こんばんは。年間チャートまとめ記事をゆっくりと書き進めています。今年の記事は3回の記事の最後の更新になっています。③マニア編です。
Year-End各種データは、以下のリンクから確認できます。今年の集計期間は2022年11/19付~2023年10/21付チャートまでです。(2022年11/4~2023年10/12の動向が対象)
https://www.billboard.com/charts/year-end/
これまでの年間チャートまとめ記事シリーズはこちら
1 ストリーミングの特徴
Hot 100関連の動向調べていると、閲覧しやすいデータでは目立った数字を残していないのに、ストリーミングの数値が高い曲が見つかります。Amazon Music等の、一般人はデータが入手できない(しづらい?)媒体で好成績を記録しているのでしょう。(日本からだと閲覧できない、みたいなデータもあるかもしれません)
ストリーミングサービスはいくつか種類がありますが、USほどサービスごとに人気曲にくっきりと違いが現れる地域は珍しいです
一方Global 200では、Spotifyのランキングと近くなりやすいです。Spotifyの規模が大きいことに加え、多くの地域でサービスごとの差が出ないことも理由かもしれません。
この章ではUSのStreaming Songs、Global 200をSpotifyの年間ランキングと比べます。Hot 100でないのは、条件を近くするためです。
※Spotifyの年間チャートは集計期間が明示されていませんが、もしかしたらビルボードと期間が同じかもしれません。USで該当週では全てランキング入りしている”Rock And A Hard Place”(39位)と”Dark Red”(40位)の再生数を52週合計すると、10月11月いずれの週をスタートにしても、”Dark Red”の方が上回ってしまうのですが、ビルボードと同じ期間(49週)にすると、“Rock And”の方が上に行きます。(”Dark Red”は冬に強いらしい)
・Spotify Globalで年間トップ50に入りながら、Global 200で76位以下だった曲
27 d4vd - Here With Me →100
31 Myke Towers - LALA →76
35 Doja Cat - Paint The Town Red →82
45 Peso Pluma & Natanael Cano - PRC →93
46 Tyler, The Creator feat. Kali Uchis - See You Again →133
49 Gabito Ballesteros, Peso Pluma & Natanael Cano - AMG →103
50 d4vd - Romantic Homicide →163
7曲です。トップ50のうち43曲はGlobal 200で76位圏内ということです。上記の曲は3つのパターンに分けられます。1つ目はラテンで3曲。うち2曲はRegional Mexicanで、順位も低めです。
2つ目はd4vdの曲。ヒット度の割にUSラジオで無視されるなど、知る人ぞ知るヒットみたいな感じなのかもしれません。それが、口コミが反映されやすいSpotifyだとちゃんと広まったのでしょうか?
残るは”Paint The Town Red”、”See You Again”の2つ。Spotify公式はこの2曲ともBlendsが生み出したヒットと説明しています。Blendsとは自分と他人の目線を両立させたおすすめリストのことなので、「アルゴリズム化された口コミヒット」みたいな感じかもしれません。
また、Spotifyで11位だったものの、Global 200では51位と、順位に開きがあった“I Wanna Be Yours”もパターン的にはこれかもしれません(今年のBlendsリストに入っていませんが、昨年からヒットしている曲なので、今年のレポートには入らなかったのかも?)
Spotify Globalで年間トップ50に入りながら、Streaming Songsで圏外だった曲
※(Streaming Songs年間チャートは75位まで)
11 Tyler, The Creator feat. Kali Uchis - See You Again
14 J. Cole - No Role Modelz
21 d4vd - Romantic Homicide
27 Drake feat. 21 Savage - Jimmy Cooks
30 The Neighbourhood - Sweater Weather
34 Frank Ocean - Pink + White
35 Hotel Ugly - Shut Up My Moms Calling
36 Kendrick Lamar feat. Jay Rock - Money Trees
37 Tory Lanez - The Color Violet
40 Steve Lacy - Dark Red
45 d4vd - Here With Me
46 Metro Boomin, Travis Scott & Young Thug - Trance
47 NLE Choppa - Slut Me Out
48 Noah Kahan - Stick Season (14曲)
こちらは14曲。Spotify ↔ Global 200よりも違いが多いです。Global 200はDLを含むのに対し、Streaming Songsはストリーミングのみです。一方で枠が50しか無い等、単純なストリーミングの合計ときっちり一致しないため、純粋な比較でない点を留意してください。(前者が有利な条件、後者が不利な条件。Global 200よりトータルで条件がSpotifyにより近いかは不明)
とはいえ、この条件を踏まえても曲数がここまで違うと、Spotifyとの一致度がUSでは低いことが伺えます。週間のHot 100に届いていない曲もあります(リカレントルールの影響かもしれませんが)
さらにHot 100年間チャートに入りながらもSpotifyの順位が低い曲を抜き出していきます。(Spotifyが一番細かくデータを閲覧できます)
凡例:Hot 100年間順位、アーティスト名、曲名、Spotify週間順位、※Apple参考順位 *1
100 Lainey Wilson – Watermelon Moonshine 195 (のちに177) ※180
93 Cory Kent - Wild As Her 186 ※56
91 Jordan Davis - What My World Spins Around 122 ※113?
89 Kane Brown - Bury Me In Georgia 圏外 ※圏外
87 Old Dominion - Memory Lane 145 ※圏外
85 Parker McCollum - Handle On You 187(デイリー) ※圏外
61 Tyler Hubbard - Dancin’ In The Country 136 ※181
59 Luke Combs - Going, Going, Gone 119 ※85
58 Lainey Wilson - Heart Like A Truck 148 ※93?
54 HARDY & Lainy Wilson - wait in the truck 90(1週のみ) ※トップ50
34 Jelly Roll - Need A Favor 100 ※66
パターンその1、カントリー曲です。右に※付きでApple Musicの順位も掲載しましたが、多くの曲で同じく順位は低めです。
「カントリーはストリーミングでの弱さを克服し、むしろ強みにしつつある」との記述を今年の年間チャート記事で多く書いてきましたが、SpotifyやAppleではまだ弱いケースもあるようです。Luke Combsの曲が上記に含まれているのが少し意外かも?
98 Put It on da Floor Again 179(デイリーのみ) ※7
76 What It Is 168 ※圏外
時折、ラップでもSpotifyで弱いパターンが見られます。特にラップリスナーとポップリスナーの熱量の差がありそうな曲です。このLattoとCardi Bの”Put It On Da Floor Again”はMainstream R&B/Hip-Hop系(アーバン)では1位、リズミック系で2位を獲得したものの、ポップ系では圏外。そしてSpotifyだと1日179位に入っただけに対して、Apple Musicだとトップ10です。
LattoはSpotifyで弱い傾向にあり、実は自身メインの曲でSpotify Global(200位まで)にランキングしたことがありません。唯一のエントリーはJung Kookの客演を務めた“Seven”です。
“What It Is”はAppleでも振るわず。代わりにラジオ人気が高いのでHot 100年間チャート入りしたのですが、かといってストリーミングも極端に低いわけではないようです。*2
この曲、最初はR&B系ラジオで人気でしたが、ポップ系でも人気を得たことでラジオが拡大。また、このジャンルとしては珍しくUS外(主に東南アジア)で人気を得始めるなど、不思議なヒットでした。
2 風変わりなチャートアクション
これまで風変わりなチャートアクションの代表格として「トップ40に入らないのに年間チャート入りする曲」を年間チャート記事でよく取り上げてきましたが、この手の曲の数はやや減少中です。今年も“Bloody Mary”のみです。瞬間的に上位に入るものの急落下するタイプの曲が減り、安定感のあるヒットの順位が週間チャートでも高くなったからでしょうか?
代わりに風変わりなアクションとして最近急浮上しているのが、それこそ”Bloody Mary”のような過去曲の数々です。ストリーミングで過去曲の人気が伸びているだけでなく、ラジオでもシングル認定されることが珍しくなくなってきて、本格的にメインストリームの一角を占めてきた印象です。この章では、年間チャートに入った4つの過去曲についてレポートしていきます。
・99 Lady Gaga – Bloody Mary (2011)
昨年12月あたりに広い地域のストリーミングで浮上を見せ、ラジオでのシングルカットが決定。実はストリーミングでのピークが短く、滞在の後半はラジオでのポイント比率が高かったりします。
ラジオでシングルカットされるかは過去曲が年間チャート入りする上で重要な項目で、ストリーミングのみだと短い滞在になるか、チャートの下半分から出てこられないことが多いです。
ストリーミングのみでは、かなり高いポイントが要求されるため、年間チャートに入るための「もう一押し」のために基本的にラジオが必要な印象です。
・24 Miguel – Sure Thing (2010)
昨年末にストリーミングで急浮上を見せ、2月にラジオでのシングルカットが決定。ここで紹介する他の曲とは違い、この曲は既に1回ヒットしている点が違います。(2011年Hot 100年間チャートで92位)
ヒット済の曲だと、ラジオでのシングルカットは消極的になる印象です。ラジオの役目は新たなヒットを生み出すこと、と考えているからでしょうか。しかしヒット済のこの曲がラジオでもオンエアされたのは、系統にカラクリがあると思っています。
2011年当時にこの曲がオンエアされていたのは主にR&B/Hip-Hop系ラジオ*3。この系統での人気は高く、この年のラジオ1位に輝いています。一方で、ポップ系ラジオでは週間チャートでもランク外でした。
そして今年、ストリーミングでの再浮上を受けてシングルカットが決まるのですが、ここでのポイントは「ポップ系でのシングルカット」という点です。2011年当時、ポップ系ではオンエアされていなかったため、この系統では「新曲扱い」が可能となり、シングル化にこぎつけたのです。ラジオでの動きだけを見ると、「12年越しのポップ系へのクロスオーバー」とも取れます。
ちなみにリズミック系では両方の年で年間チャートに入っていますが、順位はともに控えめです。
・18 Taylor Swift – Cruel Summer (2019)
Taylor’s Versionで過去曲への注目度の高さを示すTaylor Swift。さらに、今年に入ると過去曲人気がさらに高まり、再録ではない曲もストリーミングのランキングで存在感を示すようになっています。
その中でも人気が高かった“Cruel Summer”がHot 100に再登場後、シングルカットもされて本格ヒットに。見事Hot 100で首位も獲得しました。何気にアルバム”Lover”から初の首位です。
彼女は人気の過去曲の層が厚く、ストリーミングのランキングを見ると複数曲がランクインしています。中には“Don’t Blame Me”や”Enchanted”やシングルになったことがない曲もあり、来年以降“Cruel Summer”のような存在になる可能性も?
また彼女は他にも“Blank Space”が今年Hot 100に再登場しましたが、ヒット済み曲なので、追加のプロモーション等はなく、そこまで上昇しませんでした。
・17 Chris Brown – Under The Influence (2019)
昨年の秋頃からストリーミングで人気に。リリース当時はHot 100に入っていませんでしたが、昨年初めてエントリー。シングルカットされ、リズミック系とMainstream R&B/Hip-Hop(アーバン)系では1位獲得。さらにポップ系でも上位を伺うなど確かな人気を得ました。Hot 100の週間のトップ10には入らなかったものの、滞在期間は41週と長かったです。Chris Brownは近年、ロングヒットが増えてきています。
この手のR&B曲としては、US外でも人気を得ている点が珍しいと思います。
3 “Last Night”はヒットしていた?
今年のHot 100年間首位は“Last Night”でした。またアルバムチャートの首位も同じくMorgan Wallenでした。では、この曲はヒットしていたと「思います」か?
これはビルボードが計上した数字を疑っているわけではありません。様々なストリーミングサービスで立派な数字を出し、首位に相応しい成績を出しているのは疑う予知がないでしょう。
ここで私が考えたいのは、「個人的な感覚として」この曲は1位だったか?という点です。
私がこれを気にし始めたのは、チャート系アカウントのリプライ欄がきっかけです。「こんな曲知らない」「ファンを見たこともない」のような意見が散見され、スタン系アカウントの戯言とは思い切れず、妙に納得してしまったのです。
たしかに、言われてみればヒット度に対してほとんど話題になっている気がしなかったからです。良いにせよ、悪いにせよ、Hot 100の首位曲ならばもっと話題になるはずではと思ったのです。
また、この曲はラジオヒットと思われたのか、Hot 100の予想界隈でいま正確性が最も高いLip Prediction氏が、ストリーミングのポイントのみでもこの曲は首位を獲得できることを氏は指摘したこともあります。(あまり認識されていないから、自分の知らない所で流行っている=ラジオヒットと勘違いされたと推測))
さらに、チャート識者(年間記事でよく登場する)Brian Cantor氏は、「Morgan Wallenなんか聞いたことない」という意見をよく目にすることを報告しています。しかし同時に、外では様々な場所でかかっていることも指摘しています。
氏は、Spotifyのレポートでも彼がほとんど無視されていることも指摘しています。(そしてそれに異議を唱えています)
はたまた、AOTYやRYMなどの音楽コミュニティサイトでは、シングルとアルバムの両方でUSチャートを席巻した作品と考えると、評価の「数」が低い水準に留まっています。*4
流行っていないとの感覚を持つ者が一方で、しかし実際にデータ等ではこの曲・アーティストは流行している……以上のエピソードの数々をまとめると、このような感じだと思います。
この感覚を自分なりに読み解いていきます。データが不十分で、どうしても推測が多くなるので、全ての語尾に「かもしれません」を付けておいてください。
このような変化は、ストリーミングのユーザー層の変遷を反映しているのではないか、と考えています。
単純に考えて、ストリーミングサービスの初期ユーザーはマニアックな層でしょう。この層の好みが反映され、初期のストリーミングランキングは従来のチャートに無い特徴が現れはじめました。その代表例がアルバム内の非シングルHot 100大量エントリーです。この層にとっては、アルバムをまるごと聞くことが普通で、下手な一般シングルよりも熱のある有力アーティストのアルバム曲の方が注目される、ということです。
ただ、世の中に存在するのは音楽マニアだけではありません。ストリーミングの規模拡大と共に、徐々にライト層のユーザーも増え、従来のランキングへの揺り戻しも、最近また起こっているのではないかと考えます。
この2つの層の違いを挙げるなら、曲をディグるか否かだと思います。マニアは、良い音楽を追い求め、次第に自分の好みが個別化していくと考えられます。ストリーミング内のレコメンドが、履歴蓄積と共に個人の好みを把握していったことも見逃せません。その結果、マニア内で何を聞くかがバラバラになっているのかもしれません。ラップ曲に最近ヒットが少ない、というのはそれぞれの好みが細分化した結果である可能性があります。
以前の記事で指摘した、Spotifyでランキング上位の再生数が伸び悩む一方で、下の方の順位の再生数がグングン伸びている現象は、このことと大きく関係しているでしょう。
一方で、新たに入ってきたライト層はどのように聞いているのでしょうか。マニアはディグるのが楽しいかもしれませんが、面倒に感じる人も多いと思うので、「確実」なものを狙っていくと思います。好みのジャンルやアーティストをプレイリストで聞けば安定感があるのではないでしょうか。(アルバムでも良いけど、より慣れ親しんだ曲が多いプレイリストにも分があるかも?)
ストリーミングの規模が後から伸びてきたラテンやカントリーは、この傾向があるかもしれません。他ジャンルのような、リリース直後のロケットスタートは少なくとも、現行のシングルがチャートをじっくりと上がっていくような動向がよく見られるのです。これは、リリース直後に食いつくほどの興味が無いが、次第に「導線」に乗ってジャンル聞きする人が増えていくからでは?との推測です。また、仮にロケットスタートを切っても、後の持続力が高い印象です。
(似たような話を昨年の記事でもしているので、良かったらそれも参照してください。クリスマス曲の話もしています)
まとめると、音楽を「話題」にする層からしたら、少し遠い層もストリーミングのある意味「票田」を得るようになった結果、チャートが音楽の「話題」をするような層の感覚からは少しズレはじめた、と考えました。
別角度から分析すると、カントリー曲はGlobal Excl. USでの順位が低い。このチャートが出来て以降、Hot 100首位曲では低い曲でもExclで22位(”Bad Habit”)だったのですが、“Last Night”は82位。長くUS1位を取っていたことを考えると淋しい数字です。
ほかJason Aldeanの”Try That In A Small Town”は圏外、Oliver Anthony Musicの”Rich Man North Of Richmond”は111位でした。またHot 100では2位でしたが、大ヒットのLuke Combsの”Fast Car”は165位でした。
ここまで長くHot 100首位なら、広い地域で共有されるような影響度を持つはずですが、カントリーはそうはならず。このヒット伝搬の変化は、従来とは違うタイプのヒットであることを示唆しているかもしれません。
ほか「話題」の形成ならばUS外の人物も参加できるため、US外でのヒット度の低さも話題度と関係しているかもしれません。
そもそも本当に話題になっていないのか不明ですし、検証も難しそうです。別にチャートはマニアだけのものではないので、話題度を測るツールでもありません。ただ、仮に「話題になっていない」曲がチャートで評価されていると、人びとの納得を得られなくなってしまう可能性があり、その場合は改善の余地が出てきます。
正直何が正しいとかは無いと思います。私の推測も的外れかもしれません。でも、より多くの人が納得できるようなチャートを「探求」することをビルボードには続けて欲しい、とは強く願います。
その意味で期待できるのはTikTokかもしれません。尺が短い、調査が難しいなどの集計の問題点はあったかと思いますが、ビルボードは今年9月にTikTokチャートを新設し、さらにはサイトの目立つところにリンクを貼っています。
TikTokは規模も大きく、瞬間的な熱量もよく反映される媒体なので、「話題度」を反映させるにはもってこいのツールだと思います。TikTokが反映される日が果たして来るのか、これが最近一番気になっているテーマかもしれません。
参照を出来る部分はデータを持ち出して考えてみましたが、推測に頼る部分が大きいです。また、この問い自体もどこまで多くの人が持っている感覚なのかも不明です。
このようなダイナミックな聞き方の変化に興味を持ってきましたが、個人で取れるデータ量には限りがあり、分析に限界を感じているのが正直な感想です。ビルボードにはデータ保持者の立場から、このようなディープな面の解説記事を期待していたのですが、長年追ってきて、そのような解説をあまり見たことがありません。
ただ、ビルボードは集計上の細かい調整は勤勉に続けている印象で、その面には期待したいと思っています。