チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard Year-End 2023記事 ①Hot 100編

 

 こんばんは。先日、ビルボードから各種年間チャートの発表がありました。これに合わせて、例年のように振り返りの記事を作成していきます。今回は文章を①Hot 100編、②アルバム、Global 200編、③マニア編の3つに分割して記事にしています。(全部一緒だと長過ぎる気がしたので)

 今回はその①、Hot 100編です。Year-End各種データは、以下のリンクから確認できます。今年の集計期間は2022年11/19付~2023年10/21付チャートまでです。(2022年11/4~2023年10/12の動向が対象)

https://www.billboard.com/charts/year-end/

https://www.billboard.com/charts/year-end/hot-100-songs/

 

 また、記事の補足のためにデータをいくつかまとめたため、そちらも参照してください。(記事が別なのは表サイズが大きいため)

 

 

 

 

1 今年の顔・Hot 100の年間トップ10を見る

 

 Year-Endチャートで最も際立つ、今年の顔とも言えるHot 100年間チャートのトップ10をまずは見ていきます。

 

1 Morgan Wallen – Last Night

2 Miley Cyrus – Flowers

3 SZA – Kill Bill

4 Taylor Swift – Anti-Hero

5 Metro Boomin, The Weeknd & 21 Savage – Creepin’

6 Rema & Selena Gomez – Calm Down

7 The Weeknd & Ariana Grande – Die For You

8 Luke Combs – Fast Car

9 SZA – Snooze

10 David Guetta feat. Bebe Rexha – I’m Good (Blue)

 

 まずは年間チャートにおける鉄則から説明していきます。年間チャートでは、いかに毎週のポイントを「積み上げる」かが重要になってくるので、毎年上位はいつもロングヒット曲が中心に並びます。もちろん今年もこの傾向は見られ、上記の曲の大半は昨年からHot 100入りしている曲ばかりです。そうでない曲(”Flowers”・“Last Night”・”Fast Car”)も集計期間の前半には登場しています。

 次に、今年の年間チャートに見られる特徴をいくつか説明していきます。まずはカントリーの強さです。

 1位の”Last Night”がその象徴です。年間チャート基準だとやや遅めの登場ながら、週間チャートでは歴代2位タイの16週1位など、絶大な強さを発揮。見事逆転での年間1位獲得に。年間2位の”Flowers”も登場時から年間1位有力のペースだったのですが、その強力なライバルを出し抜くことに成功しました。カントリー曲が年間1位を獲得するのは、2000年のFaith Hillの”Breathe”以来です。

 この曲に加え、8位には”Fast Car”もランクイン。カントリー曲がダブルで年間入りするのも、同じく2000年以来。(この年のもう一つのカントリー曲はLonestarの”Amazed”)

 ともに現在最も重要な指標であるストリーミングで強かったことが最大のヒットの要因です。かつてカントリーは一般的にストリーミングを苦手としているジャンルでしたが、現在では逆に強みになっており、環境の変化を感じます。

 

 そして、もう一つ特徴として挙げたいのは女性アーティストが多い点です。年間首位こそ譲りましたが、2位3位4位はMiley Cyrus、SZA、Taylor Swiftと並び、ポップ界では女性のヒットが強かった1年だったと思います。他にもSelena Gomez、Ariana Grande、SZA(2曲目)、Bebe Rexhaが入り、合計でのべ7人の女性アーティストが年間トップ10入り。これは2011年以来の多さです。*1

 ちなみにこの年はKaty Perry2曲(”Firework”と”ET”)、Adele(”Rolling in the Deep”)、Nicki Minaj(”Super Bass”)、客演でChristina Aguilera(”Moves Like Jagger”)、Lauren Bennett(”Party Rock Anthem”)、Nayer(”Give Me Everything”)が入っています。

 

 最後にアーティスト単位に目を向けていきます。The WeekndとSZAがダブルでのトップ10入りを達成。ともにベースはR&Bアーティストながら、ポップ方面でも高い人気を得て、曲がロングヒットとなり成功を収めたという共通点があります。昔から、時間差で複数系統ラジオ人気を得る(クロスオーバー)曲は、ロングヒットとなり年間チャートでは強いです。

 ちなみにThe Weekndが年間トップ10でダブルするのは2021年、2015年に次いで3回目です。

 

(今年トップ10入りアーティスト 通算年間トップ10回数)

7 The Weeknd※

4 Ariana Grande

3 SZA, Taylor Swift

2 21 Savage, Bebe Rexha

1 Morgan Wallen, Miley Cyrus, Metro Boomin, Selena Gomez, Luke Combs

※”Blinding Lights”が2回年間トップ10入りしているため、曲数だと6

 

 

~年間トップ10に関する、補足メモ~

・2年連続トップ10入りのアーティストがいないのは2015→2016以来

・その一つ前は2005→2006(別名義も含めるなら、2012→2013のFun.→Nate Ruess)

・Metro Boominが自身の名義では初のトップ10入り。プロデューサー(ボーカリスト or バンドではない)の年間トップ10は2019の”Happier”のMarshmello以来

・ラップのプロデューサーとしては2013年のRyan Lewis以来

・”Last Night”と”Fast Car”は演者がソングライトやプロデュースの製作に関与せず。演者全員が製作に関与していない年間トップ10は、2016年のJustin Bieberの”Love Yourself”以来(製作はEd Sheeranとbenny blanco)

・↑のような曲が2つあるのは2012年以来(The Wanted、One Direction)

・ダブルで年間トップ10に入るアーティストが複数いるのは2021(The WeekndとOlivia Rodrigo)、2018(DrakeとCardi B)など。そこそこ多い記録。

 

(おまけ)

・トップ10のストリーミング、ラジオ、DLの年間順位

S=ストリーミング、R=ラジオ、D=DL

  S R D
1 Last Night 1 9 6
2 Flowers 4 1 3
3 Kill Bill 2 6 52
4 Anti-Hero 5 3 1
5 Creepin' 16 2 68
6 Calm Down 11 4 9
7 Die for You 15 5 -
8 Fast Car 7 11 7
9 Snooze 8 13 -
10 I'm Good (Blue) 62 7 15

※ラジオの平均6.1は、ストリーミング導入以降で最も低い数字。つまりラジオとHot 100の上位が最も似ているということです。ただし、年間1位の”Last Night”はラジオの数字が控えめで、ストリーミング以降の年間1位でこれより低いのは“Old Town Road”くらいです。

 

・Global 200、Global Excl. USでの年間順位

    Glo Excl
1 Last  Night 10 160
2 Flowers 1 1
3 Kill Bill 3 7
4 Anti-Hero 4 8
5 Creepin' 9 15
6 Calm Down 2 2
7 Die for You 5 4
8 Fast Car 58 -
9 Snooze 31 119
10 I'm Good 8 5

 

 

2 N年連続エントリー

 

 Hot 100の年間チャートに複数年にわたり、入り続けているアーティストについてです。

 

15年連続 Drake

11年連続 Ariana Grande

7年連続 Kane Brown, Luke Combs

5年連続 Gunna

4年連続 Dua Lipa, Future, Doja Cat, The Weeknd, Lil Durk, Jason Aldean, Mariah Carey

3年連続 SZA, Taylor Swift, 21 Savage, Olivia Rodrigo, Bad Bunny, Lainey Wilson, Brenda Lee, Tyler Hubbard*, Ed Sheeran, Tems

*Florida Georgia Line名義含む

 

 最長はDrake。単純なヒット度の高さだけでなく、客演も含めたリリースの多さでこの記録のトップを毎年走り続けています。ヒット度が落ちるのが先か、リリースペースを落とすのが先か。記録が止まる時、焦点になるのはここでしょう。

 

 次点はAriana Grande。2020年を最後に、自身のメインシングルのリリースは無いのにも関わらず、粘りを発揮して連続記録は途絶えず。昨年は”Save Your Tears”、今年は”Die For You”と2年連続でThe Weekndのリミックスへの参加のみでランクイン。記録をつないでいます。

 リミックスを出した週、リミックス>オリジナルにならないとクレジットは掲載されないため、連続でクレジットが載っているのはそれだけAriana Grande人気が健在とも言えます。

 来年以降は新曲が出るのか、それとも記録が途切れるのか。もしくは再び他人の曲のリミックスに参戦して記録が続くことはあるのでしょうか?

 

 この2人に続くのはカントリー歌手の2人。Kane BrownとLuke Combs。カントリーはリリース間隔やラジオでのカット等、シングルの運用全般が上手い印象があります。そして一度上位に入れば、大きく順位を落とさない傾向も見られます。

 それゆえ、アーティスト自体に一定以上の人気があれば、大ヒットが出なくてもシングルを継続的にリリースさえすればカントリー歌手はこの記録が伸びていくかもしれません。ジャンル全体が近年Hot 100で好調なのも見逃せません。

 この2人以外にもJason Aldean、Tyler Hubbard、Lainey Wilsonが上記のリストに名を連ねています。

 

 次はGunna。関連のあるYoung ThugとLil Babyはこの記録が今年途切れましたが、彼はトップ10ヒットを出して記録を維持しました。ただ、最近客演等のコラボが減っており、これが来年以降の記録維持に影響を持つ可能性があります。

 

 それ以外で目立つのは、クリスマス曲だけで記録を伸ばすMariah CareyとBrenda Lee。そして北米以外拠点ながらも記録を伸ばすDua Lipa、Ed Sheeran、Bad Bunny、Temsでしょうか。特にTemsはアフロビーツのジャンル自体が伸びており、そこへの貢献度という点で注目かもしれません。

 

 最後に、昨年まで長くこの記録が続いていたものの、今年途切れたアーティストについてです。

8年連続 Justin Bieber
7年連続 Young Thug
5年連続 Lil Baby
4年連続 Lil Nas X, Megan Thee Stallion
3年連続 Jack Harlow, Maren Morris

 

 アルバム”Purpose”での華麗な復活以降、Hot 100年間チャートに入り続けていたJustin Bieberが今年脱落。彼は自身のリリースが今年無い一方で、ヒット曲(SZAの”Snooze”)のリミックスに参加したという点がAriana Grandeと共通。ただし違うのは、リミックスがオリジナルを上回らず、クレジットに載らなかったこと。記録が続く、続かないでも、こうして差が紙一重の場合もあるのです。

 そして先に述べたYoung ThugとLil Baby。2人ともアルバムからの勝負曲はあったのですが、あまり長持ちしなかったため、年間チャート入りはならず。ラップ曲は多くの場合リリース週の注目度の高さが持続せず、年間チャート入りにおいてはこの点がネックになりやすいですね。

 

 

3 エントリーの多いアーティスト

 

 Hot 100年間チャートに多くの曲を送り込んだアーティストについてです。

 

8 Morgan Wallen

5 Drake

4 Taylor Swift, Peso Pluma, SZA, 21 Savage

3 Luke Combs, Ice Spice, Nicki Minaj, Lainey Wilson, Post Malone

 

 この記録で強いのはアルバムで無双していたアーティスト。近年はアルバムが強いことが一番ヒット曲を生み出す要因かもしれません。同時に曲をヒットさせられる点が強いです。この手のヒットで、非シングルが年間チャート入りすることも。

 今年この枠で数を稼いだのはMorgan Wallen。アルバムの大ヒットで複数シングルが同時にチャート上位に集い、そこからも持続力があり多くの曲が年間チャート入り。このうち、”I Wrote The Book”、”Ain’t That Some”は非シングル(=ほぼストリーミングのみ)でした。

 これは昨年のBad Bunnyと似ています。彼もアルバムが大ヒットし、非シングル含む複数曲が多く年間チャート入りしていました。

 カントリーもラテンも、多くの曲がチャート登場後も順位を持続する傾向があり、これも関連性があるかもしれません。

 

 もう1つ、この記録で上位に入るのは単純にヒットが多いアーティスト。客演も活用できると尚良しです。次点はDrake。近年のヒット帝王で、客演も多いので、この記録でも当然強いです。2010年以降、どの年も少なくとも3曲は年間チャートに入り続けています。最多だったのは2016年と2018年の8曲。両方ともアルバム大ヒットでシングルが大量に入っていました。

 

 以下、ヒットが多いアーティストが続いていきます。Taylor SwiftとSZAは年間トップ10曲もあり、かつ複数曲でHot 100首位を獲得しているため、今年活躍していた印象が強いです。

 21 Savageは全曲がコラボ。2曲は他のアーティストのアルバムからの曲。残り2曲もDrakeとのジョイント作からの曲。他の同業者からの厚い信頼が感じられます。

 もう1人、Peso Plumaはやや毛色が違います。ラジオ的にはクロスオーバーしておらず、ストリーミングの粘りで数を伸ばしたと思います。タイプ的にはアルバムタイプと近いのですが、これらの4曲はどれもアルバムが異なります。今年大ブレイクしたアーティストでありジャンルなので、アルバムというよりは、アーティストの曲全体で需要が高まり、結果的に複数曲が人気を得たみたいなことでしょうか。

 

 

4 ジャンル別エントリー

 

 どのジャンルが多いかを見ていきます。ジャンル分けは、ビルボードのHot (ジャンル名) Songsに入っているか、で判定しています。

 昨年までは、複数ジャンルに入っている場合はポップ扱いにしていました。これは、複数ジャンルにまたがるヒット曲は多くの場合、ポップ系ラジオのヒットに収束されていくと考えていたからです。ダンス+何かがこのパターンに入りやすいです。

 しかし、近年のZach Bryanなど、そうでないパターンも増えてきました。そのため今年は複数ジャンルの場合はポップではなく、それぞれのジャンルで0.5曲カウントにしました。

 ほか、昨年と比べると今年のチャートではAfrobeatsというジャンルが増えています。議論は今年バージョンで主に進めていきますが、昨年までと同じ基準で揃えたバージョンの表を章の最後に掲載しておきます。

 

(今年バージョン)

 

R&B/Hip-Hop 30.5
カントリー 28.5
ポップ 24 (クリスマス5)
ラテン 8.5
オルタナティブ 6
ダンス 1.5
アフロビーツ 1

 

 昨年は3位だったR&B/Hip-Hopが1位に返り咲き。大幅な変化はありませんが、SZAやIce Spice等、クロスオーバー的な活躍をした曲の存在が効いたかもしれません。ラップはすぐに順位を落としてしまいがちで、R&Bはやや規模不足と考えると、このようなポップ方面へのクロスオーバーはここの数を増やす上で重要だと思います。

 

 とはいえ僅差で、どのジャンルが1位というよりは3ジャンルが並んでいる印象の方が強いです。もっと言うなら、カントリーの強さが際立っています。

 カントリーは近年ストリーミングを克服し、むしろ強みにしつつあります。今年の年間チャート入りした曲を見ると、ストリーミング年間順位>ラジオ年間順位になっているカントリー曲は多いです。例えば”Last Night”はストリーミングが1位、ラジオが9位。”Fast Car”はスト7位、ラジ11位でした。ラジオでオンエアされる前に、ストリーミング人気だけで長い期間チャートで粘っている曲も見られます。

 近年のHot 100ポイントの比率で大きいのはストリーミングなので、これが近年のカントリー躍進に繋がっています。

 今年はそこに加え、Morgan Wallen個人の大活躍もプラスに働いたでしょう。来年以降、ジャンル全体の躍進が続くか、さらなるスターが誕生すれば、1位に立つことも見えてくるでしょう。

 

 続いてはポップ。ここでポップとは、どのジャンルチャートにも入っていないものを指しています。この手の曲は軒並みポップ系ラジオで人気を得ているからです。

 数を増やすには基本的にストリーミングで強力なヒットが出るかが重要ですが、他にもポップ系ラジオで純粋なポップ曲が多いかという視点もあります。

 ポイント比率ではストリーミングが高いとはいえ、ロングヒットの因子になりやすいのはラジオの方で、そこで強めなポップ曲はその点年間チャートで有利なのですが、ロングヒットが昨年ほどは多くなかったことが少し数を減らした要因かもしれません。

 ちなみにここにはクリスマス曲も含まれています。今年も5曲入っています。年々勢いが伸びているため、ここがポップの伸びしろかもしれません。ただ集計で別ジャンルで捉えた方が良いかもしれませんが。

 

 この3強に次ぐのがラテン。記録的な多さ(9曲)だった昨年に近い数字を今年も記録しました。純粋にヒット規模が伸びていること以外に、カントリーのように1つの曲が長持ちする点が特徴的です。ずっとHot 100の下半分にいるのに、気づいたら滞在が20週近くになっているラテン曲は少なくないです。近年のBad Bunny、今年はPeso Plumaと有力な個も増えてきています。

 

 次いでオルタナティブ。このジャンルはストリーミングで「発掘」される傾向のあるジャンルです。登場時から有力なのではなく、徐々に勢力を拡大してチャートをじわじわ登ってくる曲が多い印象です。また複数ジャンルにまたがる曲が多く、今年は4曲がそうです。

 

 最後にダンス、今年新設されたアフロビーツと続いていきます。アフロビーツは直近でも勢いを感じるジャンルなので、翌年以降期待できるかもしれません。

 

 

(昨年までバージョンの表)

 

 

 

*1:歴代最多ではない、少なくとも1999年の方が多い。ここが歴代最多かは不明