チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

2022 年間トップ10 半年前予想(Hot 100)

 

 今年も、ビルボードの年間チャートの集計の折り返し地点(とされる)時期が来たので、Hot 100の年間トップ10予想をしようと思います。お手柔らかに……

(5/14付のチャートまででの予想。現在○○週という説明も、この週の時点での数字を指しています。)

 

 最初にドドンと予想を掲示し、次に近年の傾向の解説、そしてなぜこのような予想に至ったかの説明をします。

 

 

 

・年間チャート トップ10予想

1 Glass Animals – Heat Waves

2 The Kid LAROI & Justin Bieber – Stay

3 Harry Styles – As It Was

4 Kodak Black – Super Gremlin

5 Ed Sheeran – Shivers

6 Justin Bieber – Ghost

7 Adele – Easy On Me

8 Ed Sheeran – Bad Habits

9 Latto – Big Energy

10 Jack Harlow – First Class

 

 

 

 

・近年の傾向

 

 以前から、週間チャートでの順位の感覚以上に、ラジオでロングヒットの曲が年間チャートで順位が高くなる傾向は見られました。近年のチャートでは、週間チャートですらラジオのロングヒット影響が色濃く見られるようになったので、年間チャートでのラジオの影響力はより増しています。 

 ラジオは急に不規則な動きをすることが少なく、安定性があるため、後半戦のポイントにも目処を立てやすいです。またラジオの占める割合が大きいということは、積み上げが重要になってくるので、後半戦での急な逆転の難易度は上がります。未リリース曲や、まだヒットしていない曲をあまり考慮する必要性は低下します。

 

 しかし、「ランダム」な要素も存在します。超ビッグなアーティストのアルバムリリースです。これがあると、Hot 100上位に多くの曲が登場し、チャート残留におけるハードルが上がるため、本来よりもチャート滞在週数が大幅に短くなる可能性もあるのです。年間チャートでは、チャート滞在期間「のみ」が集計対象のため、いつまで残るか外れるかは非常に重要な要素となります。

(補足:21週目以降に51位以下、または53週目以降に26位以下でチャートから外れる。上昇中の曲は除外)

 

 この超ビッグなアルバムによる「押し出し」がいつに来るか、何回来るか、によって年間チャートの順位が大きく左右されてしまいます。ちょうど今、予想を行っているこのタイミングで、大量にそのようなアルバムがリリースされたため、「この曲はこのアルバムラッシュの波に耐えられるのか……」というシビアな判断を迫られています。ここで押し出されるか否かによって、後半戦で稼げるであろうポイントが大きく変わってきます。

 

 あとマイナーですが、ラジオにも不確定要素はあります。クロスオーバーや、ストリーミング起因による「2段階成長」です。

 ラジオは基本的に、次第に伸び、次第に落ち……と山なりなグラフを描くようにして再生数が推移します。これがラジオの予測しやすさに繋がっているのですが、クロスオーバー・ストリーミング起因の浮上、のいずれかが到来すると、ピークが2回訪れる不規則な「2段階成長」になります。このパターンは、もうラジオ再生が落ちていくだろうな……という予想を翻した動きをする点で「不確定」なのです。

 

 後者のストリーミング起因の再浮上、というのは昨年から見られるようになったパターンで、ストリーミングの複雑な動きに対応しようという、ラジオ側の新しい行動です。”Levitating”や”Heat Waves”がこれに当てはまります。

 

 

・年間トップ10 説明

 

1 Glass Animals – Heat Waves

 前半戦での積み重ねも大きく、現在の順位も高め。さらに今後の安定性もかなり高そう。基本的にはこれが年間1位でしょう。不安要素は既に滞在が52週を超えており、誰がいつアルバムを出すか次第ではチャートから弾き出され、ライバルに滞在週数で大きく不利を取る可能性です。

 

2 The Kid LAROI & Justin Bieber - Stay

 この曲も積み重ね、安定性ともに非情に高く、“Heat Waves”がいなければ余裕の年間1位だったと思います。上で述べたように、逆転のシナリオがあるとすれば、滞在週数で大幅に有利を取る場合。こちらはまだ滞在が52週に達していないため、26位以下に落ちてもチャート残留可能。

 

3 Harry Styles – As It Was

 年間チャートでは通年活躍する曲が上位に入りやすいため、リリース時期も重要な要素です。その点、この曲はチャートに登場したのが4月と若干遅いですが、まだ間に合います。昨年5月に登場した”good 4 u”が年間5位に入っており、イメージ的にはそれに近いチャートアクションになるのでは、と考えています。

 1位と2位のポイントは格別に高いですが、3位以下は混戦。リリース時期的には不利ながらも、そこを出し抜いての3位と予想しました。

 

4 Kodak Black – Super Gremlin

 前半に大きくポイントを稼いだ曲の一つ。上位候補では珍しい、ラジオよりもストリーミングで強さを発揮している曲。しかし実はラジオも優秀で、アーバン系統で11週も1位を獲得。この系統のロングヒットといえばR&B曲が多いため、ラップ曲がこのような動きを見せるのはやや珍しいかも。

 この曲がライバルと比べて地味ながらも優秀な点は、滞在が26週目のこと。53週目以降はHot 100に残留するハードルが大きく上がるため、52週ちょうどで外れる曲が多いです。他のライバルは滞在が30週を超えた曲が多く、53週目以降はいつ外れるか分からず、最後の数週を逃す可能性が大きいです。一方でこの曲は、年間チャート集計の最後まで残留ラインが51位以下なので、滞在のハードルが低くなっています。

 前半のリード、そして現在の滞在週数を見て4位と予想。唯一の気がかりは、ロングヒット因子になりやすいポップ~アダルトポップ系でのポイントを稼げない点だけは気がかりでしょうか。

 

5 Ed Sheeran – Shivers

 やはりラジオに優れているEd Sheeran。シングルは2つとも安定感があり、長いこと上位に残っています。現在先にリリースされた“Bad Habits”が“Shivers”の順位を逆転しましたが、年間チャートでは”Shivers”の方に分がありそう。こちらの方が序盤のポイントが高く、そして滞在週数もこっちの方が長くなりそうだからです。(”Shivers”は34週、”Bad Habits”は45週)

 

6 Justin Bieber – Ghost

 特別勢いがあったシングルではないですが、地道にラジオを稼いでおり、トップ10の有力候補に。ラジオでのピークは徐々に過ぎていますが、それでも数字に安定感があるのは大きなプラス要素。

 さらに、彼の次シングル“Honest”の調子が微妙そうなのも、この曲にとってはプラスに働きそう。同一アーティストのラジオのオンエアには限りがあるため、次シングルがヒットすると前のシングルが割を食うこともあります。そのため、自身の次シングルがある意味ライバルとなることもあるのですが、彼の次シングル、”Honest”はそこまで影響力を持たなさそうです。

 最初の直感ではもう少し順位が低そうに感じたのですが、消去法で気づいたら順位が上がっていました。

 

7 Adele – Easy On Me

 “Heat Waves”・”Stay“と並んで前半戦でポイントを稼いだ曲で、最初は3位予想にしていました。

 しかし冒頭で述べたここ数週のアルバムラッシュの影響をモロに受けてしまいそう。この期間に外れる可能性があり、一気に予想順位が落ちました。

 

 しかし外れていなかったとしても、実は後半のポイントにやや不安がありました。一般的な曲の場合、ポップ→アダルトポップとオンエアのタイミングに時間差があり、その「ゆっくりとした浸透」によってロングヒットが生まれていきます。

 それがAdeleの曲の場合、このような浸透が遅いアダルトポップ/アダルトコンテンポラリーのような系統でも認知される特大スターのため、ヒットに時間差が生まれません。それにより、ラジオが伸びるタイミングも落ちるタイミングも揃ってしまい、意外とロングヒットにはなりづらいのです。ピークがそれぞれの系統で揃う分、ピーク時の山の高さはすごいですが。(Adeleの知名度に加え、彼女のスタイルがアダルトポップ系統に合うことも関係しているのかも?)

 

8 Ed Sheeran – Bad Habits

 粘りを発揮しているシングル。既に滞在が40週を超えており、早期にチャートから外れる危険性もありますが、順位がまだ高いため、なんとか粘り続けるかも。イメージ的には2020年の“Someone You Loved”に近いチャートアクションで年間トップ10に届くと読みました。(昨年のヒットで、期間中のピーク順位はあまり高くないものの、ラジオの安定感があり、11-20位あたりで粘り続けて年間10位)

 

9 Latto – Big Energy

 クロスオーバーでラジオヒットを達成し、年間チャート上位候補に名乗り。ラップ曲ですがラジオの方が得意な曲です。そのため、ラジオの動向に左右されそう。

 この曲のようなオンエア系統の広さは、ロングヒットにつながりやすいです。さらに、ラップ曲の鬼門とも言えるアダルトポップ系統でも奮闘しそうな気配があり、これが後半戦の伸びしろ&安定性に繋がりそう。

 ラジオで強い曲が年間チャートでも強い、という傾向を踏まえて年間トップ10入りと予想。

 

10 Jack Harlow – First Class

 リリースは遅めでしたが、”As It Was”と同様にハイペースでポイントを稼いでいる曲。ストリーミングの優秀さに加え、ラジオでも予想以上の活躍を見せているため、後半の継続的な活躍に期待が持てそう。候補は他にもありましたが、最終的にこの曲が年間トップ10に滑り込むと考えました。

 

 

・その他の候補

 

Elton John & Dua Lipa – Cold Heart (Pnau Remix)

 最後まで候補として考えていた曲。ピーク7位・トップ10滞在6週と捉えると微妙に感じますが、トップ10陥落後の安定感がかなり高く、長い期間をかけてじわじわ稼ぐとも考えられます。

 しかし既に滞在が35週で、少なくとも52週のタイミングでは外れてしまいそう。そうなると、最後の数週はポイントが0になってしまうため、やはりそこがネックになると感じました。

 

・Imagine Dragons & JID – Enemy

 最後まで迷っていた曲その2。現在ラジオ1位で、今がピーク。ラジオでのロングヒット実績が豊富にあるImagine Dragonsの曲だけに、後半戦の安定感にも期待が持てそう。というのが当初の読みだったのですが、どうもここ数日の下落幅が気になり、惜しくもトップ10圏外に。チャートアクションが似ている“Big Energy”をわずかに下回るようなイメージです。

 

・GAYLE – abcdefu

 前半戦にポイント的には上位の有力候補で、途中まではラジオも良さそうですが、ここ数週でラジオの雲行きが怪しくなってきていて、後半戦の稼ぎが不十分でトップ10に届かないと読みました。”Easy On Me”と同様に、ここ数週のアルバムラッシュでチャートから押し出される可能性もあります。

 

※ここまでで紹介した13曲がおそらくトップ10の有力な候補です。以下はサプライズ候補、または年間上位に入りそうで実は遠い曲などです。

 

 

・Encanto Cast – We Don’t Talk About Bruno

 現時点でこの曲が年間トップ10絶望的、と分かった方は年間チャート予想への理解度が高いです。この曲が週間のトップ10を外れたあたりで、年間トップ10は無理そうだな~と考えた方は年間チャート予想の上級者ですね。

 たしかにピーク時の勢いはあったものの、下落が速すぎて年間チャートでは低くなる典型パターンです。

 これには、ストリーミングでの大ヒットの割にラジオでガン無視されたという背景があります。ロングヒットで重要なラジオを(ほぼ)完全に取り上げられてしまっては、どうしようもありません。

 この曲はラジオだけでなく、ストリーミングの大手プレイリストでも扱いが悪く、不思議でした。他の曲との相違点は何か?ヒット曲とは何か?ということを考えさせられる、かなり異質な不遇ぶりでした。

 

・Lil Nas X – THATS WHAT I WANT

 ピークは低いものの、アダルトポップ系で1位を獲得するなど、後半戦で粘る可能性もあるか……?と少し考えていましたが、この記事を出す直前くらいからラジオが大きくマイナスに転じ始めました。

 

・Muni Long – Hrs And Hrs

 ラジオでサプライズを起こす候補を挙げるとすれば、この曲でしょうか。前半戦はストリーミングやR&B関連のラジオでポイントを稼いでいた曲ですが、ここ最近はポップ系ラジオでもオンエアされる動きが。このクロスオーバーを成功させれば、チャート滞在も伸びて、ポイントの積み上げも高くなりそう。

 何かしらの系統のラジオが伸びていれば、チャート残留or復帰も可能なので、仮に一回51位以下に落ちたとしても心配はいりません。

 ただ、仮にクロスオーバーを成功させたとしても、ピークが不十分そうなので、トップ10の候補として計算するのはさすがに厳しいでしょう。

 

・Lizzo – About Damn Time

 元から得意のラジオに加え、ストリーミングも突如覚醒し、後半戦の有力なヒット候補に。バランスよくポイントを積み上げていきそうで、サプライズ年間トップ10入りの候補になり得る存在。ただ、さすがにスタートが遅いような

 

・Future feat. Tems & Drake – WAIT FOR U

 ストリーミングで人気を得て、ロケットスタート。ただ未だにポップ系ラジオではオンエアされていないことなどから、年間トップ10に逆転で食い込むほどのポイントは見込むのは少し難しいと考えています。

 

・Kendrick Lamar – N95(など)

 アルバム全体のストリーミングは凄そうですが、何か特定のシングルが際立つような作品ではなさそう。また、どの曲がシングルかまだ決まっていないようで、その分ラジオの上昇も遅れてしまいます。このような要素を踏まえると、リリース時期の不利を覆して年間トップ10入りするシナリオは考えづらいです。

 

・Morgan Wallen - ???

 まだ新アルバムのリリース日すら決まっていませんが、彼は最近シングルを多くリリースしており、そろそろ新作を出す可能性も?

 アルバムが出た暁には、膨大なストリーミングが予想されます。さらに、素早くシングル指定を行い、かつカントリー系だけでなくポップ系も席巻するようなことがあれば、ほんのわずかに可能性も……?

 とはいえ、出来るだけアルバムをリリースした上で、さらに細かい複数の条件を満たさなくてはならないため、さすがに可能性はほとんど無いでしょう。

 

 むしろこのアルバムで注目したいのは、既存曲を追い出す効果のほう。彼は前アルバムの曲数がとても多く、新作でもそれを踏襲したとすれば、その分チャートでの「押し出し」効果も大きくなります。

 リリース時期、またアルバムの規模によっては、年間チャート上位候補曲を押し出し、一波乱を巻き起こす存在になるかも……?まあ、まだアルバムがリリースされるか自体も不明ですがね。

 

 

参照

・予想時点でのHot 100:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2022-05-14/

・ラジオの細かい動きなど①:https://kworb.net/radio/

・ラジオの細かい動きなど②:https://hitsdailydouble.com/mediabase_building_charts

・Hot 100ポイント予想:https://twitter.com/talkofthecharts / https://twitter.com/lippredicts など (ポイントの試算等で参照)

 

(ちなみにこの企画は2017年から開始。これまでのトップ10平均一致数は7.8曲。平均順位ピタリ数は2.4曲です。果たして今年は……??)

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