チャート・マニア・ラボ (CML)

音楽チャート・ポップス等の動向・文化について頑張って研究しています!議論のネタになるような変わった視点からの記事を目指しています。

Taylor Swiftが今までイギリスでシングル1位を取れていなかった理由 【過去のチャートシステムについて】

※2015年に書いた記事を2017年版に大幅加筆しました

(Look What You Made Me Doで初1位見込みなので、その記念です)

 

むかし、こんなクイズを出してみました。*1

その答えとは、、、Jason Deruloです!回答してくださった方ありがとうございました!

ここで1989年生まれのアーティストでUK1位を獲ったことのある人を並べてみましょう。

 

 

Jess Glynne 5曲 (Rather Be、My Love、Hold My Hand、Not Letting Go、Don't Be So Hard on Yourself)

Jason Derulo 4曲 (In My Head、Don't Wanna Go Home、Talk Dirty、Want to Want Me)

Avicii 2曲 (I Cold Be the One、Wake Me Up)

Labrinth 2曲 (Pass Out、Beneath Your Beautiful)

Lauren Bennett 1曲 (Party Rock Anthem

Dev 1曲 (She Makes Me Wanna)

Chris Brown 1曲 (Turn Up the Music)

Nicky Romero 1曲 (I Could Be the One)

Kiesza 1曲 (Hideaway)

Katy B 1曲 (Turn the Music Louder)

 

あの人がこのリストにいないことをお気づきでしょうか。

そう、あの1989といえばの…

 

 

 

f:id:djk2:20150824154516j:plain

Taylor SwiftはシングルではまだUKで1位を獲ったことがありません。2014年あたりまではイギリスのシングルチャートは入れ替わりが激しく、その分多くの曲が1位を獲得していました。つまり、アメリカと比べると1位を獲得するハードルが低かったということです。それなのに、何故か今まで1位を取れていなかった……。ちなみにアルバムではRedと1989で1位を獲っています。

 

なぜ彼女は今までシングルでUK1位を穫れなかったのでしょうか。その理由を分析していこうと思います。

彼女がUKでシングル1位を穫れていなかった理由

それは人気が無かったからではありません。例えば、直近の1989は2015年の年間アルバムチャート6位で、アメリカ人のなかでは最上位でした。

 

では、なぜシングル1位を取ることが出来ていなかったのか?考えられる理由は下の通りです。

リリース日がアメリカ基準になっていたこと

アルバム発売以降のシングルがUKで1位を獲るのは困難であったこと

(③彼女の初期のスタイルであるカントリーはほぼアメリカでのみ受ける音楽であるということ)

 

 ③の時期は

今回は①と②に重点を置いて説明をしていきます。

 

まず①リリース日がアメリカ基準になっていること

これがあてはまるのは主に、We Are Never Ever Getting Back TogetherとShake It Offです。

かつてはシングルのリリース日がアメリカとイギリスで微妙に違いました。例えば…

See You Again → USリリース11/10 UKリリース12/8

このように、USのリリース日(正確にいうとダウンロード解禁日)とUKのリリース日は一ヶ月ほどずれていることが多いのです。なぜずれているのでしょうか。

それは宣伝のためと思われます。これはどういうことでしょうか?

 

その理由はUKチャートのシステムにあります。

UKシングルチャートのシステムについてです。UKチャートはセールス(ダウンロード、CD、ヴァイナル)とストリーミングに基づくことが分かると思います。

*2

 

それに比べてUSチャート(Hot100)はどうでしょうか。

ranked byから続く文章を見てください。こちらはラジオセールスストリーミングに基づいていることが分かります。こちらのほうが複合的なチャートです。

 

Hot 100は複合的要素から集計しているぶん、ひとつの要素で極端に伸びていてもHot 100の順位では上がりづらい傾向があります。ダウンロードは最大45%、ラジオは最大40%、ストリーミングは最大30%とされています。全ての項目を制した曲こそが最強、というシステムです。

それに比べてUKチャートは基本的には1セールス=150*3ストリーミングで単純な比率である故、セールスを一気に伸ばしてしまえばUSよりは容易に1位を取ることが可能です。*4

 

(具体的にいうと、ダウンロード数4位の曲がUKだと5位になるが、USだと33位になるということです) 

↑(当時、直近のチャート)UK8/21のIntoxicatedとUS8/29のFetty WapのAgainを比較しています。ただし、当時よりはストリーミングの比率が大幅に上がったので、そこまでダウンロードが高くてもUKチャートで順位は上がりづらくなったと思います。

 

つまり、何が言いたいのかというと、2014年あたりまでのUKチャートはセールス(現在はほとんどがダウンロード)の比率が高いチャートであるということです。

そういった販売中心のチャートでは何が起こるかというと、多くの曲がダウンロード解禁された週をピークとして順位を落としていきます

つまり、当時までのUKチャートではダウンロード解禁された週がチャート勝負なのです。

 

リリース(ダウンロード解禁)の約1ヶ月のずれは、ダウンロード解禁初週に一気にダウンロードを集められるようにするためと思われます。人々の「ダウンロードしたい欲望」を1週間分に凝縮してしまおう!ということです。

 

UKでは多くのシングル、特にアルバムの先行シングルがそのような形でリリースされてきました。しかし、テイラーは直近2アルバムの先行シングル、We Are Never Ever Getting Back TogetherとShake It Offでこのような戦略を行っていません。なぜかというと、アメリカでの1位のみを狙ったからです。*5(実際1位を取っています)彼女はそのような宣伝期間を設けなかったうえ、リリース日をアメリカ狙いの日で世界的に揃えたため、UKシングルチャートでは1位を獲り逃してしまいました。テイラーほどの知名度があれば、宣伝期間が無くとも普通に売れたりしますが、この際問題はどちらかというと、リリース日をアメリカと揃えていたこと。そのことによって、ダウンロードされた週の集計が7日間フル(当時アメリカとイギリスのシングルリリース曜日は違う)にされず、週の半ばから集計されることになってしまったのです。

Shake It Offは週の途中から登場し、ものすごい勢いでダウンロード数を伸ばしていきましたが、1位には追いつかず、結果的にその週はDavid GuettaのLovers on the Sunに首位を明け渡しました。その後、何回か首位に迫ったこともありましたが、結局1位をとれずに終わってしまった、ということです。

 

※UKチャートでもじわじわ知名度が上がっていくようなケースがあれば、ピークがダウンロード解禁の週ではない場合もあります。(ストリーミングの影響なのかこういう曲も最近は多いです。ただそれで1位まで行くのは「当時」はかなり至難の技でした。むしろ現在ではストリーミングの再生数に併せて弧を描くようなチャートアクションを取る曲が半数以上です。)

 

※※現在(2015年の8月以降)は楽曲が世界同時リリースされるようになっていて、アメリカのチャート向けの日付でリリースしても、自然とイギリスのチャートにも合うようになっています。

 

もう一つの②アルバム発売以降のシングルがUKで1位を獲るのは困難であることも同じような理屈で理解できるかと思います。

アルバムを持っているのに、もう一回シングルをダウンロードする意義は薄く、そこにプロモーション勝負をかける理由はあまりないのです。たまにビデオなどで曲が注目を集めてそのシングル自体に注目が集まり、上がってくることはあります。が、1位まで行くのは困難ですかね……

先行シングル以外の「アルバム曲」の活かし方として、ダウンロード時代に行われていたプロモーションは新しく客演を加えてしまうということ。Sam SmithのLay Me Down(John Legendを加えた)が良い例です。この曲は1位を獲っています。

テイラーもBad Bloodで客演の付け足し(Kendrick Lamarが参加)をしていましたが、1位は穫れませんでした。2015年当時は今ほどUKではKendrick Lamarの影響力は小さかったと思うので……しかし、2017年のDAMN.では全14曲がイギリスのシングルチャート100位圏内に登場!アルバムチャートではEd Sheeranに負けましたが………

 

ただ、ストリーミングの台頭によりそうせずとも、「アルバム曲」が1位を取ることが増えてきました。Thinking Out Loudはアルバムが飛ぶように売れていた後にアルバム発売後のシングルが首位を獲るというケースがあり、当時「最も遅く1位に登りつめた曲」となりました。当時は異例中の異例と見なされていました。この曲は現在でもイギリスSpotify 200位圏内に入り続ける猛者で、なんと1045日間もイギリスのSpotify 200位圏内に入っています。ただし「1アーティストは3曲以内」という最近できたシングルチャートの新ルールによってイギリスシングルチャートからは外れてしまっています。

(そのルールについて)

 

 

ちなみにThinking Out Loud以降、アルバムのリリースより「後」にイギリスで1位になった曲は4曲あります(Sorry、Love Yourself、Feels、New Rules)

 

・まとめ

 まとめると、テイラーが今までイギリスでシングル1位を取れていなかった理由は、米英のチャート齟齬、テイラーがその齟齬を気にせずアメリカのチャートだけを意識したリリースをしてきたからです。

今回のLook What You Made Me Doでは、世界的にリリース日が統一されたこともあって、UKを意識せずとも以前より断然1位を取りやすくなりました。実際週半ばの時点では今週の1位となっていて今週1位の線が強いそうです。セールスでは圧倒的、ストリーミングではDua LipaのNew Rulesと互角程度の成績みたいですね。

今思うと、チャート1位狙いのために曲を聞ける期間が先延ばしにされるとは、かなりリスナーにとっては好ましくない戦略だったように思います。曲が存在しているのに手元では聴けない?というのは本当にもどかしいと思います。私も日本非対応のTidalで先行リリースされたKanye WestのThe Life of Pabloでそれを体感しました。

そのようなリスナーに我慢をさせるような戦略を取らずとも、チャートで上位を狙いやすくなった環境はリスナー・アーティスト両方にとって良いものだと思います。チャートにそういう複雑な「戦略」が絡むのは、チャートマニアにとっては楽しいかもしれませんが、チャートがリスナーの聴ける / 聴けないを左右するのは、考えものだったのかもしれません。

その意味では、テイラーはチャートを捨ててまで「ファン思い」を取った、そういう見方もできるのかもしれません。

一方で、チケットが欲しいなら、YouTube再生して、一番高いエディションのアルバムを買ってね♪そうしたらチケット購入の優先度上げてあげるよー♪という激しい戦略を最近行っていて、テイラーが「ファン思い」なのかそうでもないかは不明です。

consequenceofsound.net

 

おまけ 

※2015年辺りにUKチャートで見られる「爆上げ」現象について

f:id:djk2:20150826010613p:plain

この爆上げってどうやって起こっているかというと、先週まではストリーミングのみの成績→今週はダウンロードも成績に入って一気に上昇ということです。

UKチャートでは当時ダウンロードがメインなので、人気曲でもストリーミングだと70位くらいまでしか順位が伸びませんが、そこにダウンロードが加われば、人気曲なら上位に行くということです。

ちなみにAll About That Bassはストリーミング「のみ」で初めてトップ40入りした曲でした。 

*1:今思うとこのクイズ、年齢に関するマニアックな知識 × チャートのマニアックな知識が必要で、過剰マニアックですね……

*2:ストリーミングは2014年7月12日付けのチャートから導入。最期のセールス単体の1位はOliver HeldensとBecky HillのGecko (Overdrive)、最初の複合1位はAriana GrandeのProblemです。

*3:2016年までは100

*4:チャリティーシングルがストリーミングでそこまで数字を稼いでいなくてもシングル1位になる理由です

*5:ラジオなど多くの要素があるアメリカのHot100では宣伝期間を設けてダウンロードを集中させるよりも、リリース即ダウンロード開放をしようが、ダウンロードを一極集中しようが、1位を取れる確率はあまり変わらないように思います