チャート・マニア・ラボ

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Hot 100(USシングル) 2018年間チャートを10のポイントで振り返る

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 こんばんは!先週、ビルボードの各種年間チャートが発表されたので、主にHot 100(USシングルチャート)の年間データを参照しながら、今年を振り返ろうと思います!

 

各種年間チャートはこちら↓ (Hot 100年間順位は記事の最後に表で載せています)

Charts - Year End | Billboard

 

・最多エントリーはDrake & Cardi B!(8曲) 

 年間チャートを使って今年「誰が活躍したか?」を見るには……?手段は2つあると思います。まずは、上位に入っている曲を見ることです。年間のトップ10ともなれば、その年の大ヒットということになり、それらの曲を輩出した人たちは「活躍したアーティスト」と言えます。それが複数曲ともなれば、「大活躍」です。 

 もう一つは、誰が多く年間チャートに曲を送り込んだか?という視点です。以下が2018年間チャートに多く曲を送り込んだアーティストのランキングです。

 

8曲:Drake、Cardi B

5曲:Quavo、Offset 

4曲:Post Malone、Takeoff、Imagine Dragons、Khalid、Nicki Minaj、Kendrick Lamar

3曲:Dua Lipa、J Balvin、XXXTENTACION、Marshmello、Halsey、Maroon 5

 

 Drake、Cardi Bはこの2つの条件を満たしています。この2人は多くの曲を年間チャートに送り込んだだけではなく、年間トップ10に入るような「大ヒット」を今年生み出しており(Cardi Bは客演でも活躍)、今年の主役はこの2人だったと言えます。

 特にDrakeは「トップ10に同時に7曲」や「1年間で通算29週1位」など今年チャートに関する記録を多数塗り替え、他の追随を許さない活躍ぶりを見せました。

(参考:Drakeがアルバム“Scorpion”で達成した記録まとめ + 考察・今後の予想 - チャート・マニア・ラボ (CML)

 

 アルバムチャートでは年間1位こそTaylor Swiftに譲りましたが(テイラーは2018年間の集計の最初の週にアルバムをリリースするなど、時期が良かった)、リリース後1週間で10億ストリーミング(世界)を記録するなど、アルバムでもインパクトを残しています。(アルバム年間2位。ほか過去作5個がランクイン。Drakeの各作品はApple Musicで常に一定の人気)

 

 昨年終盤に頭角を現したCardi Bも大活躍。昨年の“Bodak Yellow”に引き続き、自身の”I Like It”、さらには客演で参加した“Girls Like You”でも首位を獲得し、女性ラッパーとしては史上初の「複数曲でのHot 100首位を獲得」を達成。

 さらには累計1位滞在週を11週に伸ばし、こちらも歴代最長となりました (※Iggy Azaleaは“Fancy”のみで7週1位を達成) チャートの成績で、自身が「歴代最高の女性ラッパー」であることを証明したのです。

 

 また、昨年からの活躍ぶりから、今年は客演でも引っ張りだこでした。年間チャートに入った8曲のうち、4曲は他人がメインの曲でした。(“Girls Like You”、“Finesse”、”No Limit”、”MotorSport”) Drakeと同様、アルバムも大ヒットでした(年間6位)

  特大ヒットもあり、ヒットの曲数も多いこの2人が今年の主役でした!

 

・グループでもソロでも活躍?今年も目立つMigos 

 上記の「年間チャートに送り込んだ曲数」ランキングでDrake、Cardi Bの次に入ったのはMigosの二人、QuavoとOffset。

 昨年と同様にグループでも大活躍し、今年のアルバム“Culture Ⅱ”からは3曲が年間チャート入り。そして今年際立ったのはソロでの活躍です。

 昨年からソロで客演を多く務めていたQuavoは“No Brainer”がランクイン。そしてOffsetはソロで2曲がランクイン!昨年のMetro Boomin、21 Savageとのジョイントアルバムからの”Ric Flair Drip”、そしてTygaとの“Taste”が年間チャートにランクインしています。

 

 また、今年はメンバーがそれぞれソロアルバムをリリースし(Offsetは年末にリリース予定)、ソロでの活躍でも見られるようになったMigos。来年以降もラップシーンの中心にいるでしょうか!

 

※Migosはメンバーごとに個別でカウント。“I Get the Bag”はOffsetのヴァースが無いため、この曲はOffsetの曲としてはカウントせず。他の3曲は3人全員のヴァースが揃っています。 

 

・ラップ、R&Bが半分を占める 

 ここまで2つラップ関連の話題が続きましたが、ラップの「支配率」はどれほどのものでしょうか?以下がここ5年のジャンル別割合の推移です。

 

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 ジャンル分けはビルボード準拠です。この5つにジャンル分けされていない曲を「ポップ」としています。複数ジャンルに区分されている曲は「ポップ」にしています(2016年の“Sucker for Pain”など)

 

 ついにHip-Hop / R&Bの勢力は年間チャートの半分まで拡大。昨年から既に最大勢力となっていましたが、この勢いが続けば来年はついに過半数にも達するでしょうか?

 ラジオの規模ではポップスよりも小さいものの、ストリーミングでの爆発的な支持を得て拡大してきたこのジャンル。来年以降もストリーミングで人気をキープし、勢いを保てるでしょうか。

 ここまで述べてきたDrake、Cardi B、Migos以外のHip-Hop / R&BのアーティストではPost Maloneが大活躍。“rockstar”、”Psycho”の2曲は週間のチャートで首位に立ち、年間トップ10入り。さらには他の2曲も比較的上位(“Better Now”=13位 ”I Fall Apart”=39位)に入り、計4曲がランクインしました。アルバムも年間3位と大ヒットでした。

 ほかはHip-Hop /R&B勢で、年間チャートに多くエントリーしたのはKendrick Lamar、Nicki Minaj、Khalidなど。Kendrick Lamarは、自身が監修したBlack Pantherのサントラから3曲(“All the Stars”、”Pray For Me”、“King’s Dead”)、そして昨年のアルバムから“LOVE.”の計4曲が年間チャートにランクインしました。

 Nicki Minajは客演での活躍が際立ち、年間チャートに入った4曲はすべて客演でのものでした(”FEFE”、”MotorSport”、”Big Bank”、”Plain Jane”) 自身のアルバムからのシングル、“Chun-Li”は惜しくもランクインせず。

 Khalidも客演で人気。自身のアルバムからの曲で、昨年からヒットしている“Young Dumb & Broke”以外は他人とのコラボレーションです。

 

 

・少し増加するラテン 

 今年地味に増加したのはラテン。2014年以降、1→1→0→2→4と推移。昨年の“Despacito”のような特大ヒットはなく、この4曲は全て年間チャート下位でのランクインですが、曲数は増えたので定着度は上がったということが言えると思います。

 ラテン曲には分類されていないものの、J Balvin・Bad Bunnyが参加しスペイン語のヴァースも多い”I Like It”は年間で7位に入っています。

 ラテンのラジオはオルタナティブロック系やアダルトコンテンポラリー系と同じ程度の規模があり、ラジオにも一定の規模があります。ただし、それだけでは年間チャートに入るだけの成績を得られることができません。他のラジオ系統の飛び火、またYouTubeでの大ヒット(ラテン曲はYouTubeを得意とする)があると成績が伸びます。

 年間チャートに入った“Te Boté”、“X”、”Dura”、“Mi Gente”は全てYouTubeの再生回数が10億を超えていて、また他のラジオ系統への飛び火もしています(ポップやリズミックなど)

 年間チャート入りするラテン曲の増加は、ラテン以外のリスナーへの浸透度の向上を物語っているのだと思います。

 

 

・ロックはImagine Dragonsの孤軍奮闘 

 ロックは昨年の4曲から、今年は5曲と横ばい。そのうち4曲がImagine Dragonsで、残り一つはPortugal. The Man。Imagine Dragonsの活躍は光りますが、層が薄いということが言えます。年末にヒットしたPanic! At the Discoの“High Hopes”が今年の年間チャートには入らず、来年に持ち越しとなりました。

 

 ロックはストリーミングを苦手とする傾向にあります。今年のロック曲のストリーミングランキングを見てみましょう。


 

 1位―3位が今年の年間チャートに入った“Believer”、”Thunder”、“Feel It Still”が入っていますが、4位は2012年の”Radioactive”、5位は2016年の“Heathens”でした。表にすると……

アーティスト リリース
1 Imagine Dragons Believer 2017
2 Imagine Dragons Thunder 2017
3 Portugal. The Man Feel It Still 2017
4 Imagine Dragons Radioactive 2012
5 twenty one pilots Heathens 2016
6 twenty one pilots Stressed Out 2015
7 Imagine Dragons Whatever It Takes 2017
8 Journey Don't Stop Believin' 1981
9 Queen Bohemian Rhapsody 1975
10 Foster the People Pumped Up Kicks 2010

  このように、ストリーミングで人気のロック曲は、過去曲が多いのです。(映画がヒットした“Bohemian Rhapsody”は特例ですが) このランキングの11位以下でも同じように、過去曲がいくつもランクインしています。(11位には2012年の”Demons”、13位には2004年の“Mr. Brightside”がランクインなど……)

 

 これはほかのジャンルではあまり見られない現象です。例えばストリーミングの帝王、Hip-Hop / R&Bでは、ストリーミング人気トップ50が全曲2016-2018年リリースの曲たち。(2016年の2曲は2016年末にリリースされ、2017年にヒットしたPost Maloneのアルバム“Stoney”からの2曲です) 

 このようにストリーミングがポイント源として機能しづらい以上、ロック曲がヒットするにはラジオでの活躍が必要不可欠になります。ロック系のラジオはそこまで規模が大きくないため、他のラジオ系統をまたぐ「飛び火」ヒットになる必要があります。ロック曲の主な「飛び火」先は、ポップ系やアダルトポップ系ですが、Imagine Dragonsはこの2つの系統での人気を確立しているため、ヒットを飛ばせるのです。

(逆にあまりポップ系を意識しない作風だったtwenty one pilotsが今年ヒットしなかったのもこれが理由だと思います。オルタナティブロック系ラジオでは1位を獲得する一方、ポップ系ラジオでは伸びず……)

 ロック系統のラジオはそこまで規模が大きくないため、ロック系のミュージシャンがヒットを飛ばすには、アダルトポップ系やポップ系のラジオにも合った曲を作る必要があるのです。それをしないのならば、苦手とするストリーミングを克服する必要があります。

 

 

・カントリーの安定感とプラスアルファ 

 密かに増加したのはカントリーです。2015年は4曲、2016年は3曲と一時期年間チャートに入る曲数が減少していましたが、2017年は6曲、そして今年は9曲と回復傾向にあります。

 

 カントリーのラジオ規模はポップスの次に大きく、そのカントリーラジオ人気だけでもかなりのヒットになります。しかしそれだけでは年間チャートに入るのに微妙にポイントが足りないので、何かしらのプラスが必要になります。

 その「プラス」の候補として挙がるのは「ポップ系への飛び火」と「ストリーミング人気」です。カントリーの曲はほぼカントリー系ラジオのみでのヒットが多く、他にはDLぐらいでしかポイントを稼げません。しかし、逆に少しでも他でポイントを得られれば、元のラジオ規模が大きいぶん、ヒットになるのです。

 この2つを抑えて昨年大ヒットになった“Body Like A Back Road”を受けてこの手法でヒットした曲がいくつかあります。

 「自身のキャリアモデルはJustin Bieber」と話す*1Kane Brownはストリーミングで人気。24歳の彼は他のカントリー歌手とは一味違う雰囲気を持っており、さらには他のジャンルの歌手とのタッグも積極的です(Camila CabelloやBecky Gなど) 彼は着実に地位を固めていて、今年自身初のアルバム1位も獲得しました

 Dan + Shayの“Tequila”は他のラジオ系統(アダルトポップなど)にも飛び火し、ロングヒットに。この効果なのか、Dan + Shayはストリーミングでの人気も一定数あります。(今年リリースのアルバムの、収録曲の約半数がSpotifyのランキング圏内に入った。ストリーミングをあまり得意としないカントリーでは今年唯一の実績)

 また、Bebe RexhaとFlorida Georgia Lineの“Meant to Be”は「逆輸入」ソング。ポップスを得意とするBebe RexhaがFlorida Georgia Lineを招いてカントリー風ポップスを作成したころ、本家カントリーのリスナーにも人気に。ポップス、カントリーというラジオの「2強」系統の両方で人気を得たことによりラジオで高い数値を得て大ヒットとなりました。

 

 このように、ここ2年でその「プラスアルファ」の方式が確立されつつあるような印象を受けます。強い基盤を持つカントリー曲の安定したヒットは来年も続くでしょうか。

 

・昨年と比べると女性が上位にランクイン 

 次に男女比というデータを参照したいと思います。以下がここ5年の年間チャートでの男女比の推移です。複数名義が名を連ねている場合は、先頭にいるアーティストを参照、男女混合グループの場合は、ボーカリストが女性の場合は女性としてカウントしています。Clean Banditは男性としてカウントしました。Clean Banditを女性としてカウントしたほうが良いと思う方は、2014年と2017年の「女性」に1追加してください

 

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 男性優位(と言われる)のラップの台頭と時期を同じくして、女性の年間チャートランクインは少し減ってきています。今年も18曲と昨年と同様、女性のエントリーは少ないですが、昨年よりは盛り返している印象があります。

 

 昨年の年間チャートでは上位に入った女性の曲が

7位 The Chainsmokers feat. Halsey – Closer

17位 Zedd & Alessia Cara – Stay

24位 Cardi B – Bodak Yellow

 で、女性が主役の曲は年間24位まで登場しなかったのですが、今年は、

 

4位 Camila Cabello feat. Young Thug – Havana

7位 Cardi B, Bad Bunny & J Balvin – I Like It

15位 Ella Mai – Boo’d Up

16位 Dua Lipa – New Rules

18位 Camila Cabello – Never Be the Same

20位 Ariana Grande – no tears left to cry

24位 Taylor Swift - Delicate

 

 と多くの女性メインの曲が年間上位にランクイン。ほか8位、10位、14位、19位もメインではないですが女性が参加している曲です。「昨年よりも盛り返した印象」は、この女性シンガーがメインの曲の大ヒットに基づきます。

 活躍が際立ったのは今年の主役であるCardi Bのほか、Camila Cabello、Dua Lipa、Ella Mai、Ariana Grandeなど。Camila Cabelloは“Havana”が4位、”Never Be the Same”が18位などデビュー作からのシングルがいずれも大ヒットを記録、ほかアルバムチャートでも1位を獲得し、インパクトを残しました。

 Dua Lipa、Ella Maiのイギリス人女性シンガー二人はいずれも初の年間チャート入りながらも活躍。年間上位に入るヒットを生み出しただけでなく、他シングルもヒット。2人とも複数曲を年間チャートに送り込むことに成功しました。ヒットの後、「定着」することにも成功したのです。

 そして忘れてならないのはAriana Grande、“no tears left to cry”、”God is a woman”などを複数ヒットさせ、アルバムでも好成績を記録。その流れを受けてリリースされた”thank u, next”で自身初のHot 100首位を獲得!この曲は年末のリリースだったため、今年の年間チャートには入りませんでしたが、来年の年間チャートでの上位入りが有力です。(年間トップ10にも入るか?)

 

 今年は女性の曲のエントリー数は少なかったですが、飛躍を果たした女性シンガーも多く、来年以降のさらなる盛り返しにも期待が持てそうです。

 

Rihannaの粘り!14年連続ランクイン 

 ここでは、「誰が何年連続で年間チャートに曲を送り続けているか?」という指標を見ていこうと思います。「いかにコンスタントにヒットを生み出し続けているか」が分かるデータです。

 

14年連続:Rihanna

12年連続:Taylor Swift

10年連続:Drake

9年連続:Nicki Minaj

8年連続:Calvin Harris

6年連続:Ariana Grande

5年連続:Beyoncé

4年連続:Alessia Cara、Charlie Puth、Shawn Mendes、The Weeknd、Justin Bieber、Selena Gomez、Camila Cabello(グループ時代含む)

3年連続:Young Thug、Post Malone、Zedd、Grey、Imagine Dragons、Halsey、Travis Scott、DJ Khaled、Future、Justin Timberlake、Ty Dolla $ign

 

 Rihannaは2017年以降、自身の名義でのシングルリリースが無かったのですが、今年の年間チャートにはNERDとの”Lemon”がランクインし、連続記録を伸ばしました。年間の順位は83位とかなり下位です。この曲はDrakeのリミックスによってチャート滞在終盤に順位が上回ったのですが、もしもそれが無ければこの曲は年間チャートに入らず、Rihannaの連続年間チャート入り記録が途切れていた可能性もあるかもしれませんね……(この曲はピーク36位と週間の順位が低かった)

 また、昨年まではRihannaと同じく13年連続で年間チャートに入り続けていたLil Wayneは今年の年間チャートに入らず。9月末にリリースしたアルバム“The Carter V”がストリーミングで絶大な支持を受け、健在をアピールしましたが、Hot 100の年間チャートにおいては、時期が悪かったことから滑り込みはなりませんでした。

 ちなみに余談ですが、Lil Wayneは、Drakeの”In My Feelings”=年間11位で一部のヴァースを担当しているため、後にこの曲の表記がDrake feat. Lil Wayne (& City Girls)のようになれば、連続年間チャート入りが継続できます。実現の可能性は不明ですが……

 

 Rihannaに次ぐ長期連続ヒットを成し遂げたのはTaylor Swift。12年連続ランクイン。アルバム”reputation”からのシングルは長続きしない「尻すぼみ」曲が続きましたが、最後のシングル”Delicate”がロングヒットとなり、持ち直して年間チャート入りを果たしました。

 それに次ぐのはDrake。Drakeは現在他に追随を許さない「メインストリームの王」であり、年間チャート連続ランクインが今後もかなり続く予感がします。客演も含めてリリースの量が多いこともプラスに働きそうです。

 以下Nicki Minaj、Calvin Harris、Ariana Grande、Beyoncéと続きます。Ariana Grandeは既に”thank u, next”が大ヒット中でほぼ来年の年間チャート入りが確定。7年連続の年間チャート入りがほぼ内定しています。

 また、ラップの台頭などによる客演増加の影響か、3年連続・4年連続で年間チャート入りするアーティストが非常に多いですね。

 昨年、”I'm the One"がHot 100首位曲としては最も大所帯=5人もの名義がいる曲として注目を集めましたが、今後も客演増加による大所帯の傾向は続くでしょうか。

 

・8年連続でランクインのCalvin Harris、しかしジャンルは 

 8年連続でHot 100年間チャート入りを成し遂げたCalvin Harris。Rihannaとの“We Found Love”で年間チャートに初登場して以来、安定してヒットを飛ばし続けています。

 しかしEDMに分類された曲は今年4曲に(昨年の10曲から減少) 昨年はヒットを飛ばしたThe Chainsmokers、Kygoなどの今年の曲がそこまでヒットしなかったことが理由でしょうか。ゴリゴリのEDMのメインストリームが減り、全体的にポップスに寄っていく傾向があるので、ポップスの制作・プロデュースも行えるアーティストたちがこれからは強いのかもしれません。

 今年の年間チャートに入ったCalvin Harris、Zedd、Marshmelloの3人はキャリア初期から大幅なスタイルの転換が感じられます。DJたちがこの先メインストリームで生き残るには「環境への適応力」がキーであると言えそうです。

 

 ちなみにZeddの参謀的存在、GreyはHot 100のエントリーが今まで2曲のみながらも、3年連続で年間チャートに入るという珍しい記録を打ち立てています。これは“Starving”が2016年、2017年と年をまたがるヒットだったことが理由です。

 

・ラジオでかからなくてもヒット? 

 これは少しマニアックな着眼点です。以下は年間チャートに入った曲のうち、週間のラジオチャートに入らなかった曲、つまりラジオ再生数が週間で50位以内に入らなかった曲です。太字にしてある曲はジャンル別のラジオチャート(例:Hip-Hop / R&B Airplayなど)にも入らなかった曲です。

 

2014:She Looks So Perfect、Amnesia(86位) 計2曲

2015:Back to Back、Hit the Quan、Coco、Nasty Freestyle(50位) 計4曲

2016:Tiimmy turner、Really Really、Pop Style(82位) 計3曲

 

2017:Look At Me、Do Re Mi、Slippery、Drowning、Magnolia、Swang、Juju on the Beat、DNA.、Rolex、Tunnel Vision(55位) 計10曲

 

2018:changesOutside Today、Moonlight*2I’m Upset、Te Boté、King’s Dead、Call Out My Name、GUMMO、I Fall Apart、Ric Flair Drip、SAD!(17位) 計11曲

※年間チャートでの順位が低い曲から順番に記載しています

 

 このように2017-2018年でラジオの再生数が少ないながらも年間チャートに入るレベルのヒットになる曲が増加傾向にあります。これらの多くはラップで、ストリーミングが原動力になって年間チャート入りしている曲がほとんどです。(2014年の2曲は両方5 Seconds of Summerの曲で、この2つはダウンロードが原動力)

 

 それぞれの年の最後に記載されている曲は、ラジオ50位以内に入らなかった曲の中で年間順位が最も高い曲なのですが、今年のSAD!は年間17位で「ラジオ抜き」の中では近年最も高い成績を記録していることがわかります

 

 この「ラジオでかからないストリーミングヒット」には2つのパターンがあると思います。1つ目は「人」単位でラジオにかからないケースです。未知の新人という理由もありますが、もしかしたら「危険人物」とみなされてかからない可能性もあります。

 これに当てはまるのはXXXTENTACION(Look At Me、changes、Moonlight、SAD!)、6ix9ine(GUMMO)あたりでしょうか。特にXXXTENTACIONはキャリアを通してラジオの再生数がとても少なく、彼自体があまりラジオで取り上げられなかった、という可能性があります。

 XXXTENTACIONは今年、「暴行歴」などを理由にSpotifyのプレイリストからの削除騒動があり、また6ix9ineもここ数週逮捕騒動によってアルバムのリリースが遅れるなど問題が多発。この2人には少し「扱いづらい」雰囲気があり、その点からラジオ再生数が増えなかった可能性もありそうです。(逆に言えば素行面に不安があって、ラジオのオンエアが稼げなくてもストリーミング「のみ」でヒットを生み出せる時代になったということです)

 

 もう一つのパターンは「曲」単位でラジオにかからないケースです。Drake(I’m Upset)のような超人気アーティストの曲がラジオでかからなったのは「この曲がシングルではなかった」という理由で説明ができると思います。またリリースの量が多く、どれが正式シングルなのか判別しづらいYoungBoy Never Broke Againの“Outside Today”もこのケースに当てはまると思います。

 

 週間なストリーミングのチャートではアルバム内の非シングルが人気を得て、一時的にヒットすることは多いですが、それらの曲は多くの場合シングルでなければ次第に再生数を減らしていき、逆に人気をキープした場合はいつかシングル化されます。

 このようにストリーミングの人気曲もある程度はラジオとの相関があるのですが、上記の太字の曲のようにラジオを「無視」してヒットする曲も最近は増加傾向にあるのです。

 今後、ラジオとストリーミングのヒットはますます乖離していくのか?今後のヒットを観察していく上で要注目のテーマだと思います。ストリーミングのヒットを司るプレイリストの選曲にも注目ですね。

 

おまけ 今年の年間チャート表

 

「昨年」とは昨年の年間チャートにおける順位です。これが書いていない曲は昨年の年間チャートにはいっていない曲です。

ピーク、滞在週数は今年の年間チャート集計期間内における成績です。

 

アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年
1 Drake God's Plan 1 36  
2 Ed Sheeran Perfect 1 46  
3 Bebe Rexha feat. Florida Georgia Line Meant to Be 2 49  
4 Camila Cabello feat. Young Thug Havana 1 33 96
5 Post Malone feat. 21 Savage Rockstar 1 33 56
6 Post Malone feat. Ty Dolla Sign Psycho 1 37  
7 Cardi B, Bad Bunny & J Balvin I Like It 1 31  
8 Zedd, Maren Morris & Grey The Middle 5 40  
9 Drake In My Feelings 1 19  
10 Maroon 5 feat. Cardi B Girls Like You 1 24  
11 Drake Nice for What 1 25  
12 Juice Wrld Lucid Dreams 2 26  
13 Post Malone Better Now 3 28  
14 Bruno Mars feat. Cardi B Finesse 3 23  
15 Ella Mai Boo'd Up 5 32  
16 Dua Lipa New Rules 6 33  
17 XXXTentacion Sad! 1 36  
18 Camila Cabello Never Be the Same 6 37  
19 Khalid & Normani Love Lies 9 38  
20 Ariana Grande No Tears Left to Cry 3 27  
21 Bazzi Mine 11 34  
22 Imagine Dragons Thunder 4 24 51
23 BlocBoy JB feat. Drake Look Alive 5 25  
24 Taylor Swift Delicate 12 35  
25 Lil Baby & Drake Yes Indeed 6 26  
26 Marshmello & Anne-Marie Friends 11 29  
27 Halsey Bad at Love 5 23  
28 Tyga feat. Offset Taste 8 24  
29 NF Let You Down 12 24  
30 G-Eazy feat. ASAP Rocky & Cardi B No Limit 4 20  
31 6ix9ine feat. Nicki Minaj & Murda Beatz Fefe 3 16  
32 Dan + Shay Tequila 21 35  
33 Portugal. The Man Feel It Still 8 24 45
34 Migos, Nicki Minaj & Cardi B MotorSport 6 20  
35 Lauv I Like Me Better 27 39  
36 5 Seconds of Summer Youngblood 7 23  
37 Imagine Dragons Whatever It Takes 12 26  
38 Offset & Metro Boomin Ric Flair Drip 13 29  
39 Post Malone I Fall Apart 16 23  
40 The Weeknd & Kendrick Lamar Pray for Me 7 20  
41 Selena Gomez Back to You 18 26  
42 Travis Scott Sicko Mode 2 14  
43 Migos feat. Drake Walk It Talk It 10 22  
44 Lil Pump Gucci Gang 3 15  
45 G-Eazy & Halsey Him & I 14 20  
46 Shawn Mendes In My Blood 11 23  
47 Kendrick Lamar & SZA All the Stars 7 21  
48 Migos Stir Fry 8 21  
49 Sam Smith Too Good at Goodbyes 6 15 77
50 Kendrick Lamar feat. Zacari Love 11 20  
アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年
51 Childish Gambino This Is America 1 17  
52 Drake Nonstop 2 19  
53 Kane Brown Heaven 15 26  
54 Cardi B Bodak Yellow 5 16 24
55 Lil Dicky feat. Chris Brown Freaky Friday 8 20  
56 6ix9ine Gummo 12 20  
57 Rich the Kid Plug Walk 13 20  
58 Maroon 5 Wait 24 23  
59 Cardi B Be Careful 11 20  
60 Selena Gomez & Marshmello Wolves 20 20  
61 Cardi B feat. 21 Savage Bartier Cardi 14 20  
62 Ariana Grande God Is a Woman 8 17  
63 YG feat. 2 Chainz, Nicki Minaj & Big Sean Big Bank 16 23  
64 Demi Lovato Sorry Not Sorry 9 18 47
65 Charlie Puth How Long 21 19  
66 Max feat. Gnash Lights Down Low 20 23  
67 Khalid Young Dumb & Broke 18 19 78
68 Calvin Harris & Dua Lipa One Kiss 26 21  
69 Imagine Dragons Natural 13 16  
70 Jason Aldean You Make It Easy 28 20  
71 Ed Sheeran Shape of You 13 15 1
72 Gucci Mane feat. Migos I Get the Bag 14 15 93
73 DJ Khaled feat. Justin Bieber, Chance the Rapper & Quavo No Brainer 5 15  
74 ASAP Ferg feat. Nicki Minaj Plain Jane 26 18  
75 Miguel feat. Travis Scott Sky Walker 29 19  
76 Thomas Rhett Marry Me 30 20  
77 Benny Blanco, Halsey & Khalid Eastside 18 17  
78 The Weeknd Call Out My Name 4 18  
79 Jay Rock, Kendrick Lamar, Future & James Blake King's Dead 21 20  
80 Marshmello & Bastille Happier 3 12  
81 Nio García, Darell & Casper Mágico feat. Bad Bunny, Nicky Jam & Ozuna Te Boté 36 21  
82 Florida Georgia Line Simple 32 20  
83 N.E.R.D & Rihanna Lemon 36 21  
84 Logic feat. Alessia Cara & Khalid 1-800-273-8255 8 14 31
85 Justin Timberlake feat. Chris Stapleton Say Something 9 16  
86 Drake I'm Upset 7 16  
87 Kenny Chesney Get Along 22 21  
88 XXXTentacion Moonlight 13 20  
89 Maroon 5 feat. SZA What Lovers Do 9 11 97
90 Nicky Jam & J Balvin X 41 21  
91 YoungBoy Never Broke Again Outside Today 31 19  
92 Ella Mai Trip 11 14  
93 Daddy Yankee Dura 43 21  
94 XXXTentacion Changes 18 20  
95 Brett Young Mercy 29 20  
96 Luke Combs One Number Away 34 20  
97 Rae Sremmurd feat. Juicy J Powerglide 28 17  
98 Dua Lipa IDGAF 49 23  
99 J Balvin & Willy William feat. Beyoncé Mi Gente 10 11 50
100 Imagine Dragons Believer 16 12 9
アーティスト 曲名 ピーク 週数 昨年

 

 

 

 

 

*1:

Kane Brown Interview: Overcoming Poverty and Prejudice To Become The Biggest New Thing in Country | Billboard

*2:Hot 100滞在時はジャンル別のラジオでもかかっていなかった。Hot 100を外れた後にラジオでオンエア