの個々の楽曲のクオリティの高さ、そして本人が持つカリスマ性から2020年代、Bad Bunnyは「ラテンの王」ではなく「メインストリーム全体の王」になるのでは!そんな希望を抱くアルバムでした。

 

 

2 Kim Petras - Clarity

 

 このアルバムを語る上で欠かせないのは、いわゆるEra 1、つまり”Heart to Break”や”Hillside Boys”などを擁するジャケがネオンのシングル群のことです。このシングル群はかなり高い評価を受け、彼女が注目されるきっかけとなりました。しかし、今年これらのシングルが「終わった」と宣言されたのです。これらをアルバムにすることなく……

 それからあまり時間を置かずに”Broken”をリリース。シングルジャケはネオンじゃないし、作風もやや「軽やか」になり変化していることが伺えました。これに対して反応は様々でした。ネオンのシングルは単体でファンを作り出すほどの魅力的なシングルも多く、これをアルバムにしなかったせいなのか、この変化に抵抗を示す人もいました。実際に私は「かなり手のひらを返していた(悪い方へ)」も見ました。

 私もと正直少し困惑はしていました。良い曲だけど、ネオンへの思い入れもなかなか捨てがたくて……。

 

 収録曲12のうち9曲を先行でカットするという形式でリリースされたこのアルバムは以前よりもヒップホップに寄った作風でした。これはDrakeやPost Maloneこそ現代のポップスだとする彼女の考えが反映されたものでしょうか。

 最初聴いたときの感想は「まあ、良い感じかな」でした。好きな曲もあって、良い感じなんだけど、年間のベストアルバムだったら去年のミックステープ(6位)よりは順位が下かな、くらいの感想でした。

 しかしこれが2周目以降だんだん馴染んできました。次第にアルバムの済から済まで魅了されるようになりました。アルバムで初めて聞いて驚きたい!という思いから実は先行で出されても聞いていない曲もあったので、2~3周目以降に化けたのかもしれません。(むしろ先に単体で聞いていたら、あんまり2周目以降で期待感を持って聞けなかったかも)

  曲単位で特に魅力的だったのは”Got My Number”、”All I Do Is Cry”、”Do Me”の3つ。あと最後に配置される”Shinin’”のアルバムの〆方もかなり好きです。

 

 最初はEra 1からの転換も含めて微妙に感じた時期もあったけど、結局はアルバムの音楽的な質によって納得してやっぱり好きになってしまう……アルバムやアーティストでこんな感情の変化ははじめてです。感動しました。

 

 

1 Charli XCX - Charli

 

 「実験的ポップアルバム」とも評価されるこの作品は、鋭いプロダクションが全体的に広がっています。多くのゲストを迎えつつ、刺激的なサウンドが広がるアルバムはまさしくポップスの未来と言える内容になっています。

 そういう新奇性も取り入れながら、ファンの間であまり評判が良くない(気がする)シングル系の曲(”Blame It On Me”など)も私は悪くはないと考えています。

 ベストトラックで取り上げた3曲(”Click”、”Gone”、”White Mercedes”)以外のお気に入りは”Cross You Out”と”February 2017”です。

 ”Cross You Out”ではメタリックなサウンドSky Ferreiraが客演。その曲の雰囲気も好きなのですが、近年リリースが少ない(今年もう1曲リリースしたけど)Sky Ferreiraが登場したのも感慨深いです。

 “February 2017”はきらびやかなサウンドで、アルバムの終盤を象るきれいな曲です。客演のClairoとYaejiを面白い(というか贅沢な)使い方をしています。

 そしてこの次に配置されたラストの”2099”も興味深い曲でした。きれいな前曲とは違い、かなり不気味な雰囲気を出しています。すんなりとは終わらせないぞ、という挑発的な終わり方は個人的に新鮮な体験でした。

 

 これを聴いた時に味わったのは、「好きなアーティストが良いアルバムを出した時の安堵感の大きさ」です。純粋に「良い」だけではなく、刺激もかなりあった所がポイントです。

 実を言うと、正直”Pop 2”とこっちのどっちが好きか?と聞かれたら”Pop 2”に軍配が上がると思います。正直”Pop 2"は「生涯ベストクラス」なので……!

 しかし、好きなものが常に良いというのは案外難しいと思ってもいます。その中でクオリティを保ちつつ、新しい側面を見せてくれたこのアルバムはその難しいミッションを成し遂げていて、今年の1位に相応しいと最終的に考えました。

(1位のセレクトはかなり迷っていて、Charli XCXとKim Petras最後までどっちにしようか考えていました)

 

 

 

最後にベストEPも4つを記しておきます!

 

・Aly & AJ – Sanctuary

Uffie – Tokyo Love Hotel

・Poppy – Choke

・Lil Nas X - 7

 

Aly & AJは昨年のシングルから引き続きエレポップの作風を継続。「インディーみ」が増している印象です。

 

Uffieはその味のあるメロディーラインが好き。

 

Poppyは前のアルバムのような激しい曲 ↔ ソフトな曲の切り替わりが良かったです。フルアルバムを来年の1月にリリース予定。

 

Lil Nas Xは“Old Town Road”以外にもヒットを飛ばせることを”Panini”で証明。シングル2つ以外にも見どころが多かったです。

 

 

 

順位表

1 Charli XCX Charli
2 Kim Petras Clarity
3 Bad Bunny X 100PRE
4 Ariana Grande thank u, next
5 Lana Del Rey Norman F*****g Rockwell
6 Liz Planet Y2K
7 おとぼけビ~バ~ いてこまヒッツ
8 Solange When I Get Home
9 Juju Bling Bling
10 Clairo Immunity
11 Slayyyter Slayyyter
12 100 gecs 100 gecs
13 Hatchie Keepsake
14 Tyler, the Creator IGOR
15 Harry Styles Fine Line
16 Young Thug So Much Fun
17 Tove Lo Sunshine Kitty
18 Billie Eilish WHEN WE ARE FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO
19 FKA Twigs MAGDALENE
20 Flume Hi, This Is Flume
21 Vampire Weekend Father of Bride
22 Dorian Electra Flamboyant
23 Hannah Diamond Reflections
24 Sigrid Sucker Punch
25 Lizzo Cuz I Love You
26 Rich Brian The Sailor
27 Carly Rae Jepsen Dedicated
28 King Princess Cheap Queen
29 Caroline Polachek Pang
30 Machete MACHETE MIXTAPE 4
31 J Balvin & Bad Bunny OASIS
32 JPEGMAFIA All My Heroes Are Cornballs
33 Rico Nasty & Kenny Beats Anger Management
34 DaBaby Baby on Baby
35 Denzel Curry ZUU
36 Dave Psychodrama
37 Kanye West Jesus Is King
38 Kehlani While We Wait
39 Little Simz GREY AREA
40 Megan Thee Stallion Fever

 

 

昨年版