チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard Year-End 2022(年間チャート)を10のポイントで見る



 こんばんは。12月初め、ビルボードから各種年間チャートが発表されました。Hot 100の年間チャートを中心に、これらを振り返っていきます。各年間チャートは以下のリンクから閲覧できます。

https://www.billboard.com/charts/year-end/ (年間チャート窓ページ)

https://www.billboard.com/charts/year-end/hot-100-songs/  (Hot 100)

https://www.billboard.com/charts/year-end/top-billboard-200-albums/ (アルバム)

https://www.billboard.com/charts/year-end/billboard-global-200/ (Global 200)

※窓ページから下に行き、Categoryを選ぶと、ジャンル別のチャートが閲覧できます

 

 表やデータを挟みつつ、文章がそこまで長くない(多分)ので、肩の力を抜いて気軽に読んでください。一方で8章、9章、10章はマニアックな内容で、少しヘビーかもしれません。

 

 また、この記事を補足するデータ表をいくつか作成したのですが、かなり幅を取るので、別の記事に分けて掲載します。(最初に上げた時から少し追加しました)

 

 ほか、今年の動向を振り返るにはこちらの記事:2022 週間USチャート トピック振り返り - チャート・マニア・ラボ もあります。

 

 2022の年間チャートの集計期間は、2021年の11/20~2022年の11/12付のチャートまでです。(=2021年の11/5~2022年の11/3までの動向が集計の対象)

 

 

 

 

1 今年の顔!年間チャートのトップ10を見る

 Year-Endチャートで最も際立つ、今年の顔とも言えるHot 100の年間チャートのトップ10をまずは見ていきます。

 

1 Glass Animals – Heat Waves

2 Harry Styles – As It Was

3 The Kid LAROI & Justin Bieber – Stay

4 Adele – Easy On Me

5 Ed Sheeran – Shivers

6 Jack Harlow – First Class

7 Latto – Big Energy

8 Justin Bieber – Ghost

9 Kodak Black – Super Gremlin

10 Elton John & Dua Lipa – Cold Heart (PNAU Remix)

 

 このリストを見て、まず思いつくのはロングヒットが非常に際立つ点です。まず年間1位の“Heat Waves”は最長Hot 100滞在記録を持っています。そして、Hot 100でのトップ2最長記録、トップ3最長記録の1位と2位は、年間2位の“Stay”と年間3位の”As It Was”によって独占されています。その他のトップ5、トップ10等でもこれらの曲はランキングに顔を出しています。

Hot 100滞在最長記録:Heat Waves(91週/最長)

トップ2滞在最長記録:As It Was(25週/最長)、Stay(21週/次点)

トップ3滞在最長記録:As It Was(29週/最長)、Stay(23/次点)

 

 年間チャートで高い順位に入るには、週間チャートでの爆発的な成績よりは、安定して積み上げがモノを言うので、このようなロングヒット関連記録を残している曲が強くなるのです。

 他の曲を見ても、”Shivers”、”Big Energy”、”Ghost”、”Cold Heart”が50週以上Hot 100に滞在しています。

 

 もう一つ思いつくのは、UK勢の充実です。1位2位をUK勢が独占(2015年のMark RonsonとEd Sheeran以来)し、さらにトップ10にはUKアーティストが合計6人(組)も*1入りました。

 またDua Lipaは3年連続でトップ10入りを達成。ちなみに彼女とタッグを組んだElton Johnは、1973年-1976年に4年連続年間トップ10の実績があります。

 

 次に、トップ10を別角度から見ていきます。今年の年間トップ10曲のラジオ、DL、ストリーミングの年間成績を見ていきます。

  R D S
1 Heat Waves 2 18 1
2 As It Was 4 8 2
3 Stay 1 50 9
4 Easy on Me 5 11 11
5 Shivers 7 5 25
6 First Class 11 17 8
7 Big Energy 6 3 55
8 Ghost 3 27 70
9 Super Gremlin 35   3
10 Cold Heart (Pnau remix) 12 1 26

※R=Radio、D=DL、S=Streaming

 

 ラジオの平均が最も高く、ストリーミングやDLの平均は低いです。DLに関しては、近年規模の小ささからチャートへの影響力は限定的なため、参考程度と捉えてOKです。注目すべきはストリーミングの低さです。これがいかに低いか、ストリーミングが本格導入されて以降の年のHot 100年間トップ10の平均の数字と比較していきます。

  R D S
2022 8.6 21.6 21
2021 6.5 17.0 6.9
2020 9.7 16.1 18.6
2019 10.7 10.9 8.3
2018 9.5 6.6 9.4
2017 18.9 10.2 11.4
2016 12.2 7.2 8.1
2015 16.0 7.9 8.2
2014 8.5 7.2 7.4

※2017、2015は年間ラジオチャート圏外の曲があり、76で仮置きして計算している(そのため、正確な数字はもっと低い)
※2022のDLも同様の曲があります

 

 なんと、ストリーミングの平均は今年がワーストです。曲個別で見ても、今年の“Ghost”は、この集計期間内に年間トップ10入りを果たした曲の中では最低のストリーミング順位(70位)を記録しています。”Big Energy”も、この曲と2020年の”The Bones”(61位)に次いで、3番目に低い数字(55位)です。つまり今年は今までで最も、ストリーミングが低くてもラジオが優秀な曲が上位に来る年と言えます。

 

 このラジオの強さは上記のロングヒットの強さと関連しています。ラジオは多くの場合、ストリーミングよりもヒットの周期が遅く、Hot 100滞在後半になるにつれてラジオのポイント比が高くなっていきます。特にアダルトポップ系と相性の良い曲はラジオで長持ちする印象があります。この系統の規模が特別大きいわけではありませんが、ここと相性が良いと、ポップ系等の他系統でも数字が安定するような現象です。

 

 つまり、今年の傾向を述べるのならば、年間チャート上位入りにはロングヒットが強く、そのロングヒットにはラジオの数字が重要なため、結果的に年間チャート上位ではラジオヒットが際立つようになる、といったところでしょうか。(2020年と似ています)

 

(プラス解説)

・グループによる年間1位は、2009年のThe Black Eyed Peasの“Boom Boom Pow”以来。2人組のデュオも含めば、2013年のMacklemore & Ryan Lewisの”Thrift Shop”以来

・UKのグループの年間1位は1983年のThe Policeの”Every Breath You Take”*2以来。これもデュオを含めると、1985年のWham!の“Careless Whisper”以来。

・Justin Bieberは2年連続でトップ10入り(2015-2016以来2度目)

・Justin Bieberは年間トップ10に複数曲を送り込む。2016年以来、自身2度目

・USでのストリーミング数は低めだった”Ghost”や”Cold Heart”ですが、ラジオ抜きでストリーミング主体のGlobal 200では上位につけており、必ずしもストリーミングでの人気が低いわけでもないです。ただ、“Big Energy”はGlobal 200でも119位です。

・”Big Energy”はラップ曲が一般的に苦手とするアダルトポップ系でも人気を得ていた点が特徴的です。このラジオの強さが、ストリーミングの弱さを補いました

 

 

2 N年連続エントリー

 

 Hot 100の年間チャートに複数年にわたり、入り続けているアーティストについてです。

 

14年連続 Drake

10年連続 Ariana Grande

8年連続 Justin Bieber

7年連続 Young Thug

6年連続 Kane Brown, Luke Combs

5年連続 Lil Baby

4年連続 Lil Nas X, Megan Thee Stallion, Gunna

3年連続 Jack Harlow, Dua Lipa, Future, Doja Cat, The Weeknd, Lil Durk, Jason Aldean, Maren Morris

 

 最長はDrake。頻繁なリリース、ヒット度から見て、彼のこの記録が途絶える様子は想像できません。”Rich Flex”のおかげで、来年の「継続」も既に内定でしょう。

 次点はAriana Grande。“Save Your Tears”が唯一のエントリー。昨年の記事で「新曲を出さないと来年は記録が持続しなさそう」と書きましたが、この曲が粘りを見せたおかげで、新曲を出さずにこの記録を持続させました。さすがに来年あたりは新曲が出るでしょうか?

 これに次ぐのはJustin Bieber。近年は大規模ヒットを継続的に出しており、それが反映されています。自身の曲だけでなく、客演でも多くのヒットを飛ばせるのが強みです。

 次に名を連ねるのはYoung Thug。5年連続で名を連ねるLil Babyなど、Young Thug門下のようなラッパー(大まかにマンブル系統)が増加しており、そのリーダーとして客演での継続的な人気があると考えています。

 以下、6年5年4年連続は、ラジオヒットの安定感があるアーティスト、または客演人気も高いYoung Thug門下生が名を連ねる印象。

 

 逆に昨年まで連続で年間チャート入をしていたものの、今年途切れたアーティストについても触れます。

 まずは昨年まで5年連続でエントリーしていたCardi B。今年は“Hot Shit”や”Rumors”など勝負シングルを複数リリースしながらも、記録が途切れてしまったため、とても悔しい結果となりました。

 そして同じく5年連続だったMaroon 5。ラジオヒットに優れる彼らですが、今年は新曲を出していないので、自然と記録も途切れてしまいました。一応、既存曲にLattoを迎えたリミックスを出していたようですが。

 

 

3 エントリーの多いアーティスト

 Hot 100年間チャートに多くの曲を送り込んだアーティストについてです。

 

7 Doja Cat, Bad Bunny

5 Morgan Wallen

3 Justin Bieber, Ed Sheeran, Dua Lipa, Future, Drake, The Weeknd

 

 年間チャートに入るには一定期間のHot 100滞在が必要で、それを達成するには基本的にはラジオでのシングルカットが必要になります。そのため、年間チャートに多くの曲を送り込むには的確なシングルカットや、客演の活用が求められます。しかし今年はこのセオリーを抜きにして、Bad Bunnyが大量エントリーを成し遂げました。

 彼はアルバム曲が複数ストリーミングで継続な人気を得て、低いラジオ成績ながら20週以上のHot 100滞在を達成。最終的に7曲が年間チャート入り。中には、全くといっていいほどラジオのポイントを得ていない曲もあります。従来のラジオ区分をものともしない、ストリーミングでの成績は目を見張るものがありました。

 

 一方で同じく7曲エントリーのDoja Catは、ラジオシングルカットの女王です。その7曲は全てラジオでトップ10入り。客演含め、関わった曲のラジオでの成功率が非常に優秀。また、ストリーミングでの人気も伴っているため、一部の曲はストリーミングとラジオのピークのズレによって、Hot 100滞在期間が長くなることも。

 次点は5曲のMorgan Wallen。シングルカットされずとも、自力でポイントを稼げるストリーミング人気に加え、昨年の謹慎が解けたため、今年はラジオからもポイントを集められるようになりました。彼はストリーミングでの人気シングルが多いため、その分カットされるシングルが「順番待ち」のようになり、ストリーミングに比べてラジオのヒットが遅いこともあります。そのため、Hot 100滞在も長くなります。

 これに次ぐJustin Bieber, Ed Sheeran, Dua Lipa, Future, Drake, The Weekndはシングルカットが上手くいっている面々といった印象。ただFutureは“PUFFIN ON ZOOTIEZ”と、ラジオ抜きで年間入りを達成した曲も擁していています。

 

 

4 ジャンル別エントリー

 どのジャンルが多いかを見ていきます。ジャンル分けは、ビルボードのHot (ジャンル名) Songsに入っているか、で判定しています。複数ジャンルに入っている場合は、ポップ扱いになります。どの曲がどのジャンルかは、補足記事に載っています。

 

 

ポップ 37 (+8)

カントリー 25 (+6)

R&B / Hip-Hop 22 (-17)

ラテン 9 (+5)

Rock / Alternative 6 (-3)

ダンス 1 (+1)

 

 昨年まで最多だったR&B / Hip-Hopはなんと17曲もが減少し、3位の22曲に。ストリーミング導入以降では最少でした。

 単なる不作とも考えられますが、ほかに理由として考えられるのはストリーミングとラジオの噛み合わなさです。年間チャートに入る曲の動きとして想定されているのは、一つのシングルが人気を得て、それが継続的な安定感を得るというものです。ラップ曲は新曲(アルバム曲も含む)への最初の注目度に優れていますが、その後に起こりやすいのは継続ではなく、また違う曲が人気を集めるという動きです。そのためポイントが分散し、リリース時の勢いの割に年間チャート相当までポイントを稼げないのです。

 また、ラジオとの噛み合わせも悪く、タイミングや選曲のズレが見られます。最近リズミック系ラジオの1位曲が何回かその週Hot 100圏外だったことは、このズレを表しているのかもしれません。

 

 カントリーは+6曲で25曲に。2位に浮上。ストリーミングへの順応に苦しみ、エントリー数が1ケタだった時代が遠い昔のように感じます。

 昨年書いた「この隆盛は続きそう、ここにMorgan Wallenが加わる」というのが実現したように思います。Morgan Wallenが4曲(うち1曲はLil Durkの客演でラップ扱い)、そしてBailey Zimmermanが2曲とストリーミングでもポイントを取れるシンガーの台頭した分だけ、昨年よりも数が伸びた印象です。

 ラップと違い、リリース時点で注目を集められるアーティストは限定的ですが、代わりにシングルの持続力に優れています。この動きが年間チャートと相性が良いです。

 

 そして最多はポップス。いわばラップのスタート時の強さ、カントリーの持続性を両立させている点がとても優秀です。ラジオが重要な近年のチャートにおいて、ラジオの規模が最も大きいポップスが強いのは納得かもしれません。ちなみにポップスのうち4曲はクリスマス曲です。

 

 ラテンは(おそらく)過去最多。Bad Bunnyが前述のように、ラジオの枠組みにとらわれない活躍を見せたため、従来の規模を大きく押し上げることに成功しました。彼の7曲以外には、Karol Gの曲が2つエントリー。いずれも、スペイン語ヴァースのみながら、英語系のラジオのランキングにも食い込んだ点が目を引きます。

 

 Rock / Alternativeは6曲。2020年途中にAlternativeを加え、対象を拡張しています。このAlternative風味のある作風自体は、ストリーミングで人気がありますが、Alternative扱いにならない場合や、他ジャンルと被って(ここでのルール上)集計に入らないような場合もあります。

 

 ダンスは“Cold Heart”のみ。EDMブームが終わって以降は、数が少ないです。ただUS外では人気のあるジャンルで、そこで規模の大きいヒットがあればUSにも流入してくるため、今後もチョロチョロとはエントリーが見られると思います。来年も、David GuettaとBebe Rexhaの”I’m Good”が既に内定でしょう。

 

 これ以外にも、今年の途中から新設されたAfrobeats Songsというチャートがあります。今年はまだフルでの集計ではないので、ジャンルを個別に扱いませんでしたが、ここに該当する曲が今年は2曲年間チャートに入りました。(”Essence”と”love nwantiti”)。

 余談ですが、アフロビーツ系アーティストのファン活動は熱心なようで、それに伴いChart Data等のアカウントでも、このジャンルを取り扱う投稿が近年増えている印象です。様々な面で要注目のジャンルです。

 

 

5 アルバムチャート

 Hot 100に続いて、USアルバムチャート(Billboard 200)の年間チャートを見ていきます。まずはトップ10から。

 

1 Bad Bunny – Un Verano Sin Ti

2 Adele – 30

3 Morgan Wallen – Dangerous: The Double Album

4 Taylor Swift – Midnights

5 Taylor Swift – Red (Taylor’s Version)

6 Soundtrack – Encanto

7 Harry Styles – Harry’s House

8 Olivia Rodrigo – Sour

9 Drake – Certified Lover Boy

10 The Weeknd – The Highlights

 

 やはりストリーミングが中心。特に継続性の面ではストリーミングがカギとなります。非シングルが複数Hot 100に長く残るなど、ストリーミングでの継続性がとても高かったBad Bunnyが年間1位に輝きました。

 非英語作品がUSで年間アルバム1位になるのは史上初のこと。近年Bad BunnyやK-PopアーティストがUSで週間アルバム1位の常連になりつつあり、非英語作品がUSアルバム上位に入ることが珍しいのを忘れかけていました。「これが史上初」と聞くとなんだか意外な気がします。

 

 Hot 100と同様に積み上げが重要ですが、一方で初週とそれ以外の週の売上が(シングルと比べると)激しいため、初週の「ブースト」次第では多少リリース時期が遅くても上位に食い込むことも可能です。

 ”Midnights”がわずか集計2週ですが、セールスで桁違いの数字を記録したこともあり、年間4位に食い込んでいます。

 ちなみに上記のトップ10のうち、5作品がセールスでもトップ10にも入っています。昨年はこれが2作品のみだったので、セールスでポイントを稼ぐアルバムが今年は相対的に多かったと言えます。

 

 このトップ10を見て、他に注目したの点が2つ。まずはMorgan Wallen。昨年もアルバム1位だった作品ですが、今年もかなり上位。調査方法が現在のSoundscanになってから(1991~)では最長の週間トップ10滞在期間を更新するなど、持続性が際立ちます。

 初週から人気が高い、曲数が多い、ヒット曲も多いなど、ロングヒットする要素には確かに恵まれているのですが、それを考慮しても、ここまで持続力があるのは少し意外に感じます。複雑なため、詳細な説明は10章に回しますが、カントリーにおける「ジャンル聞き」が関係している可能性も考えられます。

 

 もう一つの注目点はThe Weekndのベストアルバム“The Highlights”。ベストアルバムの年間トップ10入りは2008年のGarth Brooks以来。少し珍しい記録です。

 ストリーミングで過去曲が人気を得る今は、他のアーティストがベストアルバムを出しても同じように人気を得る可能性が高いです。ただし、その分自分のオリジナルアルバムの成績低下につながる(ヒット曲の再生数の管轄がベストアルバムの方に移る)ため、マイナス面もあります。ちなみに、曲が複数アルバムで重複する場合、ストリーミングのカウントは純セールスが高い方のアルバムに行きます。

 The Weekndはこの“The Highlights”にヒット曲分のストリーミングを吸い取られながらも、”Starboy”が年間チャート入りに成功しました。今年ストリーミングで人気を得た”Stargirl Interlude”は”The Highlights”の方には入っていません。

 また、今年の”Dawn FM”は”The Highlights”後にリリースされたため、吸い取られていません。

 

(プラス解説)

・Morgan Wallen、Olivia Rodrigo、Drakeの該当作品は2年連続でトップ10入り

・Taylor Swiftは5年連続でトップ10入り

・Taylor Swiftの年間トップ10にダブルは、2019年のPost Malone以来

・”Encanto”によるサウンドトラックのトップ10入りは、2018年の”Greatest Showman”以来

・年間トップ5の過半数が女性によって占められるのは2019年以来

 

 

(その他のアルバムチャートのデータ)

・年間チャートにエントリー数が多いアーティスト

8 Taylor Swift

7 Drake

4 Bad Bunny, Post Malone, Juice WRLD, Rod Wave, Kanye West, Eminem, YoungBoy Never Broke Again

3 Adele, Harry Styles, The Weeknd, Lil Durk, Lil Baby, Kendrick Lamar, Luke Combs, Billie Eilish, Tyler, The Creator,

 

 ざっくりとですが、もし次のアルバムを出した際、大きくストリーミングを稼げそうなアーティストが過去作でも強い傾向を感じます。過去作にも注目が集まる=アーティストとしてのパワー、「引き」があるということなのでしょうか。

 

・10年以上前(2013年以前)の作品 (ベストアルバムは除く)

25 Kendrick Lamar – good kid, m.A.A.d city
57 NirvanaNevermind
59 Drake – Take Care
67 Kanye West – Graduation
84 AC/DC – Back In Black
90 Kid Cudi – Man On The Moon: The End Of Day
94 Michael Jackson – Thriller
97 Kanye West – The College Dropout
102 MetallicaMetallica
103 The BeatlesAbbey Road

 

 長いのでフルリストは、データ編の記事に移しました。Hot 100とは違いリカレントが無いため、過去作品も大量にエントリーしています。近年ストリーミングでは過去曲への注目度が高まっており、そのトレンドを観察できるので、興味深いです。

 

 

6 Global 200のハイライト

 2020年途中から出来たGlobal 200チャートにも触れていきます。Global 200とHot 100の大きな違いは4つあります。

 

1:USだけではなく、全世界が対象 (チャート名の通り)

2:週間チャートも年間チャートも200位まである (チャート名の通り)

3:ラジオが集計されない (基本的にストリーミングが主役)

4:リカレントルールが無い (過去曲が強い)

 

 以下がトップ10です。

1 Harry Styles – As It Was

2 Glass Animals – Heat Waves

3 The Kid LAROI & Justin Bieber – Stay

4 Elton John & Dua Lipa – Cold Heart (PNAU Remix)

5 Ed Sheeran – Shivers

6 Adele – Easy On Me

7 GAYLE – abcdefu

8 Ed Sheeran – Bad Habits

9 Imagine Dragons & JID – Enemy

10 The Weeknd & Ariana Grande – Save Your Tears

 

 USのヒットと似ています。最上位のヒットは広い地域で共通しているのでしょうか。違いを挙げるとすれば、リカレントが無いことで、“Save Your Tears”の順位が高めな点でしょうか。”Stay”と”Save Your Tears”は2年連続でトップ10に入っています。

 そのThe Kid LAROI、Justin Bieber、The Weeknd、Ariana Grandeに加え、Dua Lipaが2年連続でトップ10入りを果たしています。

 次に、どのアーティストが多くエントリーしているかを見ます。

 

20 Bad Bunny

10 The Weeknd

7 Ed Sheeran, Doja Cat

5 Dua Lipa

4 Justin Bieber, Imagine Dragons, BTS, Olivia Rodrigo, Rauw Alejandro, Post Malone

3 Harry Styles, Lil Nas X, Billie Eilish, Coldplay, Drake, Eminem

 

 ヒットシングルだけでなく、アルバム曲や過去曲等でプラスがあるとエントリー数が増えます。アルバムが全体的に驚異的な人気を集めたBad Bunnyが大量エントリー。うち15曲が今年のアルバムからのエントリー。

 一方、次点のThe Weekndは今年のアルバムからは3曲のみでしたが、過去曲人気が高く、合計で10曲がエントリーしました。

 以下、近年のヒットが多い印象のあるアーティストが並んでいます。シングルの継続力が反映されるチャートであると伺えます。ただしEminemのエントリーは全て2000年代前半の曲です。

 

 次にHot 100年間で入らなかったものの、Global 200では入る曲を見ていきます。

15 Farruko – Pepas
16 The Weeknd – Blinding Lights
21 Billie Eilish – Happier Than Ever
24 Lost Frequencies & Calum Scott – Where Are You Now
25 Coldplay & BTS – My Universe
31 Ed Sheeran – Perfect
33 Tom Odell – Another Love
34 The Neighbourhood – Sweater Weather
35 Bizarrap & Quevedo – Bzrp Music Sessions, Vol. 52
37 Tiësto & Ava Max – The Motto

 

 惜しくも年間入りを逃したような曲も、年間入りが遠そうな曲も両方見られます。USに比べて他国での人気が高いタイプの曲も多いですが、リカレントの有無の違いも大きそうに感じます。

 続いて、Hot 100の週間チャートにすら入った経歴が無いものの、Global 200年間入りを果たした曲を見ていきます。

 

24 Lost Frequencies & Calum Scott – Where Are You Now
33 Tom Odell – Another Love
56 Elley Duhé – MIDDLE OF THE NIGHT
69 Ruth B. – Dandelions
83 Shouse – Love Tonight
123 Cris Mj – Una Noche En Medellin
127 Polima WestCoast feat. Pailita – Ultra Solo
134 Arctic Monkeys – 505
148 AC/DC – Thunderstruck
158 James Hype & Miggy Dela Rosa – Ferrari

 

 昨年と同様、ヨーロッパ圏でヒットする曲(主にダンス)と、ラテン曲がギャップになっています。また、ここでも新しい傾向として、「発掘された過去曲」が見られます。ストリーミングで人気を得たとしても、Hot 100においては下位でのエントリーが不可能なルールや、新曲以外には厳しいラジオの存在などもあり、例え「新たにヒットした過去曲」でも不利になりやすいです。ただ、今年の後半からこれは改善傾向が見られるようになりました。

 

 その他、194位にAimerの『残響散歌』がランクイン。昨年は日本語の曲が3つランクインしていたのですが、今年はこの曲のみでした。

 

 

7 US固有のヒット?

 逆に、Hot 100の年間チャートで入っていたのにGlobal 200年間に入っていなかったUS固有のヒットを探ります。

 

(↓Hot 100順位)

19 Morgan Wallen - Wasted on You
27 Morgan Wallen - You Proof
35 Walker Hayes - Fancy Like
36 Luke Combs - The Kind of Love We Make
70 Bailey Zimmerman - Rock and a Hard Place
76 Taylor Swift - All Too Well (Taylor's Version)

……を除く全てのカントリー曲(全19曲)が圏外

 

 やはりカントリー。US以外での人気が低く、そして大きなポイント源のラジオがなくなるため、最もGlobal 200で弱体化するジャンルです。

 

43 Lil Baby – In A Minute
57 Muni Long – Hrs And Hrs
81 Lil Durk feat. Morgan Wallen – Broadway Girls
83 Lil Durk feat. Gunna – What Happened To Virgil
84 Future – PUFFIN ON ZOOTIEZ

 

 同様にラップもUS以外での人気が低い場合があります。ただカントリーよりはラジオ分のマイナスの影響は少ないです。ラップの中でも、ポップから遠い曲はUS以外に広がらない印象です。ポップへの浸透度は、ラジオのオンエア以外にも、海外進出にも重要な指標なのです。

 

32 Em Beihold – Numb Little Bug
62 Wizkid feat. Justin Bieber & Tems – Essence
97 JNR CHOI & Sam Tompkins – To The Moon!

 

 ラジオで強みを発揮した曲で、ストリーミングが足りなかった曲です。”To The Moon!”はUKラッパーによる曲ながら、USのラジオで重宝され、ピーク順位もUS>UKという不思議なヒットでした。

 

その他

89 Burl Ives – A Holly Jolly Christmas

(クリスマス曲が人気なのは両方のチャートで同じですが、曲に微妙な違いがあります)

 

 

8 ラジオ、ストリーミングの低い曲

 

 この章から内容がマニアック気質になります。まずは、ラジオ、ストリーミングで週間50位以内に入らなかったものの、年間チャートまでこぎつけた曲を見ていきます。

 

・ラジオ圏外曲 (ジャンル別ラジオの順位)

20 Bad Bunny & Chencho Corleone - Me Porto Bonito (ラテン1)
24 Encanto - We Don’t Talk About Bruno (ポップ24、アダルトポップ20、アダルトコンテンポラリー17)
39 Zach Bryan - Something in the Orange (カントリー39*)
53 Encanto - Surface Pressure (なし)
69 Bad Bunny - Efecto (なし)
70 Bailey Zimmerman - Rock And a Hard Place (カントリー52*)
76 Taylor Swift - All To Well (Taylor’s Version) (アダルトポップ25)
77 Bad Bunny & Rauw Alejandro - Party (ラテン24)
78 Bad Bunny - Después de la playa (ラテン22)
81 Lil Durk feat. Morgan Wallen - Broadway Girls (なし)
84 Future - PUFFIN ON ZOOTIEZ (なし)
87 Bad Bunny & Estéreo - Ojitos Lindos (なし)
91 Russell Dickerson feat. Jake Scott - She Likes It (カントリー16)
96 EARNEST feat. Morgan Wallen - Flower Shops (カントリー18)

*集計期間後にはもっと好成績を記録

 

 ここに挙がる曲は、ラジオで不遇 or そもそもシングルではない曲ながらも、ストリーミングでの奮闘でHot 100に到達した曲です。特に“We Don’t Talk About Bruno”は不遇という言葉が似合う曲だったかもしれません。

 ラジオでのシングル化、という公認のお墨付きを得ずとも、ストリーミング中心に自力で年間チャートに到達する曲の健闘ぶりは、個人的に魅了されるチャートアクションです。

 ちなみに、“She Likes It”はStreaming Songsに入ったのが1週のみと、少し事情が違います。この曲は次の9章で主に触れます。

 

 際立つのはBad Bunny。全くラジオでオンエアされていないような曲もあり、その他の曲でも規模の小さいラテン系ラジオでしかオンエアされていないようなものも多いです。(英語系ラジオまで飛び火したのは、“Moscow Mule”(短い期間)、“Tití Me Preguntó”(主に2022年間集計終了後)くらい)英語ではないことはラジオでのオンエアにおいてはマイナスに働く場合が今でも多いようです。同じラテン曲でも、英語ヴァースが混ざっているとポップ系等のラジオでも好んでオンエアされるのですが、Bad Bunnyのアルバムにはそのような曲は無いです。

 ラジオが強いHot 100において、ラジオシングルカットの方針に振り回されずに自力でポイントを稼ぎきったBad Bunnyには盛大な拍手を送りたいです。

 

・ストリーミング圏外

82 Parmalee - Take My Name

93 Scotty McCreery - Damn Strait

97 JNR Choi & Sam Tompkins - To The Moon!

記事全体的に、年間チャートではラジオが強力!という説明が多いですが、意外と極端にストリーミングが弱い曲も少ないようです。ただ、いくつかのカントリー曲は1週だけStreaming Songs入りするという動向を見せています。たまたまなのか、何かメカニズムがあるのか気になるところです。

 

(おまけ)

年間ラジオ/ストリーミングのトップ10が、年間Hot 100で平均何位か?

2022 ラジオ:平均6.9位 ストリーミング:平均13.8位(以下同)

2021 R:7.1 S:9.6

2020 R:8.6 S:9.5

2019 R:9.2 S:12.4(外れ値の”Baby Shark”を含む)

2018 R:10.0 S:6.6

2017 R:10.8 S:7.2

 ストリーミング→ラジオへのバランス変換が見られます。

 

 

9 リカレント回避法

 Hot 100の年間チャートは、集計期間中に合計でどれだけ売れたか?を計測していると思われがちですが、これは微妙に違います。「Hot 100圏外の期間を除いた」ポイントの合計でランク付けされます。

 チャートから外されるのも、基本売上等の動向と合わせて行われ、年間チャートは「集計期間中にどれだけ売れたか?」をベースとしているのは間違いないのです。しかし、チャートから外れる/外れないの微妙な違いで、大きく年間順位が異なってくるケースがいくつか見られるのです。

 

 ここでチャートから外れるルールをおさらいします。21週目以降に51位以下、または53週目以降に26位以下に落ちると、リフレッシュを目的にチャートから外されます。これが「リカレントルール」です。また、過去曲も51位以下には登場できない仕様になっています。(ただ、「過去曲」が何を指しているかは非常に曖昧)

 

 このルールゆえ、最後の週が50位か51位かで、年間順位が変わってくるようなケースもありえるわけです。ただ、近年の年間チャートで起こっているのはそんな「時の運」のような次元の話ではないのです。

 

 このリカレントルールには抜け道が存在します。上昇の見込みがあれば、51位以下等の条件を満たしてもチャートに残留できるのです。1回外されると、復帰は明確な上昇が無い限り厳しくなるので、それを救済するための措置です。

 しかし、やはりながら(?)この「上昇」の判断も非常に曖昧です。Hot 100のポイントがマイナスでも「上昇判定」で残留することが少なくないのです。この場合、上昇の根拠はラジオの上昇にあると推測されます。

 ラジオ導入が他の国のチャートに無い特徴であるゆえか、ビルボードはラジオを重視しているように感じます。(例えば、Best Songsのチョイスなど。長いので補足に回します)*3この考え方は現在のチャートにも反映されており、ラジオでまだ上昇しているのならば、曲としての旬はまだまだ先で、チャートに残すべき、となるのだと思われます。

 しかし実際には、綺麗にラジオの上昇に合わせてHot 100のピークを伸ばしていくような曲は現在は決して多数派ではないため、不思議な曲を残留させているケースが出てきます。

 また、その「ラジオの上昇」といってもラジオ自体はマイナスでも残留している場合すらあります。「全体ではマイナスだが、特定の系統では伸びているからセーフ」という理屈のようです。

 この不思議な現象がよく起こるのはカントリー曲です。カントリーはラジオのサイクルが完結するまでのスピードが非常にゆっくりです。そして再生数が伸びているのか分かりづらい「横ばい」な時期があります。Hot 100滞在20週目でそのような状況を迎えると、だいたい上昇判定をされ、チャートに残留します。

 しかし実態は「横ばい」のため、ルールの目的で期待されているような浮上は果たせません。従来のピークを上回らない場合も多いです。

 今年この状態を経て、年間チャートに入った3曲(“She Likes It”、”Flower Shops”、“Circles Around This Town”)は、特例措置の21週以降にはピークを更新しておらず、またこの期間抜きでは年間チャートに入るポイントが足りなかった推測されます。つまり、このビルボードの不思議な判定が、曲を年間チャートに導いたと言えます。

 明確にラジオがマイナスとなれば、その際はさすがに特例の残留は終わります。しかし“She Likes It”の場合、最後の週が94位だったため、上昇判定が無くなって外れたのか、普通にポイントが100位圏外になって外れたのか不明瞭です。

 

 まとめると、リカレントルールの判断とラジオの上昇スピードの妙で、カントリー曲が年間チャートにたどり着いた、という話です。

 

 そして実は、解釈次第ではありますが、リカレントの妙を活用して年間チャート入りを果たしているジャンルがもう一つあります。それはクリスマス曲です。

 クリスマス曲は大半の時期では注目度皆無ですが、冬になると一気に注目度が増して、2ヶ月弱で一気に年間チャート相当のポイントを稼いでしまう、という猛者です。クリスマス期になると週間ポイントが50位以上相当となり、チャートに復帰できるという点が鍵になっています。

 しかし実はその裏で、どの週でも明確な上昇はなくHot 100入りこそしないものの、十分なポイントを稼ぎ、年間チャート相当の数字を記録している曲も存在します。

 クリスマス曲の稼ぎ頭はストリーミングですが、その最高位の“All I Want for Christmas Is You”がStreaming Songsで年間38位。一方で同じく過去曲の、Chris Stapletonの”Tennessee Whiskey”は同19位*4ながらも、今年は1週もHot 100入りせず、年間チャートにも入っていないのです。

 つまり同等以上のヒット度であっても、通年で安定してヒットするより、特定の時期だけヒットすると年間チャートに入れる、ということになります。年間チャートでは一般的に、ラジオ等で長い期間安定感がある曲が瞬発的なヒットよりも上位に来やすいですが、ここでは逆のような現象が起きている、とも言えそうです。

 このようなビルボードの仕様の妙で、年間チャート順位が変わり、純粋なヒット度が反映されていない場合もあるのです。

 

 

10 チャートの今後へ?

 

 ビルボードはHot 100の計算方式を調整する時があります。近年の大きなアップデートでいうと、YouTubeの非公式動画を計算から外す、抱き合わせシングル販売の制限などでしょうか。

 では、今後大きくインパクトを起こしそうな変化はなんでしょうか。それはTikTokでしょう。チャート系アカウント、Talk of The Chartsも「今後チャートに大きな変化をもたらし得るのは、TikTokまたは(かつて集計から外れた)YouTubeのユーザー動画の復活」と述べています

 もちろん、その規模からして大きな変化が起きるのは間違いないでしょうが、導入にはハードルもありそうです。まず、非公式音源の存在、複雑な合成音源、さらに曲が判別不明なもの……など、どうやったら集計を正確に行えるか、公平になるかの技術的な問題があります。さらに、ストリーミングでは一般的に再生数カウントに30秒以上必要なのに対し、TikTokで一般的な30秒未満の動画をカウントして良いのか?という問題点もあります。

 規模的には無視できない存在なのは間違いないですが、Hot 100に導入される可能性はなんともいえないところです。

 

 しかしこれ以外に、私はもう一つ注目している分野があります。それはLimited-Tier Paid Subscriptionです。RIAAアメリカレコード協会)の売上データベースには存在する区分で、全体の6.1%を占めています。(いずれも3%台のDLやCDよりは高い)

Hot 100が、これを集計区分として分離させているという話は聞いたことがないです。(そもそも、Hot 100は正式に集計方法を公開していませんが)

 このLimited-Tier Paid Subscriptionとは、有料ストリーミングながら、何かしらの制限があるもので、RIAAレポートではAmazon Music、Pandora Music Plus、フィットネス媒体が例として挙げられています。

 どのようにLimitedされているかまでの説明は見当たりませんでしたが、その分値段が安い、聞き方に制限がある(受動的になる)等の、集計比率を下げる理由はあると推測されます。このRIAAの区分に今後Hot 100が追随し、通常のストリーミングと区別して弱体化される可能性もゼロではないかも?と私は考えたのです。

 

 なぜ唐突に年間チャートの記事でこんな話を始めたかというと、ここの変更により9章で述べた問題を緩和し得る可能性があるのです。

 RIAAレポートでは例として、Amazon MusicとPandora Music Plusが挙げられていました。そしてその最初に挙げられているAmazon Musicではカントリー曲とクリスマス曲が人気なのです。(Pandoraは受動的ストリーミング扱いで、既にHot 100では低く集計されています)

 カントリー曲がラジオよりも先にHot 100でピークを迎えるのはストリーミングが理由で、かつAmazon Musicが主体と考えられるので、ここを調整することで、ラジオとピークが揃い、歪なチャートアクションを減らせる可能性があります。

 また、ストリーミングでは、バイラルする曲以外は、リリース時点から注目されるようなアーティストの曲に人気が集中するのが常です。Morgan WallenやLuke Combs等の一部を除き、リリース時点から注目を集められるカントリーシンガーは少ないですが、それでもバイラル抜きで「浮上」できるのは「ジャンルをかけて」というオーダーが入っているからでは?と推測しています。つまり「リストに入る曲」という限られた選択肢から曲が選ばれるため、人気が分散せずに、次第に人気が集まるような動きが実現可能になるということです。(一応、特別カントリー人気が高いわけではないApple Musicでもカントリーのプレイリストが上位に入る、などの根拠はゼロではないですが、まだまだ仮説の域を出ません)

 この考え方は、カントリーのリスナーが従来ラジオでしていた習慣をそのままストリーミングでも実行できて、近年カントリーのストリーミングが伸びていることの説明にもなる可能性があります。

 

 さらにこれは、アルバムチャートの項で述べたMorgan Wallenの話ともつながるかもしれません。つまりストリーミングの優秀さゆえ、ジャンルの「リスト」にも入ることが容易です。その「ジャンル再生」分が、またアルバム安定した再生として返ってくる、という仮説です。

 またこの説明、Bad Bunnyにも当てはまるかもしれません。ラテン曲の徐々に上昇するチャート動向は、カントリーと似たものを感じていて、もしかしたら似たような恩恵を得てそのうちMorgan Wallenの記録を超えるかもしれません。ただ、新アルバムが出るとそれと競合して、記録が止まってしまうかもしれませんが。

 

 2018年にクリスマス曲がHot 100で規模を拡大した時、ビルボードはHey Siriがヒットに寄与したとの記事を出していました。現在もクリスマス期は、普段のAppleSpotifyの影響力が弱まるチャートになっている印象(Hot 100でもGlobal 200でも)で、この効果も今も続いているのだと推測されます。

(仮に「(ジャンル名)をかけて/(アーティスト名)をかけて」のような使い方であるとしたら、実態は既に低く集計されているラジオ型と同じのため、そのような側面からもポイントを下げる理由になり得ます)

 

 近年クリスマス曲の規模がここまで大きいのは、普段と違う層が調査に入ってくるだと推測しています。おそらく子どもが無限に再生して、“Baby Shark”がHot 100入りするのと原理は近いのでは?と考えています。従来は集計の網に引っかからなかったような音楽消費が、消費方法や集計技術の変化によって、新たに含まれたということです。

 以前からストリーミングにいるリスナーのクリスマス曲再生数を急に大きく増やすとは考えづらいですし。

 

 9章の話をもう1回整理します。

 上昇しているか微妙な曲を残し続けているのは、違和感があります。実際にピークが更新されるケースも少ないため、検討の余地がありそうです。

 また、クリスマス曲に関しても、同じことが毎年繰り返されているので、この期間はチャートへの関心が下がってしまうでしょう*5。クリスマス曲が枠を多く占めてしまう以上、他の曲のチャンスも減ってしまいます。なんだかクリスマス期は「チャートの冬眠期」のように感じます。*6

 さらに、他の曲の上位進出/Hot 100入りが困難になることでチャートに近年関心を持つようになった熱心なスタンたち(ビルボードはこの層に向けて記事を書くことが多い印象)にとってもマイナスになっているでしょう。(もちろん、ごく一部のクリスマスで強いアーティストは例外ですが)

 これはチャートとして痛いのでは?と思いつつも、週間チャートでも年間チャートでも調整が全然入りません。*7

(ただ、個人的にはクリスマスの曲自体は、現行ヒットを上回るような良い曲もあると考えていますが)

 

 なんというか、近年のチャート(ほかビルボードの一部の動向)には個人的に違和感を覚える箇所があります。それを様々な側面から解決法を探ってみましたが、個人で得られるデータはとても少なく、どうしても推測が多い形になってしまいます。この推測の多さから、特に10章で語った内容がどこまで的を射ているのかは、微妙なところです。

 もちろんシングル抱き合わせDL等、きちんと調整を行っている部分もあるのですが、それでも残る違和感、もどかしさは多いです。このような違和感を「トリック」と捉えて、それを解き明かすのを楽しんでいるような感覚もありますが、どうなんでしょうね。

 

 チャートを見ていると、もどかしい。しかし個人で得られるデータも少ないため、それを解決する/考えるための材料も足りなくて、またこれも、もどかしい。というのが10章のまとめです。

 10章はなんだかあまり年間チャートに関係ない、私のお気持ち表明大会のようになってしまいましたが、年間チャートが、普段私がチャートに抱いている考えを吐露しようとするきっかけになった、ということでご笑納お願いします。

 

 

おまけ

2022 年間トップ10 半年前予想(Hot 100) - チャート・マニア・ラボ

 半年前予想の答え合わせです。結果は……

1 Glass Animals – Heat Waves ✔
2 The Kid LAROI & Justin Bieber – Stay
3 Harry Styles – As It Was
4 Kodak Black – Super Gremlin
5 Ed Sheeran – Shivers ✔
6 Justin Bieber – Ghost
7 Adele – Easy On Me
8 Ed Sheeran – Bad Habits ❌
9 Latto – Big Energy
10 Jack Harlow – First Class

 

……9正解、2ピタリです。近年はロングヒットが強く、半年前時点でも当てやすくなっているので、頑張ればそろそろ全正解も出せるかも???

 

・参照

https://www.billboard.com/charts/year-end/

https://www.billboard.com/charts/hot-100/ (Hot 100)

https://www.billboard.com/artist/bad-bunny/ Billboard + アーティスト名で検索すると、過去のチャート成績が閲覧できます(例としてBad Bunnyのリンクを掲載) 

Glass Animals’ ‘Heat Waves’ Top Hot 100 Song, Bad Bunny Top Artist – Billboard (年間チャート総括記事)

https://charts.spotify.com/charts/view/regional-us-daily/latest

Top 100: USA on Apple Music

https://kworb.net/

U.S. Sales Database - RIAA

 

*1:いつ以来?または初かのデータは不在。少なくとも最近でそのような年は浮かびません

*2:密かに、今年のGlobal 200で年間170位

*3:ビルボードは昨年のベストアルバム上位に”Planet Her”を選んだにも関わらず、今年のベストソングに“Woman”を選んでいます。曲としては昨年に認識しているはずなのに、今年またセレクトしているのは、ラジオでヒットしたのが今年だからです。例年このような「明確に昨年の曲ながらも、ラジオでヒットしたのは今年」の曲をいくつか選ぶ傾向があり、ここからラジオでのシングルカットこそ、曲が「リリースされた瞬間」のような考え方が垣間見えるわけです。

*4:ストリーミング以外が低いから年間チャートポイントが足りていないのではないか?と考えるかもしれませんが、ストリーミング以外の稼ぎが全く期待できないBad Bunnyのアルバム曲がStreaming Songsでこれより低い順位のため、水準的には十分だと思われる

*5:少し前の、控えめな規模のクリスマス動向の時は少し好きでした。年末にクリスマス曲がいくつか入ることで、下位の既存曲を一部押し出し、チャートをリフレッシュしながら新年に向かっていく感じが、流動システムとして面白い調整になっているな、と思っていたのです

*6:ストリーミング人気のあるアルバム曲の大量登場も同列に考えている方もいるかもしれませんが、①繰り返しでないこと、②長くは続かないこと、③多くのアーティストにチャンスがあること、④従来の枠組みを変化させるエネルギーがある 等の理由から、個人的にはむしろ好きな動向です。

*7:クリスマス曲に関しては、無料ストリーミングを集計しないのが、良い調整になるのでは?と推測しています