チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Hot 100(USシングル)・2017年間チャートを10のポイントで振り返る

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こんばんは。今回はHot 100の年間チャートを振り返り、年間チャートから分かることを10のポイントに分けて書いていこうと思います。

詳しい順位はこちら↓ または表を参照にしてください。

 

(付録) 年間チャート順位表 

1 Ed Sheeran "Shape of You"
2 Luis Fonsi and Daddy Yankee feat. Justin Bieber "Despacito"
3 Bruno Mars "That's What I Like"
4 Kendrick Lamar "Humble"
5 The Chainsmokers and Coldplay "Something Just Like This"
6 Migos feat. Lil Uzi Vert "Bad and Boujee"
7 The Chainsmokers feat. Halsey "Closer"
8 Sam Hunt "Body Like a Back Road"
9 Imagine Dragons "Believer"
10 Post Malone feat. Quavo "Congratulations"
11 James Arthur "Say You Won't Let Go"
12 DJ Khaled feat. Justin Bieber, Quavo, Chance the Rapper and Lil Wayne "I'm the One"
13 Lil Uzi Vert "XO Tour Llif3"
14 Future "Mask Off"
15 French Montana feat. Swae Lee "Unforgettable"
16 Bruno Mars "24K Magic"
17 Zedd and Alessia Cara "Stay"
18 DJ Khaled feat. Rihanna and Bryson Tiller "Wild Thoughts"
19 Rae Sremmurd feat. Gucci Mane "Black Beatles"
20 The Weeknd feat. Daft Punk "Starboy"
21 Khalid "Location"
22 Charlie Puth "Attention"
23 Shawn Mendes "There's Nothing Holdin' Me Back"
24 Cardi B "Bodak Yellow (Money Moves)"
25 Childish Gambino "Redbone"
26 Zayn and Taylor Swift "I Don't Wanna Live Forever"
27 Kygo and Selena Gomez "It Ain't Me"
28 Kyle feat. Lil Yachty "iSpy"
29 Julia Michaels "Issues"
30 Alessia Cara "Scars to Your Beautiful"
31 Logic feat. Alessia Cara and Khalid "1-800-273-8255"
32 Niall Horan "Slow Hands"
33 Rihanna "Love on the Brain"
34 The Weeknd feat. Daft Punk "I Feel It Coming"
35 Big Sean "Bounce Back"
36 Liam Payne feat. Quavo "Strip That Down"
37 Drake "Fake Love"
38 Maroon 5 feat. Kendrick Lamar "Don't Wanna Know"
39 Taylor Swift "Look What You Made Me Do"
40 Ed Sheeran "Castle on the Hill"
41 Machine Gun Kelly and Camila Cabello "Bad Things"
42 The Chainsmokers "Paris"
43 Ariana Grande feat. Nicki Minaj "Side to Side"
44 Clean Bandit feat. Sean Paul and Anne-Marie "Rockabye"
45 Portugal. The Man "Feel It Still"
46 DJ Snake feat. Justin Bieber "Let Me Love You"
47 Demi Lovato "Sorry Not Sorry"
48 21 Savage "Bank Account"
49 Justin Timberlake "Can't Stop the Feeling!"
50 J Balvin and Willy William feat. Beyoncé "Mi Gente"
51 Imagine Dragons "Thunder"
52 Migos "T-Shirt"
53 Yo Gotti feat. Nicki Minaj "Rake It Up"
54 Shawn Mendes "Mercy"
55 Kodak Black "Tunnel Vision"
56 Post Malone feat. 21 Savage "Rockstar"
57 Brett Young "In Case You Didn't Know"
58 Twenty One Pilots "Heathens"
59 Halsey "Now or Never"
60 Aminé "Caroline"
61 Ayo & Teo "Rolex"
62 Kendrick Lamar "DNA"
63 Zay Hilfigerrr & Zayion McCall "Juju on That Beat (TZ Anthem)"
64 Rae Sremmurd "Swang"
65 Drake "Passionfruit"
66 Kendrick Lamar feat. Rihanna "Loyalty"
67 Kesha "Praying"
68 Travis Scott feat. Kendrick Lamar "Goosebumps"
69 Maroon 5 feat. Future "Cold"
70 DRAM feat. Lil Yachty "Broccoli"
71 Calvin Harris feat. Frank Ocean and Migos "Slide"
72 Kane Brown feat. Lauren Alaina "What Ifs"
73 Katy Perry feat. Skip Marley "Chained to the Rhythm"
74 Calvin Harris feat. Pharrell Williams, Katy Perry and Big Sean "Feels"
75 Jon Bellion "All Time Low"
76 Luke Combs "Hurricane"
77 Sam Smith "Too Good at Goodbyes"
78 Khalid "Young Dumb & Broke"
79 Playboi Carti "Magnolia"
80 SZA feat. Travis Scott "Love Galore"
81 A Boogie wit da Hoodie feat. Kodak Black "Drowning"
82 Hailee Steinfeld and Grey feat. Zedd "Starving"
83 Gucci Mane feat. Drake "Both"
84 Pink "What About Us"
85 Jason Derulo feat. Nicki Minaj and Ty Dolla Sign "Swalla"
86 Migos feat. Gucci Mane "Slippery"
87 Harry Styles "Sign of the Times"
88 Adele "Water Under the Bridge"
89 Miley Cyrus "Malibu"
90 Marian Hill "Down"
91 Cheat Codes feat. Demi Lovato "No Promises"
92 Shawn Mendes "Treat You Better"
93 Gucci Mane feat. Migos "I Get the Bag"
94 Dustin Lynch "Small Town Boy"
95 YFN Lucci feat. PnB Rock "Everyday We Lit"
96 Camila Cabello feat. Young Thug "Havana"
97 Maroon 5 feat. SZA "What Lovers Do"
98 Blackbear "Do Re Mi"
99 XXXTentacion "Look at Me!"
100 Keith Urban feat. Carrie Underwood "The Fighter"

 

シングルのHot 100以外の順位も確認したい方はこちら。

 

Charts - Year End | Billboard

 

そして、昨年版はこちら


 

トップに上がっているのはこの8つのチャートですが、下にあるOverallをクリックするとジャンル別のチャートも見ることが出来ます。

カントリーは「アーティスト」・ロックは「アルバム」・ヒップホップは「シングル」と見出しにしているものがそれぞれ違いますが、これはジャンル別のリスナーが何を好んでいるか?を反映させたような物な気もしますが。そうだとしたらよく考えられていますね……私の推測に過ぎませんが……

 

① 二年連続で年間1位を創出する

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(↑ Ed Sheeran)

 

Shape of Youは2017年の序盤にリリースされ、初登場1位を記録。同時リリースだったCastle on the Hillも6位で登場し、「複数曲を最初の週からトップ10で登場させる」という史上初の記録を達成(のちにDrakeも達成)。そこからBad and Boujeeと首位争いをしながら、計12週の間1位に滞在。時期も、ピークの高さも抜群で今年前半の時点で「年間1位当確」とも言えました。2017年の後半はDespacitoが史上最長記録に並ぶ16週の1位を記録するなどし猛追してきましたが、Shape of Youはラジオを中心に粘りを見せ、年間1位の座をキープしました。ちなみに直近のHot 100ではDespacitoよりも上の順位にいます。

この年間1位で何が起きるのかというと、2年連続でのシングル年間1位!昨年の年間1位はJustin BeiberのLove Yourselfだったのですが、この曲はEd Sheeranがソングライトしており、2年連続で年間1位シングルを創出しているということになります。ソングライター / シンガーの両役割でアメリカ屈指の人気者にのし上がったと言えそうです。(彼がソングライトしたStrip That Downも年間36位に入っています)

また、2015年にも年間2位のThinking Out Loud、さらには来年の年間チャートには自身のPerfect(年間トップ10に入りそう、しかし時期が早すぎて年間1位は厳しいか?)、または彼が客演を務めるTaylor SwiftのEnd Game(時期だけは完璧、あとは伸び次第)などの有力候補が。彼のメインストリームでの大活躍が止まりません。

 

② 初の年間チャートで一気に大活躍! メンバーが年間チャートに最多 (8曲)

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(↑ Migos)

 

昨年終盤からBad and Boujeeがヒット。今年に入ってからは遂に1位も獲得したMigos。今年最も名前を見たアーティストなのではないでしょうか。昨年まで年間チャートに登場したことはなかった彼らですが、なんとメンバーのQuavoは今年8曲も年間チャートに!彼ら自身のBad and Boujee、T-Shirt、Slipperyほか客演でCalvin HarrisのSlide、Gucci ManeのI Get the Bagが年間チャートに。さらにMigos名義だけでなくソロ名義でも活躍し、Post MaloneのCongratulations、DJ KhaledのI’m the One、Liam PayneのStrip That Downも年間チャートに!(全て客演)今年のMVPの活躍を見せています!

他のメンバーも活躍。Offsetは4曲が年間チャートに。*1、その他2017年後半はソロ客演で多く登場しました。Takeoffは3曲が年間チャートに*2、ほかのメンバーと比べるとまだソロ客演が少ないですがI Get the Bag、T-Shirtなどでは大活躍。来年以降の活躍に期待したいです。

そして、実は今年活躍したのは彼らだけではないです。彼らと関連のアーティストの躍進も目立ちました。まずはBad and Boujeeで客演を務めたLil Uzi Vert。昨年からMoney LongerがHot 100でヒットの基準とされるトップ40手前まで行くなど、期待を受けていた彼ですが、この曲以降さらなる活躍を見せます。まずはXO TOUR Llif3がストリーミングで大ヒット。Hot 100で7位まで到達。その後リリースしたアルバムはアルバムチャート1位を獲得しただけではなく、ストリーミング量の多さからアルバムから一挙に11曲もがHot 100に登場。そんな活躍ぶりから、グラミーの新人王候補に選ばれたほか、Complex・Geniusが「ベストソングリスト」で1位に選出するなどXO TOUR Llif3が各媒体で高く評価されました。

そしてCardi B。MigosのメンバーOffsetと婚約を発表した彼女ですが、今年後半は大活躍でした。Bodak Yellowがストリーミングやヒップホップ系ラジオで大きな話題に。破竹の勢いでHot 100を上昇し、最終的にはTaylor SwiftのLook What You Made Me Doを蹴落としHot 100の1位を獲得しました!女性ラッパーがHot 100で1位を獲得するのは珍しく、客演・ポップスなどを除くとローリン・ヒル以来2人目の、1位を獲得した女性ラッパーという見方も。あのNicki Minajですら未だにHot 100で1位を取れていないと考えると、相当な快挙と言えます。

Taylor Swiftを1位から蹴落としたのは衝撃的だったのか、大手音楽批評メディアPitchforkはBodak Yellowを2017年のベストソングリストで1位とし”Cardi B is not just a rapper; she’s everything we needed, just when we needed it”と評しています。その後はG-Eazy, A$AP RockyとのNo Limit、Migos、Nicki MinajとのMotorSportと2連続でHot 100のトップ10入り勢いは止まりません。

彼ら自身の活躍に加え、関連アーティストの躍進もあり、Migosは今年の音楽界の中心にいたといえます。

最後に誰が年間チャートに多く登場したか?の表です。

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③ 女性メインの曲が24位まで出てこない?

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(↑ Cardi B)

 

 今年の4月「33年ぶりに女性がHot 100のトップ10に不在」 というニュースが報じられました。また、6月にHalseyがアルバム1位を獲得するまで女性シンガーでアルバム1位を獲得したアーティストが出ないなど(年初にアルバム1位を獲得したPentatonixに女性メンバーはいますが)、特に今年の前半は「女性シンガーの不振」のようなテーマが多く報じられました。

 年の後半になるとTaylor Swiftの新曲リリース、Cardi BやCamila Cabelloの躍進でその印象は薄れたものの、年間チャートでは女性が不振でした。年間トップ10に女性はCloserの客演を務めたHalseyのみ。つまり、女性シンガー(orグループ)自身の曲は年間チャートに1曲も入らなかったということです。その次に来るのは17位のZedd & Alessia CaraのStay。名義上は客演では無いですが、DJ/プロデューサー + シンガーという組み合わせはシンガー側が客演に近いものがあり、ある意味で「女性自身の曲の最高位」と言えるのは24位の上記Cardi BのBodak Yellowでしょうか。

 客演の曲を除いた、「女性の曲」の最高位が年間17位というのは歴代で見てもかなり低い水準で、1958年以来59年ぶりの低さです。(その1958年は26位まで女性が登場せず) もちろん大物のリリースが少なかった、Bodak YellowやHavanaのリリース時期が年間チャートの集計上では不利だったなどの理由はありますが、今年は女性シンガーの特大ヒットが少なかったということは言えそうです。

 

④ Hip-Hop / R&B の多さ

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(↑ Kendrick Lamar)

 

以下の表はここ5年の各ジャンル別、年間チャートに入った曲数です。

 

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ジャンル分けはビルボード準拠です。一部複数ジャンルを兼ねている曲や、どのジャンルにも分けられていない曲(=大まかにいえばポップス)もあります。*3

この表から分かるように、ここ数年でR&B / Hip-Hopが大きく伸びています。2013年には25曲・2014年は28曲と推移していますが、ストリーミングの規模の拡大と共に2015年は32曲、37曲と増加。さらに今年は46曲まで増加!勢いが止まりません。

 2012年の途中まではHot 100の集計がラジオ+ダウンロードのみでした。R&B / Hip-Hop系のラジオ局はポップ系のラジオよりも規模が小さいため、R&B / Hip-Hop系の曲がポップス曲に打ち勝つには、ポップ系のラジオでもかかるようになるか、ダウンロードで差をつけるかしか無かったのです。しかし、ストリーミングというジャンル別の格差も無い基準の登場で、Hot 100のジャンル別の格差も解消されていきました。その結果、R&B / Hip-Hopリスナーの熱意が反映されるようになり、年間チャートでの台頭に繋がりました。

 また、このR&B / Hip-Hopの台頭に伴い他ジャンルのアーティストがR&B / Hip-Hopに寄ってきているのもこのジャンル台頭に寄与しています。例えばCalvin HarrisのSlide、FeelsはいずれもR&B / Hip-Hopにジャンル分けされ、年間チャートにも入っています。

 今年は46曲でしたが、この勢いが続けば来年以降にR&B / Hip-Hop曲が過半数を占めるようなこともあるのでしょうか!

 

 

⑤ ロック曲は何曲?

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(↑ Imagine Dragons)

 

 R&B / Hip-Hop系の台頭の一方、今年規模が縮小したのはロック曲。2013年は17曲と多め。その後11曲、8曲、9曲と堅実に推移してきましたが、今年は4曲まで減少(Twenty One PilotsのHeathens、Portugal. The ManのFeel It Still、Imagine DragonsのThunderとBeliever) この4曲は全てHot 100で週間トップ10入りし、さらにBelieverは年間9位まで入るなど、上位はヒットしているのですが、層は薄いです。

 R&B / Hip-Hopと同様、ロック系ラジオもポップ系ラジオと比べると規模が小さいので、ヒットするにはポップ系ラジオに入る、ダウンロードを増やす、また2012年の途中からはストリーミングで補う、のいずれが必要なのですが、ストリーミングとロックの噛み合わせは悪い傾向にあり、ロック曲はストリーミングからのポイントがあまり望めません。

 そこで、今年進んだのはロック曲のポップ化。上記4曲のうちFeel It Still*4、Thunderはポップ系ラジオで1位に到達。Heathensも同2位、Believerも同3位とこの系統の躍進が目立ちます。ポップ系ラジオではR&B / Hip-Hop系よりもロックの方が人気な傾向があります。年間チャートに入れなかったロック曲も、Linkin ParkのHeavy(ロック曲の中で今年5位)はポップ系局での人気 > ロック系局での人気となり、同6位のTwenty One PilotsのRideもポップ系ラジオで1位を獲得しています。

ThunderやFeel It StillはSpotify世界のトップ10入り、またTwenty One PilotsのRideやStressed Out(これは昨年のヒットですが)はSpotifyのランキングに計500日以上入るなど(ロック曲としては珍しい)、ポップに進み、「軽量化」したロック曲は従来のロック曲よりもストリーミングへの苦手意識を克服して来ています。

ロックーポップのバランスを上手く取り、ストリーミングでも人気に火がつく。今ヒット面でロックが成功するにはそれが求められているように思います。

 

⑥ グループ → ソロ

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(↑ Liam Payne & Niall Horan)

 

 MigosのQuavoがグループ・ソロの両方で活躍していると②で述べましたが、今年は元々グループで活躍した(している)、ソロシンガーの活躍が見られました。

 2016年はこの条件に当てはまる、Justin TimberlakeBeyonce・Camila Cabello、Nick Jonas、Zaynの5名が1曲ずつ年間チャートに入りましたが、今年は計12曲に増えました。

Quavo(Migos)が3曲、Camila Cabello(元Fifth Harmony)が2曲、Zayn(元One Direction)が1曲、Harry Styles・Liam Payne・Niall Horan(元?One Direction)が1曲ずつ、Swae Lee(Rae Sremmurd)が1曲、Beyoncé (元Destiny’s Chlid)・Justin Timberlake(元’Nsyncが)1曲です。

One Direction勢がソロになっても軒並み人気になったことが大きいですね。同じく今年年間チャートに入っている、BeyoncéやJustin Timberlakeのような息の長い存在になれると良いですね。また、QuavoやSwae Leeのようなラップグループメンバーの客演での「バラ売り」も今後増加するのでしょうか。来年増えそうなのはMigosのOffsetでしょうか。

またJustin Timberlake、Beyoncéの二人は今年年間チャートに入った中で一番の古株です。(両者とも年間チャートに最初に入ったのが1998年で、それが今年年間チャートに入った人の中で一番早い。当時はいずれもグループ名義。次点は2002年の年間チャートに入ったPharrellP!nkSean Paul

 

⑦ ラップの発展とともにプロデューサーにも注目!

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(↑ Metro Boomin)

 

 多くエントリーしていたラップ曲の中で、一際輝いていたプロデューサーがMetro Boomin。Bad and Boujee、Congratulations、Mask Off、Bounce Back、Bank Account、Tunnel Vision、Both、I Get the Bagと最多8曲を年間チャートに送り込んでいます。個人的にはグラミーの「ベスト・プロデューサー部門」の最有力と思っていたのですが、惜しくもノミネートならず。

 彼に続くのはBenny Blanco(Issuesなど)、Steve Mac(Shape of Youなど)、Mike Will Made-It(HUMBLE.など)の4曲、その次はThe Chainsmokers (セルフ)、Frank Dukes (Congratulationsなど)、Max Martin (Side to Side など)、Teddy Geiger (Shawn Mendes担当)、Southside (Tunnel Visionなど) の3曲です。このうちMike Will Made-It、Frank Dukes、Southsideもラップ系のプロデューサーです。

 ラップ曲のプロデューサーは曲の最初に名乗る (例えばMetro BoominならばIf Young Metro Don’t Trust You…)ので、それを目印に、ラップ曲を聴く時はプロデューサーに注目するとより深く観察できると思います。また、Metro Boominが21 Savage・Offsetと共にアルバムを出したように、プロデューサーの名義でアルバムや曲を出すケースもあるので、そちらの活動も興味深いです。

 

⑧ 安定低空飛行の末、年間チャートで好成績?理由は? (チャートマニア向け)

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(↑ Sam Hunt)

 

年間チャートの8位のBody Like A Back Road、年間チャート10位のCongratulations。これらはいずれ「低空飛行」の曲で、それぞれ週のピークは6位・8位と低め。週のピークは低めながらも上位で粘った期間が長く、年間チャートでは高い順位になりました。今年の年間チャートのトップ10に入った曲の週のピークの平均は2.7位。これは歴代で2番めに低い数字です。(2003年の平均2.8位がトップ、1961年とタイ)

Gucci ManeのBothはHot 100でヒットの基準とされているトップ40に入らずに年間チャート入りしました。

このように低空飛行系の曲が増えている一因は、ストリーミングにあると私は思います。上で書いたように、ロック曲がストリーミングを苦手とし、ラップのヒットはラジオが伸びない傾向にあります。このようにジャンルによって取れるポイントの苦手・得意が分かれてきているのです。このような状況で、ラジオ・ダウンロード・ストリーミングの全部でポイントを満遍なく取れる曲が現れると、無双できるのです。これに当てはまるのはShape of YouとDespacitoです。これらはポップ系の曲で、ラジオでもしっかりと1位を獲得する一方でストリーミングでもばっちりとポイントを稼いだので、それぞれ12週・16週と長く1位に滞在したのです。このように無双している曲が「届かない天井」になるので、週間ピークが伸びづらいヒット曲が出てくるのです。

また、近年ストリーミングの隆盛で、リリース後にアルバムのシングルではない曲がHot 100で高い順位で登場することが増えました。しかし、シングルでは無いのでラジオではほぼかからず、その後Hot 100での順位は急落してしまいます。ラジオという宣伝媒体にかからないと、ダウンロードの増も望めず、ほぼストリーミングのみで順位をキープする必要があるのです。Drake・Travis Scott・QuavoのPortlandがこれに当てはまります。DrakeのプレイリストMore Lifeの2番人気曲として、最初の週はHot 100の9位で登場しました。しかし、1番人気のPassionfruitとかち合う形でラジオではそこまでかからず、ほぼストリーミングのポイントのみでHot 100に残ることに。ヒット曲はHot 100のルール上(21週目以降に51位以下に落ちた曲をチャートから外すというルール)、ヒット曲はだいたい20週はチャートに滞在するのですが、このPortlandは後に順位をズルズル落としてしまい、最終的には16週のチャート滞在に。そして週のピークが9位ながらも年間チャートに入ることが叶いませんでした。このようなポテンシャルのある非シングル曲をどう扱うかは、ちょっとした論点かもしれません。

このような、総合的に見ると年間チャートでポイントが高くないが、瞬間的に週間チャートで順位の高いアルバムの「非シングル」曲が増え、相対的にピークが伸びない曲が増えたともいえます。逆にストリーミングでのロングヒットがHot 100での粘りにつながるケースもあります(Congratulations)。他にもラジオは「順番に」曲がヒットしていきますが、一方ストリーミングはリリース時からゲリラ的順番に曲がヒットするので、リリースのタイミングの運に左右されてしまう、という要素もあります。

 

⑨ 不屈!客演でラッパー13年連続チャートに

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(↑ Lil Wayne)

 

この表は、「?年連続で年間チャートに入り続けている人リスト」です。※客演含む

 

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 トップは13年連続のRihanna とLil Wayne。これは実は歴代最長の記録でもあります。(以前は12年連続のMariah Carey (1990-2001)が最長。ただしRihanna、Lil Wayneは客演で繋いでいる年もあるのに対し、Mariah Careyは全て自身の曲での年間チャート入り)。特に「不屈」という印象があるのはLil Wayne。自身のアルバムは2013年から、自身のシングルは2014年から無いながらも、他人との共作や客演では出番は依然多め。今年はDJ KhaledらとのI’m the Oneで記録をつないでいます。No Problemに続くChance the Rapperとの共演はLil Wayneが「元祖ミックステープ王」として、今の世代にも人気があるのか!とも個人的に感じました。最近もCodeine DreamingでKodak Blackと共演し、ストリーミングで好調です。(年間チャートに届くかは分かりませんが)

 逮捕や危篤状態などの様々な苦境を乗り越えてきたLil Wayne。どこまでこの記録を伸ばすか楽しみです。以下が?年連続で年間チャートに入り続けている人リストです。

 

13年連続 Rihanna、Lil Wayne

11年連続 Taylor Swift

9年連続 Drake

8年連続 Nicki Minaj

7年連続 Calvin Harris

6年連続 Niall Horan、Liam Payne、Harry Styles (グループ時代含む)

5年連続 Ariana Grande

4年連続 DJ Snake、Beyoncé

3年連続 Alessia Cara、Charlie Puth、Selena Gomez、The Weeknd、Shawn Mendes、Justin Bieber、Camila Cabello (グループ時代含む)

 

⑩ 年間チャートにグラミー新人王候補が?

f:id:djk2:20171228011935j:plain(↑ SZA)

 

昨年の年間チャートには、グラミー新人賞候補のうちThe Chainsmokersしか入っていませんでした。賞を受賞したChance the RapperのNo Problemは惜しくもギリギリ年間チャートに入らなかったです。

 しかし、今年のグラミーの新人賞候補は全員が年間チャートに入っています。Lil Uzi Vert、Alessia Cara、SZA(客演で)の3名は週間のトップ10に入り、KhalidとJulia Michaelsの2名は週間でトップ10に入っていないながらも年間の順位は高め(それぞれ21位、29位)と全員Hot 100でも好成績を収めたことがわかります。

 この現象が起きたのは、グラミーの毛色が大きく変わったとも言えますし、批評家を納得させるようなメインストリーム曲が増えたとも言えます。

 

 

*1:Migos 名義の曲は5曲が年間チャートに入っているが、I Get the BagでOffsetのパートが無い

*2:Migos 名義の曲は5曲が年間チャートに入っているが、Bad and Boujee、SlideでOffsetのパートが無い

*3:途中でジャンルが変更になった曲 例:Tove LoのHabitsがロック → ジャンルなし など は最終的なジャンル分けを参照にしています。ちなみにロックでもないHabitsがロックに分類されているかというと、最初はロック系のラジオで人気だったからだと考えられます

*4:従来のロック系統ラジオでも好調で、ロック系統ラジオの中で規模の大きいオルタナティブ系統で歴代最も長い1位(20週)を記録しています