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音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard 動向・12月号 【Taylor Swiftの"evermore"、BTSとBad Bunnyなど】

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 こんばんは!2020最後のビルボード月末まとめとなります!(いつもより短めですが、よろしくお願いします!)

 

 

目次:

 

 

 

1 動きが激しいトップ10

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 全ての週で首位が入れ替わっています。初週は販売戦略によるBTSの“Life Goes On”が、2週目は一般的なラジオヒットの”Mood”、3週目はクリスマス曲、4週目は再び販売戦略の“willow”が首位に立っています。

 月を通してトップ10に入り続けた曲がわずか2つ(”Mood”と”positions”)と、首位以外の枠もかなり入れ替わりが激しい月となりました。(先月このような曲は6つ)

 要因となったのは今年のチャートを左右し続けた販売戦略に加え、クリスマス曲が上位に多く入ってきたからです。以下のように、クリスマス曲の勢いはさらに強まっています。*1

 この2つの要因によって既存のヒット(主にラジオヒット)がトップ10から押し出され、週ごとの変動は大きくなりました。

 

クリスマス曲のトップ10入り数(12月)

2019:0→3→5→6

2020:0→2→3→4

 

 

2 Taylor Swift

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 今月クリスマス曲以外で最も際立つ成績を残したTaylor Swiftについて見ていきます。”folklore”の姉妹作にあたる”evermore”を急遽リリース。さすがのスターパワーを発揮し、大きな注目を集めて余裕のアルバム1位を獲得。(32.9万の売上)

 そして複数リミックスなどの戦略を駆使し、シングルでも”willow”が首位を獲得。勢い増す“All I Want for Christmas Is You”が強力なライバルとして存在していたので、このような戦略無しでは1位に立たなかった可能性があります。ただしこの曲には、次週悲劇が……(来月号で説明します)

 このアルバムで際立つ数字は2.2億という再生数です。これで彼女にとって2億再生超えの作品は3枚目。2億超えを複数枚で記録している女性アーティストは彼女が唯一でしたが、その記録をさらに伸ばすことに。

 

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  ファンベースの強さを表しているセールスに対し、ストリーミングはファンの広さを主に表していると思います。この2つを両立しているTaylor Swiftからは唯一無二のスターパワーを感じます。

 この作品はTaylor Swiftにとって初めてストリーミングの数字が全体の過半数を上回った作品に(総合売上32.9万のうち、ストリーミングは16.7万) 初週の時点ではまだCD等がリリースされておらず、DLに限定されていたことがセールスの数字が控えめだった理由です。そのストリーミングの強さによって全曲がHot 100入りを果たしています。

 彼女はこれでHot 100総エントリー数を128まで伸ばし、Nicki Minajを抜き返して女性で最多になりました。

 

 

3 BTS → Bad Bunny

 初週にBTS、そして2週目にBad Bunnyがアルバム1位を獲得。これにより(主に)非英語のアルバムが続けて1位を獲得することとなり、史上初の出来事となりました。2018年にBTSがUSでアルバム1位を獲得以降強まる、非英語圏の躍進を象徴する出来事です。

 BTSは5枚目のアルバム1位。総合売上は24.2万で、うち純セールスは17.7万。先行シングルの“Dynamite”こそ英語シングルですが、それ以外はほぼ韓国語で歌われています。

 その韓国語シングルの一つ、”Life Goes On”が1位を獲得。セールスの高さが飛び抜けていました。しかし他の数値に優れず、わずか3週でHot 100から外れることに。“TROLLZ”の記録を上回り、最短記録を更新してしまいました。クリスマス曲大量登場によってHot 100のボーダーラインが急浮上したことも多少は影響しているでしょうが、そうでなくても短いことには変わりないでしょう。

 ただしビデオを除くと、まだシングル単位でのプロモーションはそれほど行われていないため、今後リミックスやラジオでのシングルカットが行われ、滞在を伸ばすかもしれません。もしかすると、チャートにも熱心なファンたちが自発的に動いてセールスを特定の週に集めてHot 100入りを狙う、なんてことも考えられるかもしれません。

 

 Bad Bunnyは初のアルバム1位。前作もかなり優秀な数字(売上17.9万、11曲がHot 100入り)でしたが、Lil Babyという強力なライバルがいたため1位になれず。今作では前作よりもやや数字を落としたものの、強力なライバル不在によって見事アルバム1位に輝きました。彼は主にストリーミングで人気。アルバムから11曲がHot 100に入っています。

 

 

4 Megan Thee Stallion、Kid Cudi等アルバムチャート

 今月は興味深いアルバムリリースが多く見られました。まずはMegan Thee Stallion。昨年から徐々に頭角を現し、今年に入ってからは勢いが加速。“Savage”で初のHot 100首位(かつ初のトップ10)を獲得すると、続いてCardi Bとの”WAP”で2回目の1位も獲得!“Savage”以上の大ヒットになりました。

 そんな彼女の念願のデビュー作はBTSと被ったこともあり、アルバム2位に。ただ売上は10.5万とアルバム1位も射程範囲内の成績を記録。ストリーミング数1.16億と優秀で、Hot 100には7曲が登場しました。さらにその後は複数曲がTikTokで人気を得たこともあり、複数曲がHot 100に残留。来年以降も活躍に期待が持てそうです。

 もう一人似たような成績を残したのはKid Cudi。Taylor Swiftと同じ週のリリースだったため、アルバムチャートでは2位でしたが、14.4万と好成績を記録。10曲がHot 100入りを果たしました。クリスマス曲+Taylor Swiftと他にイレギュラーな曲がかなり多く存在した週のリリースでなければ、もっと多くの曲がHot 100入りしていたでしょう。

 彼は2009年のデビュー作が、今年のアルバム年間チャートに入った(186位、2010年以来の年間入り)ように、彼への支持は厚く、それが新作の数字にも表れたということでしょう。

 

 次に紹介するのはShawn Mendes。デビューから4作連続のアルバム1位を獲得したものの、売上は8.9万で上記のMegan Thee StallionやKid Cudiを下回っています。また、彼にとっても10万未満の売上は今回が初です。昨年は“Señorita”で初のHot 100首位を獲得し、さらなる飛躍への期待感がありましたが、あまり満足の行く成績は得られませんでした。

 

 そしてMiley Cyrus。6.0万の売上で2位。前作の4.5万/アルバム5位よりは成績を盛り返しています。比較的評判が良く、TikTokで密かに人気を得ている曲がちらほら見られるため、来年に収録曲等が注目を集める可能性もある程度考えられます。

 

 

5 短評

 

 今月は外れた曲が多いですが、クリスマス後に特例でHot 100に復活する可能性があります。(昨年からその特例がHot 100に為されました)

 

Harry Styles – Adore You

 12月の初週に外れる。滞在は50週と超ロングヒットでした。この効果で週間ピークは6位ながらも、年間チャートではなんと6位に。

 外れた時期が早く、あまりクリスマス曲とは関係なく外れているため、クリスマス後の復活とは関係無さそうにも思えますが、ポップ系ラジオは年末にその年のヒットのオンエアを再浮上させるため、この恩恵を受ける形でクリスマス後の復活も少し可能性があります。

 

・Pop Smoke – The Woo / Mood Swings

 Pop Smokeのアルバムの収録曲が、リリース後1度も外れることなく20週を迎え、リカレントに。“The Woo”は通常のラジオシングルでしたが、”Mood Swings”は非ラジオシングル。しかしTikTok等で人気を得たこともあり、ストリーミングのプレイリストでは常にシングルのような立ち位置に。結局チャート滞在を全て非シングルのまま過ごし、20週を迎えました。ラジオ抜きながら、年間チャートにも入っています。

 

・Juice WRLD – Come & GO / Wishing Well

 こちらもアルバムリリースから1回も外れず、20週を迎えてチャートから外れました。“Come & Go”は主にポップ系、”Wishing Well”は主にリズミック系と、系統を分けてシングルの同時カットという戦略を取っていました。ただいずれもストリーミングほどの人気は得られず、ちょうど20週でチャートを後にしました。

 

Travis Scott feat. Young Thug & M.I.A. – Franchise

 1位デビューを果たすも、結局は9週の滞在でチャートから外れてしまいました。ストリーミングはそれなりの数字を記録しましたが、彼の今年の他シングルほどでは無かったです。ラジオの数字は他シングルより良い滑り出しでしたが、長くは続かず。

 再び販売戦略による1位が尻すぼみに終了し、この制度で1位を取ることは「1位」のブランド性に値するのか?という疑問が再び突きつけられました。

 

・DJ Khaled feat. Drake – POPSTAR

 8/1に3位でデビューし、その後ラジオ&ビデオなどで再加勢し9/19にトップ10復帰。しかしそこからは勢いを落とし、最終的に滞在が19週と、リカレントまで届きませんでした。リリース後に強く、さらにラジオもガンガンかかるが最終的には尻すぼみ気味、というのはDJ Khaledの曲に見られがちな傾向。

 

・Saweetie – Tap In

 TikTok起点に注目され、ラジオヒットに。ピークが20位と、昨年の“My Type”の21位を1だけ上回りました。しかし滞在は19週とリカレントまで足りず。

 

・Morgan Wallen – Somebody’s Problem

 6位デビューとロケットスタートを切った”7 Summers”のように、彼の新シングルも好スタートを切っています。同時に3曲をリリースし、全てがHot 100入り。メインの“Somebody’s Problem”は25位スタート。前シングル同様、カントリー曲としては珍しくリリース直後からストリーミングで高い人気を誇ります。

 来月にリリースされるアルバムもかなり期待が持てます。リリース時期も良いことから、来年の年間アルバムチャートでかなり上位も見えそうです。

 

・Morgan Wallen – Cover Me Up

 彼はもう一つ驚きの動きが。この3曲のリリースに引っ張られる形で、元からストリーミングで人気を得ていた過去曲もHot 100入りを果たしました。Jason Isbellのカバー曲。久々に見られたストリーミングらしい動き、という印象を抱きました。

 

・The Kid LAROI – WITHOUT YOU

 先月のアルバムデラックス版リリース以降、調子を上げるオーストラリア出身のラッパー、The Kid LAROI。TikTok等の影響を受け、ストリーミングでは自発的なシングルカットが相次ぎ、複数曲が人気に。今月新しく“WITHOUT YOU”がHot 100入りを果たしています。

 彼は自身のアルバムからの曲以外にも、Juice WRLDとのコラボ“Reminds Me of You”もHot 100入り。この2人が共にHot 100入りするのはこれで3曲目。

 

 

今月のデータ

 

主に外れた曲(🗻トップ40以上 / ⏰10週以上)

 

12/5

41 Jason Aldean – Got What I Got (🗻16位 /⏰25週)

49 Harry Styles – Adore You (🗻6位 /⏰50週)

53 Pop Smoke feat. 50 Cent & Roddy Ricch – The Woo (🗻11位 /⏰20週)

61 Pop Smoke feat. Lil Tjay – Mood Swings (🗻17位 /⏰20週)

82 Matt Stell – Everywhere But On (🗻48位 /⏰11週)

88 Conan Gray - Heather (🗻46位 /⏰14週)

89 Money Man feat. Lil Baby - 24 (🗻49位 /⏰14週)

91 21 Savage & Metro Boomin - Runnin (🗻9位 /⏰7週)

92 Sech, Daddy Yankee & J Balvin feat. ROSALÍA & Farruko - Relación (🗻64位 /⏰11週)

96 Saweetie – Tap In (🗻20位 /⏰19週)

98 YoungBoy Never Broke Again – Kacey Talk (🗻50位 /⏰14週)

 

12/12

38 HARDY feat. Lauren Alaina & Devin Dawson – One Beer (🗻33位 /⏰25週)

40 Lee Brice – One Of Them Girls (🗻17位 /⏰26週)

43 Parker McCollum – Pretty Heart (🗻36位 /⏰20週)

60 Juice WRLD & Marshmello – Come & Go (🗻2位 /⏰20週)

78 Travis Scott feat. Young Thug & M.I.A. - Franchise (🗻1 /⏰9週)

80 Megan Thee Stallion – Girls In The Hood (🗻28位 /⏰18週)

91 Juice WRLD – Wishing Well (🗻5位 /⏰20週)

93 Jameson Rodgers – Some Girls (🗻29位 /⏰16週)

96 DJ Khaled feat. Drake – POPSTAR (🗻3位 /⏰19週)

 

12/19

31 Kane Brown, Swae Lee & Khalid – Like That (🗻19位 /⏰21週)

42 Lewis Capaldi – Before You Go (🗻9位 /⏰44)

43 Surf Mesa - ily (🗻23位 /⏰28週)

44 Moneybagg Yo – Said Sum (🗻17位 /⏰22週)

50 Harry Styles – Watermelon Sugar (🗻1 /⏰37週)

 

12/26

44 Jawsh 685 & Jason Derulo – Savage Love (🗻1 /⏰26週)

49 Morgan Wallen – More Than My Hometown (🗻15位 /⏰26週)

57 Blake Shelton feat. Gwen Stefani – Happy Anywhere (🗻36位 /⏰20週)

69 Morgan Wallen – 7 Summers (🗻6位 /⏰17週)

70 Shawn Mendes - Wonder (🗻18位 /⏰10週)

73 Miley Cyrus – Midnight Sky (🗻14位 /⏰17週)

82 SZA feat. Ty Dolla $ign – Hit Different (🗻29位 /⏰14週)

85 Ariana Grande - pov (🗻40位 /⏰6週)

86 Megan Thee Stallion feat. Young Thug – Don’t Stop (🗻30位 /⏰10週)

92 Morgan Wallen – Somebody’s Problem (🗻25位 /⏰3週)

93 BTS – Life Goes On (🗻1 /⏰3週)

94 Polo G – Martin & Gina (🗻61位 /⏰19週)

95 Conan Gray - Heather (🗻46位 /⏰15週)

 

 

アルバムチャートキリ番

 

12/5

1周年:Nat King Cole – The Christmas Song (30位)

150週目:Kid Cudi – Man On The Moon: The End Of Day (154位)

250週目:The Notorious B.I.G. – Greatest Hits (147位)

350週目:2Pac – Greatest Hits (127位)

400週目:Fleetwood Mac – Rumours (36位)

500週目:NirvanaNevermind (137位)

 

12/12

1周年:Roddy Ricch – Please Excuse Me For Being Antisocial (70位)

500週目:Creedence Clearwater Revival – Chronicle The 20 Greatest Hits (85位)

 

12/19

1周年:Justin Bieber – Under The Mistletoe

1周年:Harry Styles – Fine Line

450週目:The Beatles - 1

 

12/26

100週目:My Chemical Romance – The Black Parade (172位)

 

 

・各指標の1位推移

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・Rolling Stone Chartsのトップ10

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・各週の動向メモ

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・リンク

・Hot 100:The Hot 100 Chart | Billboard

Billboard 200:Billboard 200 Chart | Billboard

・ChartBeatの記事:Chart Beat | Billboard

・Kworb(ラジオ等):https://kworb.net/

・TokBoard:https://tokboard.com/

Spotify Charts:Spotify Charts

 

 

2020年の毎月号のまとめ

 

 

*1:クリスマス曲のもっと深い考察は来月号でやると思います、多分