チャート・マニア・ラボ

音楽チャート・ポップス研究者(自称) ポップス音楽と食べることが好きなオタク

Billboard 動向・10月号 【販売戦略の行く末 + オルタナティブ系 など】

 

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 今月もありがとうございます! ↑の画像にバリエーションがあるように、今月は比較的動いた月かもしれません。

 

 

 

1 勢いが止まらない販売戦略

 

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 今月も販売戦略がHot 100首位獲得に大きく関与しました。10月の1週目は”Dynamite”、2週目は”Franchise”、3週目は”Savage Love”と販売戦略を使った曲が1位に。残り2週は一般的なヒット“Mood”でした。

 

 このうち、”Franchise”は事前の予想では1位ではなかったこともあり、意外がられました。(Complexはこの1位獲得を分析する記事で、ファンの間でも反応が微妙だった曲としています) ただ実は上記の曲のうち、唯一Rolling Stone Charts*1で1位を取っており、ストリーミングは優秀といえば優秀です。(ただ過去曲と比べると微妙) 他の曲はラジオでのヒット度が大きく、その恩恵を受けている節があるため、RS Chartsで1位でなくともHot 100では首位を獲得できます。

 ただ“Franchise”はストリーミングでも勢いを失い、2週目に25位まで落下。週の途中のリミックスが無ければもっと落ちていたかも?この落下は”Savage Mode II”の曲が上位に大量登場した煽りを受けたという部分もあります。

 

(1位からの落下幅が大きい曲)

1-34:6ix9ine & Nicki Minaj – TROLLZ (2020)

1-25:Travis Scott feat. Young Thug & M.I.A. – Franchise (2020)

1-17:The Weeknd – Heartless (2019)

1-15:Billy Preston – Nothing from Nothing (1974)

1-15:Dionne Warwicke & The Spinners – Then Came You (1974)

1-13:Ariana Grande & Justin Bieber – Stuck With U (2020)

※1-圏外:Mariah Carey – All I Want for Christmas Is You (2020)

 

 とはいえこの曲、実は以前の曲よりもラジオが好調で、意外とうまくいく可能性も?2週目に25位に落下した次の週、ポイントはマイナスながらも順位は23位に上がっています。ストリーミングでは既に厳しいですが、ラジオヒットという新たな可能性を切り開くかもしれません。(Travis Scottはストリーミングの反応と比較するとラジオのオンエアに恵まれない傾向にある)

 

~補足~

M.I.A.の記録

 イギリス籍のラッパー、M.I.A.は初のHot 100首位、かつ3曲目のトップ10入りを達成。その3曲のヒットが2008年の”Paper Planes”、2012年のMadonnaの客演を務めた”Give Me All Your Luvin’”と2020年の“Franchise”とそれぞれDecadeが異なっており、ヒットの数こそ少ないものの、3Decade連続でのトップ10入りという記録を達成。総勢11人/組目の記録で、北米以外のアーティストでは初。(この2000~2020の期間では、という意味)

 彼女はHot 100エントリー数も4つのみと少なめ。(もう一つはスラムドッグ・ミリオネアのサントラからの”O…Saya” = 93位) 他に“Paper Planes”を大胆にサンプリングしたT.I.らの”Swagger Like Us”=Hot 100で5位というヒットもありますが、この曲では彼女はクレジットされていません

 

・“Kawasaki”

 この曲は“Kawasaki”というワードが含まれていますが、Geniusで調べる限りこのワードが含まれている曲では、初の首位&初のトップ10のようです。次点は11位だった”Taki Taki“(ただこの曲ではあまり好ましい使われ方をされていない)

 

・”Savage Love”

 もう一つの販売戦略首位曲、“Savage Love”について。BTSは”Dynamite“と連続で首位を獲得し、史上14人/組目の自身の曲同士でHot 100首位が交代したアーティストに。 また、この2曲で1位&2位同時独占を達成。(史上21人/組目) 

 だしラジオ等でオンエアされているバージョンは基本的にオリジナル版なので、次の週以降はクレジットから外されてしまいました。(ただし1位の記録は残る)

 Jason Deruloは”Watcha Say”以来、11年ぶり2回目の首位。M.I.A.の項目で述べた3Decade連続のトップ10を彼も達成しています。

 そしてこの曲を元々作り上げたJawsh 685は初のHot 100首位。もともと彼が作っていたインスト音源がTikTokで流行→それに目を付けたJason Deruloが歌を乗せたら大ヒット、という流れなのである意味2回のリミックスで躍進を果たしているような曲です。

 彼は2013年のLorde以来、7年ぶりのNZ出身のHot 100首位獲得に。またシンガー、ラッパー、グループではない、いわゆる「プロデューサー」が首位を獲得するのは2017年のDJ Khaledの”I’m the One”以来です。

 

 

2 その販売戦略の今後?

 このように販売戦略に基づく1位獲得が相次ぐ中、ビルボードはこの状況をまとめたレポートをリリース。

Why Have There Been So Many No. 1 Debuts This Year on the Hot 100? | Billboard

 

 この記事では1位デビューの変遷を追いつつ、昨年までは珍しい現象だったと説明。そして今年は昨年と比較して、販売戦略が増加したことにより1位デビューが頻発したと説明しています。そして記事のラストには気になるコメントが。

Is this just the new normal for the Hot 100's top spot? Perhaps, though if history has taught us anything in this respect, it's to not expect this or indeed any chart trend to just continue indefinitely; sooner or later, some change will come that alters a key variable in the race for No. 1, and mucks up the whole equation.

 

 これは相次ぐ販売戦略による1位を制限するルール変更を示唆していると考えて良いでしょう。

 ビルボードはそれまで主に用いられていた、物理媒体+DLのコンビ販売を制限する(=実物が発送されるまで集計されない)というルール変更を今年8月に行いましたが、全く歯止めが効かず、この現象は引き続き見られました。新ルールはこの二の舞になることを防げるでしょうか。

 考えられそうなのは、iTunes等を通さず、ウェブサイトなどで直接ファンに購入を促す、D2C(Direct to Customer)を集計しないことでしょうか。現在はこれが強力なセールスの源とされています。Rolling Stone Chartsでは既にD2Cは対象外で、販売戦略を使った曲が1位になる頻度がかなり少ないです。

 また、セールスのポイント比率を落とすことも有力な策でしょう。個人的にはこちらの方が根本的な解決につながると考えています。

 実は、Hot 100は他の媒体と比べるとセールスがやや高めに設定されていると考えられています。この比率をビルボードは公表していないので、推測にはなりますが Pulse Music Boardにある情報を参考にすると……

 

Hot 100:1セールス = 250再生(有料会員) = 375再生(無料会員)

RS Charts:1セールス = 120再生(有料会員) = 360再生(無料会員)

RIAA*2:1セールス = 150再生

 

 と、他の媒体と比べてセールスを2倍くらい高く評価していることが伺えます。そう考えると、セールスの比率を直す意義はある気がするのですが、果たして……?

 

 ちなみにビルボードが新設したGlobal 200では1セールス = 200再生(有料会員) = 900再生(無料会員)で構成されています。こちらもセールスに比重が寄っています。この比率の恩恵を受けてなのか、LiSAの「炎」が10/31付のランキングで、チャート誕生以降(先月~)最大のDL(9.7万)を記録して8位に入りました。セールスの比重の高さを活かし、上位進出を果たす日本の曲が今後も出るかもしれません。

 

 

3 ネクストPost Malone?24kGoldnとiann diorの可能性?

 

 ここでは販売戦略「ではない」形で1位を獲得した、24kGoldnとiann diorの”Mood”について触れていきます。TikTokでも人気があったとされる*3この曲は、イギリス、ドイツ、カナダなどで先に首位を獲得しており、世界的に大ヒットとなっています。

 彼らは2人ともラッパーと表記されることが多いものの、この曲はジャンルレスなポップのような雰囲気を持ちます。ポップ、R&Bオルタナティブの成分も感じます。

 この曲はラジオでポップ ≧ リズミック > オルタナティブ > アダルトポップの順で人気。また、RMS*4ではかからず、オルタナティブという珍しい系統でかかっているという点で、この曲はPost Maloneの“Circles”に似ています。ジャンルの枠を取っ払ったスタイルで世界的な存在となった彼のように、24kGoldnとiann diorの2人も今後規模の大きい存在になっていくでしょうか。ちなみにそれぞれ19歳、21歳と若いです。

 

◇Hot 100首位曲でオルタナティブ系ラジオに入った曲(2010年~)

・24kGoldn feat. iann dior – Mood (11位) / 2020年

・Post Malone – Circles (23位) / 2019年

・Billie Eilish – bad guy (1位) / 2019年

・Magic! – Rude (19位) / 2014年

・Lorde – Royals (1位) / 2013年

・Macklemore & Ryan Lewis feat. Wanz – Thrift Shop (14位) / 2013年

・Gotye feat. Kimbra – Somebody That I Used to Know (1位) / 2012年

・fun. feat. Janelle Monáe – We Are Young (1位) / 2012年

・Adele – Set Fire to the Rain (31位) / 2012年

・Adele – Rolling in the Deep (21位) / 2011年

 

 Katy Perry(”I Kissed A Girl”)やMaroon 5(Harder To Breathe”)など、ブレイクのきっかけとなった曲はオルタナティブ系ラジオでかかっていたものの、その後は縁が無くなるパターンもあります。Post Maloneはある程度キャリアを築いてからオルタナティブ系ラジオでかかったので、その逆。

 

 

4 その他のトップ 10 + 今後のトップ10候補

 

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 その他のトップ10、また今後のトップ10候補を見ていきます。

 

・Justin Bieber feat. Chance the Rapper – Holy

 初週に3位デビュー。Justin Bieberにとって20曲目のトップ10、Chance the Rapperにとっては3曲目でその全てがJustin Bieberとのコラボ。

 2週目にはトップ10から外れ、尻すぼみになっていく近年大物アクトにありがちな動きを見せるかな?と思っていましたが、10月の最終週にトップ10復帰。その週リリースされた”Lonely”と合わせてTVで披露された効果。ラジオで好調、ストリーミングでも悪くはない成績なので、“Yummy”よりは上手く行きそうな気配。

 

・Gabby Barett feat. Charlie Puth - I Hope

 カントリー系ラジオでのオンエアから始まった長旅を続ける曲。現在Hot 100滞在43週目。10月に入ってからはラジオ1位も獲得することに成功。現在最も人気があるラジオ系統はアダルトポップ。このラジオでの粘りは果たしていつまで続くのか……

 今月に入ってから、リミックス版がメインと見なされ、Charlie Puthのクレジットが追加されました。

 

・The Weeknd - Blinding Lights

 先月“Before You Go”に奪われたラジオ1位の座を取り返し、今月3週間ラジオ1位に。歴代最長のラジオ1位滞在を26週まで伸ばしました。(次点は18週)

 またトップ5滞在記録も歴代最長の30週まで伸ばしています。ビルボードがルールにテコ入れをしない限り、他の各種ロングヒットも破っていきそうです。トップ10滞在最長記録まではあと3週。

39週:Post Malone – Circles

36週:The Weeknd – Blinding Lights

33週:Shape of You / Girls Like You / Sunflower

 

・Internet Money & Gunna feat. Don Toliver & NAV – Lemonade *5

 TikTokでの人気も追い風となり、ヒット。最近ではむしろ珍しく感じる「上昇しての」トップ10入り。Gunna以外は初のトップ10。

 Roddy Ricchリミックスがリリースされた10/17は”Savage Mode II”の曲に阻まれトップ10入りならず。翌週はポイントを少し落としたものの、その”Savage Mode II”の2曲がトップ10圏外に落ちたことにより、代わりにトップ10へ。不思議な形でのトップ10入り。

 

◇トップ10候補

 考えられるのはPop Smokeの2曲、”For the Night”と”What You Know Bout Love”です。両方ともストリーミングの好調に加え、ラジオでもオンエアが開始。前者はラップ系、後者はポップ系のラジオが中心。

 ほかラジオで好調の”Kings & Queens”や”ily”にも多少の芽はありそうですが、ラジオ以外のポイントが足りなさそうなのがネック。

 ほか来月に入ると、クリスマス曲が上位に増えてトップ10の難易度が上がる可能性もあります。(ただの個人的な邪推ですが、一応過去曲を嫌う傾向のあるビルボードが何らかの策を用意する可能性も少しは考えられるかもしれません?)

 

 

5 今月のアルバムチャート

 

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 今月のアルバムチャートは盛り上がっていたと思います。特に2週目と3週目は注目作品が多かったです。

 今月一番の成績を残したのは21 SavageとMetro Boominによる”Savage Mode II”。前作が長く愛されていた作品だったこともあり、今作もストリーミングで絶大な支持を受け、Hot 100には全曲が登場しました。うち”Runnin”と”Mr. Right Now”の2曲はトップ10。両者とも2度目のアルバム1位です。この週競り合ったBLACKPINKに関しては、後の項目で述べます。

 

 この週と同様に盛り上がったのは2週目。1位を獲得したのはMachine Gun Kelly。初のアルバム1位。彼はラッパーとして分類されるも、オンエアされるラジオはオルタナティブ系。“Bloody Valentine”はこの系統の2位まで到達。このアルバムの内容も、エモラップという領域を飛び越え、もはやポップパンクそのものといった感じです。ちなみに3章で述べたiann diorがこの作品に参加しています。

 2位はSuperM。セールスとストリーミングの両方を稼いだ1位と3位(Joji)とは違い、ストリーミングからの売上は0.3万枚のみ。強固なファンベースの元、セールスのパワーを見せつけ10万超えを果たしましたが、前作のようにアルバム1位獲得ならず。

 

 3位はJoji。個人的にはアルバム1位をかなり期待していたのですが、惜しくもならず。ただ前作の売上を大幅に更新することに成功しています。(5.7万→9.2万)

 グッズ等でセールスを稼ぎつつ、ストリーミングでも存在感を示したという点はMachine Gun Kellyと似ていますが、違った点はApple Musicでの人気。Machine Gun KellyはSpotifyAppleの両方で好成績(初日にほとんどトップ100)でしたが、JojiはSpotifyでのみ好成績。(Spotifyでは全曲トップ100、Appleではトップ100に0曲)

 JojiのジャンルはR&Bと表記されることが多いですが、一般的にR&Bが人気なApple Musicで人気が無いということは、おそらくR&Bファンでは無い層に支持されていると推測されます。それはラジオのオンエア系統に表れており、彼のこのアルバムからのシングルはポップ(”Your Man”)やオルタナティブ(”Daylight”)でオンエアされているようです。

 またJojiはシングルでも惜しい成績を残しました。この週、Hot 100には1つも入りませんでしたが、101~125位相当のBubbling Underには5曲がランクイン。彼はこれまでHot 100入りした曲よりもBubbling Under止まりだった曲の方が多いです。(3曲と5曲)

 

 

6 Fleetwood現象

 

 今月最も目を引いたかもしれないテーマがFleetwood Macの“Dreams”の人気。TikTok経由で人気に火がつくと、ストリーミングやiTunesで大きく浮上。43年ぶりのHot 100再登場を果たしました。順位は21位→12位→21位と推移。トップ10には手が届きませんでしたが、見事な大健闘でした。アルバムチャートでは7位まで到達。またストリーミングでは、この曲以外のFleetwood Macの曲がランクインを果たしていました。

 ちなみに2018年のQueenの”Bohemian Rhapsody”は33位→40位→50位と推移していたので、それよりも好成績を残したということになります。アルバムチャートではQueenの方が好成績だったので、どっちの注目度が大きいかはまた別の話ですが。

 

 この曲が普通のTikTokヒットと違う点は特定のビデオがヒットの要因として挙げられている点だと思います。後にTikTokでも人気を得ましたが、ヒットの後追いのような形なので、ほぼこのビデオが単独で再浮上のきっかけになったという印象が強いです。つまりそのビデオがミュージックビデオのような効果が果たし、ヒットにつながったという感覚かなと思っています。

 

 彼らはもともとブレイク前から、アルバムチャートトップ50の定番で(この曲も収録される“Rumors”が)、かつ“Dreams”は何回かUSのSpotify圏内に入るなど、既に「アンセム」としては評価が確立されていました。

 このように元からFleetwood Macをヒットさせる下地が整っていたことが、小さなきっかけで大きなヒットになった要因かと思います。

 

 『ソーシャルメディアの生態系』という本には、人工頭脳学者のフランシス・ハイリゲンが語るミームがヒットする要因に関する記述があります。そこでは「ミームの重要性「独自性」「真新しさ」以外に、宿主の中にすでに存在する認識の枠組みにミームが適合するかという点だ」と説明されているのですが、この「枠組み」に当てはまるのは43年経ってなお高い、このアルバムへの評価なのかなと感じました。

(逆にこのような音楽としての枠組みに当てはまらない、「TikTokダンス用BGM」のような曲はTikTokで大ヒットしようとも、ストリーミングでのヒットにはならないのかもしれません)

 

 

7 Alt TikTok

 

 今月のTikTokヒットで印象的だったのは“Sofia”。昨年のアルバムが高く評価されるなど、基本的に「オルタナティブな批評」というフィールドで活躍していたClairoがTikTokの力を借りてHot 100初登場を果たしました。ちなみにClairoが昨年主に評価されていた楽曲は”Bags”でした。*6

  この曲は主にオルタナティブ系ラジオでオンエアされ始めたのですが、最近のオルタナティブ系ラジオのオンエア曲を見るとTikTokに関係するものがいくつか見られます。

 

(10/31 Alternative Airplay)

4 Wallows feat. Clairo – Are You Bored Yet?

8 Peach Tree Rascals – Mariposa

10 Royal & The Serpent – Overwhelmed

11 24kGoldn feat. iann dior – Mood

29 jxdn – So What! (関連曲というか、彼は有名なTikToker)

32 Ritt Momney – Put Your Records On

※“Sofia”はこの週の時点でまだ40位圏外、次週以降ランクイン見込み

 

 他にもTikTokがきっかけで注目された経歴を持つBeabadoobeeやGus Dappertonもランクインしています。またAshnikkoの“Daisy”がオルタナティブ系ラジオでオンエアが始まったという情報もあります。

 

 従来はリズミカルで踊りやすい曲がいわゆるTikTok曲という印象が強かったですが、”death bed”や”Supalonely”等のヒットを潮目に、今や「隠れたオルタナティブ曲」を見つけるメディアとしても機能し始めています。

 このTikTok発のオルタナティブ系ヒットの増加には、Alt TikTokという文化が関係しているのかもしれません。豪邸などを背景に、リズミカルな曲でダンスチャレンジをする一般的なTikToker = Straight TikTokとは対照的に、挑戦的な選曲・動画を配信する人物や文化圏を指すワードです。別名Elite TikTok。Straightの対義語なのでGay TikTokと呼ばれることもあるらしいです。

 このワードについてPitchforkやRolling Stoneが記事を書いたこともあります。(どちらも趣旨としては、Alt TikTokという文化を紹介しつつ、そのAlt TikTok発の曲をStraight TikTokが使ったら反発を買ったというもの)

Why Cringey Remixer Tiagz Is the Most Hated Producer on TikTok | Pitchfork

Alt TikTok Is Music's Latest Scene, and Straight TikTok Has Noticed - Rolling Stone

 

 TikTok発のヒットは、TikTok内の再生数と必ずしも一致しないことも多いですが、このTikTokオルタナティブ系ヒットの場合は、TikTok内再生数規模が小さいこともよくあります。(”Sofia"はそう、Tokboardのランキングであまり上位には進出していないながらもHot 100入りを成し遂げた) 同じTikTok内でも、再生数に繋がりやすい層と、繋がりにくい層が存在するのかもしれません。

 

◇その他のTikTokヒット

 

・Sada Baby feat. Nicki Minaj - Whole Lotta Choppas

 TikTokで注目を集め、Hot 100入り。1週間の滞在で終わるも、TikTokでの人気が落ち着いた後にNicki Minajリミックスをリリース。これで大きく注目を集め、最初のエントリーよりもはるかに高い35位でHot 100再登場を果たしました。

 ちなみにこの曲でNicki MinajはHot 100総エントリー数を113まで伸ばし、Taylor Swiftに追いつきHot 100エントリー数が女性最多タイになりました。

 

・YFN Lucci – Wet (She Got That…)

 TikTokのヒットから遅れること約3ヶ月、ラジオヒットによりHot 100入り

 

・Larray - Canceled

 TikTokerが他の同業者をディスる曲が注目を集め、YouTubeで週間1位を獲得。この効果でHot 100入りを果たす。現在ヒットを飛ばすInternet Moneyがプロデュースも、他ストリーミングでは存在感希薄

 ネット発セレブリティーのHot 100入りと言えば、2017年のJake Paul周りの楽曲を連想しました。

 

・Metro Boomin feat. Gunna – Space Cadet

 TikTokのヒットのタイミングが、そのアーティストの新作リリース時期と重なり、その相乗効果なのかストリーミングでもランキングに入るという動きを見せました。この動きは先月のTaylor Swift – Love Storyと完全に重なります。

 

 

8 BLACKPINK

 今月の注目アクト、BLACKPINKについて書いていきます。英語圏アーティストとのコラボ+初アルバムで層の拡大に挑んだ彼女ら。競合が厳しく、アルバムチャート2位でしたが、11万とアルバム1位クラスの数字を獲得しました。

 前の週に2位だったK-PopグループのSuperMはストリーミングはが0.3万枚に対して、BLACKPINKは2.6万枚相当の数字を獲得し、ストリーミングでも存在感を示しました (BLACKPINKの方の曲数が少ないながらも)

 Spotifyではかなりの成績。Savage Mode IIの曲と競合しながら、初日のランキングでは全曲が61位以上に収まりました。Globalだと全曲25位以上だったので、初アルバムが及ぼした影響力は世界的に大きかったようです。

 BTSの前アルバム曲はSpotifyのGlobalで23位―81位のランクイン(新規追加曲)、これに対してBLACKPINKはトップ10圏内4曲を含む、全曲がトップ25と考えると勢いのすごさが分かるかと思います。

 このように初アルバムは成功に終わったと言えますが、“Ice Cream”も既にラジオのオンエアが落ちるなど、USでのシングルヒットは不発に終わったので、次の課題はそこですかね。

 

 

9 滞在が短い曲たち

 

 滞在が短い曲を取り上げていきます。まずは滞在が10週以下だった曲たち。

Maroon 5 – Nobody’s Love (🗻41位 /⏰10週)

Calvin Harris & The Weeknd – Over Now (🗻38位 /⏰5週)

Juice WRLD & The Weeknd – Smile (🗻8位 /⏰8週) ※のちに再登場し、10週まで滞在が伸びる

 

 Maroon 5は2018年の”Girls Like You”がラジオで特大ヒット。それに続く2019~2020年の“Memories”も成功させたので、ラジオでは外さないアクトのような印象がありましたが、今回のシングルは不発に。トップ40を逃したのは、2015年のシングル”Feelings”以来

 Calvin HarrisとThe Weekndはラジオヒットの名手同士のコラボということもあり、初週から注目を集めトップ40圏内に登場。ただその後はストリーミング、ラジオともに注目が続かず、わずか5週で外れるという結果に。プロデューサー+The Weekndの組み合わせで、かつ高順位デビュー → 尻すぼみという展開は、Gesaffelsteinとの“Lost in the Fire”を思い出します。

 Juice WRLDとThe Weekndの“Smile”が短期滞在に終わったのは単純にラジオでオンエアされなかったからです。逆にその位置づけのシングルなのにトップ10入りしていたことを称えるべきだと思います。

 

 次に、20週には到達したものの「思ったよりは」滞在が短かった曲。

 

Lady Gaga & Ariana Grande – Rain On Me (🗻1位 /⏰20週)

 1位デビューも、そこまでは長くもたず20週きっかりで外れる。一般的な1位としては短い滞在なのですが、他の販売戦略1位曲が20週も持っていないことを考えると、そこまで悪くはない成績な気がします。VMAなど、リリース以降も注目度はありました。

 

・Megan Thee Stallion feat. Beyoncé - Savage (🗻1位 /⏰28週)

 こちらもやや短い滞在。5月の“Say So”との首位争いが大きくチャートを盛り上げていましたが、”Say So”は38週滞在、こちらは28週滞在です。

  “Savage”が主にオンエアされていたラップ系ラジオ(リズミックやRMS)は入れ替わりが激しく、ヒット曲もすぐに他と入れ替わるため、ラジオが大きい割合を占めるHot 100でのロングヒットは厳しいです。また、入れ替わりが遅くHot 100上でのロングヒットの因子になりやすいアダルトポップ系とラップの相性が悪いことも痛いですね。

 これが理由でDrakeクラスでもHot 100滞在はそこまで長くないことも多いです。Post Maloneは主にオンエアされているのがポップ系なので、滞在は長いです。

 

 

10 その他の曲の短評

 

・Anitta, Cardi B & Myke Towers - Me Gusta

 ブラジルのスター、Anitta初のHot 100。彼女は普段ポルトガル語*7で歌っていますが、この曲ではスペイン語と英語で歌っています。グローバルヒットを目指してスペイン語歌唱に挑戦したことは過去にもありました。(J. Balvinとの“Downtown”)

 

・Maren Morris - The Bones

 歴代で74曲目の滞在が1年に到達した曲。カントリー曲では9曲目で、いずれもポップ系やアダルトポップ系への飛び火を果たした曲たちです。これらの曲はポップ系よりもアダルトポップ系の成績が高い傾向にあります。Gabby Barrettの“I Hope”も近いうちにこのリストに加わるでしょう。

 

・LeAnn Rimes – How Do I Live:69週(1998)

・Faith Hill – Breathe:53週(2000)

・Faith Hill – The Way You Love Me:56週(2001)

Carrie Underwood – Before He Cheats:64週(2007)

Lady Antebellum *8 – Need You Now:60週(2010)

・The Band Perry – If I Die Young:53週(2011)

・Florida Georgia Line feat. Nelly – Cruise:53週(2013)

・Bebe Rexha & Florida Georgia Line – Meant To Be:52週(2018)

・Maren Morris – The Bones:52週(2020)

 

 

・Ashe feat. Niall Horan - Moral of the Story

 TikTokでブレイクし、ストリーミングで人気を得て3月にHot 100入り。当時は2週でチャートから外れるも、その後じわじわとラジオヒットとなり、7ヶ月ぶりにHot 100再登場。ストリーミングでのヒットとラジオヒットにギャップがある、という現代にありがちなケースの一つです。

 また、シングル化に伴いNiall Horanのクレジットが追加されています。

 

・Doja Cat feat. Nicki Minaj - Say So

 ピーク1位、滞在38週という成績でチャートを後に。ストリーミングで勢いを付け、リミックスのセールス増で1位獲得。そしてピーク後はラジオで粘りも発揮し、3指標全てを味方に付けた印象のある1曲。

 Nicki Minajが悲願のHot 100首位を獲得したことでも印象深い1曲。もちろん、Doja Catもこの曲を機に注目度が向上し、客演等の出番が増加しています。またDr. Lukeが”Dark Horse”以来、6年ぶりのHot 100首位を獲得したという側面もあります。

 

・Lil Mosey - Blueberry Faygo

 (🗻8位 /⏰33週)という成績で外れる。TikTokでの人気もあり、Lil Moseyキャリア最大のヒットに。リズミック系で首位、RMSで5位、ポップ系で13位と広く人気を獲得していました。

 

・Why Don’t We - Fallin’

 販売戦略の小規模版。CDの販売を行い、グループ初のHot 100入りを達成。しかもトップ40圏内(37位) その後1週でチャートを後にしましたが、ラジオでは浮上中のため、再登場の芽もありそう。Kanye Westの”Black Skinhead”をサンプリングした意欲作。

 

・Lil Baby & 42 Dugg - We Paid

 7月にはほぼストリーミングのパワーのみでトップ10入りを達成。そこからラジオでオンエアされるも、ストリーミングでのピークほど勢いが出ず、中位に留まるというLil Babyにありがちなパターンのヒット。こうしてピークがズレることが曲のロングヒット化に一役買っているような側面もありますが、もしストリーミングとラジオが一致すればより順位が高くなるのでは……という気持ちもあります。

 

・Morgan Wallen - Chasin’ You

 先月リリースの”7 Summers”がいきなりトップ10に登場し、驚きを提供したMorgan Wallen。その彼の前シングルが、(🗻16位 /⏰36週)という好成績を残してチャートを後に。一般的なカントリー曲のチャート成績は、ピーク40位前後、滞在20週程度なので、彼が現行カントリーシーンで飛び抜けた存在であることが伺えます。特に他系統のラジオへの飛び火無しでの36週滞在が優秀です。

 

・Future feat. Drake - Life Is Good

 (🗻2位 /⏰38週)という成績でチャートを後に。“The Box”とピークが完全に被ってしまったため、1位を獲得できませんでしたが、ポイント的には1位クラスの曲。粘りも十分だったことから年間トップ10入りが有力です。ピークの2位、滞在38週ともにFutureのキャリアハイの成績。Drakeにとっても38週滞在は2番目に長い成績です。*9

 YouTubeでの人気が根強く、チャートから外れた週もビデオランキングで1位に立っていました。

 

・Maddie & Tae - Die From A Broken Heart

 カントリー曲は滞在が21週以上になったら、ロングヒット傾向と考えて良いと思います。女性デュオによるこの曲はピーク22位、滞在25週と優秀な成績を残しました。

 

・Yung Bleu feat. Drake - You’re Mines Still

 Drakeのアシストもあり、Yung Bleuは初のHot 100入りを達成。この曲で気になったのはラジオ型ストリーミングで1位を獲得したこと。ラジオ型ということで、あまり初週から1位という動きは以前まであまり見られなかったのですが、最近は初週から高順位デビューを果たす曲が増えてきたような印象があります。しかも、他のストリーミングとは少し違う曲が人気を得ることも多いので、ここから独自のヒットが生まれる現象が今後も見られるかも?

 

 

今月のデータ

 

・主に外れた曲

(ピーク=🗻が10位以上 or 滞在=⏰が10週以上)

 

10/3

29 Maren Morris – The Bones (🗻12位 /⏰52週)

59 Luke Bryan – One Margarita (🗻19位 /⏰20週)

90 Ashley McBryde – One Night Standards (🗻76位 /⏰15週)

100 Pop Smoke – Got It On Me (🗻31位 /⏰10週)

 

10/10

47 Doja Cat feat. Nicki Minaj – Say So (🗻1位 /⏰38週)

48 Megan Thee Stallion feat. Beyoncé - Savage (🗻1位 /⏰28週)

50 Lil Mosey – Blueberry Faygo (🗻8位 /⏰33週)

 

10/17

41 Future feat. Drake – Life Is Good (🗻2位 /⏰38週)

46 Morgan Wallen – Chasin’ You (🗻16位 /⏰36週)

48 Maddie & Tae – Die From A Broken Heart (🗻22位 /⏰25週)

49 Lil Baby & 42 Dugg – We Paid (🗻10位 /⏰22週)

78 Gunna feat. Young Thug – DOLLAZ ON MY HEAD (🗻38位 /⏰17週)

81 Juice WRLD & The Weeknd – Smile (🗻8位 /⏰8週)

82 Doja Cat feat. Gucci Mane – Like That (🗻50位 /⏰18週)

86 Maroon 5 – Nobody’s Love (🗻41位 /⏰10週)

90 Lil Durk feat. Lil Baby & Polo G – 3 Headed Goat (🗻43位 /⏰14週) ※のちに再登場

 

10/24

65 Lady Gaga & Ariana Grande – Rain On Me (🗻1位 /⏰20週)

 

 

アルバムチャートのキリ番

 

10/3

1周年:DaBaby – KIRK (109位)

150週目:Elton John – Diamonds (44位)

150週目:H.E.R. – H.E.R. (193位)

200週目:Soundtrack – Moana (77位)

200週目:The Weeknd – Starboy (122位)

 

10/10

1周年:Summer Walker – Over It (44位)

100週目:Lynyrd Skynyrd – All Time Greatest Hits (133位)

200週目:Kane Brown – Kane Brown (172位)

 

10/17

1周年:YoungBoy Never Broke Again – Al YoungBoy 2 (123位)

1周年:Lil Tjay – True 2 Myself (137位)

200週目:Post Malone – Stoney (59位)

350週目:Bob Seger & The Silver Bullet Band – Greatest Hits (197位)

350週目:Drake – Nothing Was The Same (163位)

 

10/24

200週目:Frank Ocean – BLONDE (140位)

 

10/31

150週目:Soundtrack – The Greatest Showman (91位)

 

 

・各週の上位デビュー

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◇は再登場

 

・各週で順位の上げ幅が大きかった曲

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・各指標の1位推移

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・Rolling Stone Chartsのトップ10

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 こちらでは”Dreams"が3位まで到達しています。ほかストリーミングで再浮上しているPop Smokeのシングル2つもトップ10に。一方”Dynamite"はどの週もトップ10に入らず。違いが際立っています。

 

 

・各週の動向まとめ

 

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参照リンク

 

・Hot 100:The Hot 100 Chart | Billboard

Billboard 200:Billboard 200 Chart | Billboard

・ChartBeatの記事:Chart Beat | Billboard

・Kworb(ラジオ等):https://kworb.net/

・TokBoard:https://tokboard.com/

Spotify Charts:Spotify Charts

 

過去の月の記事

 

9月:Billboard 動向・9月号 【BTS / ロングヒット記録 / ヒットの4メトリクスなど】 - チャート・マニア・ラボ

 

8月:Billboard 動向・8月号 【圧巻の"WAP"、アルバムはTaylor Swift】 - チャート・マニア・ラボ

 

7月:Billboard 動向・7月号 【Pop SmokeとJuice WRLDの活躍 販売戦略のその後……】 - チャート・マニア・ラボ

 

6月:Billboard動向・6月号 【コラボ曲の首位が相次ぐ / アルバムチャートはリリース減少?】 - チャート・マニア・ラボ

 

5月:5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ

 

4月:Hot 100 / Billboard 200まとめ 4月号 【The Weekndがアルバム4タテなど無双】 - チャート・マニア・ラボ

 

3月:Hot 100・Billboard 200まとめ 3月号 【Lil Uzi Vert・Bad Buny・Lil Baby・BTSなど…アルバム大盛況】 - チャート・マニア・ラボ

 

2月:Hot 100・Billboard 200まとめ 2月号 【アルバム激戦区・不動のシングル上位など】 - チャート・マニア・ラボ

 

1月:Hot 100 2020年1月まとめ 【激動の1ヶ月、Roddy Ricch大活躍など】 - チャート・マニア・ラボ

 

 

 

 

*1:ストリーミングの比率が大きい ラジオが集計されない

*2:ゴールド認定などをする機関

*3:ただしTikTokでの使用数を調べるTokboardではトップ20には入っていない

*4:Mainstream R&B /Hip-Hop = 旧アーバン

*5:媒体によってはDon Toliverがメインアーティスト側に入っている表記の時もある。個人的には存在感でいうとDon Toliverが7割くらいを占めていると思うので、むしろメインではないのが少し意外です

*6:でも自分のベストソングでは“Sofia”の方を選んでいた、ということをアピールしておきます!?

*7:ブラジルの言語はポルトガル語

*8:現在はLady Aに改名。今月、改名後初のHot 100入りを果たす

*9:“No Guidance” = 46週に次ぐ。52週滞在ですが、彼がクレジットされていない”SICKO MODE”は除く

Billboard 動向・9月号 【BTS / ロングヒット記録 / ヒットの4メトリクスなど】

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 今月の最大のトピックはBTSのHot 100首位獲得でしょうか!そのビッグテーマや、ロングヒットに関する記録を深堀りしていきます! (記事遅くなってすいません)

 

 

 

 

1 セールスの制圧力 BTS初のHot 100首位

 

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 最初の2週はBTSの”Dynamite”が、残りの2週は”WAP”が首位に立ちました。悲願の1位達成となったBTSについて詳しく見ていきます。

 

 首位獲得の牽引車となったのはその高いセールスです。初週には30万のセールスを獲得。これは2018年以降で最多の数字。(2017年の”Look What You Made Me Do” =35.3万 以降最大の数字) 仮にストリーミングとラジオのポイントがなしでも、1位を取れるとも推定されるほどのセールスを強力なファンダムと共に成し遂げたのです。

 

 曲のリリースと同時にInstrumentalなど複数バージョンをリリース、ファンがそれに応えこの曲の複数バージョンがiTunesの上位を独占。後にリミックスが順次追加され、セールスの維持に役割を持ちました。

 またiTunesのような媒体だけではなく、D2C(直接販売)でもセールスがあった模様です。Rolling Stone ChartsではこのD2Cが集計されないので、こちらでは1位にはなりませんでした。(ほかHot 100よりもセールスの比重がやや低めという側面も)

 他に、初週は物理媒体のセールスも少し(3.5万)あったようです。

 

 この現象は、今年盛り上がった「ファンの力を活用したセールスによる首位狙い」の決定版という印象です。現在一般的なセールスの数字は低いものの、依然Hot 100ではポイントを効率的に稼げる指標ではあるので、ファンを呼び込み特定の週にセールスを集中させHot 100首位を「狙いに行く」という戦略です。このような戦略を利用して首位を獲得したと伝えられた曲は今年だけで10曲もあります。

 ビルボードはこれの対策として先月、それまで主に使われていた物理媒体(CDやヴァイナル)にDLの権利を付けるという手法を制限(DLされた週ではなく、実際の物理媒体が発送された週に集計)しましたが、今回BTSは異なるセールス戦略で1位を獲得することに成功しました。圧倒的なセールスを獲得し、ファンダムの強さを示しました。

 

 今後も一般的な曲のセールスが低く、一定のセールスで容易に他の曲を出し抜けるという状況は変わらないと思うので、仮に特定のセールス戦略が封じられても、また違う抜け道を探す……といういたちごっこが続くような気がします。ビルボードがこのセールス戦略を本気封じたいのならば、チャートにおけるセールスのポイント自体を抑えることが一番だと思います。

 しかしチャートの効果でセールスを増大させており、音楽市場拡大に寄与しているという意味では、実は歓迎すべきことではないか?という考え方も出来るので、このセールス戦略を受け入れるのも一つの手かもしれません。

 

 ここまで長くセールスについて述べてきましたが、この曲はその他の指標でも好調な成績を収めています。彼らの得意分野であったYouTube含まれないOn-Demand Streaming(要はSpotifyAppleなど)では史上最高の4位を記録。そしてラジオでのオンエアも稼ぎ、3週目には初めてRadio Songsチャートに入りました(=ラジオの再生数が50位以上*1) 初の英語シングルという試みが功を奏し、一般層への浸透度も向上している印象です。

 

 

2 歴史的ロングヒット”Blinding Lights”

 

 “Blinding Lights”がトップ5滞在最長記録を更新(28週)。先月のラジオ記録に続くロングヒット関連の快挙です。これらの2つは非常に深い関係にあり、このラジオの人気ぶりがトップ5記録の主要因と見て良いでしょう。

 

(トップ5最長滞在記録)

28週:The Weeknd – Blinding Lights (2020)

27週:Ed Sheeran – Shape of You (2017)

27週:The Chainsmokers feat. Halsey – Closer (2016-2017)

26週:Post Malone – Circles (2019-2020)

 

……と近年の曲が際立ちます。ビルボードには23週の記録までが掲載されていましたが、その23週~25週も近年(2017年~)の曲が過半数を占めていました。これはこの時期からストリーミングが存在感を示すようになり、指標が増えた分それらを全て取るような曲が減少し、「圧倒的に強い曲」が誕生しやすくなったことも理由の一つだと思います。

 

 もう一つ気になるのはラジオの循環率の低下です。Radio Songsのロングヒットに関するデータはあまり見つからなかったのですが、最大のラジオ系統であるMainstream Top 40 (Pop Songs)のデータを見ると、少し面白い点がありました。(記録は:Mainstream Top 40 - Wikipediaにまとめられています)

 

・Pop Songsで1位滞在が最も長い曲

14週:Ace of Base – The Sign (1994)

11週:Mariah Carey & Boyz II Men – One Sweet Day (1995-1996)

11週:Donna Lewis – I Love You Always Forever (1996)

11週:Natalie Imbuglia – Torn (1998)

11週:Nelly feat. Tim McGraw – Over and Over (2004-2005)

11週:The Chainsmokers feat. Halsey – Closer (2016)

 

 一番メジャーな記録、最も長く1位を獲得したという記録では近年の曲はほとんど際立ちません。ただしロングヒット関連では近年の曲が多く独占しています。

 

・最長トップ10滞在

35週:Circles 31週:Adore You* 29週:Blinding Lights* 

 

・最長チャート滞在

45週:New Rules, Love Lies, Eastside, Circles 42週:Adore You*, I Like Me Better

 

・1位到達までの期間が長い曲

37週:Before You Go 31週:Eastside 28週:Falling

 

・トップ10到達までの期間が長い曲

35週:I Like Me Better 31週:I’ll Be(1998) 27週:Lights Down Low, Before You Go

 

*=現在も継続中の記録 太字は今年のヒット

 

 下線を引いたEdwin McCainによる”I’ll Be”を除いて、全てストリーミング時代(2017~)の曲でした。その中でも太字になっている今年の曲の存在感が際立ちます。今年に限っては感染症の影響でリリース量が減少したという側面もありますが、近年ポップ系ラジオでは曲のロングヒット化という傾向が見受けられるようです。

 

 推測にはなりますが、ストリーミングの台頭で「ヒットしている」という感覚が多様化し、それぞれでピークが分散していることがこのラジオのロングヒット化の要因の一つだと考えています。*2

 このようなラジオシングルのロングヒット化、は近年相次ぐHot 100でのロングヒット記録(トップ10、5最長滞在など)の大きな要因として調べがいがありそうです。

 

 

3 アダルトポップの申し子Lewis Capaldi + その他のトップ10

 

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 前章で注目した”Blinding Lights”はもう一つ、ラジオ連続1位(計23週)という記録を持っていましたが、今月ストップ。(来月1位返り咲きの可能性あり)それを止めたLewis Capaldiの”Before You Go”について見ていきます。

 

 彼は2つのHot 100入りでいずれもトップ10入り。かつラジオ1位を獲得することを成功しています。彼のバラード調の曲はアダルトポップ系統との相性が良く、これがラジオヒットの要因だと考えられます。

 一般的にアダルトポップ系はポップ系よりも回転が遅めですがが、彼の曲はその適正の高さからか、2つともアダルトポップ系で先に1位を獲得しています。(また、そこから遅れてポップ系で人気を得たため、”Before You Go”はポップ系で1位獲得まで最も長い期間をかけた曲になりました)

 

 アダルトポップ系は規模の大きめな系統の中で比較的じっくり曲をオンエアしてくれるので、比較的「ラジオヒット」を狙うのに向いているかもしれません。ポップなどの系統と比較すると、ストリーミング人気にとらわれない選曲が多めな印象です。近年P!nkはこの系統をうまく活用し、ラジオヒットを飛ばしています。

 イギリスでは彼以外にも男性SSWが多く台頭しており、このアダルトポップ系はイギリス人にとってUSヒットを目指す上で狙い目になる可能性も?

 

 その他トップ10で目立った動きを見せたのは24kGoldnとiann diorの”Mood”。元々それなりの知名度があったラッパーが、TikTokの力を借りつつ、さらなるヒットを飛ばすのはLil Moseyの”Blueberry Faygo”と似ています。

 この”Mood”はさらに大規模なヒットになる予感。ストリーミングだけでなくラジオでも強く、将来的なラジオ1位も射程範囲内。ほか既にUKで1位獲得済みと海外でも大人気。

 

 もう一つ際立ったのは”POPSTAR”。ビデオ効果で再注目され、トップ10返り咲き。 Justin Bieberとスター出演とはいえ、ビデオでここまでの注目を集めたのはお見事。またその効果でラジオも浮上を果たし、リズミック系の1位を獲得。

 ただ直近のデータでは、シングルを”GREECE”の方にバトンタッチしており、ラジオが急降下。来月は順位を落とす見込み

 

 

4 来月以降のヒット候補

 

 毎月今後トップ10に「上昇」しそうな曲を挙げていますが、今月は”Lemonade”くらいで、候補は少なさそうです。既存の曲ではなく、新規リリースされる大物のシングルたちがトップ10付近を盛り上げそうです。

 既にトップ10入りしている曲ですが、再浮上という意味で”For the Night”と”Come & Go”にも注目です。前者はストリーミングの人気により、ビデオ&ラジオ無しで20位以上に居座る大健闘を見せており、何かしらのプラスがあればトップ10に返り咲きしそうです。どのような運用をするか注目です、と思ったら10/10付の集計分の時期くらいからラジオオンエアが始まりました。

 後者はどちらかというと逆。ストリーミングの減少分をラジオ増が補うような形で20位付近に居座っています。このストリーミング/ラジオのバランスがどこかで増加に転じればトップ10に届くかも。

 ほか“Tap In”も一応可能性がありますが、リミックスがそこまで盛り上がらなかったことやラジオにポイントが寄っていることを考えると、トップ10は少し厳しそう?

 ちなみにこのような順位帯(トップ10を目指す20位以上の帯)が盛り上がらなければ、”Circles”が長くHot 100に残りそうです。53週/26位*3ルールが出来て以降、最長の滞在となった”Shape of You” = 59週の記録も上回りそうです。

 

※仮に53週/26位ルールが以前から適用されていた場合の長期滞在ランキング

69週:Radioactive (実際には87週)

60週:Sail (実際には79週)

59週:Shape of You

 

 

5 比較的静かだったアルバムチャート

 

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 週10万超えはBig Sean、YoungBoy Never Broke Againの2つ。今年10万超えがのべ2つ以下だったのは6月のみ。その6月も20万を超えたLady Gagaのリリースがあったことを考えると、今月は今年最もアルバムチャートが静かだったと捉えることもできます。

 最初の2週はストリーミング+セールスの総合力に優れるTaylor Swiftがアルバム1位を獲得。残り2つはストリーミングを稼いだラッパーの新作が1位を獲得しました。Big SeanもYoungBoy Never Broke Againはいずれも3作目のアルバム1位。

 YoungBoy Never Broke Againはその3回の1位を全てここ1年で獲得。彼はリリースペースの早さが特徴的で、2017年以降15もの作品がBillboard 200入りを果たしています。この矢継ぎ早のリリースにファンも応え、毎回ストリーミングで人気を得ています。(特にAppleYouTubeで Spotifyではこの2つほど人気ではない)

 ちなみにそのリリース量の割にはラジオにあまり恵まれておらず、自身メインの曲でビルボードのラジオ系チャートに入ったのは3曲のみ(Make No Sense, I Am Who They Say I Am, No Smoke)です。(ちなみにMigosの客演を務めた”Need It”が最大のラジオヒット。ほかJuice WRLDと組んだ”Bandit”も一定のラジオオンエアを獲得)

 

 

6 TikTok流シングルカット

 

 9月ラストの週にPop Smokeの”What You Know Bout Love”が再登場。これはTikTokでの人気浮上に関連するもの。アルバム期から少し経過しての浮上、ということで擬似的なシングルカットとなりました。(この時点で)Pop Smokeの曲でラジオにかかっているのは”The Woo”のみですが、Hot 100では”For The Night”と”Mood Swings”も上位に。

 ラジオに加えてTikTokの勢力も加わることで、複数曲のHot 100入りを実現させています。これは単にTikTokの勢いだけではなく、Pop Smokeの人気がストリーミング高く、ヒットする土壌があったことも大きいです。(TikTokでヒットしたからといって、ストリーミングで人気が出ないことも多いです。逆に元々そのアーティストへの注目度があると小さなきっかけでも浮上を果たすこともあります。)

 

 この「TikTok流シングルカット」は、ラジオのシングルカットと比べて自由度が大きいです。ラジオでは同一アーティストの曲はなかなか複数かかりませんが、TikTokでは回転率の高さから、短期間で複数曲にスポットライトを当てることが可能です。またジャンルや知名度に囚われない選曲も可能で、ストリーミング世代に向いているラジオのような素質があります。

 

 ただしTikTokのランダム性もあり、「狙う」ことは難しいでしょうし、今回のPop Smokeクラスの大ヒットも今後もなかなか見られないでしょう。ただこのようにTikTokがラジオのような効果を持っていることは頭の片隅に置いて良いでしょう。

 

 

7 TikTok発の最終的な成績

 

 そのTikTok発の曲が今月そのヒットサイクルを終え、いくつかチャートから外れました。その成績を、先月外れた”Supalonely” “Sunday Best”と合わせて見ていきます。

 

StaySolidRocky - Party Girl  (🗻21位 /⏰20週)

Powfu feat. beabadoobee - death bed (🗻23位 /⏰26週)

Surfaces - Sunday Best  (🗻19位 /⏰21週)

BENEE feat. Gus Dapperton - Supalonely  (🗻39位 /⏰22週)

Don Toliver - After Party (🗻57位 /⏰20週)

 

 “After Party”を除き、これらの曲は中位まで到達 / 25週程度のヒットで、総合的に見ると「中ヒット」といえる成績を残しています。

 もちろん元々無名だったことを考えると大健闘なのですが、ただしほとんどが次シングルで存在感を示すことに失敗しています。上記のアーティストのうち、Don Toliver以外はHot 100にも再登場していませんし、ストリーミングでの順位も低いです。

 昨年はLil Nas Xという大スターを生み出しましたが、この上記の成績で「TikTok発」の天井?のような物も感じました。

 

 そんな中唯一Don Toliverは繰り返しの活躍。TikTok以前からTravis Scottの”CAN’T SAY”にクレジット無しで参加するなど、元々期待度があったということが大きいと思います。過去にHot 100入り歴のあったLil Moseyや24kGoldnはTikTokを経由して上記のアーティストよりも大きくヒットを飛ばしているので、TikTokで曲をヒットさせるにも、ある程度それまでの知名度が多少は関係するような印象を受けました。

 

 

8 Global 200

 

 ビルボードは9月の3週目からグローバルチャートを開始。200を越える国と地域から集計したGlobal 200、そしてアメリカを除外したGlobal Excl. USの2種類。それぞれの初代王者は”WAP”と”Hawái”に。

 このチャートでポイントとなるのは「遷都」かと思います。これまではあまり週間で集計される世界ランキングがほぼ無かったため、Hot 100が代わりに「世界のヒットの指標」のような役割を担ってきました。かつては国によってリリースの曜日も違い、販売店まで集計を行わなくてはならない負担などから週間の世界ランキングを作成するのは難しかったでしょう。その後世界的にリリース日が統一され、さらにSpotifyYouTubeなどのグローバル単位での数字を表示される媒体の台頭でグローバル単位のヒットを観察できる視座が誕生しましたが、いずれもHot 100ほどの影響を持つことは無かったと思います。

 その「世界」を上回る影響を持ち続けた「US」のHot 100を作成してきた、ビルボードによるGlobal 200。世界とアメリカでは、「世界」の規模が大きいため、純粋な考え方をするとこの世界ランキングの方が影響を持ちます。その純粋な考え方が実現されるのか、つまり実質的な「世界ランキング」がアメリカからグローバルに「遷都」するのか、ということがこのチャートの見どころかと思います。

 そのため、このチャートの「使われ方」に着目したいのですが、今の所とても影が薄いです。ChartDataやPopCraveなどの人気Twitterメディアを見てもHot 100の報道量よりもかなり少ないです。上位をチラッと触れて終了程度です。この程度は公式のBillboardChartsでも同じで、あまり本家本元もHot 100を上回るとは思っていない可能性があります。

 ほか、チャート関連のニュースを時折報じるPitchforkもこのランキングについては触れていません。(批評方面では、アメリカ vs 世界みたいな比較は注目テーマな気はしますが……)

 

(9/14-9/27) Global発表日から2週

ChartData Globalは12、Hot 100は109

PopCrave Globalは5、Hot 100は35

BillboardCharts Globalは7 Hot 100は26

 

 

9 ヒット曲の4メトリクス”my future“ / “Stuck with U”など

 

 初週は高順位でデビューしたものの、最終的には短い滞在でチャートを去ったBillie Eilishの”my future” (🗻6位 /⏰6週)やAriana GrandeとJustin Bieberの”Stuck with U” (🗻1位 /⏰18週)。このようなチャートアクションについて考えていこうと思います。

 

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 上の図は曲のヒットを「初動の注目」と「チャート滞在期間の長さ」の2つの基準でタイプ分けしたものです。右に行けば行くほどシングルとしては成功、上に行けば行くほどアーティストとしては成功、というのが私は考えています。

 最初の数字に関わらず、右に行けばシングルとしては成功できます(②)。ただシングルで成功を収めてもその後アーティストとして注目を集めるかは微妙です。上記で挙げたTikTok発のアーティストや、Tones And Iなどがこれに当てはまります。もちろんブレイク以前よりは格段に知名度は上がっていますが、シングルでのヒット度と比較すると?ということです。

 一方で、初動のみで尻すぼみのチャートアクション(③)は失敗と私も考えていたのですが、一概にそうとは言えない気がしてきました。アーティストとしての評価は急激には変化しづらいので、初動が強いということは今後も再現性があるということになります。アーティストの評価が高ければ、現在ストリーミングで強い媒体であるアルバムで一気に注目を集めることも可能です。他にも、以前よりもマニアックな表現が受け入れやすくなり、大物が全てのシングルで必ずしもシングルヒットを狙わなくなった、という点も重要でしょう。

 もちろん、シングルの不発が続けばこの「アーティストの評価」の部分が動くこともあれば、また逆もしかりです。

 

 

10 その他の曲の短評

 

・Roddy Ricch - The Box

 (🗻1位 /⏰38週) という成績でチャートを後に。11週連続1位と、ピーク時の強さは圧巻でしたが、チャート滞在期間は1位の曲としては「やや長い」程度です。ストリーミングでは強かったですが、ラジオはそこそこ(ピーク6位)。中でもポップ系ラジオでは不遇で、11位止まり。Hot 100で10週以上獲得した曲のうち、ポップ系ラジオでトップ10に入らなかったのは歴代3つ目の事例です。

 

Drake - Toosie Slide

 の成績でチャートから外れる。初週の1位など、登場直後はスターの貫禄を見せていますが、最後の方は下半分の順位まで落ちるなど、ペースダウン。TikTokを意識した策略が注目を集め、実際にTikTok内で人気を得たよう*4ですが、”In My Feelings”ほどはバズらなかったので可もなく不可もない成績に終わった印象です。

 

Lil Baby - Emotionally Scarred / We Paid (& 42 Dugg)

 ストリーミングの人気からは時間差でカットするため、Hot 100滞在20週目前後のタイミングでラジオが伸びる。これによりロングヒットを実現。Lil Babyはストリーミング、ラジオともに安定しており、このパターンが定番化しています。そしてストリーミングのピーク > ラジオのピークになりがちです

 

BLACKPINK & Selena Gomez - Ice Cream

 BLACKPINKキャリアハイの13位に登場。そして初めてラジオ系チャートに登場。目論見どおりUSではキャリア最大のヒットに。最長滞在(”Kill This Love”の4週)も更新間近。次シングルとの兼ね合いもありますが、滞在10週が目標?

 

Taylor Swift feat. Bon Iver - exile

 シングルごとにラジオ系統を使い分ける戦略を取ったTaylor Swift。そしてこの曲は彼女にとって発のTriple A(Adult album alternative、要はアルバム志向の玄人向け系統)ヒットに。

 その他”Betty”で久々にカントリー系ラジオを得るなど、ラジオ系統の使い分けは上手く言っているのですが、”cardigan”以外は早々にHot 100から去ってしまいシングルヒットにはつながりませんでした。アルバムのテイストからして、シングル単体で聞くような曲が少なかったので、路線的には致し方ないのかもしれません。

 

Justin Bieber feat. Quavo - Intentions

 ピーク5位、滞在31週で外れる。うち19週はトップ10圏内で過ごしており、十分な成績を残したと言えます。近年の彼の曲は20週に満たずにチャートから外れてしまうことも少なくないので、貴重なヒットだったとも言えます。

 

Morgan Wallen - More Than My Hometown

 SpotifyAppleでも存在感のあるMorgan Wallen。複数曲が同時にストリーミングで人気を得ていることもあり、現在複数曲がHot 100入りしていますが、現在カントリーラジオで盛んにかけらている曲はこれ。”7 Summers”もカントリー系、アダルトポップ系でオンエアが開始しています。

 

Luke Combs - Lovin’ on You

 1週ごとに首位が交代しがちなカントリー系ラジオで4週にわたり1位に。彼はデビュー以来ラジオシングルが全てトップ40入り(9曲連続)

 

Miranda Lambert - Bluebird

 (🗻26位 /⏰20週)という成績で外れる。Miranda Lambertがリカレントまで到達するのは2014年の”Somethin’ Bad”以来

 

 

今月のデータ

 

・主に外れた曲

(ピーク=🗻が10位以上 or 滞在=⏰が10週以上)

 

9/5

45 Lil Baby – Emotionally Scarred (🗻31位 /⏰25週)

64 Miranda Lambert - Bluebird (🗻26位 /⏰20週)

72 Drake – Toosie Slide (🗻1位 /⏰20週)

87 Black Eyed Peas, Ozuna & J. Rey Soul - MAMACITA (🗻62位 /⏰11週)

91 Juice WRLD - Conversations (🗻7位 /⏰6週)

96 Juice WRLD - Righteous (🗻11位 /⏰16週)

 

9/12

48 Roddy Ricch – The Box (🗻1位 /⏰38週)

98 Taylor Swift feat. Bon Iver - exile (🗻6位 /⏰5週)

 

9/19

42 Thomas Rhett feat. Reba McEntire, Hillary Scott, Chris Tomlin & Keith Urban – Be A Light (🗻42位 /⏰22週)

62 Florida Georgia Line – I Love My Country (🗻40位 /⏰20週)

66 Keith Urban – God Whispered Your Name (🗻60位 /⏰20週)

92 Taylor Swift – the 1 (🗻4位 /⏰6週)

94 Chris Janson - Done (🗻41位 /⏰12週)

96 Lil Durk feat. Lil Baby & Polo G – 3 Headed Goat (🗻43位 /⏰11週) ※

100 Rod Wave – Girl Of My Dreams (🗻65位 /⏰16週)

 

9/26

39 Powfu feat. beabadoobee – death bed (🗻23位 /⏰26週)

48 Justin Bieber feat. Quavo - Intentions (🗻5位 /⏰31週)

61 StaySolidRocky – Party Girl (🗻21位 /⏰20週)

90 Billie Eilish – my future (🗻6位 /⏰6週)

93 Justin Moore – Why We Drink (🗻50位 /⏰15週)

94 Don Toliver – After Party (🗻57位 /⏰20週)

99 Migos feat. YoungBoy Never Broke Again – Need It (🗻62位 /⏰15週)

100 Ariana Grande & Justin Bieber – Stuck with U (🗻1位 /⏰18週)

 

※=のちに再登場した曲

 

 

・アルバムチャートのキリ番

 

9/5

100週目:Morgan Wallen – If I Know Me (17位)

100週目:Daryl Hall John Oates – The Very Best Of … (169位)

 

9/12

1周年:Post Malone – Hollywood’s Bleeding (11位)

1周年:Elton JohnElton John (143位)

1周年:Harry StylesHarry Styles (182位)

100週目:Lady Gaga & Bradley Cooper – A Star Is Born (191位)

100週目:Lil Baby & Gunna – Drip Harder (181位)

300週目:J. Cole – 2014 Forest Hills Drive (106位)

 

9/19

300週目:Taylor Swift – 1989 (116位)

 

9/26

なし

 

 

・各週の上位デビュー

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◇は初登場

 

・よく順位を上げた曲

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・各指標の1位推移

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 "WAP"の強さが際立っています。この圧倒的な”WAP"をセールスで抑え込んだのが”Dyanamite"。

 

・Rolling Stone Chartsのトップ10

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 "Dynamite"の項目で説明したように、セールスの集計方法がHot 100とは異なります。その影響をモロに受け、"Dynamite"の順位がHot 100とは違います。

 

 

・各週の動向まとめ表

 

9/5

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9/12

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9/19

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9/26

f:id:djk2:20201003014145j:plain

 

 

参考/関連リンク

 

各週のHot 100

9/5:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-09-05

9/12:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-09-12

9/19:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-09-19

9/26:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-09-26

 

参照

Chart Beatの記事:Chart Beat | Billboard

Kworb(ラジオ等):https://kworb.net/

HitsDailyDouble:https://hitsdailydouble.com/mediabase_building_charts

Tikboard:https://tiktometer.com/

 

 

過去の月の記事

8月:Billboard 動向・8月号 【圧巻の"WAP"、アルバムはTaylor Swift】 - チャート・マニア・ラボ

 

7月:Billboard 動向・7月号 【Pop SmokeとJuice WRLDの活躍 販売戦略のその後……】 - チャート・マニア・ラボ

 

6月:Billboard動向・6月号 【コラボ曲の首位が相次ぐ / アルバムチャートはリリース減少?】 - チャート・マニア・ラボ

 

5月:5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ

 

4月:Hot 100 / Billboard 200まとめ 4月号 【The Weekndがアルバム4タテなど無双】 - チャート・マニア・ラボ

 

3月:Hot 100・Billboard 200まとめ 3月号 【Lil Uzi Vert・Bad Buny・Lil Baby・BTSなど…アルバム大盛況】 - チャート・マニア・ラボ

 

2月:Hot 100・Billboard 200まとめ 2月号 【アルバム激戦区・不動のシングル上位など】 - チャート・マニア・ラボ

 

1月:Hot 100 2020年1月まとめ 【激動の1ヶ月、Roddy Ricch大活躍など】 - チャート・マニア・ラボ

 

 

 

*1:ここにもリカレントが存在するため、純粋な再生数が50位以上ではない可能性もある

*2:ちなみにここで多く登場する、”I Like Me Better”はもっとビッグヒットだと感じる曲の一つで、感覚的には5位くらいのヒット(実際には27位)、とチャート系サイトHeadline Planetの創始者Brian Cantorさんは語っています

*3:53週目以降に26位以下に落ちたらチャートから外れるルール

*4:Tokboard(旧Tiktometer)で4月4位

Billboard 動向・8月号 【圧巻の"WAP"、アルバムはTaylor Swift】

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 こんばんは!今月のHot 100を10のポイントで見ていく記事です。今月のシングルチャートでは"WAP"が、アルバムチャートではTaylor Swiftが際立ちました。

 

 

 

1 販売戦略は健在?セールス急増で複数曲が1位の栄冠

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 今月は”cardigan”、”Watermelon Sugar”、”WAP”と多くの新規1位が誕生。いずれもは何らかの販売戦略を使用しており、「セールスにブーストをかけて特定の週にHot 100首位を狙い撃つ」という戦略の流行を感じます。

 先月号でも伝えたとおり、この戦略は今月の途中に制限がかかりました。シングルで主に用いられていた物理媒体(CDやヴァイナル)とDLを抱き合わせる手法に制限がかかります。仮に実物の発送がしばらく後だったとしても、抱き合わせのDLの方が集計に入るため、狙った週のチャートにその効果を反映させることが容易でした。しかしこの制限以降は「実物が発送されたタイミング」でチャートに反映されることになります。

 

詳しくは:バンドル等を制限するルール変更のまとめ・所感など - チャート・マニア・ラボ

 

 この制限がかかったのが8/7以降で、”Watermelon Sugar”はこの戦略が利用できるラストの週にこの戦略を実行し、1位を獲得することに成功しました。(この週の集計は7/31-8/6)

 ただこの週以降もセールスにブーストをかける戦略は健在。次の”WAP”もCDやヴァイナルを売りさばき、今年最大のセールスを記録することに成功しました。もちろん発送で問題が無ければ狙った週にセールスが集計されるため、今後もこの戦略が衰えることは無いのかもしれません。

 さらにこの“WAP”はどうやら抱き合わせDLからもポイントを得ているようです。この曲は8/7リリースで、ルール上DLの制限がかかるはずですが、物理媒体+DLの抱き合わせが販売されていたプレリリース期間はまだ制限の対象外だったため、その分のDLは通ったという理屈のようです。

 普通に発送できればこの戦略は健在なうえ、このような抜け道も存在するため、この戦略は以降も見られそうです。注目は9月最初の週に反映されるBTSの“Dynamite”

 

 

2 圧倒的な”WAP”、しばらくチャートの主役に?

 “WAP”は戦略によるセールスだけではなく、ストリーミングも圧巻。こちらも今年最大の数字を記録しました。

セールス:12.5万 ストリーミング:9300万

 

 ストリーミングはAriana Grandeの”thank u, next”の9380万再生に次いで女性の曲では歴代2位の数字。2020年からはルール変更により、YouTubeの再生数のカウントが大きく削られたため、仮に同じ基準で比べたとしたら、こちらに軍配が上がりそうです。“WAP”はミーム的な評価にも優れているため、2019年以前のカウント方法なら1億超えを達成していそうです。

 ストリーミング、そしてミーム面まで優秀な“WAP”は今後しばらく1位に居座り続けそうです。(ただし販売戦略を使い、セールスを桁違いに稼げれば出し抜くことも可能)

 “WAP”はリリースされた週にApple Music、SpotifyYouTubeで1位を獲得。この3つだけでなく、新曲への反応が鈍いPandoraやAmazon Musicでも1位に立つなど破格の注目度を誇ります。さらにはTikTokでも即座に注目を集めました。(Tiktometer調べで2週目の時点で1位に)

 

 

3 カントリーがダブルでトップ10? 今月の新規トップ10

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 今月は新規トップ10が多く生まれました。(14曲)

POPSTAR, GREECE, Go Crazy, cardigan, the 1, exile, Savage Love, my future, WAP, Smile, Before You Go, Laugh Now Cry Later, 7 Summers, I Hope

 

 この中でも印象的だったのはカントリー曲の2つ、”7 Summers”と”I Hope”です。カントリー曲が同時に2つ以上トップ10入りするのはTaylor Swiftの”We Are Never~”と”Red”が入った2012年10月20日以来と思われます。

 

 それぞれのヒットの要因を見ていきます。”I Hope”の強さの源はラジオです。カントリー系ラジオで人気を得た後に、ポップ系やアダルトポップ系ラジオでのオンエアを開始、ここでもじわじわと人気を獲得し、ついにトップ10まで到達しました。34週目でのトップ10入りは歴代3番目に遅いです。それだけラジオで長く粘りを発揮していたということです。ほかストリーミングでも一定の数字を記録しています。

 このような遅さは少し異質に思いますが、カントリー系→ポップ系ラジオへのクロスオーバーは年1くらいのペースでは存在するので、そこまで珍しいものでは無い気がします。それをデビュー曲で達成した、という点は少し驚きですが。

 もう一つの”7 Summers”はやや異質に感じます。リリース初日にSpotifyAppleの両方で3位に入るなど、ストリーミングでのロケットスタートを実現。カントリー曲はストリーミングでも、ラジオと波長を合わせつつ遅れて浮上という傾向があるので、このようにリリース直後から注目を集めるのは珍しいです。他のジャンルなら別に珍しいことではないですが。

 そのロケットスタートを下支えしたのはTikTokのようです。TikTokでこの曲のデモバージョンがスニペットで事前にリリース(なぜかThomas Rhettのアカウントから投稿されている)、これが話題を呼びました。(リリース直後にはデモ版/正式版の比較が議論されていたようで、パッと見デモ版を支持する人が多かったので、その音源の好評さがヒットに繋がったと考えられる)

 TikTok内で大流行!というほどの規模では拡散していないですが、それぐらいの規模でも曲をヒットさせるには十分だったようです。*1Morgan Wallenは以前から、カントリー曲があまりヒットしないApple / Spotifyでも複数曲がランクインするなど、アーティストとしての注目度がかなりありました。そんなカントリーでは珍しい人気と戦略がこの曲のトップ10デビューの理由でしょう。

 まとめると、8年ぶりのダブルカントリー曲トップ10は、従来から見られるラジオのクロスオーバーという「伝統」、そして珍しい戦略と珍しい人気という「革新」の2つの融合によって達成されたのかなと考えました。

 

 

~その他の注目トップ10~

 

・DJ Khaled feat. Drake – POPSTAR / GREECE

 この曲でトップ10曲を2つ加えたDrakeは、Madonnaを上回りトップ10曲数が単独で最多になりました(この時点で計40曲)

 

・Jawsh 685 & Jason Derulo – Savage Love

 TikTokで名を挙げ、ラジオもセールスもストリーミングも全面的に伸ばしてトップ10入りを達成。ちなみにAmazon Musicでの順位が比較的高め。Amazon Musicはラジオで人気の曲が上位に来る(主にポップやカントリー系)傾向が強いですが、それに次ぐ「隠れ傾向」で、TikTok系の曲もそれなりに強いです。

 

・Lewis Capaldi – Before You Go

 28週目と遅めのタイミングでトップ10入り。ラジオの支持が固く、2曲のHot 100エントリーがいずれもトップ10まで到達。回転速度が遅いアダルトポップ系統と、彼の作風がよくマッチしており、「粘りのチャート動向」の実現に繋がっています。

 

・Drake feat. Lil Durk – Laugh Now Cry Later

 “Toosie Slide”よりも高いストリーミングでスタートし、自身は快調なスタートを切るものの、”WAP”が好調すぎるため2位止まりに。自身は好調なものの、競合の壁が高く1位を獲得できない”Life Is Good”の二の舞になる可能性が。

 

 

何曲目のトップ10?

POPSTAR / GREECE:DJ Khaledは5,6曲目、Drakeは39,40曲目

Go Crazy:Chris Brownは16曲目、Young Thugは3曲目(客演以外では初)

cardigan, the 1, exile:Taylor Swiftは26~28曲目、Bon Iverは初

Savage Love:Jawsh 685は初、Jason Deruloは7曲目(5年ぶり)

my future:Billie Eilishの3曲目

WAP:Cardi Bは8曲目、Megan Thee Stallionは2曲目

Smile:Juice WRLDは9曲目、The Weekndは11曲目

Before You Go:Lewis Capaldiの2曲目

Laugh Now Cry Later:Drakeは41曲目、Lil Durkは初

7 Summers:Morgan Wallenの初トップ10

I Hope:Gabby Barrettの初トップ10

 

 

4 今後のトップ10候補

 来月以降トップ10に届きそうな曲を予想していきます。まずは24kGoldnとiann diorによる”Mood”。現在ストリーミングで人気急上昇中。ラジオでのオンエアも開始したため、この調子を持続すれば9月中にもトップ10に到達しそう。TikTokでの人気もあります。

 他はラジオで好調かつ、Post Malone + DaBaby + Jack Harlowという強力なリミックスをリリースした”Tap In”にも可能性がありそうです。

 

 他にPop Smokeの”Mood Swings”も好調ですが、彼は他にも人気曲が多く「どれをシングルカットするか」の作業が難しく、それぞれの楽曲で人気が分散しそうです。現在シングルになっている”The Woo”はストリーミングでは3番人気です。さらに、”Hello”もTikTokで人気を得たため、今後浮上するかもしれません。

 Dua Lipaの”Break My Heart”も13位とトップ10に近い位置にいますが、ラジオでの伸びしろがもうほとんど無いため、これ以上順位を伸ばすのは難しそうです。

 意外な所を挙げるとしたらDJ KhaledとDrakeの”GREECE”。直近の週で60位と微妙ですが、非シングルながらもストリーミングではシングルの”POPSTAR”と互角と、The Weekndの”Heartless”と”Blinding Lights”と似たような状況になっており、今後もしかしたら注目を集めるかもしれません。この”GREECE”自体、The Weekndみたいな作風ですし(……?) ただペース的に9月中にトップ10に入ることは無いでしょうね。

 

 

5 “Blinding Lights”がラジオの記録を更新

 先程挙がった”Blinding Lights”ですが、今月快挙を達成。ラジオチャート開始以降(1984年~)、最も長く1位に滞在した曲となりました。現在もライバルらしいライバルが不在のため、今後さらに記録を伸ばしそうです。

 

20週:The Weeknd – Blinding Lights

18週:Goo Goo Dolls – Iris

16週:No Doubt – Don’t Speak

16週:Mariah Carey – We Belong Together

16週:Maroon 5 feat. Cardi B – Girls Like You

 

 人気持続を支えたのはポップ系とアダルトポップ系での人気です。直近の週でポップ系3位、アダルトポップ系では1位。このアダルトポップ系での1位獲得彼にとって初。これらに加え、The Weekndが従来から得意にしていたリズミック系などからの再生もゼロでは無いので、これもプラスに働いているでしょう。(ピークは2位、現在はリカレントされた)

 このアダルトポップ系は回転率がやや低いため、ラジオでのロングヒットには重要な指標になります。その系統を新しく制覇できたことは、ラジオの記録更新に大きく寄与したでしょう。

 

 

6 Taylor Swiftのサプライズリリースが4週連続1位

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 今月アルバムチャートを支配したのはTaylor Swift。リリース週に今年最大のセールス(84.6万)を記録した後、4週にわたり1位を記録しました。2週目以降はストリーミングでJuice WRLDやPop Smokeを下回っていますが、セールス分の効果でこれらを上回っています。3週目にはCD発売、4週目にはマーチなど追加での販売戦略も行っています。

 

 このアルバムでは多くの記録を達成。詳しくは↓の記事に書きましたが、それらの記録のうち重要なのは以下の2つだと思います。

・7つのアルバムで週間セールスが50万超え、単独の史上最多

・Hot 100エントリー数が女性最多に(113曲)

 

関連:Folklore関連の記録 ショートまとめ - チャート・マニア・ラボ

 

 リリース週にトップ10入りした3曲はそれぞれ直近の週で、”cardigan”が33位、”the 1”が67位、”exile”が82位と既に調子を落としていますが、この作品はあまりシングルで売り出すような作風では無い以上、このアルバムの記録が色褪せることは無いと思います。強いて言うならば、ラジオシングルの”cardigan”は今後もう少し粘れると良いですが。

 

 

7 アルバム曲の管理

 このようなアルバム曲が大量登場した作品が、その後どのくらいHot 100に残るのかを見ていきます。調べるのは先月~今月にかけてHot 100大量エントリーしたPop SmokeとJuice WRLDとTaylor Swiftです。

 

  8月1日 8月8日 8月15日 8月22日 8月29日
Pop Smoke 6* 5 5 5 5
Juice WRLD 16 7 7 7** 6
Taylor Swift - 16 10 3 3

*この週デラックス版をリリース

**The Weekndとのシングル”Smile”がアルバムに新規追加された

 

 Pop SmokeはJuice WRLDのアルバムがリリースされた週に、そしてJuice WRLDはTaylor Swiftのアルバムがリリースされた週に、多くの曲が押し出されてエントリー数が減少しています。しかしそれ以降は、Pop Smoke / Juice WRLDの粘りが光ります。

 両者ともラジオでオンエアされている曲は少ないです。Pop Smokeは”The Woo”が、Juice WRLDは”Come & Go”と”Wishing Well”がシングルに指定されています。しかしそれぞれストリーミング内ではシングル並の定評を得ている曲が多く、アルバム以降もHot 100に残る水準の再生数を記録し続けています。Pop SmokeはTikTokでの強さも際立ち、”Mood Swings”はアルバムリリース以降にピークを更新することに成功しています。

 ラジオでは同一アーティストの曲を一気に何曲もかけられませんが、ストリーミングでは複数曲が同時に人気をキープすることが可能のようです。逆にラジオで行われるような、シングルカットなどの「号令」と共に過去シングルが再浮上する、ような動きはストリーミングではそれまで見られません。「号令」ではなく「偶然」をきっかけに過去シングルが再浮上することはよくありますが。

 

 

8 今月のTikTok

 今月TikTokの影響でHot 100にエントリーしたと考えられる曲です。

 

95位:Mulatto – B*tch From da Souf (Meter6月:87位)

71位:Money Man feat. Lil Baby – 24 (Meter7月:82位)

61位:Conan Gray – Heather 

26位:24kGoldn feat. iann dior – Mood

ほか既存のPop Smoke feat. Lil Tjay – Mood SwingsもTikTokの効果で浮上を果たしました。(Meter8月:3位 ※現時点)

※Tiktometerとは人気の使用曲を測るサイト:https://tiktometer.com/

 

 ヒットの要因は様々。”B*tch From da Souf”はラジオの浮上、”24”はLil BabyのリミックスがHot 100入りの要因。”Heather”と”Mood”はストリーミングでの好調がヒットの理由ですが、TikTokで人気を本格的に得る前から人気が高かったので、TikTok「発」ではなくTikTok「経由」くらいの印象です。

 というのも、”Heather”はブレイク以前からSpotifyAppleのプレイリストに登録されていて、”Mood”はリリース時から快調なスタートを切っていました。それ故、TikTok無しでもそれなりにはヒットするのでは?と感じるのです。このことから「発」ではなく「経由」のヒット、と考えました。ちなみに”Mood”は既にそこそこ注目を受けていたアーティストが、TikTokの力を借りつつ浮上していく様が“Blueberry Faygo”を彷彿とさせます。

 

 今月もう一つ注目したいのはチャートから外れたTikTok曲たち。“Sunday Best”は(🗻19位 /⏰21週)という成績、”Supalonely”は(🗻39位 /⏰22週)という成績でチャートを後にしました。どちらも健闘を果たし、十分な成果を残したと思うのですが、気になるのは「その後」です。

 この2組はTikTokに「特化」することなく、自身の音楽スタイルを通してブレイクすることに成功しています。この2組を見て、これを機にアーティストとしての評価を確立し、今後も安定した人気を得るのでは?とも思ったのですが、その後のリリースでHot 100入りせず。これは”death bed”のPowfuも同様です。Hot 100にエントリーしないどころか、Spotifyでも週間200位以内に入らないなど、かなり「次の一手」に苦労している印象です。Surfacesは大御所Elton Johnを迎えた曲をリリースしましたが、リリース初日にUSのSpotify 79位に入って以降、ランキング入りしていません。

 この手のアーティストで、唯一Trevor Danielはチャート再登場を達成。Selena Gomezという強力な相方を得て”Past Life”がHot 100入りを果たしました。しかし現在はラジオが既に下降線で、本格的なヒットにはならないことが確定的です。

 

 

9 Hot 100デビューを飾ったアーティストたち

 今月9人のアーティストがHot 100デビューを果たしました。

Topic, A7S(Breaking Me)

Paker McCollum(カントリー曲)

iann dior(Mood)

Jameson Rodgers(カントリー曲)

Brray, Juanka(La Jeepeta)

Mulatto(B*tch from da Souf)

Conan Gray(Heather)

Money Man(24)

 

 この中で今後注目を集めそうなのはiann diorとConan Gray。彼らは以前からSpotify / Apple Musicのヒット系プレイリストで見かけることが多く、かなり業界からの期待度を感じるアーティストです。

 iann diorは”Sick And Tired”と“Prospect”で、Conan Grayは”Maniac”でBubbling Under入りの経歴があります。

 Mulattoは新鋭の女性ラッパー。TikTokはかなりの頻度で女性ラッパーが発掘されており、音楽的な親和性があるのかもしれません。今月注目を集めたのはPpcocaineというラッパーです。

 

 

10 その他の曲短評(など)

 

・6ix9ine – GOOBA

 わずか4週で外れた”TROLLZ”ほどではないですが、こちらも10週と短い滞在でHot 100を後に。その素行からラジオでオンエアされなかったことが痛かったです。

 

Travis Scott & Kid Cudi – THE SCOTTS

 圧倒的なストリーミング、そして高いセールスによって初週1位を獲得。しかしその後が続かず滞在13週でチャートを後に。この曲もストリーミング人気のわりにラジオであまりかからなかったことがHot 100で順位を保てなかった要因です。この2人は6ix9ineのように素行を問題視されているわけではないですが、なぜかそこまでラジオでオンエアされませんでした。Travis Scottはストリーミングの人気と比較すると、ラジオ再生に恵まれない傾向があります。

 

・A$AP Ferg feat. Nicki Miaj & MadeinTYO – Move Ya Hips

 高いセールスにより初週19位に登場。A$AP FergとMadeinTYOにとってはキャリア最高位。ただし2週目には99位まで順位を落とし、Hot 100における落下幅の最大記録を更新してしましました。次週には圏外へ落ちました。初週ファンの力で注目を集めるものの、初週に力が寄りすぎるせいかその反動で順位を落とす、Nicki Minaj関連曲らしいチャート動向となりました。

 

-80位(19→99):A$AP Ferg feat. Nicki Minaj & MadeinTYO – Move Ya Hips

-79位(17→96):Javier Colon – Stitch by Stitch

-78位(21→99):Jordan Smith – Somebody to Love

-77位(16→93):5 Seconds of SummerAmnesia

-75位(17→92):Justin Bieber – Die In Your Arms

 

※ただし、これらよりも高い順位からHot 100圏外に落ちた曲も多く、そちらの方が初週からのポイントの落下幅は大きいです。

 

・NLE Choppa feat. Roddy Ricch – Walk Em Down

 (🗻38位 /⏰20週)でチャートから外れました。ストリーミング等での安定した人気により長く中位に残りました。ちょうど21週目のタイミングとバッティングしたことにより、アルバムリリースの週にチャートから外れるという珍しい動きを見せました。

 

・Young T & Bugsey feat. Headie One – Don’t Rush

 TikTokでブレイクしDLが浮上。それがきっかけでラジオでも人気に。RMS*2で11位、リズミックで5位、ポップ系で30位まで到達しました。しかしHot 100では珍しいイギリスのラッパーであること、そしてTikTok曲としては珍しくUSのSpotify / Appleで200位以内に入らないとい2点で異質なヒットでした。(🗻56位 /⏰14週)でチャートから外れました。

 今月、Headie OneはDrakeと組んだ”Only You Freestyle”でBubbling Under入りを果たしています。

 

・Migos feat. YoungBoy Never Broke Again – Need It

 (🗻62位 /⏰12週)の成績でチャートから外れる。あまりうまくいっていないように思えますが、Migosの最近の曲はHot 100に入らない、または1週で滞在するかぐらいの成績に終わっていたので、相対的にはうまくいったほうです。

 

・Ava Max – Kings & Queens

 Ava Maxは2回目のHot 100エントリー。ラジオでの浮上に加えて、SaweetieとLauvによるリミックスの追加が効き、Hot 100入りを果たしました。Lauvがラップをしているのが意外でした。

 

・Logic – Perfect

 彼の「ヒップホップ引退」アルバムは22.1万を売り上げたものの、Taylor Swiftのリリースと被ってしまったため、アルバム1位獲得ならず。20万超えの売上ながらもアルバム1位にならないのはHalseyに次いで、今年2回目の事例です。(2018年、2019年にはそういう事例は無かったです)

 そのアルバムからの唯一のHot 100エントリーが95位の”Perfect”。ストリーミングの数字は悪くなかったですが、飛び抜けて注目を集めた楽曲はありませんでした。

 

 

今月のデータ

 

・主に外れた曲

※(ピークが10位以上 or 滞在が10週以上)

 

8/1

95 Thomas Rhett feat. Jon Pardi – Beer Can’t Fix (🗻36位 /⏰18週)

96 Kenny Chesney – Here And Now (🗻38位 /⏰15週)

100 6ix9ine - GOOBA (🗻3位 /⏰10週)

 

8/8

40 Surfaces – Sunday Best (🗻19位 /⏰21週)

74 Travis Scott & Kid Cudi – THE SCOTTS (🗻1位 /⏰13週)

82 Don Toliver – After Party (🗻57位 /⏰14週)

88 Luke Combs feat. Eric Church – Does To Me (🗻20位 /⏰19週)

93 Drake feat. Giveon – Chicago Freestyle (🗻14位 /⏰12週)

 

8/15

なし

 

8/22

48 Trevor Daniel - Falling (🗻17位 /⏰38週)

59 NLE Choppa feat. Roddy Ricch – Walk Em Down (🗻38位 /⏰20週)

 

8/29

43 Sam Hunt – Hard To Forget (🗻26位 /⏰20週)

51 BENEE feat. Gus Dapperton - Supalonely (🗻39位 /⏰22週)

71 LOCASH – One Big Country Song (🗻50位 /⏰11週)

85 Young T & Bugsey feat. Headie One – Don’t Rush (🗻56位 /⏰14週)

96 Migos feat. YoungBoy Never Broke Again – Need It (🗻62位 /⏰12週)

97 Juice WRLD & Halsey – Life’s A Mess (🗻9位 /⏰6週)

 

 

アルバムチャートのキリ番

 

8/1

1周年:NF – The Search (107位)

100週目:Mac Miller – Swimming (162位)

500週目:Guns N’ Roses – Greatest Hits (98位)

 

8/8

150週目:George Strait – 50 Number Ones (187位)

250週目:Red Hot Chili Peppers – Greatest Hits (147位)

 

8/15

100週目:Lauren Daigle – Look Up Child (142位)

 

8/22

1周年:Young Thug – So Much Fun (82位)

1周年:Quality Control – Control the Streets, Volume 2 (149位)

 

8/29

1周年:Taylor Swift – Love (42位)

150週目:NF – Perception (184位)

400週目:Queen – Greatest Hits (29位)

 

 

・各週の上位デビュー

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◇は再登場

 

 

・各週で順位をよく上げた曲

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・各指標の1位

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"WAP"リリース週、圧倒的。

 

・Rolling Stone Chartsのトップ10

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Pop Smokeの曲が再浮上を果たす。

 

 

・各週の動向まとめ表

 

8/1

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8/8

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8/15

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8/22

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8/29

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参考 / 関連リンク

 

各週のHot 100

8/1:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-08-01

8/8:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-08-08

8/15:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-08-15

8/22:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-08-22

8/29:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2020-08-29

 

参照

Chart Beatの記事:Chart Beat | Billboard

Kworb(ラジオやiTunes):https://kworb.net/

HitsDailyDouble:https://hitsdailydouble.com/mediabase_building_charts

Spotify Charts:Spotify Charts

Tiktometer:https://tiktometer.com/

 

 

過去の月の記事

 

7月Billboard 動向・7月号 【Pop SmokeとJuice WRLDの活躍 販売戦略のその後……】 - チャート・マニア・ラボ

 

6月Billboard動向・6月号 【コラボ曲の首位が相次ぐ / アルバムチャートはリリース減少?】 - チャート・マニア・ラボ

 

5月5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ

 

4月Hot 100 / Billboard 200まとめ 4月号 【The Weekndがアルバム4タテなど無双】 - チャート・マニア・ラボ

 

3月Hot 100・Billboard 200まとめ 3月号 【Lil Uzi Vert・Bad Buny・Lil Baby・BTSなど…アルバム大盛況】 - チャート・マニア・ラボ

 

2月Hot 100・Billboard 200まとめ 2月号 【アルバム激戦区・不動のシングル上位など】 - チャート・マニア・ラボ

 

1月Hot 100 2020年1月まとめ 【激動の1ヶ月、Roddy Ricch大活躍など】 - チャート・マニア・ラボ

 

 

 

 

 

 

*1:Like数や再生数の情報を鑑みるに、規模はそこまで大きくなさそうです。実際Tiktometerの月間100位以内には入っていません。しかしあまり規模的に大きくなくとも、外部では大ヒットということはよくあります

*2:旧アーバン

TikTok Top Tracks (仮) 7月+総括

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 私が行うTikTok Top Tracks(仮)に関するレポート・7月号です。

 

 TikTok内の流行を詳しく知りたい!という動機で始めたこの調査ですが、TiktometerというTikTok内使用回数が分かるサイトを発見し、今後ジェネラルな使用回数を求めるときはそちらを使おうと思うので、この調査は一旦区切りにしようと思います。(詳しくはまた後半に述べます)

 まずは7月分の調査報告から行います。

 

 

※調査対象:Charli D'Amelio, Addison Rae, Chase Hudson, Dixie D'Amelio, Noah Beck, Avani Gregg, Josh Richards, Tony Lopez, Payton Moormeier, Quinton Griggs, Cynthia Parker, jxdn

 

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 調査に3名が新たに加わりました。(Noah Beck, Quinton Griggs, Cynthia Parker)


  今月最も注目を集めていたのは”Wet”。”Kolors”とのマッシュアップ、”Shoota”とのマッシュアップなど様々な形で使用されていました。2ヶ月連続で高い注目度を記録しました。

 2位には”Hatchback”。Playboi Cartiを彷彿とさせるスタイルの1曲。実際に曲としてもある程度注目を受けることに成功し、USのSpotifyのランク圏内に一時期入りました。また、そのPlayboi Cartiも先月に引き続き複数曲がランクインしました。

 3位にはTikTok外部でも大ヒット中の”Rags2Riches”、4位と5位には先のようなマッシュアップで登場する”Kolors”と”Shoota”がランクインしました。

 今月はこれ以外にも人気のマッシュアップが多かった印象です。“Banana” + “Dream Girl”、”We Paid” + “Flatbed Freestyle” + “Ballin’” + “No Heart”の2種類が特に際立ちました。

 

 今月の動向を見守って気になった点は男性特有の選曲がいくつか見られることです。男性TikTokerのみが使用した「ボーイズ選曲」は”Banana”を始めとして11曲。一方女性TikTokerのみに使用された曲は1つのみでした。男性TikTokerはお気に入りをリピートすることも多く、仮に男性TikTokerのみの人気でも、このランクでは上位に行きました。

 

 ちなみに12人のうち男女比は7:5ですChase Hudson, Noah Beck, Josh Richards, Tony Lopez, Payton Moormeier, Quinton Griggs, jxdnが男性です。Noah Beckはこの中で投稿数がとても多いです。逆にPaytonとjxdnは投稿が少なめです。

 

(イメージ的に)

投稿がかなり多い:Noah Beck

投稿が多い:Josh Richards

投稿がやや多い:Charli D'Amelio

投稿量が普通:Addison Rae, Chase Hudson, Avani, Tony Lopez, Quinton

投稿がやや少ない:Dixie D'Amelio, Cynthia Perker

投稿が少ない:Payton Moormeire

投稿がかなり少ない:jxdn

(ちなみに月によっても変化します。Addison RaeやAvaniは月によってはかなり多い)

 

 以前は知名度が飛び抜けている2人の投稿数が多く、知名度の高い2人の投稿にパワーバランスが寄っていくならランキングとして気にする必要はありませんでしたが、現在はその2人の投稿数が若干減少し、Josh Richards、Noah Beckあたりの投稿数が多い男性TikTokerの投稿にランキングが引っ張られるようになりました。彼らは全体では5~7番目くらいの存在なので、彼らにランキングが引っ張られるとしたら何かしらの改善が必要かもしれない、とも感じました。

 

 と、そのようなことを考えていたのですが、より大規模にTikTok曲の人気を知ることができるTiktometerというサイトを発見したので、この調査は一旦一区切りとしようと思います。

 

 このサイトはPopular Videosの数で、曲の人気度を計測。Popular Videosのみなので全てのビデオをカバーできるわけではないですが、Popular Videoは全再生数の96%を占めており、ほとんどの動向がカバーできる、という模様です。

 12人の動向を追ったデータよりも、こちらのデータの方がよりジェネラルなので今後はこちらを主に人気度のバロメーターとして活用しようと思います。このサイトのデータを参考にした考察も行っている最中です。

 USではなく、サービス全体のデータを追跡しているため、一部US目線ではリアリティーを感じにくいランキング上位もあるかもしれません。

 

 このようなサイトがあるとはいえ、この調査にも独自の価値はあったと思います。このサイトの上位曲であっても、TikTok外でヒットしていない曲はたくさんあります。その純粋の使用数がヒットに比例しないのであれば、上位インフルエンサーが使用した曲ならばヒットに結びつくのか?という疑問がこのサイトを見た後に湧いてくると思うので、この調査はそれを先取りで行っていたということになります。

 全体の使用数が多かろうと、インフルエンサーの使用数が多かろうと、ヒットに結びつくのかはやはりランダムなので、TikTok発のヒットは謎が多いというのが結論ですかね。

 ほか個人の音楽傾向が伺えたり、ジェンダー差があったり、広告の導入など、面白い発見もいくつかあったので、今後も追加で個人の使用回数の調査をするかもしれません。

 

 あともう一つ比較対象になりそうなのは、ビルボードが始めたTriller Top Songs。TrillerはTikTokと類似のショートビデオサービスで、TikTokの先行き不安から現行TikTok StarもTrillerのアカウントを作り始めているようです

 そのTrillerではたしかにTikTokと似たような傾向の曲がヒットしているのですが、直近の週ではトップ10が全て違うなど、さすがにTikTokの人気曲を知る「代役」としては無理があるでしょう。参考にはなりますが。

 

 

・本調査 vs Tiktometerの比較

  互いにどのような違いがあるのか、2つの7月のトップ10を見比べました。

 

(2つの調査は微妙に集計方法が違います。私の調査は「曲」という単位で集計していますが、Meterは「音源」という単位で集計しているため、同じ曲でも複数バージョンがランクインすることがあります)

 

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 どれもインフルエンサーが使った曲ということで、月間トップ100に入った曲も多いです。”We Paid”も、月の下旬までは月間100位圏内にギリギリ入っていました。

 

 

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 逆バージョンです。同じくトップ10にある程度の相互性がありますが、際立つのは1位の“Renee”が本調査の方で1回も使われていないことですかね。同じく3位、5位の曲もこちらでは1回も使われていませんでした。TikTok内にはある程度「界隈」のような区分が存在し、流行が全ての界隈に行き渡るわけではない、ということでしょうか。

 Meter1位の”Renee”は本調査でもランクインしなかった上、TikTok以外の媒体でのヒットもあまり見受けられませんでした。

 

 

5月号:5月 TikTok Top Tracks(仮) - チャート・マニア・ラボ

6月号:TikTok Top Tracks(仮) 6月 - チャート・マニア・ラボ

 

 

Folklore関連の記録 ショートまとめ

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 先日、Taylor Swiftがアルバム“Folklore”をサプライズリリース。注目を集めることに成功し、様々な記録・好成績を収めることに成功しました。その記録に関して手短にまとめました。

 ビルボードが紹介していた記録を羅列すると以下のようになります。このうち、太字にした3つに関して補足していきます。

 

(アルバム関連)

・7枚目のアルバム1位

・アルバム1位デビューが女性最多

・2020年最多の週間売上、また昨年の自身のアルバム“Lover”以来最多の週間売上

・ここ4年での週間売上ベスト3は全てTaylor Swift

・週間の純セールスも“Lover”以来最多の数字

・1週目の時点で既に純セールスの合計が2020年最多

・週間売上が50万を超えたのがこれで7作目、ニールセン(=1991年)以降最多

・2020年女性アルバム(および非ラップ作品)で最多のストリーミング

Taylor Swift Achieves Seventh No. 1 Album on Billboard 200 Chart & Biggest Week of 2020 With 'Folklore' | Billboardより)

 

(シングル関連)

・初めてHot 100とBillboard 200の両方で首位デビューを達成

・首位デビューを果たすのは41曲目

・Taylor Swiftは6曲目のHot 100首位

・女性では初めてトップ5圏内に複数曲を「デビュー」させる

・3曲をトップ10圏内にデビューさせる

・Taylor Swiftは通算トップ10曲数が28まで到達、6位タイ

・トップ10デビュー曲数が18に(以前から女性で最多、全体の最多はDrake=25曲)

・全曲がHot 100入り

・Hot 100総エントリー数が113まで到達。Nicki Minajを抜き女性最多に(全体では4番目)

・1月の“All I Want for Christmas Is You”以来の女性ソロ曲首位に

・ストリーミングとセールスの両方で1位

Taylor Swift Debuts at No. 1 on Hot 100 With 'Cardigan,' Is 1st Artist to Open Atop Hot 100 & Billboard 200 in Same Week | Billboard より)

 

 

・初めてHot 100とBillboard 200の両方で首位デビューを達成

 

 一番この記録に反響があった印象です。Twitterのニュース欄にも“Make History”と称され掲載されていました。Hot 100で通常の首位+Billboard 200で首位デビュー、という組み合わせは今までよくありましたが、両方ともデビューだとレアということです。

 物珍しさはたしかにありますが、この記録にどれくらい意味があるのかを今回は考えてみようと思います。

 

 比較材料として用意するのは、ストリーミング時代のHot 100「2位」デビュー +  Billboard 200首位デビューの組み合わせです。過去に4回ありました

 

Drake 1位:Nice For What 2位:Nonstop (2018)

Lil Wayne 1位:Girls Like You 2位:Mona Lisa (2018)

Ariana Grande 1位:7 rings 2位:break up with your girlfriend, i’m bored (2019)

Juice WRLD 1位:ROCKSTAR 2位:Come & Go (2020)

 

 DrakeとAriana Grandeは自身の先行シングルが1位に、Lil WayneとJuice WRLDがその他の曲が首位に立っています。

 ラジオは再生数が伸びるまでに時間がかかり、リリース直後の新曲と先行シングルではラジオで大きく差がつきやすく、先行シングルがある場合はHot 100でも有利になりやすいです。*1

 新リリースは一般的にストリーミングで大きく注目を集めやすく、リリース直後がストリーミングにおけるピークになることも多いため、新シングルがそのラジオの差を乗り越えてHot 100首位デビューすることもあります。しかしアルバムでリリースされた場合はアルバム全体の再生数が伸びることが多いので、新リリース/先行でそこまで再生数に差はつかず、ラジオのある先行シングルが有利になりやすいのです。

 まず先行シングルが無かったことが、Taylor Swiftが今回両方でデビューを果たした要因の一つです。

 

 次にLil WayneとJuice WRLDの例を見ていきます。この2つに共通しているのはストリーミングでの高い成績 + ラジオがほとんど無い点です。またラジオでかかるような先行シングルも両者ともありませんでした。(Juice WRLDのアルバムには先行曲がありましたが、ラジオには全く恵まれていなかった)

 Lil Wayneは”Uproar”という違う曲をシングルに指定。Juice WRLDは”Come & Go”をシングルに選んだものの、1週目の時点では各種ラジオ系チャートで圏外でした。

 

 この2つとは違い、Taylor Swiftはストリーミング以外の要素でもポイントを得ていました。まずラジオ。リリース直後から数字を伸ばし、ポップ系やアダルトポップ系のラジオチャートにランク入りしています。

 そしてもう一つ大きいのは販売戦略を用いたことです。これは物理媒体とDLを組み合わせて初週の売上を稼ごうという戦略で、リリース直後に注目が集まりやすいストリーミングとの相性も良いです。ただし8/7以降のリリースでは制限がかけられます。

(詳しくは:バンドル等を制限するルール変更のまとめ・所感など - チャート・マニア・ラボ

  この2つによってストリーミング以外でもポイントを稼ぎ、シングルとアルバムの両方で首位デビューを成し遂げたのです。

 

 まとめると、この記録は先行シングルを用意しなかったこと、そして販売戦略を用いたことで生まれた記録です。つまりこの記録はどこで勝負をかけるか?という戦略上の違いによって生まれた記録だと思います。このことから、通常の1位とデビュー首位の価値に変わりはなく、「レアな記録ではあるが重要な記録ではない」というのが私のまとめです

 

(補足)

・2020年5月にラジオのバランスを微調整した影響で、Juice WRLDとTaylor Swiftのアルバム時は、以前よりも若干アルバム曲が有利なレートになっている(と考えられる)*2

・ストリーミングでは初週に食いつきが良い都合上、伸びるか不透明なラジオよりも安定して数字が取れるという考え方もできます。そこに販売戦略も加わるとより1位を獲得しやすくなるため、むしろ「1位デビュー」は「上昇の1位」よりも難易度が低い、という捉え方もできます。

・ラジオで人気のタイプのアーティストが先行シングルを用意しなかったのは、たしかに少し意外に思います

 

 

・Taylor Swiftの凄さが伝わる2つの記録

 

 ただこのアルバムが際立つ成績を残したのは間違いないと思います。その凄さを感じられるのが、以下の2つの記録だと思います。

 

・週間売上が50万を超えたのがこれで7作目、ニールセン(=1991年)以降最多

(次点はEminemの6枚)

 

 安定してビッグセールスを記録し続けていることが分かる記録です。ストリーミング時代はセールスの平均値が下がり、実際に次点のEminemは2017年以降の作品では50万を超えていないです。そこでも数字をキープするTaylor Swiftからは唯一無二のブランド性のようなものが伝わってきます。

 

・Hot 100総エントリー数が113まで到達。Nicki Minajを抜き女性最多に(全体では4番目)

 

(Hot 100エントリー数ランキング)

224曲:Drake

207曲:Glee Cast

169曲:Lil Wayne

113曲:Taylor Swift

111曲:Future

110曲:Nicki Minaj

109曲:Elvis Presley (プレHot 100期は除く)

108曲:Kanye West

101曲:Chris Brown

100曲:Jay-Z

 

(女性アーティストのHot 100エントリー数)

113曲:Taylor Swift

110曲:Nicki Minaj

73曲:Aretha Franklin

63曲:Beyoncé

62曲:Rihanna

57曲:Madonna

56曲:Dionne Warwick

53曲:Connie Francis

52曲:Ariana Grande

49曲:Miley Cyrus

 

 Taylor Swiftはこのうち客演が3つのみ(Boys Like Girls,  B.o.B, Sugarland)*3で、ほとんどが自身の曲からです。次点のNicki Minajは半数以上(=60曲)が客演です。

 

 このエントリーの多さの理由として挙げられるのは、DL時代からの非シングルの人気です。アルバム曲もシングルと変わらず消費できるため、ストリーミング時代ではアルバム曲のHot 100エントリーが一般化しましたが、DL時代にはあまり見られませんでした。

 2018年以降はアルバムから5曲以上がHot 100入りする事例が2週に1回以上のペースでありますが、DL時代では年に4回以下しか観測されていません。(ただし当時、Glee Castがアルバムではない括りでHot 100大量エントリーを果たしていた)

 そんな時代から非シングル曲のHot 100エントリーが多く、何かしら出せば常に一定の注目を集められる、という構図を維持していました。これもTaylor Swiftの長きにわたるブランド性を証明するデータの一つといえるでしょう。

 リリース時にストリーミングで公開されなかった”1989”と”reputation”からのエントリー数は少なめですが、ストリーミングで同時に公開されるようになった”Lover”と”folklore”ではいずれも全曲がHot 100入り。ストリーミング時代でも十二分の存在感を発揮できることを証明したのは非常に大きいことではないでしょうか。

 

 

(補足データ)

・ストリーミングが2億を超えたアルバム一覧 

今回の”folklore”は全体で15位でした

 

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 (ビルボードの記事より作成)*4

 

 

・2000年代、2010年代、2020年代にトップ10を達成したアーティスト

 今回のトップ10入りはTaylor Swiftにとって2020年代初。これで3Decade連続してトップ10入りを果たしました。同様の記録を達成したのは以下のような面々です。

 

Mariah Carey (1990年代も)

Maroon 5

Drake

Eminem

Lady Gaga

Beyoncé (Destiny’s Child時代を考慮すると1990年代も)

Lil Wayne

Chris Brown

Jason Derulo

Taylor Swift

 

 

 

その他の参考データ

ビルボードのChart Historyなど:Taylor Swift | Billboard

 

 

 

*1:ちなみにAriana Grandeの時はデビュー関連の記録を達成するために”7 rings”ではなく”break up~”の方を応援しようというキャンペーンが一部で繰り広げられていたらしいです:アリアナのファン、「7 Rings」再生をボイコット!? | MTV Japan

*2:5月まとめ 【首位が全て異なる月 / 販売戦略が躍動】 - チャート・マニア・ラボ ←に詳しく書きました

*3:Wikipediaの記載だと、John Mayerの"Hall of My Heart"も含まれていますが、ビルボードの記録ではこの曲ではfeat. Taylor Swiftの表記がありません

*4:2週目以降は再生数が明示されない場合もあります。Lil Uzi Vert2週目は外部ソースを参照。Juice WRLD2週目の再生数はどこにも見当たらなかったため、Rolling Stone Chartsの数字を参照に推定しました